- Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087718010
作品紹介・あらすじ
「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。
ひとつの都市が現われ、そして消えた。
日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。
【著者紹介】
小川哲(おがわ・さとし)
1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年に『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。『ゲームの王国』(2017年)が第三八回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞。『嘘と正典』(2019年)で第162回直木三十五賞候補となる。
感想・レビュー・書評
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激動時代の価値観と恨み辛みが交錯し… 現代にも通じる建国と戦争、人類最大の難問の答えは #地図と拳
■きっと読みたくなるレビュー
20世紀の大日本帝国時代、満州の架空都市をベースに語られる群像劇で、読み応え抜群の歴史冒険&空想小説。
日本軍と満州に住む志那人が血で血を洗う戦いをはじめ、日本と満州帝国の繁栄のため妄信的かつ破滅的に突き進む日本軍が強烈に描かれています。重厚感たっぷりで単行本600ページ以上もある作品ですが比較的読みやすい。
恐ろしいほどの取材力と筆力で書き記されており、直木賞受賞も納得の傑作でした。
〇戦争がもたらす影響とは
善悪も強弱も理屈も何もかも関係なく、ただ勝たねば滅びるという強迫観念。どんなことにも勝利が最優先で、すべてのことに対して勝利で理屈が通ってしまう悲しさ。
子どもたちすらも笑顔がひとつもなく、生活のすべてが恐怖と欺瞞しかない。そりゃ何百年も恨むまれることになる。つくづく人間の業と卑しさに反吐が出ました。
戦闘描写も迫力と凄惨さがすごく、そして只々、憐れでならない。
机上での考え抜かれた作戦や未来への希望のなど、決して戦場には届かない。たとえどんなに優秀な頭脳や未来をひらける能力がある人材であっても、突撃命令ひとつで無残に死んでいく。
人々の夢や希望をすべて食い尽くしていく戦争とは、いったい何なのか。
本作で綴られた物語や登場人物はフィクションですが、遠からず事実に基づいた時代小説。日本人として胸に刻んでおきたいです。
〇国家を創造するには
人々は家をたて、道路を作り、街をつくっていく。
住んでいる人々を率いる先導者がいて街はひとつになり、さらに大きく国家として繫栄していく。そこには未来が創造され、人々は将来への明るい見通しが開けていくのでしょう。
至極当たり前のことなんですが、それがどんなにも難しいことか。
目先の利益を追いかけているようではもちろん無理で、一見正しい理屈や計算であっても決して実らない。みんなの願いと想いがひとつになってこそ、はじめて動き出すのでしょう。
緊張が高まっている現代の世界情勢を見ると、胸が締め付けられる思いでいっぱいになりました。
■きっと共感できる書評
私はかつて地図を作る仕事に従事していることがありました。
新しい道路や建物を調べたり、現地の行政機関に取材したり、実際に現場を見に行ったりしてたんですよ。でも当時の私は、地図は単なる移動手段の情報としか考えていませんでしたね。
時には同僚たちと、ここに島を作ったら面白いねーとか、ここに俺の家つくっちゃおうかな、などと冗談を言っていたこともあります。
しかし本作を読んでみて、私はなんて幸せな時代に生きていてるんだろうと感慨深くなりました。
過去のたくさんの人々のおかげで、今私は幸せに生きている。自分も未来の人々に貢献できる何かを残してあげたい。そんな大切なことを思わせてくれる、素晴らしい作品でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読む日を考えるほどの久々の長編。
あまりの分厚さに躊躇したが、読み始めると飽きさせない。
日露戦争前夜から満州国の消滅、日本の敗戦までを描いている。
戦争色よりも地図に夢を託す方が強かったように思えたのだが、時代を堪能できるという面もある。
中盤から孫悟空が現れたり…とこちらも一風変わった見どころかもしれない。
不毛な土地で繰り広げられる殺戮。
戦争ほど全てを奪うものはないのだが、繰り返されるのは我がものにしようとするからなのか…。
国家とは、形のないもので地図が記されたとき、形となって現れる。
地図も建築も時間を保存する。時間を繋ぎとめる。
建築の価値は、存在することに意味がある。
このことばに集約されるのかと感じた。
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直木賞ノミネート作品が発表されたとき、図書館に予約を入れたので早く順番がまわってきました
借りてみてビックリΣ(゚Д゚)
分厚い!!
600ページ超え!w
さぁ、気合を入れて読んでいこうー(^o^)/
ひとつの都市が現れ、そして消えた・・・
日露戦争前夜から第二次大戦まで、満州・奉天の東にある名もない都市で繰り広げられる知識と殺戮
圧倒的スケールで描かれた架空の都市と男たちの運命の物語
何だか凄そうー((o(´∀`)o))ワクワク
なのに、何かおかしい…(・・?
あまりワクワクしないぞ…
あれ、ページをめくる手がとまってしまったぞ…w
こんなときは気分転換に他の本を読んでみよー(^^)
みなさんと語ってみたり、ちょっと宇宙へ言ってみたり、巨人に会ってみたり…
よし!気分転換完了!
続きへε≡≡ヘ( ´Д`)ノ
ん〜、何故だがやっぱり引き込まれない(;´д`)トホホ…
けど、直木賞受賞作だし最後まで読みました!
私の評価は気にしないで興味がある方はぜひ読んでみてくださいね!-
土瓶師匠、敢闘賞ありがとうございます!
オラ、頑張って読んだよ〜
しかし、ほんとーに長かったです…(;^ω^)
土瓶師匠、敢闘賞ありがとうございます!
オラ、頑張って読んだよ〜
しかし、ほんとーに長かったです…(;^ω^)
2023/02/28 -
2023/03/07
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2023/03/07
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実に壮大な作品でした。
日露戦争から第二次世界大戦までの満州の小さな地域を舞台に繰り広げられる存在しない島が描かれた地図を巡る物語で、当時の歴史を史実とフィクションで掛け合わせていって、とても面白かったです。
戦争モノはあまり嫌いなのですが、本作は、確かに戦争モノ特有の戦地の描写とか、グロさもあったの
ですが、実際に現実で起きたことを包み隠さず上手く作品に表現することで、よりリアルに当時のことを勉強しないとなと考えさせられましたし、満州というかつてあった国をもう一度インスパイアさせることもできました。「同志少女よ、敵を撃て」を読んだときに感じた歴史の壮大さをあらためて感じました。第168回直木賞の候補にもなっている本作は、著者の歴史に対する強い思いを感じれる作品だと感じました。 -
満洲は奉天の東にある架空の村・李家鎮(リージャジェン)――炭鉱開発が進み後に近代都市・仙桃城に発展した――を舞台に、日露戦争から第二次世界大戦までの激動の半世紀(日露戦争、義和団事件、満洲事変~日中戦争~第二次世界大戦、日本敗戦~引き揚げまで)を描いた歴史空想小説。
タイトルの「地図と拳」は、国家とは地図に表された領土(と領土に染み付いた歴史)であり、その領土を巡る争い(拳)が絶えない、ということを意味しているらしい。
個性溢れる人物たちのエピソード盛り沢山で、主人公と呼べるほどのメインキャラはいない。現実にはあり得ないファンタジー要素もチラホラ。特筆すべき登場人物は、元測量士/李家鎮の住人をあまねく救済しようとするロシア人神父 クラスニコフ、千里眼で弾丸も跳ね返す李家鎮の有力者 孫悟空(楊日綱)、元通訳/満鉄で戦争構造研究所を主催する合理主義の切れ者 細川、時間感覚に優れ気温や湿度も測ることができる建築・都市開発担当技術将校 須野明夫、孫悟空を憎む末娘/抗日ゲリラの有力者 孫丞琳など。
雑多なエピソードをちりばめながらも、全体として大きな歴史の流れを感じることができるよう構成されている。日本が日中戦争の泥沼にはまり、敗戦にまで至る経緯が抗えない必然として描かれている。大河ドラマを見終わったような読後感だった。
測量や地図、土木建築へのこだわりが強かった。「国家とはすなわち地図である」、「建築とは時間です。建築は人間の過去を担保します」などなど。著者は、満洲という土地に宿る魂や土地に刻まれた記憶を描き出したかったのかな?
ファンタジー要素が途半端だったな。入れるならもっと大胆に入れて欲しかった。-
こんばんは。
初めてコメントさせていただきます。
本の厚みに怯んで、読むのを悩んでいましたが、感想を読ませていただいて、俄然読んでみたくなり...こんばんは。
初めてコメントさせていただきます。
本の厚みに怯んで、読むのを悩んでいましたが、感想を読ませていただいて、俄然読んでみたくなりました。
いつも素敵なレビュー、楽しみに読ませていただいております。2023/02/25 -
コメントありがとございます。また、いつも拙いレビューにいいねしていただき、感謝です。
本作、確かに長いですね。買っていたら、なかなか読み始...コメントありがとございます。また、いつも拙いレビューにいいねしていただき、感謝です。
本作、確かに長いですね。買っていたら、なかなか読み始められなかったかもしれません。大分前に図書館に予約してやっと順番が回ってきたので、しかも直木賞を受賞したこともあって、期限内に読んでキチンと返却しなきゃ、と頑張りました(笑)。2023/02/25 -
確かに!図書館ならば、頑張って読むかもしれません。
いいアドバイスをありがとうございました♪確かに!図書館ならば、頑張って読むかもしれません。
いいアドバイスをありがとうございました♪2023/02/25
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一八九九年の夏、南下を続ける帝政ロシア軍の狙いと開戦の可能性を調査せよ、という参謀本部の命を受け、高木少尉は松花江を船でハルビンに向かっていた。茶商人に化けて船に乗ったはいいが、貨物船の船室は荷物で塞がれ、乗客で溢れた甲板では何もかもが腐った。腐った物は船から松花江に捨てるのが元時代からの習慣だった。一人の男が死体を投げ捨て、「こいつは燃えない土だ」と呟いた。高木は「どういうことだ?」と尋ねた。
男は「土には三種類ある。一番偉いのが『作物が育つ土』で、二番目が『燃える土』。どうにも使い道のないのが『燃えない土』だ。『燃える土』は作物を腐らせるが、凍えたときに暖をとれる。だが、『燃えない土』はどんな用途にも使えない。死体も同じことだ」と言った。通訳の細川が男の出身地を問うと「奉天の東にある李家鎮(リージャジェン)」と答えた。土が燃えるのは石炭が混じっているからだ。これは使える、と細川は思った。
李家鎮は何もない寒村だったが、その地に居を構える李大綱という男が、冬は暖かく夏は涼しく、アカシアの並木がある美しい土地だ、という噂を流した。相次ぐ戦乱で家を失くし、職を奪われた人々が桃源郷の夢を追い、はるばる来てみると、夏は暑く冬は寒く、アカシアなどどこにもない。怒る人々に、李大綱は、誰がそんな嘘を流したと憤って見せ、住む気があるなら、空いている家に住めばいい、土地ならある、と応じた。帰る家のない人々は李大綱から金を借りて家を修繕し、それぞれ仕事をはじめ、李家鎮は体裁を整えていった。
満州東北部にある架空の村を舞台にした歴史小説である。史実を押さえながらも、正史には登場することのない人物を何人も創り出し、日本が中国、ロシア、そして米英との戦争に非可逆的に引きずり込まれていく時代を描いている。人によって読み方は色々だろうが、こういう読みはどうだろうか。当時の日本は、戦争に駆り立てられていたように見えるが、果たしてそうか? 日本の戦争遂行能力を正確に把握していた者は一人もいなかったのか。もしいたとしたら、その結果はどうなっていただろうか、というものだ。
大陸のはずれで清朝の支配の及び難い満州という土地は、ロシアと戦うことになった場合、日本にとって是非とも押さえておきたい土地であった。また、日露戦争で多くの戦死者を出した手前、放棄もできない。リットン調査団が何と言おうが、むざむざ利権を諦めることは不可能だ。そこで、満州族が自ら支配する独立国という建前を作り、五族協和、王道楽土の美辞麗句で飾り立てた。満州国建国は列強を意識した苦肉の策だった。
「五族協和」がどこまで本気だったかは知る由もない。ただ、歴史年表を追うだけで、その当時の日本の軍国主義化にはすさまじいものがあることがわかる。満州国建国に携わった人々の胸にどれほど美しい夢があったのかは知らないが、軍部の力によってそれはどんどんねじまげられていく。その有様を一つのモデルとして描いて見せるのが、李家鎮という街の興亡である。
魯迅の言葉に「思うに希望とは、もともとあるものともいえぬし、ないものともいえない。それは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ(『故郷』)」というものがある。「地上に道がない」というのは、冒頭のエピソードでも分かるように、当時の中国では水運が中心だったからだ。
もともとはただの平原であったものを、一人の説話人がかたった話が人々の頭に理想郷を作り上げた。絵空事を信じてやってきた者は無理にでも芝居を続けるよりほかはない。そうして幾人もの人の思いを寄せ集めて出来上がったのが李家鎮。後の仙桃城(シェンタオチェン)である。ロシアにとっては不凍港、旅順に至る要衝、日本にとっては戦争を続けるための石炭という資源の宝庫。仙桃城は、人々の欲望によって築き上げられた架空の都邑だ。
細川は彼の目的にかなう人材を各方面からスカウトしてくる。彼の言い分が通るのは、 参謀本部が後ろで動いているからだろう。満鉄からの依頼で、存在が不確かな「青龍島」の存否を明らかにする仕事についていた須野も細川にスカウトされた一人。須野は細川の紹介で満州で戦死した高木大尉の妻と結婚し、明男という子を授かる。高木の遺児である正男と共に、この親子は日本の勝利の可能性を探ろうと悪戦苦闘する細川の手駒となって働く。
表題の「地図」とは国家を、「拳」は戦争を意味する。この物語は現実には存在しない「青龍島」が、なぜ地図に書き込まれることになったかという謎を追うミステリ風の副主題を持っている。「画家の妻の島」の挿話をはじめとする、地図に関する蘊蓄も愉しい。細川の徹底したリアリズムに対し、須野のロマンティシズムがともすれば暗くなりがちな話に救いを与えている。幼少時より数字にばかり固執する明男が、母の心配をよそに順調に成長し、建築家になるという教養小説的側面も併せ持つ。
登場人物の大半が男性であり、恋愛もなければ房事もない、近頃めずらしいさばさばした小説だ。戦争に材をとりながらも、威張り散らす軍人は脇に追いやられ、主流は知的かつ怜悧な人物で占められているのが読んでいて気持ちがいい。しかし、議論を重ね、言葉を尽くして、日本に戦争遂行能力がないことを解き明かしても、戦争は阻止できない。「問答無用」は日本の病理なのか、と暗澹とした思いに襲われる。それどころか、よくよく見れば、この国は以前より愚昧さを増しているようにさえ見える。せめて、虚構の中だけでも論理的整合性を味わいたい、そんな人にお勧めする。 -
辞書のような厚さ、これを読んだらきっとフルマラソン並の達成感があるはずと思って読み進める。
史実の中に、実在の人物と架空の人物をおりまぜながら進んでいくストーリー、膨大な量の資料を読み込んで練り上げられたんだろうけど、只々圧巻。本も内容も骨太な作品、時代に逆行してるのに、読ませてしまうのが凄い。 -
すごい厚さだ。
1899年から1955年にかけての満州地域の架空の村を舞台に、日本の歩んだ歴史、何がどうしてどうなっていったのかを、じっくりと読むことが出来た。
地図を研究する人、都市づくりに携わる人、憲兵、抗日組織で活動する中国人など、複数の視点から構成されていて、戦闘シーンや軍人の話がメインではない。読み応えがあった。
国家とは地図である。地図は歴史を語り、地図を変更するために国家は拳を振るう。つまり戦争だ。
地図と拳の両面から未来を考えるというのは面白いなと思った。
歴史を知ることで先を予測していく。それが出来るのに、実際には過ちを回避できないことがもどかしい。
損切り、とは分かりやすい表現だと思う。どうしても元を取りたくなるものだ。そして事態は悪化してしまう。
私は、知らない時代や環境下での考え方を、自分の常識だけで判断したくないとは思っているのだけど、憲兵の視点はなかなか不快だ。
何かを盲目的に崇拝して全ての判断基準とすることが、私にはどうにも気持ち悪い。だから、憲兵の虐殺に関する言い分には吐き気がした。
「真の犠牲的精神を持った修羅」に、「養分」だなんて。
当時の日本の思想教育がどうであろうと、とても受け入れられない。ただ、そこに不快感を確かめられてよかったような気もしている。
冷静に日本がしたことを見つめて、昔のことでしょ、今そんなのあり得ない、なんて思わずに、そんなことをしないという選択をし続けなければならないと思った。 -
「君のクイズ」で頭のいい作者だなぁと思っていましたが、さすがでしたね。読み応えのある一冊でした。
満州事変という出来事しか知らない歴史嫌いなのですが、満州国を舞台とした満州民族、漢民族、日本人、ロシア人など様々な人々の戦争中の想いが描かれていて面白かったです。
一章ごとに違う人物に焦点が当てられながら物語が進んでいくので、自分で登場人物を他の紙に書きながら読みました。私のような歴史嫌いさんはまず登場人物の名前が読めない笑 日本人以外は毎回ルビ打ってくれって感じでしたので、人物相関図を書いておくと便利でしたし、やはり日本人に焦点が当てられている章は読みやすかったです。
購入する時に躊躇するほどの分厚さでしたが、一章ごとが短いので、コツコツと読んでいくうちに最終章へ…とあっという間にでした。
著者プロフィール
小川哲の作品





