スキマワラシ

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087716894

作品紹介・あらすじ

白いワンピースに、麦わら帽子。
廃ビルに現れる都市伝説の“少女"とは?

古道具店を営む兄と、ときおり古い物に秘められた“記憶"が見える弟。
ある日、ふたりはビルの解体現場で目撃された少女の噂を耳にする。
再開発予定の地方都市を舞台にした、ファンタジックミステリー。

【著者略歴】
恩田陸(おんだ・りく)
一九六四年、宮城県生まれ。九二年に『六番目の小夜子』でデビュー。二〇〇五年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞、〇六年『ユージニア』で日本推理作家協会賞、〇七年『中庭の出来事』で山本周五郎賞、一七年『蜜蜂と遠雷』で直木賞と二度目の本屋大賞をそれぞれ受賞。近著に『祝祭と予感』『歩道橋シネマ』『ドミノin上海』など。

感想・レビュー・書評

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  • この世には常識だけでは理解できない事ごとがあります。

    例えば、

    ・『大きな民家(イメージでは、東北の農村にある、立派な梁のある広いお屋敷だ)があって、中のお座敷で着物を着た子供たちが遊んでいる』。

    (*˙ᵕ˙*)え?

    ・『ふと気がつくと、いつのまにか子供が一人増えている。でも、それがどの子なのかは指摘することができない。帰り際になると、いなくなっている』。

    (;゚д゚)エエーッ!!!

    ・『「さっき、あの座敷にもう一人いたよね?」誰もが「いた」と言う。しかし、その顔は決して思い出すことはできない』

    ナンダッテー!=͟͟͞͞(꒪ᗜ꒪ ‧̣̥̇)

    はい、好きな方には、大変お待たせいたしました。

    そう、『ザシキワラシ。座敷童子』のお話です。

    あなたがその目で目撃したことはなくても、言葉だけは聞いたことがある人も多いというその存在。『おかっぱ頭のふっくらしたほっぺたの子で、男の子にも、女の子にも、どちらにも見える』というその存在。今、このレビューを読んでくださっているあなたのことを私は存じ上げません。しかし、そんな他人同士でも何故か共通の話題にできる事ごと。常識だけでは理解できないことだからこそ、尾ひれもついてさまざまに噂される存在になっていくのかな?とも思います。

    さて、そんなちょっと怖い(笑)『ザシキワラシ』の話を持ち出しましたが、今日のレビューは似ているようでちょっと違う存在が登場するお話です。それが、

    『スキマワラシ。漢字だと、隙間童子』

    のお話です。『ザシキワラシ』が『家につく』一方で、『スキマワラシ』は『人の記憶につく』というその違い。この作品は、主人公の散太が『アレ』に遭遇する数々の瞬間を体験する物語。そんな次男である『散太』と、長男である『太郎』の『あいだにもう一人いたのではないか』という思いに囚われていく様を見る物語。そしてそれは、『人と人との記憶のあいまに棲みつく』という『スキマワラシ』をあなたが目撃する物語です。

    Σ(  Д )ﻌﻌﻌﻌ⊙ ⊙ぎゃぁあああああああ

    (注)この作品はホラーではありません。ご安心ください(笑)

    『兄は僕に話しかける時』、『必ずといっていいほど「弟よ」と呼びかけてから始める』と説明するのは主人公の纐纈散太(こうけつ さんた)。『「おまえ、サンタなんだろう?なんかいいもんくれよー」といういちゃもんを執拗に続ける同級生がいて、名前を呼ばれるのがイヤだった時期』を経て、家庭内でも『直接僕の名前を呼ばなくなった』というその経緯。一方で『たくさん散らかす(何を?)』と書く『散太』という『名前を子供に付けるとは、いったい親にどんな意図があった』のだろうと思う散太。しかし、『早くに両親を亡くしている』散太はそんな意図を知ることなく二人兄弟として育ちました。そんな兄・太郎は『記憶力』が良く、なんでも『「絵」として覚えている』一方で、弟の散太は『まるでダメ』という違いを恨めしく思う散太。『弟よ、代わりに、おまえには「アレ」があるじゃないか』と囁く兄に、『あんなの、何の役にも立たないし、むしろロクなことがない』と返す散太。『建設業界の何かの記念パーティ』に連れて行かれた『小学校低学年』だった散太は、『ミニカーか何かを絨毯の上で走らせて』いました。そんな時、ふと『呼ばれたような気がした』散太は、その先に『ドングリ』のようなものを拾います。『帯留だね』と取り上げる兄。そんな兄から『帯留』を『取り上げた』散太は『電流のような、衝撃のような、猛々しい熱いものがワッと全身に流れ込んでき』たのを感じます。その瞬間に『カバン ー 革のカバン ー ショルダーバッグ』、『そのカバンのファスナーに付いている』という『帯留』のイメージが見えたと感じる散太。弟の不審な挙動を気にする兄に『カバンに付いてたんだ』と語ると散太は人混みの中に入っていきます。そして数十分、『見つけた』と感じた散太は、『これ、おじさんの?』と『帯留』を差し出しました。それに、『落としたこと、全然気付いてなかったよ』と感謝するおじさん。そんな帰り道、『モノに残っている思念を読み取れる人がいる』、『話には聞いていたけれど』、『実際にそんなことができる人がいるとは』と兄は散太のことを見ます。そんな兄は『俺とおまえと、二人だけの秘密にしとこう』と散太に宿る力のことを話すのでした。そして、『「アレ」は僕と兄だけの秘密になった』というそれから。一方でそんな散太は、同窓会で『おまえ、女のきょうだいいたよね?』と突如言われて動揺します。『何か触れてはいけないものに触れたような気が』した散太は兄にそのことを話しますが、『煙に巻かれたような』返事をされてしまいます。そんな兄はしばらくして『「スキマワラシ」かもしれないね』とぽつんと呟きます。『人と人との記憶のあいまに棲みつくのさ』と笑みを浮かべる兄。そして、『この時の僕たちは、よもや、創作であるはずの「スキマワラシ」が、将来自分たちの前に現れるとは夢にも思わなかった』という先にまさかのファンタジーな物語が描かれていきます。

    2018年3月から2020年1月にわたって、信濃毎日新聞など、なんと地方紙19紙に連載されたというこの作品。全14章から構成される”ファンタジックミステリー”とも言える物語になっています。単行本472ページという圧倒的な物量を感じさせるこの作品ですが、恩田陸ファンには軽やかなまでにスイスイと読んでいける作品でもあると思います。実際のところ、私は一日で、というより4時間弱で読み切りました。それは、恩田節全開!とも言える軽快な文調にもあると思います。では、まずはこの作品に感じられる恩田さんの魅力を三つお伝えしたいと思います。

    まず一つ目ですが、独特な”言い回し”です。この作品は全編にわたって主人公の散太視点で展開しますが、その語り調が、散太の語りというよりは、恩田さんが読者のあなたに話しかけるかのような感じで展開します。〈第三章 ジローのこと、発見のこと〉の冒頭を抜き出します。

    『ここで、ジローの話をさせてもらおう。それ、誰?いきなり新しい登場人物ってこと?そんな声が聞こえてきそうだ。回りくどくて申し訳ないが、僕としても話の順番というものがあるので、今しばらく辛抱していただきたい』。

    恩田さんの作品を読み慣れていらっしゃる方には、もうどこから切っても恩田節です。『回りくどくて』という言葉が自虐にも感じられるくらいに、乗りに乗った恩田節による、ダラダラと回りくどい文章がわざと続きます。単行本472ページは伊達でなく、この回りくどさからきているとも言えます。これをダラダラと無駄が多いと感じられたあなた!それは違います。これこそが恩田さんの魅力なのです!

    二つ目は、恩田さんならではのキーワードが登場する点です。恩田ファンなら恩田作品に必ず登場するあの言葉が絶対に登場しているだろうと予想されると思います。はい、この作品にももれなく登場します。そう、『デジャ・ビュ』です。作品によっては『デジャ・ヴ』とも表記されるその言葉。『その時、僕は奇妙な感覚に襲われた。懐かしいような、デジャ・ビュのような』と使われる”既視感”とも説明されるその言葉は恩田さんの小説には必ずといっていいほどに登場する恩田作品のシグネチャーのような言葉です。恩田ファンならこの言葉だけでもうすっかり物語世界の虜になってしまいますね!さらに、この作品には『アレ』という指示代名詞で語られる感覚が兄弟の隠語のように用いられているのも特徴です。高い記憶力を持つ兄を羨ましがる散太に対して『弟よ、代わりに、おまえには「アレ」があるじゃないか』と語る兄。そんな『アレ』とは、『モノに残っている思念を読み取れる人がいる』という兄の説明によって朧げながらにその感覚が匂わされます。物語の展開の中で『これが「アレ」なのかどうか判断に迷う』、『「アレ」というのは、たいへんなエネルギーを必要とする』、そして『僕は長年「アレ」とつきあってきて学んだ』とさまざまな場面で登場する『アレ』。恩田さんの作品では「月の裏側」でやはり、こちらは平仮名で”あれ”という指示代名詞で語られる存在が登場しました。『アレ』ってなんやねん!と文句も言いたくなるくらいに登場するこの指示代名詞の存在。しかし、こういった表現の魅力も恩田さんならではのものです。

    そして三つ目には、まるでエッセイを小説に取り込んでしまったかのような語りが登場するところです。もちろん、語り口調が恩田節なので、そもそも小説なのかエッセイなのかという感覚も感じるこの作品ですが、例えば〈第七章 風景印のこと、「ゆるさ」のこと〉など、それが顕著に現れます。

    『ところで、あなたは風景印というものをご存じだろうか? また唐突な話題を持ち出してきたね、と思ったあなた。確かに唐突ではあるけれど、あなたもいい加減慣れたはずだ』。

    そんな風に恩田節で始まる冒頭には苦笑する他ありませんが、そこに続くのは、『風景印の正式な名称は「風景入通信日付印」。要は、名所旧跡等の図柄の入った消印のことだ』という『風景印』というものの解説です。あなたは『風景印』という言葉を知っているでしょうか?私は意味はおろか全く初めての言葉です。なので、そこに説明される『鎌倉の大仏とか、伊勢神宮とか、名所の絵が入っている』と説明される『風景印』には、なるほどと思いましたが、詳しく説明されればされるほどに、いや、これ小説だから…とも感じてしまいます。そんなことをこと細かに書いているから単行本472ページになるねん!と突っ込みを入れたくもなります。他にも、『イタリア語かなんかの動詞の活用に、近過去っていうのがあった』…と、またまた寄り道したりと、とにかく雑学には事欠かない文章が続くこの作品。恩田作品初めての方には、何このダラダラ感!、一方で恩田ファンにはたまらない読書の時間が味わえる!そんな作品だと思いました。

    さて、そんなこの作品は、内容紹介に”古道具店を営む兄と、ときおり古い物に秘められた“記憶”が見える弟。 ある日、ふたりはビルの解体現場で目撃された少女の噂を耳にする。 再開発予定の地方都市を舞台にした、ファンタジックミステリー”とうたわれています。そう、この作品の一番の魅力は”ファンタジックミステリー”と表現されるどこか不思議感のある物語が展開するところです。一見、ミステリーにも思える物語を優しく包み込む恩田節な文体でまとめられたこの作品。そんな中で展開するミステリーのポイントは次の三つです。ミステリーにネタバレは禁物です。そのことに気をつけながらご紹介しましょう。

    まず一つ目は、主人公の『散太』という名前です。『こんな名前を子供に付けるとは、いったい親にどんな意図があったというのだろう』と自らの名前を思う散太。『せめて「参多」(積極的な性格になるように)とか』、他の感じが浮かばなかったのか…とも思う散太。そもそも長男に『太郎』と名づけて、どうして次男に『さんた』と数字の”三”を思わせながらも『散太』と名づけたのか。そんな関係性からも疑問の残る名前にまつわるミステリーがまずあげられます。

    次に二つ目は上記した名前にも匂わされた、『長男である「太郎」と次男である「散多」のあいだにもう一人いたのではないか』というミステリーです。そんな風に『考えたあなたは正しい』、しかし『特にご褒美は出ないので、念のため断っておく』と恩田節で説明されるこのミステリーですが、同窓会で、『おまえ、女のきょうだいいたよね?』と言われた散太は『あるはずがない』と思いつつも、念のため兄に確認します。それを、『煙に巻かれたような、返事になっていない返事で』返す兄。そして、そんな兄はこんなことを言い放ちます。『「スキマワラシ」かもしれないね』、そう、作品タイトルの登場によって、またしてもミステリーが登場します。

    そして、最後に三つ目は、上記もした『アレ』という言葉です。『トンネルの壁に触れると、ほぼ確実に「アレ」が起きる』というように、当たり前に『アレ』、『アレ』、そして『アレ』と使われるこの指示代名詞。恩田節の中で展開する指示代名詞には、いつまで待っても『アレ』は、『アレ』であって、そこに具体的な言葉が登場することを期待してはいけません。恩田さんの物語を読む中では、それが具体的に何を指すかと考えるのではなく、『アレ』という一つのモノ、事象と感覚的に割り切った方が読みやすいかもしれません。そして、そんな『アレ』によって結末にどんな世界が開けるのか。内容紹介にも触れられる『少女』の存在。『ずっと前から、僕はこの子を知っている。この子は、僕らとどこかで繫がっている』という『少女』の正体に迫るミステリー。二つ目に書いた「スキマワラシ」とも関係する、この展開こそがこの作品一番の読みどころです。恩田さんの作品では伏線を張るだけ張って、回収をしないで読者に結末を委ねるという作品が多々ありますが、この作品では概ねポイントは回収されていきます。そういう意味では、この作品は恩田さんのミステリーにも関わらず、突き放されない結末が待つミステリー、安心して読めるミステリーだと思いました。

    『この時から、「アレ」は僕と兄だけの秘密になった』、『僕は、その存在を感じた。出てきてしまった』といったミステリーな雰囲気満点に展開するこの作品。そこには、太郎と散太という兄弟が遭遇する不思議世界への扉が開かれる瞬間を見る物語が描かれていました。『確かに、白い服を着た女の子だ、ということは分かった…本当に、いた』という衝撃をあなたが目撃するこの作品。『突然だけれど、僕はチーズケーキが好きである…本当に唐突だね… でも、そろそろ慣れてきてくれたかな?』といった独特の回りくどい言い回しが病みつきにもなるこの作品。

    恩田陸さんの魅力満点に展開するにも関わらず、珍しく突き放されない結末を楽しめる、”ファンタジックミステリー”な作品でした。

  • 不思議なことがいろいろ起こるのだけれど、悪いことはなにもないほっこりとした話と言えるかな。こんなに分厚い本なのに、重大な事件が起こるわけでないが、なんだかするすると読まされて面白かった。
    古物商を営む8歳上の兄を手伝う主人公の弟の散多。主人公には、古いものを触るとそれに籠められた思念を読みとれることがあるのだ。この主人公の能力を軸に、撤去される古い建造物に出没するスキマワラシや現代アート作家、既に亡くなっている両親などが絡んできて、不思議な話が展開する。最後の不思議は爽快かもしれない。作者の手のひらで踊らされている感はあるけど、読んでよかったよ。

    • goya626さん
      mayutochibu9さん
      最初は、「うわっ分厚い!」と思いましたが、なかなか楽しい読書でした。表紙の絵もなんかいいんですよ。
      mayutochibu9さん
      最初は、「うわっ分厚い!」と思いましたが、なかなか楽しい読書でした。表紙の絵もなんかいいんですよ。
      2021/11/16
    • mayutochibu9さん
      goya626さん
      「恩田陸さん」は感覚が同世代なんで、読みやすいです。
      その分、先が読めてしまうのが難点(楽しみ半減)。
      頁をめくっ...
      goya626さん
      「恩田陸さん」は感覚が同世代なんで、読みやすいです。
      その分、先が読めてしまうのが難点(楽しみ半減)。
      頁をめくって、「おー」とぶっ飛んだ展開の本に出合えることを願って
      います。
      かなり読んみましたが、新刊も早いので、追いつくと離されます。
      図書館利用者だから。家が狭いので、仕事本で精一杯。
      2021/11/16
    • goya626さん
      mayutochibu9さん
      今回の「スキマワラシ」もある程度、先が読めました。まあ、でもよかったですよ。人の悪意というものが描かれていな...
      mayutochibu9さん
      今回の「スキマワラシ」もある程度、先が読めました。まあ、でもよかったですよ。人の悪意というものが描かれていなかったので、安心して読めました。
      2021/11/16
  • 僕の名前は「サンタ」といい「散多」と書きます。
    僕には歳の離れた兄がいて「太郎」といいます。
    昔から僕は女のきょうだいがいなかったかと尋ねられることがありました。
    僕は小学校六年生の春休みに両親をトンネル内の交通事故で亡くしています。
    僕の両親は建築家でしたが、兄は工務店を営み、古道具には目がありません。
    僕は兄だけが知っている、二人の間で「アレ」と呼ばれる特殊能力を持っています。
    僕と兄はそれぞれ、白いワンピースに空色の胴乱を提げ、三つ編みの髪に麦わら帽子の姿をした、女の子を見ていて「スキマワラシ」と呼んでいます。
    スキマワラシは「ハナちゃんなの?」と訊くので、「違うよ」と答えています。
    「スキマワラシ」とは一体何なのかを巡るファンタジーです。
    そして僕の特殊能力である「アレ」。
    その二つを中心に物語は進みます。
    そして二人の前に現れた謎の女性アーティストのDAIGO。
    僕と兄はDAIGOこと醍醐覇南子(だいごはなこ)は自分たちの血縁者ではないのかと思います。

    そしてとうとう「スキマワラシ」が現れますが…。
    僕の遭遇した出来事は「名前の謎も解けたし、本当によかったね」と思いましたが謎解きはページ数の多い割合にちょっとあっけなく物足りない気がしました。

  • 恩田陸さんはじめての男性一人称の長編。

    主人公は古道具屋の店内でバーを開いている纐纈(←なんて読むかわかりますか?苗字です。)兄弟の弟、散多。古いものに触れると、それに秘められた記憶を読み取ることができる散多が、廃ビルに現れる謎の少女「スキマワラシ」の謎に迫る幻想的なミステリー。

    いろいろなものが詰め込まれていて贅沢な印象。しかし、なぜか映像的なイメージが散漫になってしまった。「蜜蜂と遠雷」の音のイメージは頭に鮮明に浮かんだのだけど。なんでやろ。

  • 思った以上に分厚い本で驚いたが、予想に反して読みやすかった。

    古道具屋を営む兄・太郎と、兄の店の一角でバーを営む弟・散多と、解体現場に現れる『スキマワラシ』なる少女の話。
    季節に関係なくノースリーブの白いワンピースに麦わら帽子を被った姿の『スキマワラシ』はどこからともなく現れていつの間にか消えている。
    幽霊なのか何かの幻影なのか。

    引き出しから『スキマワラシ』のものであろう手が出てきたり、散多のある能力(本人は『アレ』と呼ぶ)によって見える光景やそこに引き込まれそうになる場面など、時折ゾッとする場面もあるものの、『スキマワラシ』には悪意も敵意も無いのでホラーではなくちょっと不思議で奇妙な話という雰囲気。

    物語の本筋としては、『スキマワラシ』が太郎・散多兄弟とどういう関係なのか、そして散多が幼い頃に亡くなった両親の事情に何か関わりがあるのかということかと思って読んでいた。
    『スキマワラシ』と兄弟の関係については序盤で予想が付くものの、話はなかなか核心に辿り着かない。
    兄弟それそれぞれの能力や性格、これまでのエピソードに日常、仕事の話がユルユルと綴られる中に時折『スキマワラシ』の存在やちょっと不思議な話が挿入される。
    だがそのエピソードはなかなか楽しく読めるので途中で飽きることはなかった。

    しかし終盤登場する女性アーティストがこれまで思い込んでいた路線を大きく変えていく。
    『スキマワラシ』ではなくて、この彼女がそうなのか?
    と。

    読み終えるとスッキリしない。
    結局『スキマワラシ』は何だったのか、何を伝えたかったのか。
    両親は何故『散多』という変わった名前を付けたのかという理由も無限ループでよく分からない。
    ジローとナットは同じ?

    結局のところ、何だかよく分からないけれどちょっと不思議で奇妙な話というところに落ち着く話だったようだ。
    散多が自分の名前に対する抵抗感というか劣等感というか、そういう後ろ向きな部分が取れたのは良かったが。新しい出会いがあったものの、兄弟のユルユルな日常は変わりそうにない。
    それにしても『纐纈』なんて画数の多い名字は大変そう。

  • ふわっの一冊。 
    一言でいうと、不思議なストーリー。

    しかもブルーとホワイトの綿菓子のような掴めないようなふわっとした世界観。
    こんな恩田ワールドも新鮮で良かった。

    次から次へと不思議の扉を開けるように謎を追いかける時間へ。
    古きものが纏う過去の温かさと時折現れる白いワンピースの女の子に手招きされるようにするすると読めた。

    謎として散りばめられていたものがふわっと扉を閉めていく傍らで開きっぱなしの扉も有り。
    それも良き。

    パタパタ揺れる扉、ひょいと覗くかもしれない小さな足。

    そんな終わらない想像がふわふわっと空に漂う読後感。

  • 久しぶりに分厚い本を読んだ。
    「蜂蜜と遠雷」の恩田陸さんだから、期待しすぎてしまったかな。
    なんだか不思議な世界観でした。
    謎も謎のまま解き明かされたような、そうでないような。
    不思議な夏の体験みたいな読後感でした。

  • 取り壊されし直前の古いビルに現れる、麦わら帽子を被った白いワンピースの少女。
    モノに触れると、それが過去に関わってきたことを感じることができる、不思議な力を持つ散多と、兄で骨董点を営む太郎がそのことは、事故死した両親との関わりを調べるようになる。

    イヤな感じの幽霊話ではなく、最後はなんとなくほっとする終わり方で、恩田ワールドらしい。
    白い少女が出てきたりするシーンでは、自分までなんとなく背中がスッと寒くなったりした。

  • 最近読んだ『タマゴマジック』と同様に都市伝説がモチーフとなっていたけれど、こちらの方がだいぶふんわり優しく、明るい雰囲気。個人的には、恩田陸さんはもうちょい不気味で不穏な作風の時の方が好き。

    だけど、日本は明らかにこの先人が減るから「広い家も、大量の物資もエネルギーもいらない」「すべてをダウンサイズしなきゃならない」ので、「この先生き延びて、ずっと続いていくために」「冷静にうまくダウンサイズしないと、いい撤退線にはならない」とか、恩田さんの持論がちょこちょこ作中に組み込まれているのが、興味深くて面白かった。
    解体される建造物のところに現れるスキマワラシが「日本の高度成長期の、伸び盛りの季節のイメージが夏の子供の形で現れ」ている→「あの子が小さな子供の姿をしてるってところが、まだ未来がある、将来があるっていう救い」という都市伝説への解釈も。

  • 最初の100〜150ページまではこの話、どこにいくんだろう、という感じで早々に挫折しかけたけど第6章くらいからやっと動き出した。
    不定期に起こる『アレ』の正体、両親、タイル、そして女の子がどうやって繋がっていくのか、伏線がたくさんあってこれはものすごいラストだと、伏線回収を期待しすぎてしまった。
    最後はスッキリ感はあったけど、もうちょっとはっきりした解決編が欲しかったな~。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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