ホテル・アルカディア

  • 集英社 (2020年3月26日発売)
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本 ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784087717020

作品紹介・あらすじ

ホテル〈アルカディア〉支配人のひとり娘・プルデンシアは、敷地のはずれにあるコテージに理由不明のまま閉じこもっていた。投宿していた7名の芸術家が同情を寄せ、元気づけ外に誘い出すべく、コテージ前で自作の物語を順番に語りだした。突然、本から脱け出した挿絵が「別にお邪魔はしないさ」と部屋に住みつづける「本の挿絵」、何千年も前から上へと伸び続けるタワーマンションの街を調査するも、1万階を過ぎたあたりで食糧が尽きてくる「チママンダの街」など7つのテーマに沿った21の不思議な物語。この朗読会は80年たった今も伝説として語り続けられ、廃墟と化したホテル〈アルカディア〉には聖地巡礼のようにして、芸術家たちのファンが何人も訪れる。80年前、あの朗読会の後、7名の芸術家たちはどうしたのか、そしてひとり娘のプルデンシアはどうなったのか。

創元SF短編賞を受賞し、そのぶっ飛んだシチュエーションと巧みな文体で、全国の目利き書店員さんを驚倒させた作家による、全国民注目の初の長編小説。

【著者略歴】
石川宗生(いしかわ・むねお)
1984年、千葉県生まれ。オハイオ・ウェスリアン大学天体物理学部卒業。約3年間の世界放浪、メキシコ・グアテマラでのスペイン語留学など経て、翻訳者として活動。2016年、短編「吉田同名」で第7回創元SF短編賞を受賞。2018年、受賞作を含む短編集『半分世界』を刊行。

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった…だんだんとお話たちが幻想小説味を帯びてくるのがたいへん好みの短編集でした。
    一応、「滞在してるホテル・アルカディアの引きこもりの娘さんのために芸術家たちが作って勝手に朗読してる話」という体ではあるものの、内容は性愛から神話世界、架空の都市の歴史まで様々でした。
    海外文学っぽいものから、「ゾンビのすすめ」「時の暴君」など日本っぽいものもありました。

    特に、「No.121393」「恥辱」「激流」、『都市のアトラス』『時のアトラス』『世界のアトラス』が好みです。
    究極の蒐集欲を描いた「No.121393」、展示されてる蒐集家ワインマン氏とラストの蒐集品の間にタイトルのナンバーがあるので、このナンバーの蒐集品は一体…と想像が膨らみます。
    そういえば「代理戦争」もアダルト系だけどブラックで好き。主人公の嫉妬心が強いからこびと軍隊の軍事力が高いんだろうか…?
    「ゴドーを待ちながら」のパスティーシュも面白かった。

    分厚さに怯みましたがなんのその。良いものでした。ポールとレノン。

  • 奇妙で納得のいく物語集。星5つ。

    一篇一篇のなかでは、推定されるジャンルの短編小説として、「体をなしている」し、なるほどこういう読後感を目指した掌編なのか、と納得いく

    ところが、『都市のアトラス』で語られた『手』のように、一篇ずつの重なる部分を「重複」として意識したら。あるいは、同じモチーフ(同じ人名や、かすかな類似)を三次元的に、別の方向から接続した部分がある「繋がり」として意識した途端、事情は変わってくる。

    この異質な感じは何だ?

    ホテル・アルカディアには結局何が居て何が起きてどうなったのか?

    それすら、多層的に、冗談じみた短編7名義で語られる。「一本の糸を辿るようにして大団円」
    タイプの娯楽物語を求める人にとっては、ストレスのたまることこの上ないが、
    「手触りすらはっきりした絹の手袋を片手に、ためつすがめつ、それを着用していた ”中身”については本当に人間だったかどうかさえ分からない」
    ことを楽しむ、幻想の愛好家にはたまらない娯楽となろう。

  • [1]引きこもったプルデンシアに読み聞かせようと彼女が好きだという『デカメロン』的な不思議で小さな物語の集積に、七人の芸術家たちが夢中になった。それがこの本になった。
    [2]最初のうち、どこか神経を逆なでするような話が多く、さて、あなたはどこまで読むことができるでしょうという感じやったけど、だんだんクセになって最後まであっさり読めてしまった。
    [3]ごく最近読んだオルガ・トカルチェフの『逃亡派』を思い出した。文中にオルガの名前があったりしたのでいくらか意識はしているのかも?

    ■簡単なメモ

    プルテンシア像の構成要素をかき集めだしたのである。(p.013)

    ある夜、本の挿絵がやってきた。(p.059)

    いまも変わってはいるけれど変わるのが当たり前だったからつまりは変わっていない。(p.097)

    「そう。彼にとっては、この世界を理解可能な範囲におさめるための儀式みたいなものなのよ」(p.099)

    あのときのエミリは「恋愛ってたいてい興味を持つことから始まるじゃない」と言っていた。「だからへんちくりんな人ほど惹きつけられちゃうのよ」(p.101)

    「A、轢く、B、轢かないって。わたしはその二者択一でずっとBを選択し続けて、みんなの命を救ってるの。でも、ほかのひとは結果的にBを選択しているだけで、選択肢を持ってない。その差は大きいと思うわ」(p.180)

    静寂はいつだって完璧にはなれない。(p.191)

    言葉が増えれば増えるだけ世界が広がっていく(p.193)

    「壊れる余地があるだけましだよ。まだ壊れてないってことだからね」(p.195)

    なぜ掌編なのか。その答えは専門家によりけりで、長編を書く根気がないから、心の大きさがその程度だから、世の物語全般のほうがくどくど長ったらしいのだ、云々。(p.210)

    人はみずから運命の糸のほうに寄っていくのではないか(p.253)

    「わたしはあらゆるエピローグの総体であり、ここから出たとたんあらゆる物語は終わりを見ます」(p.337)

  • 長期休みのとろとろした空気感の中で読むのにぴったり。
    でも「恥辱」は人間滅べって思った

  • 【所在】図・3F開架
    【請求記号】913.6||IS
    【OPACへのリンク】
     https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/volume/455885

  • 短編集でもあるが、大きな流れとして見れば長編小説でもある。石川宗生の前作「半分世界」の短編とは違って、扱う短編の数も多いし、内容の振り幅がでかい。結末の受け止め方は読書次第としているところが良い。なによりも装丁が素晴らしい。

  • 想像したこともない世界観に浸れます。
    ある人がいて、その人が紙になってどこかに飛んでっちゃった、みたいな。

  • 全く釈然としない、けど嫌いではない、むしろ好き。
    飲み下せないんだけど口に入れたくなっちゃう、そんな蠱惑的な、破滅的な魅力いっぱいの小説。

    一応、’ひきこもりの少女・プルデンシアの心を開く為に七人の芸術家達が創作物語を朗読する’という筋があり、作中作というか、小説の中に短編が書かれているというつくりなのだが、これらがまた癖が強い。

    愛のアトラスは全体的にあまり好きじゃないけど「アンジェリカの園」は可愛らしさと無邪気さと空虚さが渾然としてて良い。黒髪の少女が帰ってきたんだろうかな。

    性のアトラス(さが)は好みなんだけど当たり外れがでかい。「測りたがり」みたいな意味不明さはいい。「No.121393」もわかる。「わた師」は狙いはわかるけどうーん。「ゾンビのすすめ」は肩透かし。

    死生のアトラスの「光り輝く人」はストレートに美しい。真ん中ふたつは印象薄。「一〇〇万の騎士」はいよいよわからん。

    文化のアトラスは冒頭で登場するミアと観光客がのちに恋仲になってる演出がにくい。「A♯」は明るく楽しく面白い。

    都市のアトラスは序文もどちらの話も大好き。「チママンダの街」みたいな澄ました顔してぶっ飛んだ感じと、「機械仕掛けのエウリピデス」のようなアカデミックな陰謀めいた話。オチは読めてしまうんだけど。

    そして時のアトラス。もはや序文が難解。ラジャイオはあのラジャイオなんだよな…?

    世界のアトラスでようやくこの物語の核心へ至り、アトラス・プルデンシアの章で芸術家達の語るプルデンシア像に迫る。オーランドー版で結局「不在」とされているんだけど……?

    屋敷はなんで燃えたんだ?亀を擦りすぎたから?ってのは何の例え…?


    1刷
    2021.4.10

  • 世界文学的なほら話の集合体(ほめ言葉)。ほらのクオリティが高く楽しめる。ドゥマゴ文学賞受賞作。

  • 【所蔵館】
    総合図書館中百舌鳥

    大阪府立大学図書館OPACへ↓
    https://opac.osakafu-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2000940779

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著者プロフィール

’84年千葉県生まれ。作家、翻訳者。’16年に短編「吉田同名」で創元SF短編賞を受賞し、’18年、受賞作を含む短編集『半分世界』で作家デビュー。’20年『ホテル・アルカディア』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。最新作は『四分の一世界旅行記』。

「2022年 『ifの世界線  改変歴史SFアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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