カーテン 7部構成の小説論

  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087734355

作品紹介・あらすじ

ミラン・クンデラ最新評論集。『ドン・キホーテ』を中心に、カフカ、フロベール、トルストイ、大江健三郎らの作品を読み解き、「小説」という芸術の魅力を語る「クンデラ版世界の小説史」。

感想・レビュー・書評

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  • クンデラの小説がなんでああなのかその前提にある気持ちととの源泉が何なのか書いてあるように思うんだけどむしろ作品を読んだ時に感じたものの方がずっといい感じだった気がする。それはこの小説論が悪いってんじゃなくて実作、小説の形でその論に輪郭を持たせてある方がずっといいという感じ。

  • 評論集ではあるが後書きにもある通り7部構成・主題の反復というその形式は小説的でもある。読者家としてのクンデラはラブレーやセルバンテの様な古典作家がいかにカーテン=紋切型の表象を切り裂き、喜劇によって世界がそうであるものと思われていた意味を剥ぎ取っていったのかを示していく。語りの通底として諦観が透けて見えるのは、いつになく直接的に示される亡命者としての悲しみに、滅びやすいものである芸術の歴史が重ね合わされているからだろうか。美しいものは決して不滅ではない、だからこそそれは語らなければならないものなのだ。

  • ミラン・クンデラというと、作家として世界的に有名ですが、文学の読み手としても尊敬を集めているようです。そんな彼が小説とは何か、を古今の作家を例証しながらわかりやすく解説してくれます。

    悲劇とは程遠い、偉大さの欠片もないドン・キホーテの凡庸な死に様に、『人生を理解することに努める』という、小説という芸術の存在理由を見出します。
    アンナ・カレーニナの自殺、冗談みたいな状況に本当らしさをかぶせるカフカの長編小説、場面が叙述の陶酔した波のなかに溶かし込まれてしまう『百年の孤独』…。
    近代の小説は予備解釈というカーテンを引き裂き、かつて言われたことのなかった散文的な人間の美を発見しつづけてきました。

    しかし、芸術としての小説をとりまく社会環境は厳しい状況にあります。世界文学を利己的な専門家根性で地方に押しとどめてしまう大学のエゴや、抒情的・感動的なヴェールで人の在り方を覆い隠してしまうキッチュの蔓延、芸術の先行きについて著者は悲観的です。

    日本に近代文学が根づいてまだ、100年ちょっと。もう文学の時代が終わってしまうと考えると寂しいですね。これからもずっと文学の旅が続くよう、願ってやみません。

    文学評論だけに、ある程度予備知識があったほうが、クンデラの慧眼をより楽しむことができるでしょう。
    本書で扱われていた小説を思いつくままにあげると
    セルバンテス『ドン・キホーテ』
    ドストエフスキー『白痴』
    トルストイ『アンナ・カレーニナ』
    フロベール『ボヴァリー夫人』『感情教育』
    カフカ『審判』『城』『火夫』
    ブロッホ『夢遊の人々』
    ムージル『特性のない男』
    大江健三郎『人間の羊』
    マルケス『百年の孤独』
    などなど。

    余談ですけど、クンデラのような国語の先生に教わりたかった(国語という言葉自体、世界文学の精神に反していますが…)。この本も高校の教科書で使えばいいのに。

  • 「小説の精神」よりは面白くなかった。

  • 雑誌・文藝(2009年冬)のアンケートの答え:千野帽子

  • 現在もフランスに亡命中のチェコ人作家ミラン・クンデラによる文芸批評書。

    何回も読み返したが、今また一年ぶりに読み返しています。

    ミラン・クンデラ氏は筋金入りの小説家。
    小説というものに人生をかけた人ゆえに書ける、現代において生きることの意味が詰め込まれています。また、「小説」というものが生きる上でのツールである事、つまり「小説」はめまぐるしく変化し、巨大な世の中を可視的にするために唯一無二のツールである事が、本書で実感できます。

    見えていないものを見るには、まず言語による認識を構築し、メンテナンスする事が大切で、それは生きる上でのリスク管理であると思います。クンデラ氏の筆致は、読む人の五感を研ぎ澄まし啓発する力があります。そして、認識する為には「無駄なものを一切剥ぎ取り、事物に魂に向かっていく」事が肝要である。心にメモしておきたい言葉が本書のページをめくるごとに溢れ出してきます。

    よって本書は、文芸批評という形式を取っていますが、応用度は深いです。
    チェコという社会体制がそっくり入れ替わる歴史がある国で、共産主義と資本主義ふたつを経験してる人というのは、そうざらにはいません。「現代では、それまで動いていないと思っていた足元の地面が実は動いていた」といった言葉は特にハッとさせられました。

    不景気な世の中で心を強くできる本です。

  • ヨーロッパとは最小の空間の中の最大の多様性であることになぞらえて、人生=散文を、欺瞞的に美化聖化し覆い隠している宗教/イデオロギー/歴史/社会・文化的伝統・教育/世界解釈・認識という人為的「カーテン」を引き裂き、人間の本質と不可分の喜劇性(卑俗/喜悲劇)実存の未知や謎を明るみに出すのが小説とする文化文学論。

  • ミランクンデラはわりと好きな作家。最近久しぶりに買いなおして読みました。何回でも読める本。

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著者プロフィール

1929年、チェコ生まれ。「プラハの春」以降、国内で発禁となり、75年フランスに亡命。主な著書に『冗談』『笑いと忘却の書』『不滅』他。

「2020年 『邂逅 クンデラ文学・芸術論集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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