- 集英社 (2025年2月26日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (200ページ) / ISBN・EAN: 9784087718942
作品紹介・あらすじ
第37回小説すばる新人賞受賞作。
霧の町チェリータウンのモットーは「壊れていないなら直すな」。
酒場を経営する町一番の人気者である父スタンリー、部屋にこもりっきりの兄エディ、そして5年前に家を出て行った母。13歳になるソフィアは町から一度も出たことがなく、独りぼっちでうつむいて生きてきた。
ある日、お向かいに住む無口な老人ミスター・ブラックの家に、風変わりな人物がやってくる。自称「毎週生まれ変わる」ナタリー・クローバーは、夏休みの間だけブラックの元に預けられるという。
町長はナタリーが変なことをしでかさないよう、ソフィアに見張り役を頼む。人の目を気にせず自由気ままに町を歩き回り、自分だけの町の地図を作っていくナタリー。やがてソフィアは、長い間押し殺してきた自分の願いに気づいて――。
孤独を抱えた二つの心が奏でる〈ひと夏の、永遠の物語〉。まばゆくきらめく、エバーグリーンな青春小説が誕生!
感想・レビュー・書評
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まず、冒頭部分の抜粋です。
「子供は誰だっていつだって、親にとって一番の自慢でありたいと願う。だって、親は世界のすべてだから。もし期待に沿えなかったら、鏡を見ながら、自分で自分のおでこに、「ダメな子」と泣きながら書かないといけない。~中略~ 子供は何歳になっても親の子供で、自分が粉々に砕け散ってしまうのを覚悟で暴走しない限り、レールから外れることはできない。つまり、わたしたちは生まれを選べないだけでなく、生き方さえもほとんど選べない。~中略~ 十三歳のわたしにとって、世界は霧の町、チェリータウンだけだった。町のモットーは、「壊れていないなら直すな」。 余計なことをすれば話がややこしくなるというのが大人たちの言い分で、見て見ぬふりが 教育目標。~中略~ 褒められたものではない大人たちに認められなかった子供たちが、他にすることもなく安い安いスリルに手を出し、後先を考えずに 子供を作っては、親にされて悲しかったことを自分の子供にする。~中略~ 町はある意味で安定していた。日常は時計の針のように機械的に進み、みんないつか自分がすりつぶされる番を待ちながら、くすんだ日々を過ごしている。誰も正常を知らないから、何が間違いなのかもわからない。」
チェリータウンは、まるで現代社会のメタファーのような町だと思いませんか。
主人公の13歳の少女ソフィアは、そんな霧の町から一度も外に出たことはありません。彼女の父親は酒場を経営する町一番の人気者スタンリー、兄のエディは部屋にこもりっきり、母親は5年前に家を出て行きました。ソフィアはひとりぼっちでうつむいて暮らしています。
そんなある日、お向かいのミスター・ブラックおじいさんの家に、とても変わった「その人」がやってきます。胸まで伸びた髪はボサボサ、服はボロボロ、最初は何歳かも分かりませんでした。なんとブランコの柵の上で逆立ちしたりします。その人の名は、ナタリー・クローバーと言いました(ソフィアのクローバー柄の服を見ながらそう名乗りました)。
ナタリー・クローバーは、夏休みの間だけブラックさんの元に預けられるということでした。町長はナタリーが変なことをしでかさないように、ソフィアに見張り役を頼みますが、自由奔放を絵に描いたようなナタリーは、好き勝手に町を歩き回り、自分だけの町の地図を作っていきます(巻末にナタリー作成の地図が掲載されています)。
そんなナタリーを見ていてソフィアの心に変化が起こります。長~い間押し殺してきた自分の願いに気づいていくのです。。。
本の紹介文には、「孤独を抱えた二つの心が奏でる〈ひと夏の、永遠の物語〉。まばゆくきらめく、エバーグリーンな青春小説が誕生!」とあります。
ナタリーの言動が「実に面白い」のです。霧の町の霧を吹き飛ばすかのようなナタリー。「空気読むって、なに?」、そう言っているかのようです。
このお話を読んでいて、象さんの足かせの鎖の話を思い出しました。象さんは、子象の時に足かせの鎖でつながれます。もがいてももがいても子どもの象の力では鎖は切れません。これを繰り返すうちに子象は足かせから逃れようとしなくなるそうです。子象が大きくなれば本当なら鎖など簡単に引きちぎれるはずなのに、一度諦めた象は足かせを切って逃げようとはしないそうです。
わたしたちも、知らず知らずのうちに暗示にかかっていて、無意識に自分を自分で抑え込んでいることがあるのかもしれません。そして、なんとなく諦めている。。。
そういう限界を破っていくのが若者であり青春なのかもしれません。
(複雑な事情もあるでしょうが)、ナタリーとソフィアを見習って、わたしたちもエバーグリーンを心がけましょう!
みなさん、限界突破ですよ!♡
作者の須藤アンナさんは、2001年 東京都生まれ。本作で第37回小説すばる新人賞を受賞してデビューされたそうです。
(わたし、この作品を読書感想文コンクールの課題図書に推したくなりました♡)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
小説すばる新人賞
外国が舞台の不思議な世界で始まったが、状況がわかるにつれ面白く読めた。縮こまっていた主人公の心が、友達を得たことで、少しづつほどけていく話
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苦悩を抱えたソフィアとナタリーの二人が、出会えて良かった!
13歳という多感な年頃、閉鎖的な街、複雑な家庭環境…いつ崩れてもおかしくないような状況で、どうにか日常を過ごしているソフィアにとって、ナタリーと過ごす時間は救いになっただろうなと。
そしてナタリーにとっても、まるごと自分を受け止めてくれる存在がどれだけありがたかったか。
この先、二人が幸せに過ごせますようにと願わずにはいられなかった。
内容とは関係ないけど、私は海外文学みたいな文体がどうも苦手で、慣れるのにちょっと時間がかかった。 -
村山由佳、荻原浩、朝井リョウなど、名だたる作家が受賞している小説すばる新人賞受賞作。
霧が立ち込める町チェリータウンに住む13歳のソフィアは、酒場を営む父親の暴力に支配され、母親は5年前に家を出、兄は父親からいないも同然の扱いを受けている。そんな彼女の隣家に1週間ごとに記憶が無くなるという風変わりな少女ナタリーがやって来る。ナタリーとの出会いで、ソフィアは少しずつ自分の本当の気持ちに気づき始め…。
架空の町で異国の物語設定だからか、ソフィアだけでなく、ナタリーの不幸な生い立ちもすんなりと受け入れられた気がする。これを今の日本を舞台にしたら、もっともっと重くて辛かったと思う。
新人さんだけど、とても丁寧な文章で読みやすくYA世代にはぜひ読んでもらいたい。
須藤さんはまだ23歳。もう、小説を書くのに人生経験だの、書いた小説の量だの関係ない。文章が上手い人は若くても上手い。
会社員との両立に大変だろうが、次作にも期待! -
星6、7くらい良かった〜。エンディングが本当に美しい〜(*´-`)
胸が締め付けられるような場面もありますが、ナタリーとのやり取りの一つ一つが心に沁みました。良い話や〜… -
思春期ならでは閉塞感、危うさなどその微妙な心理状況を文章でここまで表現することができる言葉の巧みさに驚いた作品でした。良い意味で現代の小説ならではのフレッシュさも持ちつつ、新人とは思えない書きっぷりに脱帽します。
特に面白いなと思った部分は、登場人物は同じなのに一章ごとに登場人物が変わったような、シリーズ物の小説を連続して読んでいる気分になれる、文章のだらけが感じられない読み応えのある所が素晴らしいなと思った。
余談ですが、本のカバーを外して読んで欲しいなと思いました。装丁まで物語の一部、実際の本でないと味わえない良さを改めて感じました。
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暴君の父親の機嫌を損ねないことを最優先に生きるソフィア。一週間ごとに人格が変わるナタリーと出会い、浮き立つ気持ちや誰かと心を通わすことを思い出す。架空の町が舞台の寓話的なストーリーで、読後に残るものがあってよかった。
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孤独な少女2人の出会いと友情。海外文学っぽい作品で、霧の街チェリータウンという架空の町を舞台にしている。町のモットーは「壊れていないなら直すな」。見て見ぬふりを貫く大人たちに囲まれ、霧に覆われた灰色の日々を送る主人公ソフィアの心情が細やかに綴られている。
あるとき向かいの家に夏休みの間だけ預けられたというナタリー・クローバーはちょっと変わった子で、ソフィアはとまどいつつナタリーの見張り役を担う。そしてナタリーの記憶が1週間でリセットされること、その度に口調も変わることが分かり、それでも二人は一から関係を作り直し、一緒に町を回ってナタリーの地図に少しずつ新しい場所を書き加えていく。
父親の顔を伺いながら何とか一日を生き抜くソフィアにとっても、変わり者として蔑まされ、記憶がリセットされるナタリーにとっても、互いが唯一の存在でどれほど救いになっているかがしみじみと感じられた。
子供にとっては今いる世界が、親が全てになってしまう。でも自分の心を解放し、一歩踏み出して新しい自分になって生きることはできる。味方でいてくれる友達が一人でもいれば。
ひと夏の少女たちの出会いと思い出と、これからも何度でも友達になって続いていくだろう二人の関係の眩さに心打たれる。ソフィアの兄も含めてこれからは自分の人生を、顔を上げて生きていってほしい。 -
とても良かった…!
シビアで、でも温かな眼差しに包まれている。
「壊れていないなら、直すな」と言われる、壊れていないことになっている(だって誰も直さないから、直さないなら壊れていないのだ、という理屈)町で、横暴な父の顔色を伺い、びくびくしながら毎日家事や店の手伝いをしている少女。
「ナタリー・クローバー」との出会いが、灰色の世界を色鮮やかに変えていく。
一つ一つの場面も、台詞も、宝物にしたくなるくらい美しい。
ラストのあれがさぁ…!開いた瞬間、ぶわっと涙が出た。
大人の読者は子どもたちに何ができるのか、何をしてはいけないのかを突きつけられる作品でもあり、その意味でも広く読まれてほしいけれど、やっぱり第一には10代の子どもたちにぜひ手にとってほしい。
この本は、あなたたちの味方だよ。 -
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ナタリーとソフィアの永遠の友情が素敵。
父親の暴力に耐え続け、機嫌を損ねないようにただひたすら自分を押し殺してきたソフィアが切なすぎた。
『今を楽しめ 君は自由だ』 -
暴力の街で、暴力の父親に囚われた兄妹
ソフィアは、ナタリーと出会うことで、自分の心を解き放つきっかけをもらった
ナタリーは、ソフィアと出会って、初めての友達を手に入れた
兄は父親に怯えながら、少しずつ父親の恐怖に打ち勝つ力を蓄えていた
友情、毒親、兄妹、変わらない街、いろんなテーマが散りばめられていた
とても心に沁みた作品だった -
書店で題名と素敵な表紙に惹かれて手に取りました。
主人公のソフィアのが住む町のモットーは「壊れていないなら直すな」
余計なことをすれば話がややこしくなるだけと、見て見ぬが教育方針の大人たち。
支配的な父、見て見ぬふりをする兄と暮らすソフィアには町が灰色に映っていた。
十三歳の夏、向かいの家にナタリー・クローバーが越してくる。
ソフィアは町長から見張りを頼まれる。
ナタリー・クローバーが町の地図を作ると言い出す。
ナタリー・クローバーの地図作りに協力していくうちに、ソフィア自身がしたいことに気がつき旅立っていく物語です。
言葉選びが個性的だと思いました。
例えば、時間がたつのが遅いと感じたときの表現は「あの時計こんなに足が遅かったけ」とか、変わらない日々の表現は「町は変わらず曇り空で、特別なことは起こらない。昨日を切り刻んでつなげ直した、使いまわしの一日が果てしなく続く」など秀逸で可愛らしい言葉が素敵だと思います。
ナタリー・クローバーが住む家の家主のブラックさんが、ソフィアに言った言葉が一番印象に残りました。
「数字のように、安易に捉えられるものばかりではない。些細な善行が、他人の人生を大きく変えてしまうことがある」
「時に因果は逆転し、結果のために原因をでっちあげるという矛盾が生じる。個人の為に存在するはずの町が、先人の捻りだしたくだらないモットーのせいで、町のための個人へと精神の規範がすり替えられたように。長く続いているものは強大だが、正しいから残ったのだとは限らない。伝統は往々にして取り返しのつかない負債へと醜く変貌してしまうものだ。真に残されるべきは、歴史の皮をかぶった呪いなのではなく、真心から成る財産だ文化遺産など。物質的なものでも、感情の授受でも構わない。」
歴史的な遺産は伝統を守ることは大切だと思うが、個人にも当たり前のように長く続いていることがあると思う。当たり前のことはあまり深く考えたりしない。ブラックさんが言うように「真心からなる財産」なのかを一度考えてみる必要を感じ、「真心からなる財産」は大切にしていきたいと思いました。
次の作品が楽しみです。 -
父親はどうしようもないがエディーが今後同じようにDVをしないかはわからない。
凶暴性は見てしまうと、存在してしまい繰り返す。強い意志がないと止められない。カッコつけな立派な兄は少し父と似ているように思えた。
ブラックさん、母親目線の物語はひょっとすると温かいものかもしれない。大人の事象と子供の真剣さに乖離がある。同年代で読んだら受け取り方は全く違ったかな。 -
13歳の少女の閉鎖的な町で生まれ育ってそこで出会った一週間しか記憶が持たない少女との出会いでひと夏を過ごすうちに成長し箱の中と表現した町を出ていくまでの話でこの先幸せになって欲しいと願わずにはいられないぐらいの素直で優しく思慮深い少女だった。
純粋になれた気がする。 -
Amazonの紹介より
霧の町チェリータウンのモットーは「壊れていないなら直すな」。酒場を経営する町一番の人気者である父スタンリー、部屋にこもりっきりの兄エディ、そして5年前に家を出て行った母。13歳になるソフィアは町から一度も出たことがなく、独りぼっちでうつむいて生きてきた。
ある日、お向かいに住む無口な老人ミスター・ブラックの家に、風変わりな人物がやってくる。自称「毎週生まれ変わる」ナタリー・クローバーは、夏休みの間だけブラックの元に預けられるという。
町長はナタリーが変なことをしでかさないよう、ソフィアに見張り役を頼む。人の目を気にせず自由気ままに町を歩き回り、自分だけの町の地図を作っていくナタリー。やがてソフィアは、長い間押し殺してきた自分の願いに気づいて――。
孤独を抱えたふたつの魂が奏であう〈ひと夏の、永遠の物語〉。まばゆくきらめく、エバーグリーンな青春小説が誕生!
第37回小説すばる新人賞受賞作。
まさかの外国を舞台にした物語だったので驚きでした。ナタリーと出会ったのを機に、ソフィア自身の人生が大きく変わっていく物語になっています。
父親の暴力に耐えながら、淡々と過ごしている日々は「グレー」な雰囲気があったのですが、段々と明るい色へと気持ちが変化する描写になんとも尊く映りました。
友達ができることの喜びが伝わり、出来事の一つ一つが微笑ましく思いました。
ただ、ナタリーは本当なのかどうかわかりませんが、1週間後には記憶がなくなるという。「毎週生まれ変わる」という表現を使い、毎週会うたびに、ナタリーの雰囲気が変わっていきます。
そんなナタリーと出会ったことで、少しずつ変わろうとしていきます。父親の暴力に耐える描写は心苦しかったですが、後半になって、少しずつ変わろうと行動する姿が印象的でした。
そして、いつかは訪れるナタリーとのお別れ。どんな風にしてお別れになったのかは書きませんが、ナタリーとの出会いは大きな影響であり、ナタリーの前向きさにこちらもどこか勇気づけられたようにも感じました。 -
星5じゃ足りないくらい自分が大好きな小説だった。
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2025/04/20
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独特な世界観の小説。海外のYA小説みたいな雰囲気。最終盤の展開はよかった。今後の光が見える。
