心淋し川

著者 :
  • 集英社
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レビュー : 137
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717273

作品紹介・あらすじ

「誰の心にも淀みはある。でも、それが人ってもんでね」
江戸、千駄木町の一角は心町(うらまち)と呼ばれ、そこには「心淋し川(うらさびしがわ)」と呼ばれる小さく淀んだ川が流れていた。川のどん詰まりには古びた長屋が建ち並び、そこに暮らす人々もまた、人生という川の流れに行き詰まり、もがいていた。
青物卸の大隅屋六兵衛は、一つの長屋に不美人な妾を四人も囲っている。その一人、一番年嵩で先行きに不安を覚えていたおりきは、六兵衛が持ち込んだ張方をながめているうち、悪戯心から小刀で仏像を彫りだして……(「閨仏」)。
裏長屋で飯屋を営む与吾蔵は、仕入れ帰りに立ち寄る根津権現で、小さな唄声を聞く。かつて、荒れた日々を過ごしていた与吾蔵が手酷く捨ててしまった女がよく口にしていた、珍しい唄だった。唄声の主は小さな女の子供。思わず声をかけた与吾蔵だったが――(「はじめましょ」)ほか全六話。
生きる喜びと生きる哀しみが織りなす、著者渾身の時代小説。

【著者略歴】
西條奈加(さいじょう・なか)
1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノべル大賞を受賞し、デビュー。2012年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、2015年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞を受賞。近著に『亥子ころころ』『せき越えぬ』『わかれ縁』などがある。

感想・レビュー・書評

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  • 居心地の良い一冊。

    全ての言葉が滑らかに柔らかに心にスッと沁み込んでくる感覚。

    そして言葉に含まれた温もり、人の温もりが心に沁み込んでくるこの物語に居心地の良さを感じた。

    特に人とは…人たるものを表現する数々の言葉がしばし心を居心地良くそこに留め置く時間が良かった。

    心淋し。
    誰もが抱える何かしらの淀み、巧く一掃できない不器用さ、懸命さ。

    それを持ち得るから人なんだよね、と愛おしく寄り添いたくなる。

    どの話も微風が吹いていくような終いが良い。

    それは心の淀みを流していく風なのか…思いを馳せたくなる時間もまた心地良し。

  • 「心淋し川」 西條奈加(著)
    2020年 9/10 第1刷 (株)集英社
    2021年 2/28 読了

    情と事情だけを持ち寄って
    思い遣りだけで結びついている江戸の寂れた町屋で繰り広げられる人間模様は

    慈しみに溢れている。

    現代に生きるぼくらは忘れてしまったのか?

    この物語に涙するぼくらは忘れてはなさそうだ。

    第164回 直木賞受賞作品

  • 大好きな須賀敦子さんの本を読んだときと似た気持ちになりました。
    須賀敦子さんはエッセイだし、舞台がミラノだったりするのに。
    なんでかな?
    そしてそれは「心淋しい」という言葉に近い気がします。

    『心淋し川』の舞台は千駄木町など、東京ではありますが
    今は無き東京。
    それが須賀敦子さんの半世紀前のミラノと共通します。

    著者二人とも50歳を軽く超えていますが
    登場人物は若い人達で
    貧乏だったりいろんな問題をかかえていながら
    一生懸命生きている。
    登場人物を見る著者の目が温かい。
    愛を感じます。

    どちらも街の空気中の水分の多さを感じる。

    あと、表現が綺麗なんだと思う。
    須賀敦子さんについては、同じ北イタリアの夫をもつ
    ヤマザキマリさんが「汚いところも見ていたはずだが
    あえて綺麗に仕上げている」ようなことを言っていました。

    この『心淋し川』では、知らない単語は古い広辞苑で
    だいたいわかりました。
    (この前に読んだZ世代宇佐見りんさんによる芥川賞受賞作品『推し、燃ゆ』ではスマホで調べるしかなかった)
    岡場所、閨事、新造、忘八…
    言葉の選び方が上手すぎ。

    そして、須賀敦子さんの『コルシア書店の仲間たち』あとがき。
    ここには書きませんが、年齢を重ねてきた人だからこその
    味わい深い言葉に、毎回目頭が熱くなります。

    一方この『心淋し川』では
    〈忘れたくても、忘れ得ぬ思いが、人にはある。
    悲嘆も無念も悔恨も、時のふるいにかけられて、
    ただひとつの物思いだけが残される。
    虚に等しく、死に近いものー
    その名を寂寥という〉
    これが西條奈加さんの言いたかったことではないでしょうか。

    直木賞受賞おめでとうございます。
    読んで良かったです。

  • 腐った臭い、淀んだ川面、年中湿って黴臭さが消えない貧乏長屋。
    どぶ川沿いに住みついた人たちは、常に灰色の陰に覆われて日々を細々と生きている。
    誰も好き好んで生まれた訳でもない、己の貧しい出自に苦い思いを抱きながら、それでも他に逃げ場もなく、置かれたその場所で生きていかねばならない定め。
    忘れたくても忘れられない思いや、脱ぎ捨ててしまいたい重しに苛まれる。
    長年に渡って溜め込んだ塵芥が重すぎて、何処へも逃れられずにただただ留まるばかり。

    みんな脛に傷を持つ者ばかり。人生の光も陰も痛いほど知っている。
    心の底に滞る淀みを捨て去る度胸もなく、いつまでも溜め込んでは愚痴ってばかり。
    それを人の弱さと批判する者もいるけれど、その弱さもやはりその人の一部。
    互いの傷に干渉することなく、いい塩梅に距離を保ち互いをそっと思いやる。そんな長屋の住人たちの関係が好ましかった。
    どぶ川の淀みに似た、住人たちの心を蝕む淀みが、話が進む度に少しづつではあるが静かに吐き出されていく様がいい。
    細やかな日常に降り注ぐ、微かな光に希望を見出す連作短編集だった。

    ただ、思ったより薄味だったかな。
    直木賞受賞作ということで期待しすぎたのかも。
    淡々と物語が進んでいく感じでちょっと残念。
    人間関係をもっと深く、グイグイえぐって長屋の住人たちの感情を剥き出させても良かったかも。

  • 今まで知らなかった新たな作家に出会えることは、この上なく嬉しい
    西條奈加さんもその一人
    直木賞受賞のニュースで、いち早く図書館で予約した
    ミーハーですみません

    江戸時代の町人の生活を描いた作品は、数多く読んできたけど、貧しいけれど知恵を働かせ、したたかに生きる姿はたくましく勇気をもらう

    タイトルの「心淋し川」は、「うらさびしがわ」と読む
    千駄木町の外れ 心川(うらがわ)と名だけは洒落ているが溜め込んだ塵芥が重すぎるためか流れることがないドブ川の両岸に並ぶ貧乏長屋の住人やその界隈に住む人々の話

    町の名前は、川の名にちなんで心町(うらまち)
    作中にこんな一節があった
    「傍から見れば、まさにゴミ箱みてえな町ですがね。汚ねえし臭えしとっちらかってるし。それでもね。あの箱には人が詰まってるんでさ。」

    「何があったか聞かぬのが、心町の理ですから」

    「生き直すには、悪くねえ土地でさ」

    ドブ川と同じように心の底にいろんな泥を溜め込みその日暮らしに追われているが、みんなここへ流れてきた過去やらの余計な詮索をせずに受け入れている

    人に言えぬ辛い過去があるのはみんな同じだからだろう

    短編6編からなる連作集
    それぞれの短編の最後には、ほんのりと明日への希望の光が見え隠れするのだが、その結末がはっきりせず、何とも歯痒く想像するしかなかったが、最終章『灰の男』で、それぞれの結末が明らかにされるので、読者は、ああ、結局そうなったのかとすっきりする

    おもしろい展開の仕方だなと思う

    他の作品もぜひ読んでみたいなと思った

  • 貧乏長屋と化した心町。
    その心町に住む住人一人一人の人生模様が、それぞれ深くて、ドラマがあり、生きていく事は素晴らしいな、光っているなって思いました。

    各章で登場し、皆を気にかけ、温厚な差配の茂十さんに、あんな過去があり、心町の差配をしていたんだと、最終話は釘付けになりました。そしてそれぞれのお話で気になっていた部分が、ここで繋がっているのも面白かったです!

  • 小説すばる2018年7月号心淋し川、10月号閏仏、2019年1月号はじめましょ、4月号冬虫夏草、7月号明けぬ里、10,11月号灰の男、の6つの連作短編に加筆修正を加えて、2020年9月集英社から刊行。うらに心という字をあてるというところには、びっくりで、まずタイトルにインパクトありました。いずれも、読み応えのある連作で、面白かったです。6編目の灰の男には、前編のその後を補完する話もいくつか、出てきましたが、そこは、前編に持っていって欲しかったというか、いやいや、やはりこの位置が適切だ、連載のものはどうなっていたのかとか、考えて楽しみました。

  • 江戸、千駄木町の一角にある心町(うらまち)を舞台にした、連作短編六話。

    各話がリレーのようにリンクして、最終話「灰の男」に繋がる構成となっています。
    それぞれ決して明るい話ではなく、特に「冬虫夏草」はなかなかダークです。
    うまくいかない人生を、もがきながら生きていく心町の人々の心の機微が繊細に綴られていて、そのほろ苦さが読む側の心に染み入ってきますね。
    この町にある“心淋し川(うらさびしがわ)”と呼ばれる淀んだ川は、そんな人々の心中を象徴しているようです。
    因みに、個人的には「はじめましょ」が好きな話でした。

  • 江戸の下町のうらぶれた長屋に住む人々の人生を描いた作品。それぞれの事情を抱えながらも、人の優しさに最後は救われる様が心を打つ。生きていくのは大変なことも多いけど、そんなに捨てたもんじゃないという気持ちにさせられる。読後に、もっと人に優しくしようと思わせてくれた。

  • 直木賞作家で読んだ初めての作家さん。
    明るい情景はなくちょっと暗いイメージが多いが、読み終わった時になぜかほっとする連続短編集。
    人間の生きる強さが感じられました。

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞を受賞。15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『御師 弥五郎』『六花落々(りっかふるふる)』(以上祥伝社)、『猫の傀儡』『わかれ縁』『心淋し川』など多数。

「2020年 『銀杏手ならい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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