ヴェネツィア 水の迷宮の夢

  • 集英社
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (152ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087732399

作品紹介・あらすじ

本書は、アメリカ亡命後の72年から17年の間、ほとんど毎年のようにヴェネツィアを訪れた詩人の、ヴェネツィア滞在の印象記。彫琢された、美しい文章の、散文詩のような51の断章からなる。ヴェネツィアの水と光をモチーフに、多くの隠喩やアフォリズムを織り込んだフーガのような作品。ノーベル賞受賞作家の小説、本邦初紹介。

感想・レビュー・書評

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  • 北のヴェネツィアと呼ばれた旧ソビエト・レニングラード出身のヨシフ・アレクサンドロヴィチ・ブロツキー(1940~1996年)は、1987年(47歳)にノーベル賞を受賞しました。

    「ヴェネツィア――水の迷宮の夢」は、彼が米国へ亡命後、何度も訪れ愛してやまなかった水の都イタリアのヴェネツィアを舞台にしています。悠久の歴史や水の流れがブロツキーの郷愁を誘ったのかもしれないな~なんて思える、しっとりとした大人の作品です。

    現代的なエッセイ調の散文詩のような小説で、水と光をキーワードに夢のような幻想的な美しさを表現しています。つらつらと眺めているうちに、人生の澱(おり)のようなものがいつのまにか洗い流されるよう(笑)。

  • 水は鏡、水は時。街路は迷宮で、冬のヴェネツィアは片思いの超美女、あるいは芥子と蜂蜜色の瞳の恋人なのです。愛してくれないと分かっても、通わずにはいられない。
    街の描写が美しすぎて、私もヴェネツィアに行きたくなってしまいました。

  • ①文体★★★★★
    ②読後余韻★★★★★

     この本は著者が17年間冬のヴェネツィアを訪れた滞在記となっていて、エッセイとも私小説とも読むことができます。
     本では著者によるヴェネツィアの心象風景が水と光をモチーフに描かれ、断片的な挿話が幾千もの水路でつながっているかのように展開されます。それらはヴェネツィアの都市そのものを彷彿させます。ヴェネツィアへ行かずして文章で味わえるこの本には、多くの隠喩が織り込まれ、著者の辛らつなアイロニーに満ちています。

  • ノーベル文学賞

  • 17年にわたる冬のヴェネツィアの旅の記憶を、「水の迷宮の夢」(副題)として結晶させた一冊。気ままなようでいて周到な計算を感じさせる断章の連なりは、迷路のようなヴェネツィアの街路や水面の影のように美しく、捉えどころがなく‥ただ、詩的ではあっても感傷的ではない。その辛口な味わいに痺れる。

    超美女、ミノタウロス、ほの暗い鏡の迷路、その果てに設えられた秘密の寝室。記憶、視線、冷気、灰色に閉ざされた冬の街。「ぼく」が見つめる辛子ー蜂蜜色の瞳。

    道具立てとムードは完璧、ストーリーらしいストーリーがなくても平気‥ではあるのだけれど、この種の読書には彫琢された日本語が欠かせない。いやいや、この種の文章は読者が耽美に浸るためにある、とまでは言わないけれど、例えばこういう翻訳はどうかと思ってしまう。

    「もしも今、読者諸君が閉口しているとすれば、それは他でもない、こういう創作上のなんじゃもんじゃが、そのうしろにあったからである。」

    なんじゃもんじゃ‥。そう訳す必然は、ほんとにあったのかい‥。

    翻訳次第では星5つの可能性もあったと思う。筆者がノーベル文学賞受賞作家ということを差し引いても、惜しい。(2018.5.16読了)

  • その町に住まないことで夢を見続けられるのかなという気がしました。

  • 2016/10/22 読了

  • ふらりと立ち寄ったCOW BOOKSにて購入。作品の魅力よりもブロツキーという存在を知り、その経歴に魅力を感じたのが購入の原動力だった。

  • 読友の方の推薦本。ブロツキーはロシア系アメリカ人で、1987年のノーベル文学賞受賞者。さて、本書は小説ということにはなっているのだが、プロットらしきものはまったくない。17年間冬のヴェネツィアに通いつめた著者が、その迷宮をさ迷い思索した記録がこれだ。トーンの全体は薄明、あるいは夜の中、また昼間でも濃い霧に覆われていたりする。水路にひたひたと打ち寄せる静かな波や、ラグーナの匂いなどを彷彿とさせる筆致だ。明るい夏の陽光の中にあるのとは、いわば対極的なヴェネツィアだ。冬のヴェネツィアの憂愁はまことに深い。

  • トーマスマンの「ヴェニスに死す」あるいはヴィスコンティ映画に触発されて、あらためて「ウオーターマーク」を読みました。

    ヴェネツィアを語る小説としては出色の短編。

    やはり終章が美しい。(引用に一部記載)

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