坂下あたると、しじょうの宇宙

著者 :
  • 集英社
3.15
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087716931

作品紹介・あらすじ

自分には才能がない。
高校生の毅(つよし)は詩を書いているが、全くといっていいほど評価されていない。

一方、親友のあたるには才能があった。
彼は紙上に至情の詩情を書き込める天才だった。
多くのファンがいて、新人賞の最終候補にも残っている。

しかもあたるは毅が片想いしている可愛い女子と付き合っていて、毅は劣等感でいっぱいだった。

そんな中、小説投稿サイトにあたるの偽アカウントが作られる。
「犯人」を突き止めると、それはなんとあたるの作風を模倣したAIだった。

あたるの分身のようなAIが書く小説は、やがてオリジナルの面白さを超えるようになり――。

誰かのために書くということ。誰かに思いを届けるということ。
芥川賞受賞作家が、文学にかける高校生の姿を描いた青春エンタメ小説。


【プロフィール】
町屋良平(まちや・りょうへい)
1983年東京都生まれ。
2016年『青が破れる』で第53回文藝賞を受賞してデビュー。
2019年『1R1分34秒』で第160回芥川賞を受賞。
その他の著書に『しき』『ぼくはきっとやさしい』『愛が嫌い』『ショパンゾンビ・コンテスタント』がある。

感想・レビュー・書評

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  • 人工知能に芸術創作は可能か否か?

    本書が発売されたのは2020年2月、初出はそれより8ヶ月遡る2019年6月なので本記録より3年余り以前となる。
    この間にも技術は日々進歩を続け、私が把握している範囲でも2019年末の紅白歌合戦において披露された『AI美空ひばり』は賛否両論の物議を呼び、2020年本書刊行同時期にはAI手塚治虫による漫画作品『ぱいどん』が発表されたり、2022年には画像生成ツールAIの作成した絵が絵画コンクールで1位を獲得し、参加したアーティストらから批判が巻き起こったりした(最も、AIが生成した絵に作者が結構手を入れたものだったそうであるが)ようだ。

    では詩、詩作の分野では如何に?という事で青春要素を組み合わせて物語られるのが本小説である。

    結論を申せば、そもそも’文学・詩’という題材が難しい上に’紙上に拡がる至上の詩情’はまさに宇宙を掴むような感覚であり私程度の人間には捉え所がなく、作品として問題に対しての賛否を明らかにするものでもなく、青春小説としては瑞々しさとか爽快さに乏しく、一応恋とか友情について描かれているけれども総じて’何となく良かったな’に留まった印象。

    AI坂下あたるが書いた詩は、実際にAIが作った詩なのか?それとも町屋先生がAIっぽく書いた詩なのだろうか?
    むむ、人間が人工知能っぽく振る舞うってどう言う事だ?

    題材そのものとしては非常に面白いと思うので、もうちょっと余裕があれば収録されている詩の一篇一篇と向き合ってみたい気もする。


    1刷
    2022.10.2

  • テンポの良い青春小説。面白かった!
    詩と文学への純粋な思い、そこがぶれずに貫かれていて心地いい。

  • 詩的な表現を普段から使っていたらちょっと変わった人だけど、普段から自分の感情を伝えるだけの語彙や文章力がなくて、自己嫌悪とまではいかないけどもどかしいことがある。そのために詩を読んで表現を蓄えるというのは良いことかもしれないと感じた。子供の頃に金子みすゞさんや宮沢賢治さんの詩を暗唱させられた(と当時は思っていた)けれど、それが少しでも現在の私が思考する時や伝える時の言葉に現れていると考えると感慨深いなぁと感じる。

    内容としては、思春期の高校生の複雑でフレッシュな思考や感情がとてもリアルに示されていて、すごいと思った。才能のある友人への嫉妬、好きな人への感情、才能があると思い込んで邁進することでギリギリ保っていた小説作りでAIに超えられることによる絶望などが真に迫っていた。またあたると毅ではことばへの向き合い方、友人関係の保ち方、好きな人への態度、すべて異なっていて、2人ともそれぞれの個性が出ていて面白かった。

    読後感が爽やかで、詩、文学という現実ではあまり見ないような繋がりによる高校生の青春を体感した気分になれた。失語症になったあたるが毅の詩を暗記して読み上げた場面は不覚にも泣きそうだった。友情っていいな。

  • よく分からなかった。AIが小説書いたら読んでみたいな。

  • まあ面白かった。序盤は微妙かもと思っていたが、後半にいくにつれて夢中になっていった感じ。
    思ってたのとは違う雰囲気の作品だったがなかなか良かった。

    天才であるあたるもAIには敵わないのなんだか興奮するし、そのAIが成長したのは毅のせいっていうのもなんだか……良いな。
    あたるを羨むのもあたるを挫折させたAIを作ったのも、あたるの唯一の友人も全部毅なのかぁ。
    言っちゃえばこれは天才と凡人の話でもあるんだが、その凡人が天才のスランプを救うのがすごく良いな。毅は凡人だけど、天才である坂下あたるにとっては唯一の最高の詩人なんだよな。この関係性は本当に面白い。この二人の関係はきってもきれないのだろう。
    色々あるけどやっぱり友人なんだよな。
    馴れ合いとかでなく、本当に友人なんだろう。
    それでいてなぜか読み口が青春なので、良い。
    高校生の描写に首をかしげる部分もまああったが、全体的な感情の動きと二人の交流が完全に青春のそれなのでOKです。

    しかし、文学をやる高校生が読みたい人もAIが書く小説とはみたいなのを読みたい人も、ちょっと期待が外れちゃうんじゃなかろうか。いまいちジャンル分けしづらい小説だったな。私のような素人には現代詩はよくわからんし。
    まあでも、悪くはなかったね。私に向いてなかったってだけで良い小説ではあると思う。

  • 町屋さんの物語は、常に感覚を刷新される、風景の解像度を上げてくれる描写だと感じます。読むたびに「すごいなあ」と「やっぱりよくわからないなあ」を行ったり来たり・・・。
    今作では、「言葉」とは何だろう?とぼんやり思っていた不安のようなものを掬い取っていたように感じます。
    自分が使う・話す言葉は、当然ながら読んだもの・学んだもの・周りの人間関係に依存するものです。創作を行う人間にとって、「これは本当に自分の言葉なのか?」という漠然とした不信はあるでしょう。それでも、「あなたが書いた」事実こそが重要なのだと思います。
    坂下あたるのために詩人となり詩作を止めた佐藤毅の友情も、暴力と愛で身体性を繋ぎとめた浦川さとかも、あたると同じく表現の世界で才能の証明を求められる京王蕾の観察眼も、あたるが再び言葉を取り戻すには無くてはならないものでした。

  • 文学のジャンル中で詩が苦手なわたくしは、厳粛な気持ちで読みまして、やっぱりわからなくなりましたけど。

    高校生たちの4人の友情(恋愛感情)はとてもよく描かれて、これぞ現代のライトノベル風傑作だと、いえ、ラノベをそんなに知りませんが(無責任だ)
    ​つまりそこはすらすらとおもしろく、自分たちをしか見ていない高校二年生の文学志向たちの青春は、微苦笑を誘い好もしい。

    *****
    世界を成立させているもののほとんどを、いつもは気にとめていない。ほとんどの事物に関して人間は無頓着で大人になる。
    文学とか詩とかもそうなのかな、・・・(P87)
    *****

    そんな若さがヴァージニア・ウルフを読んで批評して、人生すべてわかったつもり。
    でも、わかるなあ(笑)​

    さて、現代は小説を書く、詩を書くのはパソコンで入力ソフトを使い、ウエブサイト上に発表も当たり前、そこにAIがかかわってきてという展開は、真面目な小説執筆や詩作をコケにしてしまうのか、というスリルもあって「しじょうの宇宙」の詩情はどうなってしまうのか。

    思うんだけどこうして感想メモしていて、これも入力ソフト、言葉選びにけっこうAI入って来て、なんか打たされてる感じがあるんだなあと。でも、この便利さは手放せないし、ほんと、どうなって行くんでしょう、文学。​

  • 今どき(というのが当たっているのかどうかわからないけれど)、言葉で表現することを真剣にやってる高校生の話。現代詩を理解する力が自分にほぼないので「読み通せないかな」と思いつつ、何故か全然嫌にならずに最後まで一気に読んでしまった。ネット社会になってますますビジュアルと音の情報が溢れる中、そこに漂うはめになった「言葉」そのものの確かさや深みはどこからどうやって得られるのかという切実さ、かな。自分に現代詩を読む力がもう少しあったら星を増やせそう。

  • 読書開始日:2022年3月28日
    読書終了日:2022年4月5日
    所感
    地に足つかない人間関係。
    これは作中あたるの「愛に対する見解=とりあげた詩」が体現されている。
    互いが互いを見つめ合いすぎる、なにかが介在することを許さない、日本的な愛がこの作品には存在しない。
    子は鎹とはよく言ったもの。
    あたると世界の鎹を、あたるは文学にしていた。
    AIの出現により、AIがあたるにとってかわる。
    あたるが文学=鎹そのものと化す。
    それをあたるの言外である毅の詩=AIに無いあたるが、AIをぶち壊した。
    青春を感じたけど、文学や詩について、まだまだ知らなければならないことがあるなと思った。
    どんな関係にも鎹は必要だと思えたことが1番の収穫。
    現代詩…ハイレベルすぎる…作中ほぼ全てわからなかった。

    詩作とは陶酔から生まれる
    俺の嫉妬がささやかに舞いあがり 吐けば醜い そらが冷たければ、しろく凍るはずのもの 胸のうちでこもって肺がかたまっていた
    好きな女の子の栄養になるものを創作するなんて、芸術にも勝る喜び
    道徳を超えたかわいさ
    人生は不条理
    夢はすごい、感情が現実の何倍になる。その点現実は冷めてる
    坂下あたるは、愛を三角形に見る。神を頂点、愛する者たちが底辺を結ぶ。西洋的思想。日本的思想は点と点を直線で結ぶ共依存ゆえの歪みが起こる気がするという主張を持つ。
    神=文学
    あたるは結論、自分が自分をやめられないのが辛い。依存により、自分をコントロールできないのが辛い。文学が頂点にあれば文学に束の間旅立ち現実を愛せる。
    衝撃に表現が追いつかない
    田舎の用水路みたいに浅すぎる思考回路ではない
    甘える、甘えられるの構図はどちらが正解ではない。単に自分の主観がすごい時なだけ
    お前の裁量で展開できる語彙がある
    暇の潰しかたにそのひとの切実さが現れる
    殺されたことを栄養に生まれ変わる文学
    文学は殺意すら喜び
    スペクタクルはあまりにも簡単で
    メランコリック
    詳らか
    逃げの一手に俄然集中してみたい
    1秒幼いおれ

  • 女の子が強くて可愛くて最低で最高です。

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著者プロフィール

1983年生まれ。2016年『青が破れる』で第53回文藝賞を受賞。2019年『1R1分34秒』で芥川龍之介賞受賞。その他の著書に『しき』、『ぼくはきっとやさしい』、『愛が嫌い』など。最新刊は『坂下あたるとしじょうの宇宙』。

「2020年 『ランバーロール 03』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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