水を縫う

著者 :
  • 集英社
4.30
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レビュー : 32
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717129

作品紹介・あらすじ

松岡清澄、高校一年生。一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。
学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている清澄は、かわいいものや華やかな場が苦手な姉のため、ウェディングドレスを手作りすると宣言するが――「みなも」
いつまでも父親になれない夫と離婚し、必死に生きてきたけれど、息子の清澄は扱いづらくなるばかり。そんな時、母が教えてくれた、子育てに大切な「失敗する権利」とは――「愛の泉」ほか全六章。
世の中の〈普通〉を踏み越えていく、清々しい家族小説。

【著者略歴】
寺地はるな(てらち・はるな)
1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。会社勤めと主婦業のかたわら小説を書き始め、2014年『ビオレタ』でポプラ社新人賞を受賞しデビュー。『大人は泣かないと思っていた』『正しい愛と理想の息子』『夜が暗いとはかぎらない』『わたしの良い子』『希望のゆくえ』など著書多数。

感想・レビュー・書評

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  • ★4.5

    「男なのに」刺繍が好きな弟の清澄。
    「女なのに」かわいいものが苦手な姉の水青。
    「愛情豊かな母親」になれなかったさつ子。
    「まっとうな父親」になれなかった全と、その友人・黒田。
    「いいお嫁さん」になるよう育てられた祖母・文枝。
    普通の人なんていない。普通の家族なんてない。
    世の中の“普通”を踏み越えていく、6人の家族の物語。

    松岡清澄、高校一年生。一歳の頃に父と母が離婚し、
    祖母と,市役所勤めの母と,結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。
    学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている清澄は、
    かわいいものや華やかな場が苦手な姉のため、ウェディングドレスを手作りすると宣言するが――。
    いつまでも父親になれない夫と離婚し、必死に生きてきたけれど、
    息子の清澄は扱いづらくなるばかり。
    そんな時、母が教えてくれた、子育てに大切な「失敗する権利」とはーー。


    「男なのに」手芸が大好きな清澄
    「女なのに」可愛いものが苦手な水青
    「母親なのに」手作りが苦手で愛情表現が苦手な颯子
    「父親なのに」真っ当な父親になれなかった全
    「良妻賢母」になることしか許されなかった祖母
    それに中途半端な父性をまんぞくさせ自分の家庭をもとうとしなかった全の友人の黒田。
    6人が6人とも不器用でこだわるものがある。
    世の中の普通とか当たり前から少し弾かれ痛みを抱えて生きている。
    彼らが一歩前に踏み出していく姿を描いていた。

    好きなものは好き!
    嫌いなものは嫌い!
    自分らしさを自分自身が認めればいいんだ。
    少しは息が楽になるんだろうなぁって思った。

    相変わらず寺地さんは心の機微を描くのが秀逸。
    文章はどちらかと言えば穏やかで淡々と綴られているのに、
    心を強く揺さぶられる。
    目まぐるしい日々の中で、おざなりになっていること気付かせてくれる。

    「流れる水はけっして淀まない。常に動き続けている。
    だから清らかで澄んでいる。一度も汚れた事がないのは清らかとは違う。
    進み続けるものを、停滞しないものを、清らかと呼ぶんやと思う。
    これから生きていくあいだにたくさん泣いて傷つくんやろうし、
    くやしい思いをしたり、恥をかくこともあるだろうけど、それでも動き続けてほしい。
    流れる水であってください。」
    父親全の名前を付けた理由を友人黒田が話してる時、黒田は感極まっていました。
    私もウルウルしてしまいました。
    この言葉良かったなぁ。

    世の中で「普通」とされていること「常識とされていること」
    をもう一度問い直していました。
    やはり読んで良かった~(❁´ `❁) ♡

  • 寺地はるなさんらしい、とてもいい話だった。

    男だからとか女だからとか、母親だからとか、もういい年だからとか、そういう事を理由にあれこれ言ってくる周りの声に身構えることに、いつのまにか慣れてしまって、どうせわかってもらえない、こういう事を言うと周りはこういう反応をするだろうと先回りして、自分から壁を作ったり、理論武装して自分を守ろうとしたりすることがあるけれど、そういうことは、本当は全然、しなくていいんだ。
    自分が『ナントカらしく』なくても、自分の好き嫌いは自分で決めたらいいし、それを正直に表明していいし、それをバカにしたり軽んじたりされたら怒っていい。
    そして案外、恐れていたほど分かり合えない人ばかりじゃないんじゃないかな。
    そんな風に思わせてくれる作品でした。


    読み終えたばかりですが、また読み返したい作品です。

  • 柔らかさと力強さを感じた一冊。

    誰かから見ればちょっと変わってることでも誰かから見ればそれは普通なことかもしれない。

    それが誰かの自然でいられることに繋がれば最高かもしれない。
    水が堰き止められることなく無理なく自然の方向へ流れるように流れ続けるように…。

    不器用というものに包まれ隠れた愛情、名前に込められた想い。
    自分らしさを大切に、やりたい楽しいその気持ちを大切にすること。

    徐々にこの家族の、支える皆の心が見え始めた時、優しさ柔らかさと共に力強さを感じた気がする。

    黒田さんが良い味だしていたな。

    あの世界に一つだけの皆の思い願いが縫い込まれたウェディングドレスを見てみたい。

    読後は誰もの新しい心の門出を見せてもらったようなそんな素敵な気分。

  • 『失敗する権利』・・・親が良かれ子供のために良かれと思って、あれこれと世話をやき口を出す、それは子供から失敗する権利まで奪っていることだと言う

    降水確率が50%、親は、当然子供が心配だから傘を持って行くように言う。でもそれから先は、子供の問題。親の忠告を無視して、雨に濡れ風邪をひいてもそれは子供の人生
    今後、風邪をひかないよう、どうすればいいか考えるかもしれないし、もしかしたら雨に濡れるのも結構気持ちがいいかも。
    子供には失敗する権利があるし、雨に濡れる自由がある

    この祖母文枝が、自分の娘颯子に言ったこの言葉は、私の心に強く響いた
    もしかしたら、かわいがり、娘のことを思う余り、失敗する権利を娘から奪っていたかもしれない
    今となっては、もうどうしようもないけど

    「男なのに」刺繍が大好きな清澄
    「女なのに」かわいいものが好きになれない姉の水青
    「母親なのに」愛情表現の苦手な颯子
    「真っ当な父親」になれなかった全
    「かわいいお嫁さん」になることしか許されなかった祖母

    世の中が決めた『普通』の概念に苦しみ、もがいていた
    しかし、その普通に抵抗するものの、「伝える努力」をせずにさらに自分の中に閉じこもっていた

    「伝える努力」をすることにより自分の前の扉が少しずつ開き、光が差し込んでくる様子に救われた

    歳も近いせいか、74歳の祖母文枝さんが、かわいい嫁として生きるしか選択肢がなかった人生の呪縛から解き放たれ、プールに行くと宣言した

    「74歳になって、新しいこと始めるのは、勇気がいるけどね」という文枝さんに対して

    「でも、今から始めたら、80歳の時には水泳歴6年になるやん。何もせんかったら0年のままやけど」
    と背中を押す孫の清澄

    心から拍手喝采したくなった
    何をはじめるにも遅すぎることはないのではないか

    井上荒野さんの「静子の日常」とダブった

    水青のかわいいのは嫌という思いを形にした三重ガーゼのウェディングドレスは、水青だけでなく、父親の全や弟の清澄、母親の颯子、祖母文枝みんなの普通からの脱却が具現化したものではないかと思った

  •  ああ、寺地さんだな。全身にそう感じながら読み終えた。
     ただ、6人の家族のことを描いているだけなのに、ひとつひとつが優しいし、スッと背筋を伸ばしたくなる。そんな作品群。

     6つの短編集。刺繍が好きな高校生の清澄。可愛いものが嫌いな姉の水青。「悪目立ち」をさせたくない母のさつ子。良い母親であることを強いられてきた祖母の文枝。頼りなく浮世離れした父親の全。全の友だちの黒田。

     みんなちがって、みんないい

     金子みすゞの言葉が頭に浮かぶ。

    ①高校生の清澄は男なのに刺繍が好きだ。これまでその趣味のせいで友だちがいなかった。高校に入って、友だちを作ろうと、好きでもないことを好きになろうとしたり、好きなものを好きでないように振る舞ったりしようとしたが、やはり自分を偽ることはできない。これからも1人かなと思ったものの、きちんと自分を認めてくれる人がいて。

    ②水青は、過去に変態にスカートを破かれたことがあった。それ以来、可愛いものを着ることを避けてきた。でも、それは可愛いもののせいではないと気づいた。

    ③夫と別れ、子ども2人を育てるさつ子は市役所勤務。いつも悪いことが起こる前に手を打つ傾向がある。清澄の刺繍についても「悪目立ち」すると思って嫌うことの1つだ。「失敗する権利」と母親は言うが。

    ④「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」と古い価値観で育てられた文枝は、自分はそういう考えを押し付けるような人間にはならないと誓った。刺繍が好きな清澄は文枝の影響だ。これまでずっと我慢を強いられてきた文枝は、旧友と再会し、水遊びが好きだった自分を思い出し、スイミングに通うことを決意する。

    ⑤黒田は全の友だちだ。全の別れた家族に毎月全の給料から差し引いた金額を養育費として運んでいる。従業員や会計士からは全に給料を払うことを良く思われていない。でも、黒田は待っている。全が昔のようにのることを。清澄が姉の結婚式にドレスを作るのに、全に手伝ってほしいとやってくる。そこで全は水青の思うことを理解し、テキパキとドレスを作っていく。全は全く落ちぶれていなかった。

    ⑥最終話。全に作ってもらったドレスに刺繍を入れることになっている清澄。期限がそこまできているが、どんな刺繍を入れていいのか思いつかない。そこで、ふと名前の由来を思い出す。それは母親でもなく、祖母でもなく、父親が付けてくれた名前だった。その名前の由来をヒントに清澄の手は解き放たれたように動き出す。


     同じ人間なんて存在するはずもなく、人間の数だけ考え方や感じ方がある。そのどれもが間違いではない。そんな当たり前のことを「同じじゃなくていいんだよ」と、そっと背中を押してくれるような物語。

  • どこかでどなたかが「寺地はるなは裏切らない」と言っていた。まさに、そう。
    しっかりと間違いなく寺地小説は私のツボを押してくる。ぐいぐいと、ではなく、そっと優しく、けれどど真ん中を。だからじんわりと、効く。

    祖母と母と姉と弟、そして離婚した父とその友人。
    6人が6人とも、不器用でこだわるものがあって、とても生きにくそうに世界のちょっと隅っこで肩をすぼめている。
    彼らはみんな、「らしくあること」に押しのけられているようだ。
    女だから、女らしく。男だから、男らしく。母だから、母らしく。父だから、父らしく。
    なんだよ、「らしく」って。誰だ決めたことなんだ、「らしく」って。
    でも、自分も知らず知らずに「らしく」にからめとられてはいやしないか。自分を、相手を、家族を。

    それぞれに、自分の中に違和感を持っている、外から求められる自分と、自分が感じている自分と。
    生きたいように生きていけないもどかしさ。息苦しさ。(息苦しさの極致にいる母親のとつぜんの病がまさにその象徴でもあり)
    結婚間近の姉、水青の「かわいい」との隔絶が一番悲しく一番つらかった。これは、許しがたい。
    そんな姉が結婚式で着るドレスを弟が作る、という。この弟、清澄がとてもいい。彼の周りにいる友人たちとのやりとりも、そして父親への屈託のなさを作ってくれた父の友人黒田の存在も彼の成長にとってかけがえのないもの。
    そう。成長。不器用な家族+αたちの、生きにくさからのほんの一歩の成長の物語。
    ぼきぼきと折れながらもなんとかまっすぐに生きようとする彼らが迎えたとある、朝。
    彼らの笑顔が目に浮かぶ、その朝の場面。この、すがすがしさを一緒に体感してほしい。
    寺地はるなは裏切らない。心地よい涙がにじむラストを楽しみに読むべし。


  • 寺地はるなさんはいつだって『普通』と闘っている。
    男の子だから。女の子だから。母親だから。父親だから。
    そんなわずらわしい型をふざけんな!と壊してくれる。(本作はそんな荒ぶったものではございません)

    小説すばるで連載当時から魅せられた大好きな作品を、どんな言葉で飾ったらこの魅力を伝えられるのだろうと考えて考えて、そもそもそんなことは不可能だと気づく。
    こんな作品です、だなんて端的にまとめられるならば、240頁を費やした物語が存在するわけないのだから。
    でも、それでも、わたしにとってとても大切なこの物語を語るべき言葉を探したいとも思うわけです。


    水を縫う、というこの言葉がとても美しくて心地良くてどういうことなんたろう?と思っていたがそれは最終話で明らかになります。

    『流れる水であってください』
    愛してるというのに等しいほどの愛情を表したこの言葉にきっとみんなハートを撃ち抜かれるのでは。(わたしは撃ち抜かれました。黒田と同じくらい感極まってしまったよ)

    そしてその流れる水を施したドレスはさぞ美しかろうと水青の姿を想像してまた感極まってしまう。
    嗚呼、まさにこれは、『水を縫う』。


    寺地さんの言葉にはいつだって小気味いい毒が潜んでいて、それはいつだって『普通』というわずらわしい型を壊そうとしてくれる。

    好きなものを好きだと言えばいい。
    嫌なものは嫌だと言ってもいい。
    ステレオタイプの母親でいる必要もない。
    男らしさとか女らしさとかそんなことよりも、自分らしさを誰でもなく自分で認めればいいじゃないか。

    普通に苦しめられること多いわたしたちに、ほら、息して!と言ってくれているような。
    ほんのわずかな澄んだ空気を与えてくれるような、そんな物語を生み出してくれる寺地はるなさんを、わたしは無条件に信じている。

    だから、この物語は、『普通』に殺されかけてるわたしたちへの処方箋なのだ。


    追伸
    全さんと黒田を愛しているわたしですが、ひそかにくるみちゃんのことも慕っております。
    『ひとりで来たから、ひとりで帰れる』
    すごくかっこいいよね!


  • 最高でした。文章は淡々と、穏やかに、静かにつづられているのに、読み手の感情を強く揺さぶる素晴らしい物語です。老若男女すべての人に一読をおすすめします。

  • やっぱり何度も涙があふれました。

    姉のウエディングドレスを作ることがきっかけで
    自分や家族と初めて向き合うお話です。

    失敗する権利。雨に濡れる自由。

    自分が勝手に作っていた、普通は…という枠組みに気がつかないうちに縛られている自分にハッとします。

    自分の好きって気持ちを大切に生きたい。
    やりたいことは全部やりたい。

    最後は、清々しく、優しく、前向きな気持ちで
    爽快感があふれます。

    たくさんの方に読んでもらいたいなぁと思う
    心があたたまるオススメの1冊です。

    寺地はるなさんの本は、心に響く言葉のパレード。
    私に本の世界の面白さを教えてくれた
    大好きな作家さんです!

  • 清澄が自分を真っ直ぐ貫いている姿が良かった…文枝に掛ける言葉も、母に対する気持ちも。物語の中で誰かが特別な主人公でなく、それぞれの考えや生き方が伝わってきて、本当に読んで良かったと思う作品だった。何度も読み返したい本。

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著者プロフィール

寺地 はるな(てらち はるな)
1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第四回ポプラ社小説新人賞を受賞。
著書に『ミナトホテルの裏庭には』『月のぶどう』『今日のハチミツ、あしたの私』『みちづれはいても、ひとり』『架空の犬と嘘をつく猫』『大人は泣かないと思っていた』『正しい愛と理想の息子』がある。

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