その扉をたたく音

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717419

作品紹介・あらすじ

本屋大賞受賞『そして、バトンは渡された』著者の新たな代表作!
音楽と人が生み出す、たしかな希望の物語。

29歳、無職。
ミュージシャンへの夢を捨てきれないまま、怠惰な日々を送っていた宮路は、ある日、利用者向けの余興に訪れた老人ホームで、神がかったサックスの演奏を耳にする。
音色の主は、ホームの介護士・渡部だった。「神様」に出会った興奮に突き動かされた宮路はホームに通い始め、やがて入居者とも親しくなっていく――。

人生の行き止まりで立ちすくんでいる青年と、人生の最終コーナーに差し掛かった大人たちが奏でる感動長編。

【著者略歴】
瀬尾まいこ
1974年大阪府生まれ。2001年「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、同作を表題作とする単行本でデビュー。05年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、08年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、13年咲くやこの花賞、19年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞。『君が夏を走らせる』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』など著者多数。

感想・レビュー・書評

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  • 『あなたは普段は何されてるんですか?』…という唐突な質問にあなたなら何と答えるでしょうか?

    仕事をしている、学校に行っている、そして無職だけど○○の道に進むための勉強をしている…。人によってその答えは様々でしょう。しかし、普通には誰もが明確に何らかの目的を、何らかの理由を持っているはずです。上記のような質問をされてもその目的や理由が明確であれば、その答えに窮することなどないはずです。

    さて、ここにそんな風に訊かれて『そうだな…』と答えに窮してしまった一人の男性が主人公となる物語があります。『だいたい家にいらっしゃるんですか?それともバイトとかですか?』と詰め寄られて、『ちょこちょこでかけたり、ギター弾いたり、作曲したりはしてるけど。バイトもしてないし、家にいる…かな』と語尾を濁すその男性。『それで、どうやって生活を?』と『不思議そうに首をひね』る質問者に『当然の疑問だ』と思う主人公。

    この作品は、『ばあさんたちにぼんくら呼ばわりされてもしかたがない』、『今自分がいる社会に働くことで関わっていかなきゃならない』とは思うものの自分の殻に閉じこもった日々を送る主人公の物語。そんな主人公が、殻の外へと繋がる扉を叩く音を聞いて『起きる時が来た』ことに気付く様を見る物語です。
    
    『いた、天才が。いや、ここまできたらもはや神だ』と、『目の前の男がサックスで奏でる音楽』に耳を澄ませるのは主人公の宮路(みやじ)。周囲を見渡すと『目の前に座る、じいさんやばあさんも涙ぐんでいる』という光景を目にして『当然だ』と思う宮路。そんな中『演奏を終えた神様は、サックスをテーブルの上に載せると』、『宮路さんのギターと歌を聴いて、利用者さんもみんな喜ばれてました』と頭を下げます。『嘘だ』、自分がギターの演奏をしている間は『じいさんもばあさんもしかめっ面をしているか、居眠りをしているか』だったと振り返る宮路に『また機会があればぜひいらしてください』と、『渡部』と名札をつけたその男性は言います。『君、すごいだろう?サックスだよ。プロ級だろ?いや、神だ』と言う宮路に謙遜する渡部。そして『あの音を、あの音楽を、もう一度聴きたい』と思う宮路は次の機会がないか尋ねます。『金曜はレクリエーションがある』ので、時間が余ったらまた自らの登場の機会があるかもと言う渡部。それに対し宮路は『わかった』と『うなずくと、老人ホーム「そよかぜ荘」を後にし』ます。『時々、今日みたいに老人ホームや病院にギターの弾き語りに行く』ものの音楽を仕事にしているわけではない宮路。『ギターを始めたのは高校一年生』、大学の卒業を迎えてもそのまま就職もせず『音楽で食べていく。そこまでの思い切りや、突き動かされるような情熱もな』く、『無職のまま七年が過ぎて』二十九歳になった宮路。かつての友人と会うと『自分が置いてきぼりになっていることに気づく』という今の宮路は、『市議会議員をしている親父』から毎月振り込まれる二十万円を頼りに生活を続けていました。『じっとしていても働くのと同じくらいのお金が毎月振り込まれ』、『ますます働くのがばからしくな』るという宮路。そして一週間後、再び『そよかぜ荘』を訪れた宮路は、『体が水を欲するくらいの勢いで、あの音を聴きたかった。サックスの響きに、心を揺らしたい』とはやる気持ちを押さえながら『コミュニティフロア』へと向かいます。『今日の演奏って、サックスですか?』と隣のじいさんに聞くも『いえ、手品ですけど』と言われ困惑する宮路でしたが、手品の残り時間で渡部が登場し念願のサックスを聴くことができました。しかし、『ずっと探し求めていた音』に思わず立ち上がってしまった宮路は『見えん!』という声と共に『後ろの席のばあさんに杖で殴られ』てしまいます。『本当にすみません』と渡部に事務室に連れて行かれ保冷剤を当ててもらう宮路。そして、図らずも渡部と色んな話をするなかで『普段は何をされてるんですか?』と訊かれた宮路は『正直に答えるなら、「何もしていない」が正解だ』と考えるもののはっきり答えることができません。そして、帰ろうとすると『おい、ぼんくら』、『ドラ息子はまたここに来るのかい?』と杖で殴ったばあさんに声をかけられる宮路。『とりあえず、ばあさんの様子見に来てやるか』と返す宮路に『私がぼんくらの様子を見てやるんだよ』と言うばあさん。そんな二人を見ながら『仲良くなってよかったですね。宮路さんと水木さん、気が合いそうですもんね』と『的外れなことを言』う渡部。そして、宮路が毎週老人ホームに水木を訪ね、渡部とも関わりを深めていくその先に『ずっと手にしたかったもの。きっと、それは音楽ではない』と感じる瞬間を見る物語が描かれていきます。

    中学駅伝を描いた瀬尾まいこさんの傑作、「あと少し、もう少し」のスピンオフ作品でもあるこの作品。「あと少し」で、主人公の一人でもあった太田君に光を当てる「君が夏を走らせる」というスピンオフ作品がすでに刊行されており、これは同作の二冊目のスピンオフとなります。…と偉そうに書いている私ですが、実はこの作品がスピンオフだと知ったのは読後であり、かつ「あと少し」読了から一年数ヶ月の月日が経っていたこともあってその内容が朧げで、本作に登場した渡部が「あと少し」の渡部君と同一人物だとは全く気がつきませんでした。しかし、それが全く支障にならないくらいに、本作は本作の中で全く違うテーマによる作品世界が描かれていきます。また、一般的にスピンオフ作品というと本編の余韻を楽しむ程度の位置付けの作品が多いと思いますが、この作品はその域を超えて単体でも十分満足感の得られる作品に仕上がっていると思います。ということで、本の紹介でスピンオフと書かれていることで手に取るのを躊躇される方がいるとしたら、それは一切気にすることなくこの作品単体で十分楽しめる作品です、ということをまずお伝えしたいと思います。

    そんなこの作品の主人公の宮路は、実家が資産家だったこともあり、『大学を卒業して無職のまま七年が過ぎていた』という日々を送っていました。『歌もギターもずば抜けてうまいわけではない』という自覚があり、『音楽で食べていく。そこまでの思い切りや、突き動かされるような情熱もない』という宮路。一方で三十歳という一つの区切りの年が迫り来る中、『いつまでも、今のような暮らしは続けていられない。それだけはわかっていた』という宮路。しかし、そんな宮路は社会と再び関わっていくための一歩がどうしても踏み出せずにいました。”就業、就学、職業訓練のいずれもしていない人”、いわゆる”ニート”とも呼ばれる人は直近の調査で87万人にも上るとされています。”病気や怪我のため”に働きたくても働けないという割合が高い一方で”急いで仕事につく必要がない”という割合も一定数に上ります。この作品の主人公である宮路は、実父から月二十万円の仕送りを受け続けるという環境の下、すっかりそのぬるま湯の生活に浸り『就きたい仕事もないうえにお金があるんじゃ、働こうという意欲はそうそう湧いてはくれな』いという状況にありました。『自分の目指すところも夢もぼんやりしてしまっている。今、俺は二十九歳』と社会から距離を置く今を生きる宮路。

    そんな宮路のことを『自分の殻に閉じこもっていたので、社会を知らないから成長もできず、結局大人にもなれていないんですよね。しかも、ぼんぼんなので、いまだに親から仕送りをもらいながら生活しているという。いいご身分ですね(笑)』と語る瀬尾さん。そんなある意味『いいご身分』に憧れる気持ちというのは、誰にでもあると思います。私も大学を卒業して○年。一介のサラリーマンとして今を生きていますが、会社を辞めたいと思う瞬間が今までに何度あったか、それはもう数えることなどできない位です。働かなくてよいなら働きたくなどない、そんな風に思う方は決して少なくないはずです。では、私たちはどうして働くのでしょうか?憲法第二十七条に勤労の義務が規定されているからでしょうか?生活の糧を得る必要があるからでしょうか?それとも、『普段は何をされてるんですか?』と訊かれた時に自信を持って返事ができるようにするためでしょうか?主人公の宮路は『音楽をやる』ために就職活動をしなかったという起点が今に繋がっています。そして、老人ホームに慰問に行くなどする日々を送っています。そんな日々の中で次第に社会との間に距離が生まれていくのを感じる宮路は、『今自分がいる社会に働くことで関わっていかなきゃならない』という意識を一方で持っています。しかし、社会と距離を置く毎日の中で『社会から外れることも平気になった』と社会から気持ちが離れていく宮路。そんな中、慰問先の老人ホームで働いている渡部や入居者の水木、本庄といった人々との関わりを通じてすっかり自分の殻の中に閉じこもっていた宮路に外の世界の音が聞こえるようになります。『ずっと手にしたかったもの。きっと、それは音楽ではない』という気づきの機会、そして気づきの瞬間の到来。

    『ひとりでいても人生は変わらないけど、誰かと関わることによって絶対に動き出す何かがあります』と語る瀬尾さんは『部屋に閉じこもっているときの宮路には実際何も起きなかったけど、関わる人が増えて、関わる時間が長く深くなったからこそ、素敵な何かが待っていた』と続けます。そう、私たちは働くということで社会と関わり、社会に影響を受け、そして社会に影響を与えあって生きていく生き物、人間です。自分の殻に閉じこもるのはある部分では快適な人生なのかもしれません。面倒な人間関係とも無縁に自分の生きたいように生きられる人生。しかし、社会との関わりなくしてはそこに何の変化も訪れることはありません。人と関わることは面倒です。しかし、その先には人と関わることでしか得られない幸せもきっと待っているのだと思います。

    『俺だけが真ん中にいた世界は、もう終わったんだ』と顔を上げる宮路。そんな宮路が、人が関わり合いを持つ社会というものの存在を意識し出す様を見るこの作品。そんな外の世界の素晴らしさを色んな『音』の中から知っていくこの作品。それは、『自分以外の人を愛することがどんなことなのか。自分以外の人と時間を共にすることが何をもたらすのか』という人と人との関わりが人生の中でどれほどに大きな意味を持つものかを教えてくれた物語でもありました。

    いつもながらに、ふわっと描かれる作品世界の中に、深い奥行きを感じさせてくれるこの作品。読後感が保証された瀬尾さんならではの優しい世界観に包まれた、人の心のぬくもりが感じられる作品でした。

    • HARUTOさん
      こんばんは。
      あと少し、もう少しの渡部君がもう一度登場するのでこの作品気になってましたが、老人ホームで働いているなんて思いませんでした。瀬尾...
      こんばんは。
      あと少し、もう少しの渡部君がもう一度登場するのでこの作品気になってましたが、老人ホームで働いているなんて思いませんでした。瀬尾さんの作品の優しい世界観って良いですよね。
      2021/07/28
    • さてさてさん
      HARUTOさん、こんにちは。
      いつもありがとうございます。
      はい、まさかの展開でした。でも、「あと少し、もう少し」の登場人物の名前をすっか...
      HARUTOさん、こんにちは。
      いつもありがとうございます。
      はい、まさかの展開でした。でも、「あと少し、もう少し」の登場人物の名前をすっかり忘れてしまっていた私は全く気づきませんでした。あの作品に続けて読めば違う感動があったかなという気もします。作品を超えて人が繋がっていくって面白いですよね。
      引き続きよろしくお願いします!
      2021/07/29
  • ミュージシャンを夢見る29歳の宮路。大学を出てから一度も働くこともなく、すっかり怠惰な生活に流され生きています。それがたまたま訪れた老人ホームで渡部のサックスに心振るわされたことから物語は動き始めます。
    とても読みやすく、温かなストーリーも相まってすいすい読み進めることができます。
    さて、私の場合、世の中に出てみるとビックリするくらい上には上がいて、自分の身のほどを知らざる得ませんでした。自分にできることはなんなのかとか。何者かになるんだとか。そんな日々を送っていました。多分一生が勉強なんだと思います。宇宙兄弟の言葉を借りるならさながら「自分の敵はだいたい自分です」といったところです。
    一方、能天気そうだけれども現状に薄々気付いている宮路がもどかしくなります。「無邪気な時間は終わった、九月になったら起こしてくれ」とのグリーンデイの歌が胸を打ちます。これがまたいい歌なんですよね。渡部やそよかぜ荘の老人たちが宮路を動かしていく。とてもさわやかな余韻が残る作品でした。

  • 久しぶりの瀬尾まいこさんです。

    29歳で無職の宮路は、老人ホーム「そよかぜ荘」で高一から始めたギターを弾きます。
    そこで、宮路は介護職員で25歳の渡部君が吹いたサックスに魅了されます。

    宮路は渡部君に「渡部君はこんなところでくすぶっているのがもったいない。一緒にバンドを組もう」と言い出します。

    けれど渡部君には全く相手にされず、宮路は「そよかぜ荘」のじいさんとばあさんの水木静江さんに「ぼんくら」「ぼんくら」と呼ばれるようになり、みんなの買い物をしてくるように言われます。

    どう考えても宮路はぼんくらです。29歳になって親から毎月20万の仕送りをもらい、ちゃんと仕事をしている人をひっぱりこんでバンドを組もうというのは常識がないとしか普通、思えないですよね。

    でも、ばあさんの水木さんはぼんくらと呼びつつも、宮路のいいところもちゃんと見てくれていたのが泣かせます。

    「当たり前のように年寄りに聞こえる音量と速度と距離で話せるやつがぼんくらなわけがない」
    「毎回へそ曲がりの私の心を射るものを買ってこられるやつが何も考えてないわけがない」

    宮路はこれからどう変わっていくのでしょう。

    • まことさん
      ほん3さん。

      そうです。宮路は自分だけならまだしも、ちゃんと働いていて、サックスの上手い渡部君にまで、「そんなところでくすぶっていない...
      ほん3さん。

      そうです。宮路は自分だけならまだしも、ちゃんと働いていて、サックスの上手い渡部君にまで、「そんなところでくすぶっていないで、バンドを組もう」なんて、いいかげんにしろ!ですよね。
      それだけ、渡部君のサックスが素敵だったんですけど、余計なお世話です。
      水木のばあさんの言葉は本当に泣かされました。
      2022/06/22
  • 『あと少し、もう少し』の渡部君が、25歳になって介護士になっていました。あの偏屈で理屈っぽい渡部君はどこへ行ったのか?チャッチャと仕事をこなし、みんなからの信頼も厚い、心優しい介護士になっていました。
    でも、この物語の主人公は渡部君ではないのです。
    渡部君が働く老人ホームに、ボランティアでギターを演奏しに来た宮路が主人公です。
    29歳になってもまだ一度も仕事をしたことがない宮路は、老人ホームで聴いた渡部君のサックスに心を打たれ老人ホームに通いつめる。俺のギターでは全然ダメなのに、渡部君のサックスはなぜあんなにも人の心を惹きつけるのか?と。
    通いつめているうちに渡部君と友だちになり、老人たちとも心を通い合わせていく。(おじいちゃんおばあちゃんたちからは「ぼんくら」と呼ばれている笑)

    自分に酔っている時ではなく、他人の心に寄り添えた時、心を打つ音楽を奏でることができると気付いた宮路。
    「完全に目が覚めた気がした。俺だけが真ん中にいた世界は、もう終わったんだ。」

    渡部君と一緒に老人ホームで披露する音楽の練習をしながら、「どうしようもなくうれしい。こんな日が一日でも長く続けばいい」と思う宮路。
    『あと少し、もう少し』この時間が続くといい、と思える時間を過ごせたのはとても幸せなこと。だからいつまでもこの時間の中にいてはいけないんだ、進んで行くんだ。
    これが『あと少し、もう少し』『君が夏を走らせる』『その扉をたたく音』の共通したテーマだと思いました。
    あの駅伝のメンバー、これからも別の物語で描いてくれるんじゃないかなぁと期待です。

  • 瀬尾さんらしい心温まる内容で良かったのだが、主人公の二人が変わり者過ぎて入り込め無かった。
    親からの仕送りだけで働かない宮路は涙脆くて感情移入が激しい。方や老人ホームで働く渡部は真面目だが淡々とし過ぎている。ぼんくらと呼ばれながらも毎週ホームに通う宮路。宮地のラブコールを微妙に外す渡部。二人は老人ホームで演奏することになるのだが、噛み合って無さそうで噛み合うと言う不思議なコンビ。
    老人ホームなので、関わる人びとの病気の進行があったり、辛い別れがあったりするが、最後は明るい希望も出てくるので、心が軽くなる。

  • 29才にもなって無職の資産家の息子。
    父親は、世間体を考え家から追い出す。
    なのに、毎月20万の仕送り。
    その生活がもう、7年も続いている。
    父親だって、本当は、心配でたまらないのではないだろうか。

    そんな主人公、宮路は暇を持て余し、
    老人ホームへとギター演奏へ行ったことをきっかけに、じいさん、ばあさんと
    親しくなる。
    ここでは、おじいさん、おばあさんでは
    なく、じいさんばあさんと呼ぶ方が、
    ふさわしい。
    ばあさんに、買い物を頼まれたり、
    じいさんに、ウクレレを教えたりと
    宮路は、ホームへ行くと言うよりも
    通うことが楽しみになっていく。
    介護士の渡部君とも、仲良くなれた。
    私は、宮路はこのままホームで働くようになるのではと思ったが、その為には
    介護士の資格が必要だということに
    気付いた。

    渡部君との演奏会を成功させたその日、
    1番仲良くなったばあさんは、「もう
    ここへは来るな!」と言い出す。
    ばあさんは、入院すると言う。宮路は、
    自分のばあさんが入院した時、そのまま
    病院で亡くなってしまったことを思い
    出す。「入院なんかダメだ」「ホームで元気で暮らせ!」と言う。だがそれは無理というもの。ばあさんは、最後に宮路へ
    手紙を渡した。いつも口のへらない
    ばあさんの手紙は、優しい言葉で綴られていた。
    「ぼんくら、最高だったよ、ありがとう」と。

    その後宮路は心を入れ替え、就活を始める。~ぼんくら~と言われないように。
    家からの仕送りも、断りを入れた。・・・・まだ仕事が決まっていないのに、断って
    大丈夫なのかと思う。

    口のへらない、じいさん、ばあさんは
    いい演者たちだった。
    優しい表情も、思い浮かべることが
    できる。きっと、素敵な年輪を重ねて
    きた、じいさん、ばあさん達だったのだと思う。
    後は、宮路の就職先が早く決まることを
    祈るだけだ。


    2021、5、2 読了

    • ポプラ並木さん
      ゆうママさん、瀬尾さんは大好きな作家さん。この本も読みたくなりました。宮路は優しい性格なのでこれから一気に軌道に乗ると思います。じいさん、ば...
      ゆうママさん、瀬尾さんは大好きな作家さん。この本も読みたくなりました。宮路は優しい性格なのでこれから一気に軌道に乗ると思います。じいさん、ばあさんに恩返しするためにね。
      2021/05/09
  • よかった、本当に良かった。

    宮路は、大学を出て7年、コンビニ、ファミレス、ファストフードなどのアルバイトの面接に行ってもすべて不合格だった。甘やかされて育ったうすとぼけた空気を纏った宮路を雇ってくれるところはない。ただ、父が買ってくれたギターを持って、ミュージシャンへの夢を捨てきれず怠惰な日々を送る。

    その宮路が、ボランティアで演奏に訪れた老人ホームで、神がかったサックスの音を耳にする。吹いていたのは介護士の渡部だった。渡部は、宮路とまったく反対の道を歩んできた。宮路は、渡部にひかれてホームに通い始めた。そして宮路は、ホームの人達と心をつうじあって、自分の足で歩む日が……。

    瀬尾まいこさんの本は、「天国はまだ遠く」(大活字本)についで2冊目です。

    【読後】
    心がどきどきしたり、沈んだり、ときめいたりと、こんなに心が動く本は・・・。よかった、本当に良かった。宮路、動き出すのを待っていたよ。これからの君を見るのが楽しみだ。
    ただ、字が小さいので、20ページ読んでは休みをくり返して読み終った。

    「図書館」
    その扉をたたく音《単行本》
    2021.02発行。字の大きさは…字が小さくて読めない大きさ。
    2024.01.23~24読了。★★★★★
    図書館から借りてくる2024.01.17

  • 大学を出てすでに7年も経つけど未だに定職も持たずに好きな音楽の道でいつか我が未来が拓けると思いながら、親からの仕送りで生活している宮路くんの物語です。

    そんな彼がたまたま出演したとある介護施設で胸に刺さるサックス演奏をしている介護士に出逢い、そこから徐々に彼の言動に変化が出始めるシナリオです。

    素材もなかなか良いし舞台も面白い設定だったけれど、やっぱり調理が難しかったようですね!

    登場人物を脇も含めてちょっと極端に描き過ぎた感じがするので、いつもの瀬尾まいこ路線とは少しズレた感のある作品でありました。

  • 溢れ出す一冊。

    物語の扉が開けばそこには笑いと涙、優しさ、まるで三重奏のようなハーモニーが溢れ出す。

    これが絶妙なタッチで心を、そして涙腺までも刺激する。 
    それこそ何度も涙がこぼれないように上を向いたほど。

    人生の扉を静かに閉める人とまだまだ幾つもの扉が待っている人との触れ合いもまた心を優しく揺らす。

    いくつもの無限の扉を心に持ち続け何回でも開いてみる大切さをそっと教えられた気分。

    扉をノックしてくれた人との出会い、思い出は宝物。

    それを胸にまた次の新しい扉が開かれていく…そんな想いが溢れた物語の扉をそっと閉じた。

  • 読みやすかったです。一気に読んでしまいました。
    最後は感動。
    「あと少し、もう少し」での渡部君は変わったヤツだった印象ですが、好青年になってて嬉しかったです。
    人生に対して立ちすくんでいた主人公ぼんくらへの入所者からの手紙には胸が熱くなり、感動しました。
    最後には、ぼんくらも自らの自立を決意しました。頑張れ!ぼんくら!

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著者プロフィール

1974年大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒業。2001年『卵の緒』で「坊っちゃん文学賞大賞」を受賞。翌年、単行本『卵の緒』で作家デビューする。05年『幸福な食卓』で「吉川英治文学新人賞」、08年『戸村飯店 青春100連発』で「坪田譲治文学賞」、19年『そして、バトンは渡された』で「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『あと少し、もう少し』『春、戻る』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『その扉をたたく音』『夏の体温』等がある。

瀬尾まいこの作品

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