掌に眠る舞台

著者 :
  • 集英社
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感想 : 67
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087718089

作品紹介・あらすじ

「だって人は誰でも、失敗をする生きものですものね。だから役者さんには身代わりが必要なの。私みたいな」

金属加工工場の片隅、工具箱の上でペンチやスパナたちが演じるバレエ「ラ・シルフィード」。
交通事故の保険金で帝国劇場の「レ・ミゼラブル」全公演に通い始めた私が出会った、劇場に暮らす「失敗係」の彼女。
お金持ちの老人が自分のためだけに屋敷の奥に建てた小さな劇場で、装飾用の役者として生活することになった私。

演じること、観ること、観られること。ステージの彼方と此方で生まれる特別な関係性を描き出す、極上の短編集。

■著者略歴
小川洋子(おがわ・ようこ)
1962年岡山市生れ。早稲田大学第一文学部卒。88年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞と本屋大賞、同年『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞を受賞。06年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞受賞。07年フランス芸術文化勲章シュバリエ受章。13年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。20年『小箱』で野間文芸賞を受賞。21年紫綬褒章受章。『小箱』『約束された移動』『遠慮深いうたた寝』ほか著書多数。

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに読む小川作品。今回はタイトルにあるように様々な演劇が使われている。
    ただ今回は今一つ世界観に入り込めなかった。これは小川さんのせいではなく私の問題。いずれ時を置いて違う状況の時に読み返したい。

    「指紋のついた羽」
    バレエ『ラ・シルフィード』
    舞台を一緒に見に行った少女と縫い子の交流。繋がっているのかいないのかという危うさだったり、縫い子の心がボビンケースの中に入り込むというところが小川さんらしさか。

    「ユニコーンを握らせる」
    テネシー・ウイリアムズ『ガラスの動物園』
    ”昔、女優だった人”という伯母。その”女優”というのがこれまた頼りない。叔母宅に滞在した数日間が淡々としているのに濃い。

    「鍾乳洞の恋」
    『オペラ座の怪人』
    歯のブリッジを取り替えて以来、痛みに悩む女性。そしてそのブリッジの中から得体の知れない生き物が出てくるように。
    この歪で怖いものを大切に扱うというのが小川作品によく出てくる設定。読み終えてみれば恋愛もの?

    「ダブルフォルトの予言」
    『レ・ミゼラブル』
    これは正しく小川さんの真骨頂といった話。交通事故の保険金で得た金が偶然『レ・ミゼラブル』全79公演のチケット代と同額だったことから毎日通うことにした女性。ある時彼女に声を掛けてきた女は劇場に住んでいるという。
    それにしても小川さんはよくこういう設定を思いつくものだと毎度感心する。

    「花柄さん」
    これも小川作品ではありそうな話。コレクションも過ぎれば、それが積もり積もってついには形を失くしていき悍ましいものと化していく。
    主人公なりのこだわりが花柄とプログラムにもらうサイン。サインをもらう相手は主人公同様目立たぬ存在でなければならない。一方で「花柄」の方は主人公を際立たせている。分かるような分からないような。

    「装飾用の役者」
    ムーミン?
    これまた小川さんらしい、コンパニオンが受けた奇妙な依頼の想い出。依頼人の老人一人のために舞台に作られた部屋で暮らし、老人一人のために芝居を演じる。
    老人の目が怖い。

    「いけにえを運ぶ犬」
    シベリウスとストラヴィンスキー作品を聴きに行った男性の想い出
    セントバーナード犬が曳いてやってくる本屋。渡り鳥の本がどうしても欲しいがお金のない少年(男性)は良からぬことを考えるが…。野生の本能?

    「無限ヤモリ」
    この作品のみ演劇関係ないな…と思ったら芝居小屋の廃墟が出てきた。
    子宝に恵まれるという温泉地の保養所に滞在する女性。
    宿の夫婦が売っているのは一対のヤモリ。そのヤモリの尾同士が絡まり縺れ合うと無限ヤモリになり、そのミイラは子宝のお守りになるという。
    ラストシーンのインパクトはこの話がダントツ。もう誰もかれもが歪んで見える。

    悍ましさと美しさ、シュールさと儚さ、現実感と虚構、様々な境界線を今回も楽しませてもらった。

  • 舞台にまつわる短編集。
    とても綺麗でおとぎ話のような表現が多く、素敵な場面が想像しやすかった。
    いくつかのお話の感想を以下に。

    『指紋のついた羽』
    縫い子さんは少女の心がわかっているのか、と思うくらい手紙の返事が適当。
    機械油が溜まった道すら綺麗に感じてしまう表現が素敵。
    少女の工具箱の上で作り出す舞台を理解できている縫い子さんも、想像力をできる範囲で表現する少女も愛しい。

    『ユニコーンを握らせる』
    ローラ伯母さん、、かつての恋人(?)をずっと待ち続けているのか…
    角が折れた描写は別れてしまったことを指すのか、女優として輝けなかったことを指すのか、はたまたどちらもか…
    部屋の空洞がとてもいいステージになっていたり、町の光など景色も照明などのように作用しているようで、素敵な舞台が想像できた。
    1人で世界が完結してしまっているが、いつか青年紳士と会えるのか、ただ会えても幸せになれるのか…?と外野からは思ってしまうが、とても健気で形容し難い魅力的な人。

    『装飾用の役者』
    お金があっても劇団を雇わず、それぞれの持ち場に一人ずつ配置するというこだわり、なんだかわかる気がする。手広く自分だけの所有物を増やしてそれぞれを深く愛でたいのかなと思った。個性的な目の表現にそのような要素を感じた。
    それにしても頭がおかしくなってしまいそうな仕事…与えられたものだけで生活するなんて、自分というものがわからなくなりそう。

  • 溢れだす一冊。

    ページを開いた途端、小川さんの世界がこぼれんばかりに溢れだす。

    思わずもれる吐息。 
    誰もが気に留めないようなひとかけらを丁寧に掬いとって紡がれていく世界は、一滴のしずくが波紋を広げるように心に押し寄せてきた。

    ささやかな幸せと共に舞台という自分の小さな世界を慈しみ生きる人たち。
    それは奇異かもしれないけれど読み手というただ独りの観客の心を魅了していく。

    美しい言葉と言葉の幕間。
    そこに垣間見えるそこはかとない哀しみ。
    手からこぼれおちるような束の間の淋しさと儚さが心を伝う時間。
    それはまさに陶酔の時間。

  • 八場の演劇そのものの短篇集『掌に眠る舞台』著:小川洋子を松岡和子さんが読む
    青春と読書
    http://seidoku.shueisha.co.jp/2209/read03.html

    掌に眠る舞台/小川 洋子 | 集英社 ― SHUEISHA ―
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-771808-9

  • テーマは舞台,独特な世界観に浸る
    1.少女はシルフィードに手紙を書く
    2.ガラスの動物園,ローラはジムを待つ
    3.オペラ座の怪人,奥歯から虫
    4.レミゼラブル,失敗係の女
    7.犬が引く馬車の本屋

  • 舞台をモチーフにした短編集。固有名詞が全く出てこない小説は、オカルトばりの展開でありながら、おとぎ話のようである。言葉の選び方ひとつひとつに気品があり、読んでいると、場面が美しい色合いで頭の中に再現される小説だった。

  • 舞台にまつわる短編集。
    表題は短編集のために作られたタイトル。
    挿画もヒグチユウコ氏と、著者の世界観が本にしっくり漂っている。

    「鍾乳洞の恋」
    なんとも発想がすごいのに、まるで違和感なく物語に惹きつけられる。
    こんなホラーな出来事を、恋にまで仕立てる手腕。

  • 舞台、演劇をひとつの共通のキーにはしているものの、舞台の裏に隠れている「失敗係」の話、ただパンフレットだけを持ち帰る女性の話、子どもが一人遊びで劇を演じる話……と日常的な発想からひょいと一足飛びの、少し不思議な小川さんらしい繊細な話ばかりが展開されていて、どれも新鮮に楽しめました。

    「指紋についた羽根」では乳母車に載る赤ん坊が空に伸ばす指、というだれもが想像できる純粋で尊い様子に、素敵な空想を添えていて、好きだなぁとただしみじみとそのくだりを読み返していました。

    ほかも、オペラ座の怪人の洞窟と、口腔がなぜか巧妙にリンクしてめくるめく世界を展開していく「鍾乳洞の恋」や、糸と眼の比喩がとても艶めいていた「装飾用の役者」、軽やかでもどこか一筋寂しさが残る「花柄さん」など、自分が舞台好きなのもあるからか、心情や状況に寄り添って楽しめるものが多くて、充実感のある短編集でした。

    小川さんの発想力と表現力は、ほんとに素晴らしくて溜息ができる、と思うばかりです。

  • 「指紋のついた羽」
    「ユニコーンを握らせる」
    「鍾乳洞の恋」
    「ダブルフォルトの予言」
    「花柄さん」
    「装飾用の役者」
    「いけにえを運ぶ犬」
    「無限ヤモリ」
    の8つの短編集。記録。

  • 舞台にまつわる短編集。いつもながらの静けさの中に漂う不思議な空気感が「あぁ、小川洋子さんを読んでいる…」と感じさせられる。

    ラ・シルフィードに魅せられる少女を世話する縫い係、昔女優だった叔母、失敗係と交通事故の女性、不思議なコンパニオン、馬車の本屋に罪悪感を持ち続ける男性、ヤモリ。どの主人公も過去の何らかの思い、と舞台が結びつき展開されていく物語はどれも秘密めいた空気を纏っており、それに呼応するように自分自身の過去の出来事を呼び起こし自分の中の秘密感が増幅される。これが自分にとっての小川洋子さんの雰囲気かな。

    表紙のイラストはヒグチユウコさん。とても内容にあった雰囲気で素敵。表紙のイラストが素敵な事は言うまでもないが、実は背表紙の装丁もイラスト背景の絵柄に金の箔押しのタイトルで素敵。背表紙って電子書籍ではデータ化されてないケースが多いと思うので、紙の本を手にした人だけが味わえる特権かな。本棚に並べておきたい!

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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