蟹の横歩き

  • 集英社 (2003年3月26日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784087733839

感想・レビュー・書評

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  • 旅した町グダニスクを再訪した気分に、目に浮かぶ港町の風景。
    ドイツ領時代に暮らしたドイツ男性と教会修復を生業とするポーランド女性の老いらくの恋。
    時は東欧革命の最中、ドイツとポーランド関係を見つめ直す小説。


    グダニスクは歴史ある街だけあって、その近郊にも見どころのある街がいくつかある。グディニャは外航船やフェリーが行き来する北の玄関口であり、ポーランド海軍本部もある軍港でもある。そのグディニャとグダニスクの間に位置するソポトは、海辺の一大リゾート地で立派なスパ施設が建ち並び、ヨーロッパ一長い木製桟橋 (Pier in Sopot / Molo w Sopocie)で有名だ。

    グダニスク、グディニャ、ソポトは「三連都市」(Trójmiasto)と呼ばれ、それら都市間のつながりも強い。グダニスク逗留の中でドライブをして、こららの街を訪ねてみた。

    ちなみに、グディニャに興味を持つきっかけとなったのは、ギュンター・グラスの小説『蟹の横歩き ヴィルヘルム・グストロフ号事件』を読んだからであった。この本の題材は第二次大戦末期、ポーランドから脱出するドイツ避難民を満載した船「ヴィルヘルム・グストロフ号」の事件。この避難に使われた船がソ連の潜水艦に撃沈され、9,400人が犠牲となる大事件が終戦間際に起きた。小説内では、沈没時の混乱の描写が興味深く描かれており、その後日譚とともにこの事件には強い印象を持った。それ故に、どうしてもグディニャを訪れてみたくなったのだ。

    ● ヨーロッパ一の木製桟橋を見学しに ソポト(Sopot)へ
    ● ポーランド最大の港 グディニャ(Gdynia)へ
    ● 小説『蟹の横歩き ―ヴィルヘルム・グストロフ号事件』 ギュンター・グラス著 を読む

    グディニャをもうひとつ有名にしている話がある。第二次大戦中、ポーランドがせっかくつくったグディニャ港はドイツに占領され、その期間のみ町は改名され「ゴーテンハーフェン」(ゴート族の港の意)となった。そして、1945年の大戦末期、迫りくるソ連軍に追われたドイツ民間人がドイツ本国に避難する際に脱出港として選んだのがグディニャ港であった。

    そのグディニャからの脱出で使われ、避難民を満載した船「ヴィルヘルム・グストロフ号」がソ連の潜水艦に撃沈され、9,400人が犠牲となる大事件が起こる。その沈没時の混乱の描写と物語を興味深く描いたのがギュンター・グラスの小説『蟹の横歩き ヴィルヘルム・グストロフ号事件』。グディニャを訪ねてみたくなるきっかけとなった本だ。

    この「ヴィルヘルム・グストロフ号」は乗客約1500名が乗船できる客船で、客室は463室もある。劇場やプールも備えており、豪華客船と言える。発注したのは、歓喜力行団(KdF)と言うナチスが国民に対して福利余暇活動を提供する組織。この組織と幹部のロベルト・ライによって、ドイツ国民に対して船旅であるクルーズが大々的に企画され、労働者に提供された。このような船は「ヴィルヘルム・グストロフ号」以外にも7隻も就航していたらしい。この船を発注した歓喜力行団(KdF)は、ヒトラーの国民車構想で生まれたフォルクスワーゲンの購入制度なども運営し、ナチス政権の人気獲得に大きく貢献していた。

    詳細はコチラ↓
    グダニスク近郊 ガイド 1 グディニャ / バルト海の三連都市 グディニャ、ソポトとギュンター・グラスの小説『蟹の横歩き ヴィルヘルム・グストロフ号事件』 を読む
    https://jtaniguchi.com/gdansk-gdynia-sopot/

  • 結局『ブリキの太鼓』を途中までで放棄した状態にある自分が、フクションかどうかの違いはあれ、本作を読めるのか、自信はなかった。ナチス体制に埋もれてしまい、歴史のタブーとされた本事件を、小説仕立てで読ませてくれるだけでも本作の価値はあろうというもの。未だ終わらぬという意味合いで語り手を現在に持ってきて、問題の根深さを浮き彫りにしている反面、横歩きであっちやこっちやに人物や背景が飛ぶ分、理解が追い付かなくなってしまうという事態も出来しました。読解力の問題化もしらんけど。これを機に、もう一度ブリキにも挑戦しようかな。

  • NHKの映像の世紀「ふたつの敗戦国 ドイツ さまよえる人々」という回にて紹介されていて、興味を持って借りた本。番組内では、戦後ドイツはナチスドイツの加害の歴史を薄めないためにも、ドイツの被害の歴史は特に語られてこなかったことが取り上げられ、確かに表題のヴィルヘルム・グストロフ号事件も知らなければ、東欧に住んでいたドイツ系住民の強制送還の歴史も知らなかったなあと。その強制送還された住民の中に、のちにノーベル文学賞を取ったグラスがいて…という話になっていた。月曜日放送後、瞬く間に県内の図書館が貸出中になっていたので笑、みんな見てるんだなと思いました笑

    本を開くと「忘レヌタメニ」の一文
    その後物語は「蟹の横歩き」をしながら進むーすなわち、実際のヴィルヘルム・グストロフ号事件が起きるまでの歴史と、事件の生き残りの母から沈没後生まれた主人公、その母にナチ化されていく息子、そしてその息子が引き起こす奇妙な鏡のような事件との間を。
    物語として面白く読ませるな、そして寓話性の中のメッセージがしっかり伝わってくるのも、唸ってしまった。

    特に本の最後、話の筋としても息子が極右思考にネットでハマり殺人を犯して服役している姿に向き合う中で、これで一件落着、とそうは問屋が卸さない。そうして日々向き合うことで忘れないように、これは昔のことではなく、今現在起きうる事象だということを心に刻みつけなければならないのだ。
    …長いことかかった。忌まわしい船の名前はウィンドーにあったが、新しい何もなく、しめくくりのためのこれはといったものはない。しかし、やがて恐れていた以上のすごいのがきた。特別の宛先のもとにドイツ語と英語でサイトが伝えてきた。《www.同志会 コンラート・ポクリーフケ de》。そのあり方と思想が模範的で、だからして体制に投獄された者。
    「われわれはきみを信じる。きみを待っている。きみに従う…」などなど、さらにまた、さらにまた。
    終わらない。決して終わらないのだ。

    息子は新たな偶像と化し、同じように・幽霊のように再生産されるドイツを守ろうとした悲劇の英雄というイメージ、、まさに「終わらない。決して終わらないのだ。」だ。脱力感、物語をどこか「めでたしめでたし」で終わり、現実世界とは別に区切りをつけて読めるものだという感覚を正面から指さされたような、そんな気持ちになった。(これぞ文学の力)

    また息子が裁判で、「…原則的にぼくはアンチ・ユダヤではありません。ぼくはヴィルヘルム・グストロフと同じ考え方で、ユダヤ人はアーリア人種のなかの異物だと思うのです。だからイスラエルへ行くべきで、そこがふさわしいのです。…」という発言を読み、そういう論理展開なんだ?!というのは初めて知ったな…。

    何はともあれ、映像の世紀を見なければ知らなかったし、そこできちんと出会えて読めたのはよかった。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:943.7||G
    資料ID:50300384

  • ナチス・ドイツ政権末期の、海運史上最悪の惨事。
    難民と海軍が満載に乗船したヴィルヘルム・グストロフ号沈没。
    乗船してた祖母、沈没時に産まれた父、教師の母、インターネットで発信する孫が、過去にからめ取られるように引き込まれていく。

    時代背景をよく知らないためか、前半が読みにくくて進まなくて意味もよくわからなくて難儀したけれど、後半からは理解しながら読めた。

  • 時代の異なる3つの「1月30日」をめぐる物語。異なる時代を貫いて語られる物語は、空間軸では分断国家ドイツの20世紀を照らすことに通じる。
    東西の異なる政体の国家に分かれて暮らす親子の間に物理的に存在した「壁」よりも、1990年代の現代人達を隔てる、存在しない「壁」の質感に不気味なものを感じた。

  • 【概要・粗筋】
    1945年、ドイツの客船ヴィルヘルム・グストロフ号はソ連の潜水艦によって沈没させられた。タイタニック号より6倍の死者を出しながらも、グストロフ号沈没について長い間タブーとされ、語られることはなかった。他方、グストロフ号沈没の生き残りである母、沈没の最中に産まれたジャーナリストの「私」、ネオナチの息子と、三世代にわたりグストロフ号と関わりを持ち続けるポクリーフケ一家。ノンフィクションとしてのグストロフ号沈没とフィクションとしての家族小説が渾然一体となった物語。

    【感想】
    固有名詞や詳しい説明なしの史実、コロコロと変化する時間と空間、語り手の言い回しなどやや読みづらい内容だった。ストーリー自体はなかなかよかったのだけど、その点がマイナス。

    ナチスの亡霊はずっと生きつづけるのだろうか。

  • 2010/5/24購入

  • 大変失礼な言い草かもしれないのですが、翻訳者の文章力がものすごいのではないでしょうか?池内紀訳。

  • 09/04/22読了
    過去と現在の時間が、まったく並行していきなり語り始められるもんだから、読み始めはえ??ええ??って戸惑ってたんだけども一回理解するとぐんぐん引き込まれる。
    個人の思想、家族の中の溝、戦争、どれも終わりなんてないのだろうなあと思う哀しさがあった。

  • グラスが、今までタブー視されてきたある船の沈没事件を描く。<br>
    主人公は船の話と母や息子の話を蟹のように行ったり来たり。<br>
    時折影が見え隠れするのは、顔の見えない誰かさん、しかしどこかで見たような…<br>
    事実と虚構が見事に入り混じって織り成すこの模様、グラスの鳴らす警鐘を聞け。

  • 物語の筋がとことん絡まっている。少しずつ姿が見えてくる。同時に人間関係が見えてくる。また因果関係も見えてくる。しかし恐ろしい書き方があるものだ。まったくどちらに向かっているのか判らない。そして歴史的な真実の話なのかフィクションなのかも判らない。
    インターネットをうまく物語に持ち込んでいる。そこで現代の読者としてはインターネットで調べたくもなる。まず、この船は実在したのか。これは船の名前で検索すればすぐ判る。アルファベットで入れたら恐ろしいほど簡単に実在の船の姿も、沈没時の絵も、現在の海底に沈んでいる姿も目にすることができる。
    こちらも調べながら読むのだが、どうも史実に沿っていると判る。歴史上に名前を残す人々以外のところにフィクションが入っているとおよそ見当を付けながら読んでいく。こういう読み方もあるのか、とふと自分の読み方に気が付く。そして、そういう読み方をするように、実は巧みに導かれていることに気が付く。
    20世紀の末期からこちら、文体や構成に新しい工夫を持ち込んだ本が増えているように感じる。それに比べるとかつて恐ろしい力を持っていると感じたブロティガンやボガネットの文章もおとなしいものに感じてしまう。
    しかし、それは文体の力だけではない。メールやホームページ、チャットと様々な断片的表現に今までない状況で出会い、また自らもこうして作っていることと繋がっている。そこでの読むという作業はまさしく断片を集める作業であり、集め方によって文体は変わるは言語は変わるは写真や動画も入るは、ともかく以前とは違う方法での知るという作業になってしまっている。文章もその影響を得て変化をしているということだろうか。まるで思いついた順に、若しくは知った順に並べた断片の集まりは今に生きる私たちにとって実はとても身近な表現方法でもあったようだ。

    ここで扱われているのは史上最悪の遭難事件である。数ですべてを語るのはおかしいが、この事件に比べるとタイタニックの事故は数段小さい。しかもこちらは人の手で撃沈されているのだ。第二次世界大戦という状況の中で大声で語られることのなかった物語だ。しかも船の命名から事件の日付まで恐ろしい符丁が起きている。思わず、この事件の真相(この本には実はきちんと書かれている)を探りたくなる。

  • 9千名を超える死者はタイタニックの4倍以上。史上最大の海難事故。氷が漂う真冬のバルト海。1945年の1月。敗色濃厚のドイツ。避難船となったナチスの豪華客船に乗りこんでいた多くは女性と子ども。魚雷を放ったのはソ連の潜水艦。一人の妊婦が救命ボートから駆逐艦に乗り移った。沈んだその日に生まれた語り手。船の名前の由来は暗殺されたナチスの幹部。その背景を調べ尽くす息子。右傾化の果てに訪れる悲劇。戦中、戦後、ネットの時代を前後しながら語りは進む。…まだまだ知らない歴史の出来事。1つ見出す毎に世界観は変わる。

  • 2024.12.16

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著者プロフィール

第二次世界大戦後のドイツを代表する文学者。1999年にノーベル文学賞受賞。代表作に『ブリキの太鼓』『女ねずみ』『はてしなき荒野』などの小説のほか、戯曲や彫刻、版画なども多数。
1927年、バルト海沿いの港町ダンツィヒ(現ポーランド領グダニスク)で生まれ、子供時代を過ごす。1944年に召集され、武装親衛隊員となる(2006年発表の自叙伝『玉ねぎの皮をむきながら』で明らかにした)。終戦を米軍の捕虜としてむかえ、1946年に釈放後は農園を手伝うなどした後に、墓石店で働きながら美術大学で彫刻等を学び、詩や戯曲を書き始める。1958年に『ブリキの太鼓』で47年グループ賞を受賞、翌年に出版され、高い評価を受ける。『猫と鼠』『犬の年』は『ブリキの太鼓』とあわせて「ダンツィヒ三部作」と呼ばれる。政治にも関わり続け、ドイツ社会民主党の党員として選挙運動を積極的に行ない、『自明のことについて』などの評論集を発表する。他に『鈴蛙の呼び声』『私の一世紀』『蟹の横歩き』など。2015年4月13日死去。

「2025年 『犬の年 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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