この素晴らしき世界

制作 : Petr Jarchovsk´y  千野 栄一  千野 花江  保川 亜矢子 
  • 集英社
3.31
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本棚登録 : 26
レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087733655

作品紹介・あらすじ

第二次世界大戦下。ナチスに占領されたチェコの美しい小さな町、青年ダヴィトをかくまうヨゼフとマリエの夫婦…。ファシズムの嵐吹きあれる極限状況を、解放の日まで、愛と勇気と知恵で生き抜く人間たちを、ブラックな笑いとヒューマンな感動で描く。「過去の歴史」とは言えない「戦争」のなかの恐怖。にもかかわらず人間の尊厳をまもる勇気・寛容・誠実さ・おかしさに誰もが胸をうたれ、涙があふれる。実話をもとに描く人間ドラマの傑作。映画「この素晴らしき世界」原作。

感想・レビュー・書評

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  • ナチスドイツ占領下のチェコが舞台。人々は、だれが自分を密告する敵になるのかわからない緊張感の中で生活している。主人公のヨゼフは、追放されたユダヤ人の隣家の隠し金庫を開けに忍び込んだ時、偶然にも逃亡して家に潜んでいた青年ダビッドとはちあわせ、見捨てることができず、自分の家にかくまうことにした・・・。

    「戦時下、ユダヤ人をかくまったある勇気あるチェコ人の話!すばらしい!!」
    ・・・ではないのだ。だからこの小説はすばらしい。

    そもそも、冒頭から盗みに入っちゃってる時点で、
    「一体どんな小説なんだ?」と思わせる。

    この小説の登場人物は、ことごとくみんな、「人間くさい」のだ。

    原題は「我々はお互いに助け合わなければならない」

    このタイトルの方が日本語のタイトルである『この素晴らしき世界』よりも、この小説にふさわしいことは間違いはない。

    決してみんな、「正しい」ことをして生きていない。
    だけど、自分の譲れない一線をもっていて、それはもう、生死を分けるようなラインで「われわれはお互いに助け合わなければならない」の精神を発揮する。

    その「われわれ」がチェコ人同士だけじゃなかったり、
    「助けましょう」じゃなくて「助け合わなければならない」であることに、想像を超える重みと希望があるのだと感じる。

    とはいえ、日本で育ってる私にとってそんなに理解しやすくもない。映画にもなっているのでそちらも見てみたい。

  • 「今の時代に子供なんて」という中盤のチージェクのセリフが一つの伏線になっている。この小説の一つのミソは、最終的に生まれてくる子供(彼の未来は分からない)を除いて、ただの一人も幸福な人間がいない事だ。再読だが、前回受けた以上の重みを最後の数ページに感じ取った。何もかもが重く、苦しみと喜びでできている、この素晴らしき世界。

  • 大戦時代のチェコが舞台。ユダヤ人問題なども絡んで、背景のお膳立ては抜群。ドラマチックにならないわけがない。

  • 第二次世界大戦中、ドイツに占領されたチェコで、チェコ人チージェクは隣人のユダヤ人ダヴィトを匿うことになる。チージェクの友人の振りをしたプロハスカは、既婚であるのにチージェクの妻、マリエにちょっかいをかけてくる。プロハスカはドイツ人に協力しており、チージェクは蠅のようにつきまとってくる彼をむげに扱う事は出来ない。ダヴィトを匿う負い目から、プロハスカを上手くあしらうことができない夫妻は、常に監視されている意識から精神を次第に消耗させていく。ダヴィトと妻の不貞を疑っていたチージェクは、プロハスカを騙すために吐かれた妻が妊娠したという嘘を信じ、妻との決別を決意する。チージェクは子供を作ることができなかったからだ。必死の妻の説得で疑いははれたが、よくよく考えてみると、本当に妊娠する必要が出てきた。
    戦況が段々と変化し、ドイツが不利になり始めると、プロハスカの立場は次第に複雑になっていく。ついに、ロシア兵が街を占拠するに至り、チェコは大きく変化する。ナチスに協力していた人間が裏切り者として処分される時代になったのだ。
    奇しくも時を同じくして、マリエは産気づき医者を必要とする。チージェクは医者を求めて街に出るが、逆に裏切り者として告発される。
    チージェクは自分がユダヤ人を保護していたために、ナチスに協力せざるを得なかったことを宣言し、そのために医者が必要であると訴える。彼の求めていた医者は、裏切り者として処刑されており、自らを重ね合わせる。偶然捕えられていたプロハスカをチージェクは医者に見立て、自らの家へ連れて行き、宣言が正しいことを証明する。
    家の中には、ロシア人、チェコ人、ドイツ人(ハーフ)、ユダヤ人と入り乱れて困惑の時代となった。
    それでも、一人の子供が生まれた。

    ストーリーは大まかにこんな感じ。冒頭の子供なんか欲しくないと訴えるチージェクとラストの混乱した時代での新しい生命の誕生が対比的でとても印象的である。
    暗い、本当にネガティブな世界を描いているのに、重さはあるものの辛さが抑えられており、前向きに生命を考えることができる作品になっている。

    ラストで、見殺しにしていいはずのプロハスカを助けるチージェクも、悪役でありながらどこか憎むことのできないプロハスカも等身大の人間味を兼ね備えている。困難な時代でありながら、忍耐に次ぐ忍耐を備えたチェコ人に小さい声で賛辞を贈りたい気持ちだ(大きい声は必要ない)。

    全体を通して素晴らしい物語と思うが、一章の訳が個人的にはしっくりこず、投げ出しそうになるのが非常に残念である。
    (読者はチェコ人ではないので、文学性を意識するより、もっと明快性に注意していただきたかった。原作と多少ずれるかもしれないが、ダヴィトがユダヤ人であるとか描かれていた方が遙かにストーリーを理解できると思うし、チージェクの独り言でぼくと俺が同居していたり、チージェクのイメージ像が掴み辛い。もっとも、訳者は病床で書かれていたとのことでそこまでの配慮ができなかったのかもしれない)
    と不満点もあったが、とても質の高い作品であると感じ考えさせられた。

  • 第二次世界大戦下、ナチスドイツに占領されたチェコの町でヨゼフとマリエの夫婦は連れ去られた近所のユダヤ人の身内、ダヴィトをクローゼット奥の隠し部屋に匿うことに。

    この三人を中心に、マリエを手に入れようとするドイツとチェコのハーフでナチスの仕事をするプロハスカ、ユダヤ人の家に入居したドイツ人のケプケ一家、隣人のランパーシュ一家と言った人々の繰り広げるブラックで人間的な温かみのある物語。

    ドイツが破れ、被支配者と支配者が逆転してからの人々の動きが人間の本質を出しているようで酷だったけれど、ヨゼフの機転やダヴィトの心の広さが救いだった。

    だけれど…プロハスカから身を守るために妊娠させる機能の無い夫との間に子供が出来たと言ったマリエの嘘を真実にするためにヨゼフがダヴィトとマリエを同衾させるあたりは読んでいて切なかったな…。

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