できない男

著者 :
  • 集英社
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感想 : 79
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717068

作品紹介・あらすじ

地方の広告制作会社で働くデザイナー、芳野荘介28歳。
年齢=恋人いない歴で、仕事も中途半端な自分に行き詰まっている「できない男」。
ある時、地元の夜越町と大手食品会社ローゼンブルクフードが農業テーマパーク「アグリフォレストよごえ」プロジェクトを立ち上げる。
荘介の憧れの超一流クリエイター、南波仁志率いるOFFICE NUMBERが取り仕切る「アグリフォレストよごえ」のブランディングチームに、地元デザイナー枠として、突然放り込まれることに。

南波の右腕としてブランディング事業の現場担当を務めるアートディレクター河合裕紀、33歳。
彼女に二股をかけられていた者同士で意気投合した、イタリアンレストランオーナー賀川と遊ぶのが唯一の息抜きになっている。
仕事は超有能で、様々な女性と“親善試合"を繰り返しているけれど、河合もまた、独立や結婚など、その先の人生へと踏み出す覚悟が「できない男」だった。

山と田圃しかない夜越町で出会った、対照的な二人の「できない男」。それぞれが抱えるダメさと格闘しながら、互いに成長していく姿が最高に愛おしい、大人による大人のための青春小説。

【著者略歴】
額賀 澪(ぬかが みお)
1990年茨城県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒。
2015年に『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞、『屋上のウインドノーツ』(『ウインドノーツ』を改題)で第22回松本清張賞を受賞。『イシイカナコが笑うなら』『競歩王』『タスキメシ―箱根―』など著書多数。

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わった今、なんとも言えない爽快感!
    仕事も彼女も『できない男』芳野と、仕事もできるしモテるけど覚悟が『できない男』河合。
    これが女性同士の話ならドロドロした話になりそうだけど、男同士だからなのか、額賀澪さんの作風なのか、なんとも爽やかなお話になっています。
    自分を誤魔化して至らない点をそれらしい何かで覆い隠すのが上手な河合。できない自分を笑い者にして浅い傷をつけて致命傷を避けてきた芳野。
    全く別の生き方をしてきた二人が仕事で出逢い、友情も芽生え、ゆっくりとではあるけれどだんだんと変わってゆく。だけど、お互いに影響し合っているわけでは決してない。その距離感が男の友情なのかなぁ、なんて女性の私は思ってしまいます。
    それにしても男の人も色々大変なんだな、と思わせられたお話でした。女性の生き辛さを描いたお話はたくさん読んできたけど、男性も大変なんだなって。
    「『こうあり続けなきゃいけない』という歪んだしがらみを捨てられるなら、別に社会がどうなろうといいじゃないか」
    その通り!男も女もその通りです!

  • どなたかのレビューを読んで読みたいな、と思っていたら最寄りの図書館にあった。

    額賀さんの小説を読むのは久しぶり。
    今まで読んだものは、学生生活や家族がテーマになっているものがほとんどだった。
    青春をすみっこ暮らしで終えたアラサー独身男性の「仕事と人生巻き返し物語」とも言えるこの小説は、これまでの小説とちょっと、いやかなり違い、主人公の悶々とした感じと最後の弾けぶりが面白かった。

    額賀さんも小説家になる前は、小さな広告代理店に勤めていたと、何かで読んだことがある。
    もしかしたら、その時の経験や思いをどこかで小説にしたかったのだろうか…。


    主人公の芳野荘介は、とてもイメージしやすい。
    だから、彼の目線になって周りの人達や景色を一緒に見ることができる。
    彼がこの年で、と悩みながらも一歩踏み出す姿を素直に応援したくなるし、意外と図太いところに感心したりもする。

    誰もが多かれ少なかれ、こういう屈託を抱えて、気がつけばアラサー。
    何かにチャレンジするのに躊躇する年齢になってしまうのかもしれない。

    アラフィフのおばさんからしたら、いやいやまだまだ独身でいいし、冒険だってできるでしょう、と思うけれど過ぎてみないと、30という年齢の軽やかさが分からない。
    後ろを振り返って見る30と、その先にある30を見つめる目線には大きな違いがあるのだろうなぁ。
    2021.6.19

  • 2人の男視点から進む物語
    共感できる部分があったりなかったり
    仕事は頑張りたいけど、そこに恋愛や結婚といった現実は嫌…とか個人的には理解できる
    結婚に自分を当てはめて考えた時、現実味がなくて惹かれなくて
    ずるずると自分の中で考えて考えて、考えるだけで何も踏み出さない
    そういった現実的な部分を突きつけられるみたいだ

    結末は個人的には…殴り飛ばしたくはなるかなと
    えー、最後の最後にこれ?って
    勇気を出した女の子を振る場所が悪すぎる
    はやし立てた周囲も悪いけれど、彼女のことを思うと…こいつクソだなぁっていう部分の印象が強く残ってしまった苦笑
    自分良ければ全て良しみたいなのはいけ好かない

    でも人生の中で1歩でも前に進もうとする姿勢や変わろうとする姿は好ましいなって
    移住をしたり新しい仕事を始めたり新しい場所への旅立ち
    別の場所へと1歩踏み出そうか悩んでいる私の背中を押してくれるようだった
    この物語のように進むも進まないも人それぞれだし、人生の温度差も人それぞれ
    誰かと比べても仕方がないのかもしれないし、比べることで進むこともあるのかもしれない
    1つの道として、2人のターニングポイントを味わえたのは良かったなって思うんだ

  • 『できない男』が成長していく様子は良かったのですが、最後は人としていかがなものかとちょっと残念。

  • 本の帯に『青春時代に青春できなかったすべての人に捧ぐ。大人による大人のための成長小説』とあり、期待して読み始めたのだが、私にはなかなか面白みが伝わってこない。東京からバスで2時間、山と田んぼしかない夜越町に生まれ育った壮介。夜越町に農業テーマパーク事業が立ち上がり、広告制作会社に勤務する壮介はコンペで負けるが、勝ち取った東京のプランディングチームに地元枠で採用されることになった。東京の超有名デザイン事務所で働く有能な裕紀と知り合い仕事を組むことになる。
    息子ふたりとも、大学進学を機に家を出て関東でそのまま社会人になり結婚してしまったので、アラサー男たちの気持ちを推し量れないのかなぁと、気乗りしないまま読み続ける。3分の2を過ぎた頃に思いがけない急展開が訪れた。
    裕紀と賀川の関係性もユニークだが、まさか壮介にあれほどのことを仕出かす若さとパッションが残っていたのは意外だった。宇崎さんにはとても気の毒な結果となったが、壮介にとっては今まで踏み出せずに”できなかった”ことをやったのだろう。
    「できる」と聞けば能力が連想される。思い起こせば、最初に使ったのは学校で成績が優秀なのを「よくできる人」と評していた。「できない男」と聞けばダメな代名詞そのものだ(「できない女」とは言わない)。よくよく考えれば、主語になる”何が”が抜けていてすべてができないわけではないだろう。

  • 仕事もできない、彼女もできない、生まれてこの方華々しいこととは無縁の『できない男』芳野壮介。
    かたや、仕事も恋愛も見た目も揃っているのに、独立にも結婚にも踏み込む覚悟が『できない』男、河合裕紀。

    壮介の住む、山と田圃しかない地方都市に、地元企業がテーマパークを作ろうというプロジェクトが立ち上がった。
    そこで正反対のふたりが出会い…


    それぞれのダメな部分と悪戦苦闘しながら、世間でなんとなく言われ、周りから期待されたりプレッシャーをかけられたりする“成功”や“幸福”ではない、本当に自分が心から求めているものが何かを探していく。


    『ヒトリコ』からずっと読んできて、ついにアラサーまで来たなぁ。
    登場人物の年齢層が成長するにつれて、だんだん文体も軽やかになってきて、色々な人が共感できる作品になってきた。

    リア充イケメンにも悩みがあるんだ、へー。ほー。
    そうそう、教室でにぎやかに大きな声を出してはしゃいでいなくたって、こっちはこっちで別に楽しんでるのに、憐むのはやめて欲しいよ。
    で、社会人になっても、そのノリやめてくれよ…
    …と、ついつい壮介の気持に寄ってしまう。

    『イル メログラーノ』の賀川さんが、いい味出してる。さすが料理人⁉︎

  • サクサク読めてお仕事小説として面白いなぁと思った。
    2人のできない男が成長していくのは気持ち良かった。

    でも、宇崎さんをあんな風に傷つけるなんて、
    ちょっとあり得ない。
    確かに、もう地元にはいれないだろうけど
    退路を断つために必要だった?
    いやぁ、ないなぁ。

    人を思いやれないなんて開き直りとしか思えない。
    さすができない男である。

  • 宇崎さんが気の毒すぎる。

  •  なかなか大人になれない男たちの成長物語。
             ◇
    地方の広告代理店勤務の芳野荘介は28歳のデザイナー。と言っても現状はやっつけ仕事しかできず、クリエイティブとはほど遠い日々。これまで恋人はできたことがなく、ビジネスもプライベートも中途半端なまさに「できない男」だ。

     そんな荘介に訪れた転機。地元の町と大手食品会社が企画した農業テーマパークプロジェクトを、東京の超一流クリエイター南波仁志がプロデュースすることになり、地元枠として荘介もチームに加わることになったのだが……。

         * * * * *

     「できない男」の定義が物語のポイントでした。

     荘介は何事にも自信が持てず、女性に対しても仕事に対しても積極性に欠けていました。この姿勢では「できない男」の烙印もやむを得ないでしょう。

     けれど、プロジェクトの実務を担当する南波事務所の No.2、河合はどうなのでしょうか。

     もう1人の主人公である河合も、確かに結婚しようとしないし、所長の南波を越える仕事はできません。
     けれど女性にはモテます。優柔不断で結婚に踏みきれないだけです。
     仕事もできます。南波に追いつけ追い越せという欲がないだけです。

     物語はコメディータッチで展開し、2人の「できない」ぶりをユーモラスに描いていきますが、上の中位にいる人間とボーダーラインにいる人間を同列に配したところに、少し違和感を持ちながら読み進めました。

     ただラストが衝撃的で、荘介が恋に突っ走り映画『卒業』さながらの花嫁略奪を成し遂げるのに対し、河合は南波から独立を促され、やっと南波の庇護下から出ていく決心をします。

     中途半端に優秀な人間のほうが「思い切り」が悪くなるものなのだろうな。だから踏み出すことが「できない男」なのか。なるほど、そういうことだったのか。
     でも2人のその先を考えてみると……。

     荘介は血気に逸った略奪婚の重圧に苦しむ(気の強い花嫁にも苦しむ)ことになるでしょう。
     一方の河合はというと、恐らく限界を自分で設定し、そこそこの仕事を安定してこなしていくと思います。

     やはりポテンシャルの違いが、その後の人生でもモノを言うのではないか。そんなことを思いつつ読了しました。

  • タイトルからしてよほど「できない男」のダメダメな日常を描いたお話かと思いきや、いやいや、自分からみたら主人公の荘介は十分「できる」男に分類される人間だと思います。

    まず広告業界に身を置いている時点で、きらきら感満載ですし、初対面ながらともに仕事をすることになった河合との距離の詰め方やコミュニケーションのとりかた、ひょんなことから一緒に社内コンペで組むことになった春希とのやりとりなど、どれをどう見ても「できる」男のそれでしかないと感じます。なによりも本作を通して憧れのデザイナーである南波とともに仕事をする機会にも恵まれることとなり、すっかり仕事の能力を向上させているわけで。

    そんな展開のなか、物語後半では荘介の仕事への入れ込みようや熱量、ちょっとした自信みたいなものがみなぎってきている印象を受けます。春希と組んだ社内コンペでは時間のないなか、茨城と東京を行ったり来たり、様々な意見を戦わせたり、そこには自分から仕掛けていこうとする姿がありました(仕事で一皮むけるときの典型的なパターンの一つかと)。

    物語の終盤では東京で仕事をすることを考えたり、さらには宣伝用とはいえ結婚式撮影の場でプロポーズを受けながらもその場を脱走、しかも春希も道ずれにして挙句の果てには告白してしまうという展開で、自分自身の手で人生を選びとっていこうとする荘介の力強さが描かれています。

    こんな感じで「できる」シーンがたくさん描かれているわけで、「できない」男が「できる」ようになってゆく成長物語として読むべき一冊なのかもしれません。

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著者プロフィール

1990年、茨城県生まれ。日本大学芸術学部卒業。2015年、「ウインドノーツ」(刊行時に『屋上のウインドノーツ』と改題)で第22回松本清張賞、同年、『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞する。著書に、『ラベンダーとソプラノ』『モノクロの夏に帰る』『弊社は買収されました!』『世界の美しさを思い知れ』『風は山から吹いている』『沖晴くんの涙を殺して』、「タスキメシ」シリーズなど。

「2023年 『転職の魔王様』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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