- 本 ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087718683
作品紹介・あらすじ
ようこそ、心休まる「隠れ家」へ。
東京・虎ノ門の企業に勤める桐人は、念願のマーケティング部に配属されるも、同期の直也と仕事への向き合い方で対立し、息苦しい日々を送っていた。
直也に「真面目な働き方」を馬鹿にされた日の昼休み、普段は無口な同僚の璃子が軽快に歩いているのを見かけた桐人は、彼女の後ろ姿を追いかける。
たどり着いた先には、美しい星空が描かれたポスターがあり――「星空のキャッチボール」
桐人と直也の上司にあたるマネージャー職として、中途で採用された恵理子。
しかし、人事のトラブルに翻弄され続けた彼女は、ある日会社へ向かう途中の乗換駅で列車を降りることをやめ、出社せずにそのまま終着駅へと向かう。
駅を降りて当てもなく歩くこと数分、見知らぬとんがり屋根の建物を見つけ、ガラスの扉をくぐると――「森の箱舟」
……ほか、ホッと一息つきたいあなたに届ける、都会に生きる人々が抱える心の傷と再生を描いた、6つの癒しの物語。
【著者略歴】
古内一絵 (ふるうち・かずえ)
東京都生まれ。映画会社勤務を経て、「銀色のマーメイド」で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞、2011年にデビュー。2017年に『フラダン』が第63回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出、同作で第6回JBBY賞(文学作品部門)を受賞。
他の著書に「マカン・マラン」シリーズ、「キネマトグラフィカ」シリーズ、「風の向こうへ駆け抜けろ」シリーズ、『お誕生会クロニクル』『最高のアフタヌーンティーの作り方』『星影さやかに』『山亭ミアキス』『百年の子』などがある。
感想・レビュー・書評
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皆さんのレビューを拝読して、何となく気になる本だなぁ、と思っていた作品。タイトルだったり、表紙から漂う雰囲気も、どこか惹かれるものを感じた。
いざ読んでみると、なんと共感できるポイントが多い作品か、とびっくり!
6話の連作短編集。それぞれに思い悩む日々の中、主人公達それぞれの隠れ家で悩みと向き合い、答えを探す。
ややもすれば、ありそうな日常の一コマを切り取ったストーリーだからか、凄くリアリティを感じた。なので、時に心苦しかったり、もどかしくなったり、嬉しく感じたりで展開の起伏に気持ちが揺さぶられるシーンが多かった。
バリ島のウブドが出てきたことにもびっくり。若い頃、一人要領も得ないまま現地でタクシーを一日チャーターして、本編でも出てくるように、山奥の画廊で芸術鑑賞したな。いや、懐かしい。2話の主人公同じく、今となってはこんな旅もうできないだろうなぁ(汗)
辛くなった時、いつでも逃げ込めて心癒される場所、自分にとってそんな隠れ家を大事にしたい。
派手さはないかもしれないけど、スッと心に寄り添って癒される、そんな作品だった。
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東京の中心地にある中堅eコマース会社を中心に繰り広げられる連作短編ヒューマンドラマ。各話で主人公が異なる群像劇の体裁で描かれる。
◇
アラームの鋭い電子音で矢作桐人は目が覚めた。アラームをとめても頭はまだぼんやりしている。それでも自分が汗まみれであることに気がつき、桐人はシャワーを浴びようとふらふら立ち上がった。睡眠不足なのは明らかだ。
梅雨明けから連日の猛暑日と熱帯夜が続いている。熱中症予防のため、夜中もエアコンの使用が推奨されているが、桐人はどうしてもつけっぱなしにしておけない。
桐人が育った家は裕福でなかったことと、極度の倹約家だった父親の影響で、エアコンにかかる電気代が勿体なく思えてしまうからだ。
「どの道、たいして寝られないんだしな」
シャワーを浴びながら桐人は、半ば自棄のように独りごちた。
桐人はひどく寝つきが悪い。ベッドに入っても数時間は眠れず、寝られても1時間ごとに眼が覚めたりする。
学生時代から続く睡眠障害。その原因がどこにあるのかわからない。ありていに言えばストレスだろうが、ストレスのない人間なんてこの世にはいないだろう。
そんなことをとりとめもなく考えつつ身支度を調えた桐人は、いつものゼリー飲料を胃の中に流し込み、マスクをして部屋を出た。
虎ノ門ヒルズ駅まで1度の乗り継ぎを含み電車で約40分。そこに桐人が勤務する中堅電子商取引企業パラウェイはある。 ( 第1話「星空のキャッチボール」) ※全6話。
* * * * *
「eコマース」とは「電子商取引」のことで、インターネット上で行われる物やサービスの取り引きのことです。
桐人が勤めるパラウェイは、電子商取引を前提にネット上で総合ショッピングモールを運営するeコマース企業です。
こういった先進的な業務形態の会社は、さぞ風通しがよくて個人の裁量も認められているのだろうと思ったのですが、どうも見当違いでした。
やはりつまらぬハラスメントやライバル潰しがあり、快適な職場とは言い難い。採用する側はもっと人間性を見ないと!と憤慨しながら読みました。
全6話中4つの話の主人公がこのパラウェイの社員です。この作品の秀逸なところは、その4人を異なるタイプで設定している点にあると思います。
具体的に言うと、第1話の桐人と最終話の神林璃子は ( 処理能力に違いはあるものの ) 不器用な若者で、こういう弱肉強食的な世界での居心地の悪さは想像に難くありません。
でも、第2話の米川恵理子や第5話の瀬名光彦は相手や物事に柔軟に対応する器用さを持つミドルエイジで、どこでもうまくやれそうな人間に見えます。なのに閉塞感に押し潰されそうになっているのです。
残りの2話の主人公は、恵理子の学生時代の友人2人が絡みます。
第3話は友人の1人大森智子の息子である圭太で、ひどいイジメに遭っているため不登校になりかかっています。
第4話も友人の1人で、チェーンカフェの店長をしている植田久乃です。
母子家庭で育った久乃は長崎に母を残して東京の大学に進学。そのまま東京で就職しました。40歳を過ぎても独身で故郷にも帰ってこない久乃に、母からはいい相手を見つけて結婚しろ、孫の顔を見せてくれと矢の催促。
けれど、久乃には誰にも言えない事情があったのです。
職場であれ学校であれ家庭であれ、屈託を抱えたまま過ごすのはつらい。日常を象徴する場所では、日常生活で生まれた屈託から逃れることができないからです。
「ハイダウェイ」とは「隠れ家」とか「身を潜めることができる場所」という意味だそうです。それは日常を離れられる、言わば非日常を感じる場所を意味します。
ハイダウェイこそが、ささくれだった心を癒やし、気持ちを切り替えることのできる場所なのです。
その場所さえ見つけられれば、たとえ屈託の原因がすぐに根本から解決しなくても、明日を生きようという気持ちになれるのだと思いました。 ( 6人の中では、高校生の圭太が手に入れたハイダウェイが、もっともはやく困りごとから圭太を救ってくれそうなのもよかった。)
主人公たちはそれぞれ異なるタイプだと先述しましたが、共通点もあります。
それは6人とも善良であるという点です。
そんな人たちの抱える困難がなかなか重くて、各話前半は読むのが正直しんどかったのですが、後半でホッとひと息つける展開が何か却ってクセになりそうな作品でした。 ( こんな感想は変かな )
心や健康に余裕のある時にお読みになるのがいいと思います。 -
この作品を手にすることちょっと躊躇したんですけど、読み終えてみて、あぁ~読めてよかったな…と思えました。何しろ、今は田舎暮らしだもんで、「東京」ってちょっと引いちゃうんですよねぇ…。こんな私でも、もう〇年前には東京にいたこともあるんですけどね(汗)。でもって、「ハイダウェイ」とは「閑静な場所・隠れ場所」という意味あいがあるようなんです。私が東京にいた間、私にとっての「ハイダウェイ」はあったのかな…??とか、思いを巡らし、閑静な場所ではないけどホッと息をつける場所として思いついたのは、ある駅の中にあるファストフード店かな…。あの頃はファストフード店でもお酒の提供があって…疲れた身体にハンバーガーとポテト、缶ビール!!元気が出ましたねぇ♪
と、前置きが長すぎました(汗)。この作品は、東京で生きている各話の主人公が生きにくさをを抱えつつ、ほっとできる場所を持ちながら、明日も生きていく…そんな連作短編です。
各話の主人公は、
・星空のキャッチボール:亡き父のことで自分を責め続ける真面目な桐人。
・森の箱舟:仕事、家事や育児に翻弄される中間管理職の恵理子。
・ダイギシン:いじめを機にひきこもり、不登校になった高校生の圭太。
・眺めの良い部屋:結婚をすすめる母親との関係に悩む、カフェの雇われ店長久乃。
・ジェリーフィッシュは抗わない:50代半ばまで、流されるように生きてきた光彦。
・惑いの星:あることがトラウマになり、いつも隠れるように生きてきた璃子。
「森の箱舟」の作中、子どもにお母さんはズルしていると責められる場面があるんですが、そんなことは決してないです。夫が家事に協力することで妻が十分に稼ぐ…この構造には、なんかいいなって思えちゃうけど、出産もズルしたと帝王切開だったからと言われるのは納得できませんでしたね…。帝王切開でも、出産後大変なんですから!「眺めのいい部屋」の母の気持ちを思うと泣けてきます。そして「惑いの星」、桐人と璃子のその後が気になります。おにぎらず、作ってみたくなりました。-
1Q84O1さん、
田舎でも自分だけのお気に入りの場所を
探しておくのもいいですよね(^-^)
1Q84O1さん、
田舎でも自分だけのお気に入りの場所を
探しておくのもいいですよね(^-^)
2024/07/17 -
ホッとする場所は車の中かもしれません
ε-(´∀`*)ホッ
けど、車の中だと都会も田舎も関係ないですね…(ーー;)ホッとする場所は車の中かもしれません
ε-(´∀`*)ホッ
けど、車の中だと都会も田舎も関係ないですね…(ーー;)2024/07/17 -
1Q84O1さん、おはようございます。
車の中…!確かに、自分だけの空間ですよねぇ〜♪
車の中から見える景色は、でも田舎のほうが
緑に...1Q84O1さん、おはようございます。
車の中…!確かに、自分だけの空間ですよねぇ〜♪
車の中から見える景色は、でも田舎のほうが
緑に囲まれてるからいいかも〜(*´∀`*)2024/07/18
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ECサイトを展開する企業に関係する人々が主人公の六話連作お仕事小説です。
それぞれの主人公が東京という荒波の中で必死に息継ぎをしている様を、企業の中での立ち位置や立ち振る舞いとして一話一話丁寧に描かれてます。
ひと昔前の「白か黒か」という時代からグレーになり、いまでは多様性という言葉の通り何色もある現代の中で湧き起こる「微妙に調色された問題」を間接的にかつ等身大の大きさに浮き彫にして表現する手法はかなりのものです。
はたして、急激に変化していく世の中で現在の「調色された問題」 は10年後にこの小説を再読した時には何色になっているのだろうか? -
東京にも心が休まる隠れ家のような場所がある。
知らないだけで、こんなところあるんだ…という驚き。
不安になり誰にも会いたくなくて、ひとりでいたいとき何かを見て、感じて、安らげる場所があるということは、とても大切なことだと。
都会で生きる人々が抱える心の傷と再生を描いた連作短編集。
「星空のキャッチボール」父の死後、睡眠障害を抱える桐人は真面目な性格で、外面ばかりよくて身内に冷たい父のことが理解できなかったが…。
「森の箱舟」中間管理職でもある恵理子は、妻であり母でもある。ワーママと言われるけれど美談なんてないと…。
「タイギシン」高校になっていじめられるようになった圭太が見つけた人は、ゲームの中じゃなく実在の女性で、彼女からボクシングを習うことに…。
「眺めのよい部屋」恋愛感情を持たない久乃は、カフェチェーン店の雇われ店長だが、美術鑑賞を趣味に頑張ってきた…母はわかっていたと。
「ジェリーフィッシュは抗わない」バツイチの中年である瀬名は、これまで流されるように生きてきたが、転職先で若い桐人を見ていて気づかされることが…。
「惑いの星」桐人と同期で地味で目立つことがない璃子は、存在を消すことばかり考えていた。
彼女が通うプラネタリウムに桐人も姿を見せるようになったが、璃子が心身の不調で倒れそうになったとき、桐人に過去の出来事を話しをしてから…。
心の癒しとなる場所があれば、少しは惑い悩むことも吹き飛ぶのかもしれない。
生きづらい世の中にありがちな、身近にあるような出来事だけにいろんな思いを感じとれた。
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完全な人間は一人も居ない。真面目に正直に生きていくのは時に大変だけど、強いこと
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清々しい読み心地で一気読み。
登場人物それぞれの、東京のオアシスや隠れ家が出て来ます。
「社会も会社もフェアじゃない。でも負けるな。みんな負けるな。」の一文にとても勇気をもらえました。 -
10月最初に図書館で予約して、やっと手元に。
早く返却せねば。
共感した部分
読んでいて色々なことを思い出したり。
私も頑張ろうと読了後思えた。
みんな色々な立場で色々悩みながら、頑張っている。
周りの人がどうとかこうだとかより、自分は!というものを持ちながら、周りのみんなの意見や考えを聞きつつ、同じ目標を目指していきたい。-
「いいね」ありがとうございます。
今でもオイラにとって東京は憧れ。
読む作品も舞台が東京だと、それだけでなんか嬉しい!「いいね」ありがとうございます。
今でもオイラにとって東京は憧れ。
読む作品も舞台が東京だと、それだけでなんか嬉しい!2025/04/11 -
きたごやたろうさん、こんばんは。
いつもコメントありがとうございます!
東京 憧れ いいですね。
東京憧れきっかけエピソードは、何ですか?きたごやたろうさん、こんばんは。
いつもコメントありがとうございます!
東京 憧れ いいですね。
東京憧れきっかけエピソードは、何ですか?2025/04/12 -
元々オイラは小学生の頃に西東京に住んでいたんです。
その後転々として、大学生から12年間も岩手県で生活してました。
岩手時代の最後の方に...元々オイラは小学生の頃に西東京に住んでいたんです。
その後転々として、大学生から12年間も岩手県で生活してました。
岩手時代の最後の方に、もう一度東京にいかなければ死ねない、という石川啄木的な憧れです。
わかりにくいかな⁇2025/04/12
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都会で何かしらの生きづらさを抱えて暮らす人々の物語。
6つの連作短編がそれぞれ、精神疾患、ワークバランス、セクシャリティ、いじめ、SNSなど現代の問題をテーマにしている。
設定がコロナ禍2022年〜2023年ということもあって“今”の小説だなと思う。
自分の気持ちに一番近いなと思ったのは「森の箱舟」。
“役割”を演じることに疲れて、気がついたらヘトヘトで…
私も「今日はサボります」って言ってみたい。
「惑いの星」の後半の桐人のセリフ、優しくて寄り添い方が絶妙。
登場人物の中で一番好きかも。
疲れた心をそれぞれの「隠れ家」で休めてあげる。
小説でありながら、メンタル本のような癒しがあった。
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古内一絵さんの作品って、落ち込んでいる時に手に取りたくなるんですよね。
不思議と、心がふっと軽くなるような感覚があって。
全作は読んでいないのですが、彼女の小説には“生きづらさ”を感じている人がよく登場する気がします。
今回読んだ『東京ハイダウェイ』もまさにそう。
この物語はオムニバス形式で、さまざまな背景をもつ人たちが登場します。
眠れない会社員、他人からは羨ましがられるキャリアウーマン、恋愛に興味がもてない喫茶店の店長、いつも飄々としているホテルのGM、引きこもりがちな高校生、自由に生きているように見える女子社員。
彼らの悩みや孤独は、それぞれ本人にしかわからないもの。
でもその姿を見ていると、「ああ、実はみんな少しずつ生きづらさを抱えているのかもしれない」――そんな気づきが芽生えます。
まさに、隣の芝生は青く見えるんですよね。
特に、心が落ち込んでいる時って、視野が狭くなりがちです。
「なんで自分ばっかり?」とか、「あの人ばっかりズルい」とか、他人と比べては自己嫌悪に陥ってしまう。そんな負のスパイラルに巻き込まれがちです。
でも、この本を読んで改めて思いました。
そういう時こそ、必要なのは「人」なのかもしれません。
どんなに自分がダメだと感じていても、ちゃんと見てくれている誰かがいる。
それは同僚かもしれないし、公園で偶然出会った人かもしれない。
私たちは「一人で生きていける」と錯覚してしまうことがあるけれど、実はそうじゃない。
落ち込んだ自分を支えてくれた人がいたように、自分も誰かを支えているのです。
(たとえ、自分では意識していなかったとしても)
そして、凹んでいる時ほど、「人の存在に支えられている」ことのありがたさが、心に染みるのだと思います。
古内さんの描く世界には、どこか希望があるんですよね。
たとえ状況が大きく変わらなかったとしても、登場人物たちはそれぞれ、自分の歩んできた経験を糧にして、また一歩を踏み出す勇気や覚悟を手に入れていく。
「人は一人じゃない」
そんなメッセージがじんわりと心に広がる、あたたかな物語でした。
読み始めた頃はちょっと人間関係に疲れていたのですが、読了後には不思議と心が落ち着いていて。
この本には、癒しの力がある気がします。
著者プロフィール
古内一絵の作品





