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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784087718089
作品紹介・あらすじ
「だって人は誰でも、失敗をする生きものですものね。だから役者さんには身代わりが必要なの。私みたいな」
金属加工工場の片隅、工具箱の上でペンチやスパナたちが演じるバレエ「ラ・シルフィード」。
交通事故の保険金で帝国劇場の「レ・ミゼラブル」全公演に通い始めた私が出会った、劇場に暮らす「失敗係」の彼女。
お金持ちの老人が自分のためだけに屋敷の奥に建てた小さな劇場で、装飾用の役者として生活することになった私。
演じること、観ること、観られること。ステージの彼方と此方で生まれる特別な関係性を描き出す、極上の短編集。
■著者略歴
小川洋子(おがわ・ようこ)
1962年岡山市生れ。早稲田大学第一文学部卒。88年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞と本屋大賞、同年『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞を受賞。06年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞受賞。07年フランス芸術文化勲章シュバリエ受章。13年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。20年『小箱』で野間文芸賞を受賞。21年紫綬褒章受章。『小箱』『約束された移動』『遠慮深いうたた寝』ほか著書多数。
AIがまとめたこの本の要点
この本を表す言葉
みんなの感想まとめ
演じることや観ることの関係性をテーマにした短編集は、舞台の裏側に潜む人々の物語を繊細に描き出しています。ページをめくるたびに、小川洋子の独特な世界観が心に響き、日常の中に隠れたささやかな幸せや哀しみが...
感想・レビュー・書評
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あなたは、”装飾用の役者として生活”してくださいと言われたらどうするでしょうか?
この世には数多の職業があります。厚生労働省による2022年時点の職業分類数は18,725種類にもなるようです。私たちは限られた人の一生の時間の中にそれら全てを体験することはできませんし、そもそもその全てを知ることもできないと思います。
そんな職業の中には時代が違えば極めて突飛なものもあるでしょう。例えば宇宙飛行士という職業がありますが、100年遡れば、ホラを吹いているとしか認識されないものでもあると思います。一方で、時代が変わっても、えっ?という思いを抱くものもあると思います。そもそもそれは単に犯罪の匂いのするアブナイ話ではないの?そんな思いを抱くものもあるかもしれません。
さてここに、”装飾用の役者として生活”することを課せられた一人の女性が主人公となる物語があります。怪しい匂いがプンプン漂うこの作品。他にも怪しさ満点の短編が詰め込まれたこの作品。そしてそれは、”小川洋子ワールド”全開に繰り広げられる摩訶不思議な世界に魅せられる物語です。
『今どきの幼稚園はどうしてこんなにややこしいのかしら。こまごまと寸法やらデザインやらに決まりがあるらしいの』と言う『金属加工工場の社長の奥さん』に『「入園式までに用意するもの」と書かれたプリントを広げて見せ』られたのは主人公の縫い子。『父子家庭の従業員がたいそう困っているから助けてほしい』と言う奥さんは『私がやってあげればいいんだけど、不器用で駄目なのよ。せっかくお向かいが縫製の専門なんだから、慣れた人にお願いするのがいいと思って。もちろん、あとで材料費は請求してね』と続けます。『駅に続く大通りの一本北寄りの筋に、向かい合わせで建ってい』る『金属加工工場と縫製工場』。縫い子は『半年ほど前、もっと大きな町にある家電メーカーの検品係を辞め、縫製工場に再就職してようやく仕事に慣れてきたところ』です。しかし、『工業用ミシンは手芸には不向き』という中に、『洋裁学校の友人に卓上ミシンを貸してもらい、日曜日を丸一日使って必要な品をこしらえた』縫い子。そのことが『少女と初めてつながりを持』つ機会となりました。『少女の好みを聞き忘れたので、手芸用品店で少し迷ってから、小花をくわえた小鳥のアップリケを選び、全部の袋に縫い付けた』縫い子。『やがて幼稚園を卒園し、小学校へ上がる頃になると、少女は金属加工工場の物置で父親の仕事が終わるのを待つようにな』ります。一方で『午後の休憩時間』、『作業場の裏口から外へ出て、一人で過ごすのが常』という縫い子は『少女』と『視線を合わせ、路地をはさんでお互いにぎこちなく、会釈とも目配せともつかない挨拶を送』るようになります。『縄跳びが上手だった』という『少女』を『丸椅子に座ってただぼんやりと』眺める縫い子。そして、『終業のベルが鳴ると、少女の父親は作業服も着替えないまま一番に工場から出てき』ました。『いかにも金属を加工するのにふさわしいと思える、たくましい体つきの父親』と『手をつないで家へと帰る』『少女』を見る縫い子は『ランドセルの脇にぶら下がる上履き入れが、以前自分が縫ったものだと』気づきます。『チェック模様は色あせたものの、白い小花をくわえた、赤いくちばしと水色の羽を持つアップリケの小鳥は、まだほつれもせず袋の真ん中に留まっていた』という『上履き入れ』を見る縫い子。
場面は変わり、『あなた、バレエに興味ある?』と『金属加工工場の社長の奥さんから、思いがけない申し出』をうけた縫い子。『お客さんから招待券をもらったんだけど、あいにく…』と話す奥さんは『例のお嬢ちゃんと一緒にバレエへ行ったらどうかと思ったわけ』と続けると『えっと、題名は何だったかしら…』と『切符を覗き込』みます。『あっ、そうそう。「ラ・シルフィード」。「ラ・シルフィード」よ』と言う奥さん。
再度場面は変わり、『町の文化会館はお城の近くにあった』、と『少女』を連れてバレエの会場へとやってきた縫い子は、『退屈した少女がじっと座っていられなくなった時』のことを考えます。『しかし実際、幕が上がったあと、半分近くうとうとしていたのは縫い子』の方でした。『瞬きするのさえ惜しいといった様子で舞台に見入っている』『少女』に気づくことなく眠ってしまった縫い子。バレエの後、少女は『ラ・シルフィードさま』と始まる手紙を書くようになります。そんな『少女』と縫い子のそれからが描かれていきます…という最初の短編〈指紋のついた羽〉。”小川洋子ワールド”に一気に連れていってくれる好編でした。
“舞台という、異界。舞台という、奇跡。演じること、観ること、観られること。ステージの此方と彼方で生まれる特別な関係を描く、極上の短編集”と本の帯に記されるこの作品。まさしく”小川洋子ワールド”全開と言って良い2022年9月刊行の小川洋子さんの短編集です。8つの短編から構成されたこの作品ですが、元々は月刊文芸誌「すばる」の2020年12月号から2022年2月号に掲載された作品を短編集として一冊にまとめたものとなっています。作品間に繋がりはありませんが、上記した通り収録されているのは”小川洋子ワールド”全開といった面持ちの短編ばかりです。
では、そんな”小川洋子ワールド”を見てみたいと思います。まずは、モノにこだわる描写です。この作品の最初の短編〈指紋のついた羽〉はこんな一文から始まります。
『鉄粉や金属の削り屑や機械油の滴が散らばる地面に、少女は箱を一つ、逆さまにして置く』。
『鉄粉や金属の削り屑…』といった言葉から物語を開始すること自体、小川さんならではです。そこに組み合わされるのが『少女』ですからこの落差に不穏な雰囲気がぷんぷん伝わってきます。そして、モノにこだわる小川さんの鉄板として、モノの単純羅列という表現がこの作品にも登場します。
『縄跳び』が好きな『少女』ですが、それに〈飽きてもまだ時間が余る時』、『地面に座り込』んでこんなものと遊びます。
『土に埋もれたナットや、のびたバネや、壊れたペンチや、納品書の切れ端や、その他雑多なもろもろを、工場から漏れる明かりの下に拾い集めて遊んだ』。
対象が『少女』と考えるとなんともシュールな光景が浮かび上がりますが、小川さんの作品と考えるとたまらなく絵になる光景が浮かび上がってくるのが不思議なところです。さらに、もっとモノの羅列にこだわる箇所も登場します。
『勘定科目、仮受消費税、仮払消費税、借方科目、貸方科目、品名、摘要、数量、単価、税込合計金額…』。
これは強烈です。〈鍾乳洞の恋〉という短編の主人公の室長、『定年を再来年に控え』た室長が得意とする『伝票』について、そこに記された項目を単純列挙したものですが、これは簿記の本ではなくあくまで小説です。こんな項目を列挙することに何の意味があるのか?とも思いますが、これまた小川さんの作品だと思うと、とても愛おしくなってもしまいますから摩訶不思議です。
そんなこの作品は、書名に「掌に眠る舞台」とある通り、どこか観られることを強く意識した作品が魅力的です。それが突き抜けたのが〈装飾用の役者〉ですが、それを含めて3つの短編を見てみましょう。
・〈鍾乳洞の恋〉: 『首が痛かった。春の終わり頃からもうずっと痛いままだった』というのは主人公の室長。『左下奥歯のブリッジを取り換えた』ことが『はじまり』という室長は『色は薄茶け、歯茎はぶよぶよに膨らみ…』という『四十年近く放置していたブリッジ』を新しくしました。しかし、『いつまでたっても新しい素材と形に慣れな』い日々を送る中、『始終、舌の先で新しいブリッジを触るようになった』室長は『ブリッジをまさぐりたいという欲求から逃れ』られなくなっていきます。そんなある日『いつものとおり無意識にブリッジを触っていた舌先に、奇妙な感触』を覚えます。『ふやけた極細の糸が一筋、舌先をかすめていったかのよう』という中に『洗面所の鏡』を覗いた室長は、『何か白いものがほんの一ミリほどはみ出してい』るのを見つけます。
・〈花柄さん〉: 『104号室の女が寝室で一人亡くなっているのを発見したのは、マンションの管理人』。『事態が判明するまで、丸一日もかからなかった』という中に『遺体はまだ傷んで』はいません。『明け方三時頃に起きた胸部大動脈瘤の破裂だと』いうその死因。『研究補助員として三十八年勤めてきた医科大学の研究室で、常に求められていた”正確さと清潔”が、そのまま自宅にも持ち込まれている』という部屋を見て『これなら原状回復のための清掃、改装も必要最小限』と思う管理人は、ふと『ベッドを覆うカバーの裾が足元に触れるのを感じ』ます。『さっきまで女の遺体が横たわっていた』というカバーを何気なく持ち上げた管理人は『はっとして息を呑み、目を見開』きます。そこには『何かが…何か、という以外に表現のしようのない』ものがびっしりと…。
・〈装飾用の役者〉: 『十九の歳から今までずっと』、『コンパニオンただ一筋』という主人公の『私』は、『およそ一年半をかけて世界旅行をする、そのお供』をしたのが『初めてのコンパニオンの仕事』でした。その後、『数々の雇い主の元を渡り歩』いたという『私』は、自身が『コンパニオンとして貴重な資質を持っている』ことを証明する一つの事例を話し始めます。『打診を受けた時、多少引っ掛かったのは相手が男性だったこと』と語る『私』は、その内容が、『用意した屋敷内の部屋に住み込』み、『部屋で待機していること。よって勤務中は決して部屋から外へ出ないこと』だったと説明します。『高級住宅街の最も奥まった一角』にある屋敷へと赴いた『私』は、『さあ、こちらです』と老人に案内されます。そこには、『小さな劇場』がありました…。
3つの短編をご紹介しましたがいずれも小川さんらしく突飛な設定が当たり前のように提示されるところから物語はスタートします。〈鍾乳洞の恋〉の主人公である室長は『左下奥歯のブリッジ』に問題が発生します。そもそも小説の題材に『ブリッジ』なるものを登場させること自体唯一無二だと思いますが、そんな『ブリッジ』から『白いものがほんの一ミリ』とそこにさらに不気味なものを出現させるところが真骨頂です。ホラーとも言えそうですが『ブリッジ』という前提条件がそんな緊張感を解くところが上手いと思います。〈花柄さん〉はその前提設定が『女が寝室で一人亡くなっているのを発見』した管理人という一気に緊張感が走るシチュエーションからスタートします。一方で淡々と業務をこなす管理人ですが、ベッドカバーの下に『びっしりと』、『ほんのわずかの隙間もなく』詰まっているというあるものを発見するところから始まります。これも予想外に展開していく好編です。そして、上記で少し触れた〈装飾用の役者〉がさらに強烈というかアブナイ世界を描いていきます。『コンパニオン一筋』という人生を送ってきた主人公の『私』が担当したまさかのお仕事。内容紹介に触れられている範囲まででお話すると、それは”装飾用の役者として生活する”というものです。『正式な意味でお芝居が上演されることは』なく、『劇場もまた、装飾』という中で『舞台の上に、いるだけでいいのです。そこで、生活するのです』という日々を送る『私』の物語、これは強烈です。これが小川さんの作品でなければ猟奇的な犯罪の匂いさえ漂うその前提設定。それを、何か?という感じで冷静に包み込んでしまう”小川洋子ワールド”の凄さを体感できるこの短編。そんな短編を含めた8つの短編が収録されたこの作品には、美しい言葉で紡がれた摩訶不思議な世界に導いてくれる小川さんらしい物語が収められていました。
『朝食が終われば、あとは舞台にいる限り、別に自由です。美容体操をする。小説を読む。ハーモニカを吹く。刺繡をする…役者が舞台上で行う演技として不自然でないなら、何をやってもいいというわけです』。
そんな不思議な前提設定の下に描かれていく8つの短編が収録されたこの作品。そこには、極めて小川さんらしい”小川洋子ワールド”全開な物語が収録されていました。小川さんらしいモノへのこだわりに思わずニンマリするこの作品。あくまで美しい表現にこだわった文章に魅せられるこの作品。
どんな前提設定でも物語にしてしまう小川洋子さんの上手さを改めて感じた、そんな作品でした。 -
久しぶりに読む小川作品。今回はタイトルにあるように様々な演劇が使われている。
ただ今回は今一つ世界観に入り込めなかった。これは小川さんのせいではなく私の問題。いずれ時を置いて違う状況の時に読み返したい。
「指紋のついた羽」
バレエ『ラ・シルフィード』
舞台を一緒に見に行った少女と縫い子の交流。繋がっているのかいないのかという危うさだったり、縫い子の心がボビンケースの中に入り込むというところが小川さんらしさか。
「ユニコーンを握らせる」
テネシー・ウイリアムズ『ガラスの動物園』
”昔、女優だった人”という伯母。その”女優”というのがこれまた頼りない。叔母宅に滞在した数日間が淡々としているのに濃い。
「鍾乳洞の恋」
『オペラ座の怪人』
歯のブリッジを取り替えて以来、痛みに悩む女性。そしてそのブリッジの中から得体の知れない生き物が出てくるように。
この歪で怖いものを大切に扱うというのが小川作品によく出てくる設定。読み終えてみれば恋愛もの?
「ダブルフォルトの予言」
『レ・ミゼラブル』
これは正しく小川さんの真骨頂といった話。交通事故の保険金で得た金が偶然『レ・ミゼラブル』全79公演のチケット代と同額だったことから毎日通うことにした女性。ある時彼女に声を掛けてきた女は劇場に住んでいるという。
それにしても小川さんはよくこういう設定を思いつくものだと毎度感心する。
「花柄さん」
これも小川作品ではありそうな話。コレクションも過ぎれば、それが積もり積もってついには形を失くしていき悍ましいものと化していく。
主人公なりのこだわりが花柄とプログラムにもらうサイン。サインをもらう相手は主人公同様目立たぬ存在でなければならない。一方で「花柄」の方は主人公を際立たせている。分かるような分からないような。
「装飾用の役者」
ムーミン?
これまた小川さんらしい、コンパニオンが受けた奇妙な依頼の想い出。依頼人の老人一人のために舞台に作られた部屋で暮らし、老人一人のために芝居を演じる。
老人の目が怖い。
「いけにえを運ぶ犬」
シベリウスとストラヴィンスキー作品を聴きに行った男性の想い出
セントバーナード犬が曳いてやってくる本屋。渡り鳥の本がどうしても欲しいがお金のない少年(男性)は良からぬことを考えるが…。野生の本能?
「無限ヤモリ」
この作品のみ演劇関係ないな…と思ったら芝居小屋の廃墟が出てきた。
子宝に恵まれるという温泉地の保養所に滞在する女性。
宿の夫婦が売っているのは一対のヤモリ。そのヤモリの尾同士が絡まり縺れ合うと無限ヤモリになり、そのミイラは子宝のお守りになるという。
ラストシーンのインパクトはこの話がダントツ。もう誰もかれもが歪んで見える。
悍ましさと美しさ、シュールさと儚さ、現実感と虚構、様々な境界線を今回も楽しませてもらった。 -
溢れだす一冊。
ページを開いた途端、小川さんの世界がこぼれんばかりに溢れだす。
思わずもれる吐息。
誰もが気に留めないようなひとかけらを丁寧に掬いとって紡がれていく世界は、一滴のしずくが波紋を広げるように心に押し寄せてきた。
ささやかな幸せと共に舞台という自分の小さな世界を慈しみ生きる人たち。
それは奇異かもしれないけれど読み手というただ独りの観客の心を魅了していく。
美しい言葉と言葉の幕間。
そこに垣間見えるそこはかとない哀しみ。
手からこぼれおちるような束の間の淋しさと儚さが心を伝う時間。
それはまさに陶酔の時間。 -
舞台にまつわる(?)短篇集。
それぞれに心の底で驚いたり、えーっと思ったり。
そして最後は、ちょっと鳥肌が・・・ -
テーマは舞台,独特な世界観に浸る
1.少女はシルフィードに手紙を書く
2.ガラスの動物園,ローラはジムを待つ
3.オペラ座の怪人,奥歯から虫
4.レミゼラブル,失敗係の女
7.犬が引く馬車の本屋 -
8本の短編それぞれがとても不思議な話で、文体もどこか詩のような流れなのにどれも読み終わったあとに良い意味で気味が悪い(笑)
短編集のなかによく舞台の話が組み込まれているのは意図的なのか、著者が好きなのか…(まぁ、本のタイトルを考えるにそうなるよね)とにかく読後にその先を少し考えてしまう作品でした。 -
舞台をモチーフにした短編集。固有名詞が全く出てこない小説は、オカルトばりの展開でありながら、おとぎ話のようである。言葉の選び方ひとつひとつに気品があり、読んでいると、場面が美しい色合いで頭の中に再現される小説だった。
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舞台という、演じる、観られる、閉鎖的、非現実的という雰囲気を描写している小川洋子さんの短編集で、またこの世界観にはまりこんでしまいました。
『誰かに見られる』というのを短編集のいくつかの作品に感じました。
誰かに見られ、その瞳に閉じ込められる、記憶されるという、舞台のあの独特な雰囲気と異世界にひたることができました。
静かで控えめな物語がこの舞台というものにピッタリだと感じます。
感動する、いいお話だ、というようなものではなく、そこにただ存在する世界を見せてくれるような物語たちです。
内容うんぬんよりも、その描写と雰囲気、ワードセンスを味わいながら少しずつ読むのがこの本のいい読み方ではないかなと思いました。
表紙も裏表紙も素敵で、手にしただけでその雰囲気にのまれてしまいそうです☺︎ -
図書館本
久々に小川洋子さん。短編集。舞台にまつわるもの。
シルフィードに宛てた手紙。
室長のブリッジから生まれては儚く生を終える白い生物たち。この世界観は小川さんならではかと。
無限ヤモリの雌雄が♾になり干からびて、安産のお守りとなるなんて、なんだかシニカルで良き。 -
舞台の上で、観客席で、誰もが自分自身の孤独と向かい合っている。誰も入ることのできないその場所でしか存在できないものを、ステージ上の輝きに、客席に落ちた暗闇に、見出している。そんな、自分だけの「舞台」との関係性をそっと覗くような短編集でした。
指紋のついた羽
縫い子さんと少女の距離が、ラ・シルフィードの浮いた爪先と地面の距離なのかも知れない。その空間は青年のことを拒否したけれど、少女に手紙を届けて、ボビンケースの中の縫い子さんを守っている。得難い断絶となって二人の世界を包んでいる。ちょっとすれ違って、でもちゃんと心を通わせあっている手紙のやり取りが長く続きますようにと祈らずにいられない。
ユニコーンを握らせる
主人公があり得なかったもう一つの時間について思うとき、その両手は完全な姿になたユニコーンをしっかりと握り込んでいるんだろうと思う。その手の中で、ローラおばさんはいつまでも凛とした姿、張りのある澄んだ声のまま、青年紳士を待ち続ける。主人公が時折思い出す限りは、ずっと。
おばさんは永遠になれたんだきっと。
鍾乳洞の恋
あまりにもすごくてちょっと怯えてしまった。
秘めていた恋の発露としてそんな表現をするんですか!?でも、室長から見た虫のような生き物はちっとも醜くなんかなくて、むしろその小さな体の隅々まで愛おしさに満ちているのだと思うと、いじらしくてたまらなくなる。オペラ座の怪人テーマでこれが出てくるの本当に...恋愛ものとして完璧に限りなく近い作品なのでは。
ダブルフォルトの予言
なんか分からないけど泣いちゃった。キラキラした空間、夢のような時間には終わりがあるから、それそのものを求めてしまっては行き着く先は地獄になる。前半の心地よさはじわじわとすり減っていって、千秋楽で溢れてしまった不安と恐怖と孤独はもう取り返しがつかない現実として残ってしまったんだろうな。でも失敗係はいない。空想の世界を守るための失敗係は、現実には存在しない。79公演分の時間の重さが本を通して伝わって、やるせなくなってしまった。
花柄さん
花柄さんとサインをくれた役者の関係は、花柄さんが立つ一人だけの舞台の花柄さんという役者に対する観客、ということになるのかな。ほんの一瞬だけ、サインをする時間だけ、その人は花柄さんのことを考える。花柄さんだけを見る。それって舞台に立つ演者を見つめるのとおんなじなんだ多分。花柄さんはベッドの上で、もうこれ以上ないほどの観客をその下の空間に引き連れて、拍手喝采の千秋楽を迎えたに違いない。
装飾用の役者
舞台のセットで生活するとだけ聞くとかなり楽しそうではあるけれど、それを上演しなくてはならないとなったら、どうだろう。本物になってはいけない、というのはかなり難しいんじゃないのか。爺さんが敷地内に造ったものを全て偽物にしたのは、自分にとって、自分にだけ本物であって欲しかったからなのかなと思う。そのための役者として、なるほどコンパニオンの彼女はこの上なく適任なのかも知れない。
いけにえを運ぶ犬
はじめのファゴットの音から呼び起こされる後悔。ふとしたことで思い出してしまうどうしても忘れられない嫌な記憶には身に覚えがあるので、読むごとに羞恥心が募って困った。春の祭典の進行と交互に語られる思い出は、力強い楽器たちの音色と妙な静けさの記憶が絡み合って異様な雰囲気を漂わせていた。犬の目に映る自分がこっちを見ている、多分、永遠に。
おばあちゃんのお話がすごく好きなのであと50話くらい教えて欲しかったな。
無限ヤモリ
本物の舞台である芝居小屋が廃屋になっているの、彼女が初めから得られるものなど何もないことを象徴しているみたいですごく嫌だった。すごい。代わりに何もかも偽物であるジオラマの中では、子供達がこれ以上ないほどの幸福に包まれているというのだからもう、何から何までやるせなくて、すごく好きです。 -
舞台にまつわる短編集。
表題は短編集のために作られたタイトル。
挿画もヒグチユウコ氏と、著者の世界観が本にしっくり漂っている。
「鍾乳洞の恋」
なんとも発想がすごいのに、まるで違和感なく物語に惹きつけられる。
こんなホラーな出来事を、恋にまで仕立てる手腕。 -
舞台、演劇をひとつの共通のキーにはしているものの、舞台の裏に隠れている「失敗係」の話、ただパンフレットだけを持ち帰る女性の話、子どもが一人遊びで劇を演じる話……と日常的な発想からひょいと一足飛びの、少し不思議な小川さんらしい繊細な話ばかりが展開されていて、どれも新鮮に楽しめました。
「指紋についた羽根」では乳母車に載る赤ん坊が空に伸ばす指、というだれもが想像できる純粋で尊い様子に、素敵な空想を添えていて、好きだなぁとただしみじみとそのくだりを読み返していました。
ほかも、オペラ座の怪人の洞窟と、口腔がなぜか巧妙にリンクしてめくるめく世界を展開していく「鍾乳洞の恋」や、糸と眼の比喩がとても艶めいていた「装飾用の役者」、軽やかでもどこか一筋寂しさが残る「花柄さん」など、自分が舞台好きなのもあるからか、心情や状況に寄り添って楽しめるものが多くて、充実感のある短編集でした。
小川さんの発想力と表現力は、ほんとに素晴らしくて溜息ができる、と思うばかりです。 -
舞台をテーマにした幻想的な雰囲気のある短編集。
体調の悪い時に見る不思議な夢のような、現実か非現実か分からなくなるあの境目の感覚に近い物語でした。 -
"装飾用の役者"が特に印象的だった。
金持ちの道楽だが、舞台そのものを所有したく、それは特別な公演で無くても良く、というのはわからなくもない。それでも現実的には、やはりちゃんとした劇団を欲しくなるだろうし、色んな派手な公演を見たくなるだろうけど。
工具箱の上で繰り広げられるバレエも、みんな似たようなことをしたことがあるのではないだろうか。懐かしさと、ほっこり。 -
「指紋のついた羽」
「ユニコーンを握らせる」
「鍾乳洞の恋」
「ダブルフォルトの予言」
「花柄さん」
「装飾用の役者」
「いけにえを運ぶ犬」
「無限ヤモリ」
の8つの短編集。記録。 -
舞台にまつわる短編集。いつもながらの静けさの中に漂う不思議な空気感が「あぁ、小川洋子さんを読んでいる…」と感じさせられる。
ラ・シルフィードに魅せられる少女を世話する縫い係、昔女優だった叔母、失敗係と交通事故の女性、不思議なコンパニオン、馬車の本屋に罪悪感を持ち続ける男性、ヤモリ。どの主人公も過去の何らかの思い、と舞台が結びつき展開されていく物語はどれも秘密めいた空気を纏っており、それに呼応するように自分自身の過去の出来事を呼び起こし自分の中の秘密感が増幅される。これが自分にとっての小川洋子さんの雰囲気かな。
表紙のイラストはヒグチユウコさん。とても内容にあった雰囲気で素敵。表紙のイラストが素敵な事は言うまでもないが、実は背表紙の装丁もイラスト背景の絵柄に金の箔押しのタイトルで素敵。背表紙って電子書籍ではデータ化されてないケースが多いと思うので、紙の本を手にした人だけが味わえる特権かな。本棚に並べておきたい! -
少しフワッとした短編集。
著者プロフィール
小川洋子の作品
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感想 :

はい、この国だけでもこんなに職業ってあるんですね。27年でだいたい10,000日なので、この数だと毎日一職種...
はい、この国だけでもこんなに職業ってあるんですね。27年でだいたい10,000日なので、この数だと毎日一職種体験でも50年とかかかってしまいますね!ビックリです。