存在の耐えられない軽さ

  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087731774

作品紹介・あらすじ

ほんとうに重さは恐ろしく、軽さはすばらしいことなのか?男と女の、かぎりない転落と、飛翔。愛のめまい、エロティシズム…。冷戦下の中央ヨーロッパの悲劇的政治状況の下で、存在の耐えられない軽さを、かつてない美しさで描く、クンデラの哲学的恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • 冷戦下のチェコスロヴァキアを舞台に、1968年に起こったプラハの春を題材にした哲学的恋愛小説。84年刊。

    著者のミラン・クンデラ氏がつい先月、2023年7月11日に94歳で亡くなられていたことを読了後に知った。強く興味を抱いたばかりだったので驚きと同時に哀悼の意を表したい。

    「プラハの春」と呼ばれる60年代チェコスロバキアの歴史的時期を背景に、4人の男女の恋愛模様を哲学的に描いた作品。同じ出来事が後から別の視点で書かれたり、時系列が前後して語られることが多く、後半は特に、とある重大な事実が先に明らかにされてからその前後の事柄が飛び飛びで出てくるので、この小説を堪能するにはジグソーパズルを扱うような柔軟な頭の使い方をする必要がある。一本道の物語としてではなく、一つ一つのエピソードと哲学的な文章を味わっていく、というのが正しい読み方なのかもしれない。とはいえ、読みにくかったり難しかったりすることはなく、哲学と恋愛論は非常に相性がいいのだなと感じさせてくれる心地よい文体だ。

    人生における軽さと重さ。男女が理解しあうことの難しさ、そこに流れている感情と思考が克明に記され、読者を深い思索に誘う。そして見事なタイトル回収、からの衝撃の展開。物語の筋と哲学的文章が巧みに絡み合う。こんなに味わい深い小説はまたとない。

    超絶プレイボーイなのにイヤな感じのしないトマーシュ、純情一直線のテレザ、妖艶な画家サビナ、繊細なインテリのフランツ。この4人のバランスが絶妙。全員が知り合いどうしではないので四角関係というわけではないのだが、フランツは個人的に共感できる要素もあり、どの人物からも目が離せなかった。

    抜き出しメモもたくさん取った。一つだけあげるとするならば、善良だが男性としての力強さに欠けるフランツをサビナが見限るシーンがある。作者はこれを、P131「肉体的な愛は暴力なしには考えられない」と表現していて、ここだけ抜き出すと「えっDV肯定?」みたいに思えるがそうではなく、自分のような弱者男性と呼ばれる人間に欠けている致命的な要素をここの文脈で表現しているのだ。これが共感しやすい物語と哲学的文体で書かれているので、下手に説教されるよりも深く心に沁み入る。

    第6部で主に政治的背景をもとに語られる「キッチュ」という言葉が痛烈。人間社会における俗悪なものを見抜く目線は、同時に真反対のものを見分ける目線でもあるはずだ。それこそが最終部で語られたものなのかもしれない。ネタバレは避けたいので、とりあえず、カレーニン(犬)かわゆす、とだけ言っておこう。

    恋愛にも出会いのタイミングというものがあるが、本との出会いもタイミングであり、この小説にこのタイミングで出会えたことに感謝したい。こんな世界があったなんて……と未知なる体験を開く小説の面白さを存分に味わった。今後の人生で何度も読み返すことになるだろう傑作。

  • 個人的に、ずっと一定の暗い雰囲気を保っていて最後で地上から3センチくらい浮くような作品がすきなので、この作品の読後感はとても好物であった。
    主要登場人物のトマーシュ、テレザ、サビナ、フランツ以外の著者が語るような形式であるが、たまに物語とはなれたところにいる著者の意見などが挟まれているのが珍しくておもしろいと思った。

    結構前から読みたいと思っていたところ、某雑誌で某女優がおすすめしていて、彼女が自分は受験生だったから癖で気に入った箇所に線を引いていた、ようなことを言っていた。
    その話を知っていたからではないけれど、自分も気に入った文章をブックマークしてしまった。
    これは多分彼女が受験生だったからではなくて、この作品の持っている特性のような気もした。おかげで手帳が真っ黒。

  • 「目を閉じた男は男の残骸にすぎない」なんてことを書いちゃうあたり
    この作家は目を閉じたことが無い感じがする。

    独りで幻想に浸っているうちは重さも軽さもないよな。張り手された気分だわ。

  • 愛読書。読むたびにいろいろな新しい発見がある。ヒトについて、世界について。一見とっつきにくいけど、「うん、そういう感じわかるわかる〜」とうなずいてみたり、「はて、これは…」と考えさせられたり。そんなラブストーリー。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      文庫化された時に再読して以来、ご無沙汰。西永良成によるフランス語版からの翻訳を読もうと池澤夏樹個人編集世界文学全集を購入したが、何となく積読...
      文庫化された時に再読して以来、ご無沙汰。西永良成によるフランス語版からの翻訳を読もうと池澤夏樹個人編集世界文学全集を購入したが、何となく積読中(読みたい本が一杯有り過ぎて後回しに)、、、
      2014/02/26
  • 題が良い。
    読みづらいが、時間のある時に再読したい。

  • ハードカバーで読む必要がある本というものがある、と私は思う。本作はまさしくそういった本であった。私は恋愛小説が苦手だ。だがこういう恋愛小説なら私は大手をふって支持することができる。面白かった.......そしてクンデラの書くことが、だいたいそれな????という気持ちを引き起こすものだから、安心したし、ほっとした。この同意は、私の存在を耐えられないほど重くも軽くもしない、丁度良い重さだった。私も今まで自分の人生に現れるメタファーを見つけては、メタファーと今見えていないものに対し点数を下げている....各章に線を引きながら、先生と一緒に解読していきたいなあと思った笑

  • 大変哲学的。普通の人の人生をここまで哲学的な思想に高めてしまっているのがすごい。どちらが悪かどちらが善か、軽さと重さ、幸福か不幸か。そんな二極化思考でどちらが正しいかなんて決めることはできない。自分の頭の中のモノサシ自体を疑ってみなければならない。そう感じた作品でした。

  • チェコスロバキアの作家がプラハの春に敗れ、ソ連の侵略、蹂躙という恐怖政治時代のチェコを舞台に書いた哲学ともいえる愛の物語

    男トマーシュはSEX依存症とも思えるほどの人数と交わる
    詩的な記憶と彼は呼ぶ心に残ったのはテレザだけ
    そのテレザを手にしてもトマーシュの女性遍歴は止まらない
    女を求めるには二種類あるとトマーシュは言う

    1つは、理想を女に求めでも理想は現実には無い 叙情的なタイプ
    だから、求める続ける

    もう1つは、人間は99%類似性がある
    その僅か1%の差異を求める続ける探究心
    それは努力しないと得られるもの
    誰もが覗けない個々の差異である性行為
    の中にしか見えない
    叙事的なタイプ

    無論トマーシュは後者だった
    テレザはトマーシュを裏切りを知り、彼の愛と性行為は別だともわかるからこそ苦しみもがく

    私の貞節の上で成り立つ二人の関係とテレザは言う

    トマーシュの長年の愛人サビナは存在という重さに耐えられない軽さの女
    自分と相手の関係性が社会に保障され第三者に認められる事に耐えられず移ろう

    死した時は重い土の下では無く、灰となり軽く飛ばされたいそう願うサビナ
    存在に耐えられない軽さを持つサビナ

    人間の時間は輪となり廻るのではなく、真っ直ぐ前に走る
    これが人間が幸せになれない理由
    幸福は繰り返しへの憧れ
    人間は常に新しいもの、刺激を求めてしまう
    それが、突き抜けたトマーシュ
    そんなトマーシュを愛したテレザ
    重さに耐えられないサビナ
    彼らはやはり繰り返しへの憧れが強かった
    手に入らないからこそ渇望する

    誰もが愛し方を間違いそして最後に何を思うのだろう
    多分間違ったまま人は死ぬ
    愛とはまるで非合理で生産性がないからこそ尊いのだと思う

  • チェコを舞台に、左右の政治的動乱で揺れる中、男女の愛の在り方を、宗教、哲学的史観から描ききった格式高い小説。一人ひとりが愛の在り方に揺れるさまが愛しい。トマーシュ、テレザ、サビナ、フランツの愛に対する真摯さ。そしてカレーニンの愛くるしさ。愛のあり方を描く現代小説の名作。

  • むずかしいけど、目がひとつ増えたよ。頭のなかに新たな視点が。目が開くよ。ショッキングです。

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著者プロフィール

1929年、チェコ生まれ。「プラハの春」以降、国内で発禁となり、75年フランスに亡命。主な著書に『冗談』『笑いと忘却の書』『不滅』他。

「2020年 『邂逅 クンデラ文学・芸術論集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ミラン・クンデラの作品

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