水を縫う

著者 :
  • 集英社
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レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717129

作品紹介・あらすじ

松岡清澄、高校一年生。一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。
学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている清澄は、かわいいものや華やかな場が苦手な姉のため、ウェディングドレスを手作りすると宣言するが――「みなも」
いつまでも父親になれない夫と離婚し、必死に生きてきたけれど、息子の清澄は扱いづらくなるばかり。そんな時、母が教えてくれた、子育てに大切な「失敗する権利」とは――「愛の泉」ほか全六章。
世の中の〈普通〉を踏み越えていく、清々しい家族小説。

【著者略歴】
寺地はるな(てらち・はるな)
1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。会社勤めと主婦業のかたわら小説を書き始め、2014年『ビオレタ』でポプラ社新人賞を受賞しデビュー。『大人は泣かないと思っていた』『正しい愛と理想の息子』『夜が暗いとはかぎらない』『わたしの良い子』『希望のゆくえ』など著書多数。

感想・レビュー・書評

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  • 寺地はるなさんらしい、とてもいい話だった。

    男だからとか女だからとか、母親だからとか、もういい年だからとか、そういう事を理由にあれこれ言ってくる周りの声に身構えることに、いつのまにか慣れてしまって、どうせわかってもらえない、こういう事を言うと周りはこういう反応をするだろうと先回りして、自分から壁を作ったり、理論武装して自分を守ろうとしたりすることがあるけれど、そういうことは、本当は全然、しなくていいんだ。
    自分が『ナントカらしく』なくても、自分の好き嫌いは自分で決めたらいいし、それを正直に表明していいし、それをバカにしたり軽んじたりされたら怒っていい。
    そして案外、恐れていたほど分かり合えない人ばかりじゃないんじゃないかな。
    そんな風に思わせてくれる作品でした。


    読み終えたばかりですが、また読み返したい作品です。

  • どこかでどなたかが「寺地はるなは裏切らない」と言っていた。まさに、そう。
    しっかりと間違いなく寺地小説は私のツボを押してくる。ぐいぐいと、ではなく、そっと優しく、けれどど真ん中を。だからじんわりと、効く。

    祖母と母と姉と弟、そして離婚した父とその友人。
    6人が6人とも、不器用でこだわるものがあって、とても生きにくそうに世界のちょっと隅っこで肩をすぼめている。
    彼らはみんな、「らしくあること」に押しのけられているようだ。
    女だから、女らしく。男だから、男らしく。母だから、母らしく。父だから、父らしく。
    なんだよ、「らしく」って。誰だ決めたことなんだ、「らしく」って。
    でも、自分も知らず知らずに「らしく」にからめとられてはいやしないか。自分を、相手を、家族を。

    それぞれに、自分の中に違和感を持っている、外から求められる自分と、自分が感じている自分と。
    生きたいように生きていけないもどかしさ。息苦しさ。(息苦しさの極致にいる母親のとつぜんの病がまさにその象徴でもあり)
    結婚間近の姉、水青の「かわいい」との隔絶が一番悲しく一番つらかった。これは、許しがたい。
    そんな姉が結婚式で着るドレスを弟が作る、という。この弟、清澄がとてもいい。彼の周りにいる友人たちとのやりとりも、そして父親への屈託のなさを作ってくれた父の友人黒田の存在も彼の成長にとってかけがえのないもの。
    そう。成長。不器用な家族+αたちの、生きにくさからのほんの一歩の成長の物語。
    ぼきぼきと折れながらもなんとかまっすぐに生きようとする彼らが迎えたとある、朝。
    彼らの笑顔が目に浮かぶ、その朝の場面。この、すがすがしさを一緒に体感してほしい。
    寺地はるなは裏切らない。心地よい涙がにじむラストを楽しみに読むべし。


  • 寺地はるなさんはいつだって『普通』と闘っている。
    男の子だから。女の子だから。母親だから。父親だから。
    そんなわずらわしい型をふざけんな!と壊してくれる。(本作はそんな荒ぶったものではございません)

    小説すばるで連載当時から魅せられた大好きな作品を、どんな言葉で飾ったらこの魅力を伝えられるのだろうと考えて考えて、そもそもそんなことは不可能だと気づく。
    こんな作品です、だなんて端的にまとめられるならば、240頁を費やした物語が存在するわけないのだから。
    でも、それでも、わたしにとってとても大切なこの物語を語るべき言葉を探したいとも思うわけです。


    水を縫う、というこの言葉がとても美しくて心地良くてどういうことなんたろう?と思っていたがそれは最終話で明らかになります。

    『流れる水であってください』
    愛してるというのに等しいほどの愛情を表したこの言葉にきっとみんなハートを撃ち抜かれるのでは。(わたしは撃ち抜かれました。黒田と同じくらい感極まってしまったよ)

    そしてその流れる水を施したドレスはさぞ美しかろうと水青の姿を想像してまた感極まってしまう。
    嗚呼、まさにこれは、『水を縫う』。


    寺地さんの言葉にはいつだって小気味いい毒が潜んでいて、それはいつだって『普通』というわずらわしい型を壊そうとしてくれる。

    好きなものを好きだと言えばいい。
    嫌なものは嫌だと言ってもいい。
    ステレオタイプの母親でいる必要もない。
    男らしさとか女らしさとかそんなことよりも、自分らしさを誰でもなく自分で認めればいいじゃないか。

    普通に苦しめられること多いわたしたちに、ほら、息して!と言ってくれているような。
    ほんのわずかな澄んだ空気を与えてくれるような、そんな物語を生み出してくれる寺地はるなさんを、わたしは無条件に信じている。

    だから、この物語は、『普通』に殺されかけてるわたしたちへの処方箋なのだ。


    追伸
    全さんと黒田を愛しているわたしですが、ひそかにくるみちゃんのことも慕っております。
    『ひとりで来たから、ひとりで帰れる』
    すごくかっこいいよね!


  • やっぱり何度も涙があふれました。

    姉のウエディングドレスを作ることがきっかけで
    自分や家族と初めて向き合うお話です。

    失敗する権利。雨に濡れる自由。

    自分が勝手に作っていた、普通は…という枠組みに気がつかないうちに縛られている自分にハッとします。

    自分の好きって気持ちを大切に生きたい。
    やりたいことは全部やりたい。

    最後は、清々しく、優しく、前向きな気持ちで
    爽快感があふれます。

    たくさんの方に読んでもらいたいなぁと思う
    心があたたまるオススメの1冊です。

    寺地はるなさんの本は、心に響く言葉のパレード。
    私に本の世界の面白さを教えてくれた
    大好きな作家さんです!

  • 普通に囚われても囚われなくても、
    家族としてつながることはできる。
    誰かが誰かのために祈っている。
    だけどその祈りが「普通に」幸せになって欲しい、とか、「特別に」幸せになって欲しい、とか、
    自分の中にある価値基準に囚われて
    純粋に家族としての幸せを願っているのに歪んでしまうことがある。
    家族だからと言って全てが分かりあえる訳じゃない。
    ただ家族だからこそ互いに願ったり祈ったりする。
    それが呪いのようになってしまうこともある。
    血の繋がりがないからこそ自分の父性を一方通行に感じていてそれを痛感した運動会での清澄の視線の思い出が、
    清澄にとっても血の繋がらない父親との楽しい思い出として知ることができたのが感動した。
    「しずかな湖畔の」が一番好きだった。

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著者プロフィール

寺地 はるな(てらち はるな)
1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第四回ポプラ社小説新人賞を受賞。
著書に『ミナトホテルの裏庭には』『月のぶどう』『今日のハチミツ、あしたの私』『みちづれはいても、ひとり』『架空の犬と嘘をつく猫』『大人は泣かないと思っていた』『正しい愛と理想の息子』がある。

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