ためらい

  • 集英社 (1993年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (176ページ) / ISBN・EAN: 9784087731637

感想・レビュー・書評

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  • 絶妙な世界。
    特に息子の描写がたまらなくいい。
    そこにはユーモアと愛と思いがあふれていて、読んでいて思わずほほえんでしまう。
    暖かい。
    いいよね、
    何にもないんだけど。
    たんたんと静かに世界が流れてゆく、まるで虚無感。
    とは、ほど遠いな。
    きれいな、そしてユーモアを失わない文体でこつこつと情景を描いてゆく。
    やけに緻密であったり、どうでもいいことを追いかけたり。
    物語はどこにゆくのかさっぱり。
    でもここちよい。
    なんという贅沢なたゆたいだろうか。



    本当になんとなしに描かれている話。
    一人の男がとある港町にとやって来て一人の家を尋ねようとする。
    しかしそこには『ためらい』がついて回る。
    彼が何をしたのか、何が彼をためらわせるのか、その人物は何なのか、そうしてどうしたいのか。
    何もかかれない。
    ただひたすら彼はためらい。
    そしてやがてそれに転じて疑い、そして迷い続ける。
    何という物語だろう。
    言ってしまえば全くもって無味乾燥。
    静かな、一人の男の心のなかのさざ波をかいま見るよう。
    人によっては何なんだろうって思うかもしれない。
    確かに、途中に匂い立つサスペンスの香りに誘われればそう思うこともあるかもしれないが、違うのだ。
    彼は単純な生活を切り取る。
    時にはユーモアに、シリアスに、そして感動的に、叙情的に。
    人の人生と同じように、
    私は正直こういう風に、日常を浮き上がらすことができる文を書くことができる人間に非常あこがれる。
    彼の場合翻訳者にも恵まれているし、おまけに非常に現代タッチだ。
    だがしかし、私の苦手な”ここに暗に示されたものを読みとってくれ”という青臭い演出などない。
    ありのままに、何もなく、言えば単純に、
    生活の中に意味を見いだすのは当人がやるべきことなのだと、
    はっきりと何かを示唆しないのなら私はそれがふさわしいと思う。





    非常に心地いい小説。
    どうもこの人も好きなのよね私。

    2008/8/11

  • 読み終わったとき、呆気に取られてしまいました。何が起こるかと待ち構えていたのを肩透かしされた感じ。事件がなくても小説は書けるんだといういい例ですね。娯楽小説を求める人には不向きだと思います。あと、主人公の息子に関する描写がとても柔らかく、優しいと思いました。本当に天使のような赤ちゃんを想像させます。

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