蛇にピアス

著者 :
  • 集英社
3.08
  • (191)
  • (463)
  • (1438)
  • (354)
  • (143)
本棚登録 : 4970
感想 : 813
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087746839

作品紹介・あらすじ

舌を二つに裂き続ける少女。神の名を持つ異形の青年達。暗い時代を生き抜く若者の、受難と喪失の物語。第27回すばる文学賞、第130回芥川賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 主人公の少女は、痛みとともに舌ピアスを次々に拡張してゆく。
    描写が結構すごい。過激だが、物語に引き込まれ一気に読み切った。

  •  歳をとらないと深く理解できない小説があるように、歳をとってしまうと深く理解できない小説がある。金原ひとみの『蛇にピアス』は後者に属する小説だと思っている。『蛇にピアス』はスプリットタンや舌ピアス、タトゥなどの身体改造を通じて、生きていることの痛みや切実さを描いている。僕は10代の時にこの小説を読んだが、この時期に読むことができて本当に良かったと思う。今読み返しても、10代の時ほど生きることの痛みの切実さが感じられないんじゃないかかなと思っている。
    『蛇にピアス』でモチーフとして扱われているのは、タイトルにある様にピアスやスプリットタン、タトゥといった身体改造だ。主人公のルイは、アマと同棲しながらも、サディストの彫り師シバとも関係を持っている。アマは舌にピアスを入れており、舌先が二つに別れたスプリットタンになっている。ルイはアマのスプリットタンに影響を受けて、自らも舌にピアスを入れ、タトゥを彫り、どんどんと「身体改造」にはまっていく。痛みを通じてしか生きることの実感を得られないアマの痛みと快楽、愛と絶望が描かれている。
     アマやルイ、シバたちは、ピアス・タトゥーといった身体改造を通じて、アンダーグラウンドで生きるということを身に深く刻み込む。身体性や痛みを通じてでしか、生の実感をえられず、死や暴力的なものを渇望する。『蛇にピアス』は、若さ特有の毒で溢れている。頭で考えながら読む小説というよりかは、考えずに身体で感じる小説だ。

  • ルイ
    見た目はギャルだが、その容姿からコンパニオンのバイトでは男ウケが良い。ドM、19歳、本名は中沢ルイ。

    アマ
    蛇のように分かれた舌(スプリットタン)に加え、背中には龍の刺青、左眉と下唇にそれぞれ3本の針型ピアスを刺している。更に髪型は真っ赤なモヒカンというド派手な外見をしているが、性格は優しく、大好きなルイのことになると心配性で情けない。古着屋でアルバイトをしている18歳、本名は雨田和則。

    シバ
    パンクな店Desireの店長で、アマの龍を彫った彫り師。顔面ピアスだらけ、身体中カラフルな刺青だらけで、スキンヘッドの後頭部には龍、右の二の腕には麒麟が彫ってある。かなりのドS、男でもイケる変態。本名は柴田キヅキ。



    ある日ルイは、知らない曲ばっかり流れる異質なクラブでアマにナンパされ、その舌に魅せられた。お持ち帰りされてから、アマの部屋で同棲するようになり、いつの間にか恋人のような関係に。

    スプリットタンに興味を持ったルイは、アマと共にDesireへ行き、シバを紹介される。シバはスプリットタンの第一段階としてルイの舌にピアッサーで穴を開け、ドMなルイを甚く気に入る。ルイは刺青も彫って欲しいと言い、シバから連絡先を手渡され店を後にする。

    後日、ルイは友達のマキにアマを紹介する。初めは怖がっていたマキだったが、「怖くてごめんね」と謝るアマのギャップに大ウケし、三人は居酒屋でベロベロになるまで飲んだ。それから店を出て歩いていると、ヤクザ二人に絡まれる。男がルイのワンピースの胸元に手を掛けたとたん、アマがブチ切れ二人をボコボコにする。「ルイの仇、取ってやった」と無邪気な笑顔で愛の証(男から引き抜いた二本の歯)を差し出すアマに、ルイは恐怖を感じた。

    次の日ルイはDesireへ行き、シバと刺青のデザインについて話す。デザインが龍と麒麟に決まった後、シバに押し倒され、ドMのルイは受け入れる。性行為の後、「アマと別れたら俺の女になれよ」と言われる。

    アマの部屋に帰り二人で過ごしていると、ふと小さな記事に目が止まる。『新宿の路上で暴力団員撲殺される』内容を読んで、そんな訳ないと思いつつも、ルイはアマの髪を染め、外で目立つなときつく注意し、アマが捕まりませんようにと祈った。

    Desireで龍と麒麟の刺青を入れる際に、ルイはシバに瞳を入れないでとお願いする。「画竜点睛の話、知ってる?瞳を描いたら、飛んで行っちゃったってやつ」シバは頷き、施術を行なった。

    刺青を入れ終えてから一ヶ月以上が経ち、ルイの精神は不安定になっていく。アマに心配されても酒とつまみしか口にせず、ガリガリに痩せ、現実感の無い日々を過ごす。そんなある日、シバからの電話で、警察が龍の刺青を入れた人を探していると知る。シバに会い、その痩せ細った身体を心配される。性行為の後、結婚しようと言われる。

    その日、アマは帰ってこなかった。何の連絡もないのはおかしいとシバに相談し、撲殺の件を打ち明ける。二人で警察署へ行き、シバは捜索願とアマが上半身裸で写っている写真を出した。

    アマのいない部屋に帰り、泣き、怒り、歯を食いしばっていると、ガリ、と虫歯だった奥歯が欠けた。欠けた歯をかみ砕いて飲み込んだ。
    私の血肉になれ。何もかも私になればいい。何もかもが私に溶ければいい。

    泣きながら舌ピアスを拡張する。昨日4Gから2Gにしたばかりの穴に0Gのピアスを差し込む。ビリビリした痛みが走る。一気に、奥まで押し込んだ。
    「お前、何してんだよ」とシバに止められ、涙と血が落ちた。説得されてピアスを外す。
    シバの電話が鳴り、横須賀で龍の刺青が入った死体が発見されたと伝えられる。死体はアマだった。

    その後の警察の情報で、アマが男にレイプされてた事、陰部に挿入されていたお香の種類を知り、ルイだけが犯人に辿り着く。アマを殺したのはシバ。

    しかし、ルイがとった行動はDesireにある部屋のお香を変え、シバに髪型を変えて欲しいと伝えた。アマが殺人を犯したと知ったあの日のように。

    その夜、シバが眠った後、ルイはアマの愛の証をトンカチで粉々に砕き、ビールで飲み干した。愛の証は自分になった。次の日には、龍と麒麟の刺青に瞳を入れて欲しいとシバに頼む。龍と麒麟は目を持つ。命を持つ。龍と麒麟と一緒に、ルイ自身も命を持つ。

    翌朝、ルイがペットボトルの水を飲むと、まるで自分の中に川が出来たように舌の穴を水が抜けて、体の下流へと流れ落ちていった。
    シバは布団に入ったまま、夢の中で、友達との待ち合わせに遅れて、五、六人に囲まれ、ラップで怒りの歌を歌われたと話す。
    ルイは、起きないシバを見ながら、00Gに拡張したら、川の流れはもっと激しくなるんだろうか、なんて考え、眩し過ぎる陽の光に目を細めた。





    重い内容だった。
    スプリットタンのやり方や、アマやシバの度が過ぎたピアス、性癖、ルイの心と体、内臓を掴まれたようなグロテスクな映像を見た時のような、あの感じがずっと付き纏う。

    人を殺すほどルイが好きなアマ。
    ルイを殺したいほど好きなシバ。
    どっちも危険な龍と麒麟。画竜点睛から、瞳を入れると飛んで行ってしまうというが、アマは行ってしまった、じゃあシバは?
    ルイが龍と麒麟に瞳を入れた理由は?

    シバを殺して自分も死ぬ=瞳を入れて飛んで行く、という考えもあったが、ルイの性格的にも、シバを恨む感情も見えてこなかった事から、違うかな。

    難しいのか、どれも意味があるのか無いのか自分には分からなかったし、最後の場面は謎過ぎたが、一つの答えに繋げて考えると納得できた。

    食べたパンのイースト菌の匂いに、吐き気がした。
    アマの愛の証は、身体に溶け込み、私になった。
    龍と麒麟と一緒に、私は命を持つ。
    シバさんは、もう私を犯せないかもしれないけど、きっと私のことを大事にしてくれる。大丈夫。
    舌の穴を鏡に写してみると、肉の断面が唾液に濡れ、テラテラと光っていた。
    ひどく喉が渇いている。
    まるで自分の中に川が出来たように、涼やかな水が私という体の下流へと流れ落ちていった。

    きっと、ルイはアマの子を妊娠していた。
    二人がセックスをした時、いつもアマは失敗してルイの性器に射精し、申し訳なさそうに謝っていたが、結果的に生きる意味をルイに残した。

    個人的には人殺しのシバとは上手くいかないだろうし、間違ってると思う。ルイはそんな彼でも大丈夫、と自分に言い聞かせているが、たぶんシングルマザーとして、子どもと共に強く生きていくことになるだろう。

    読み終えただけでは気付けなかったことが、感想を考えているうちに出てきて、この作品が芥川賞受賞作という事にようやく納得できた。

    もしかしたら良い小説は、読み終えた先で見つかるのかも知れないと思った。

  • 芥川賞を受賞されたとき、同時受賞の綿矢りささんとあまりにも対照的でそれが印象的だった。内容は過激だった(自分には知らない世界の内容だった気がする)。奥が深そうだった。

  • 行きつけの心療内科に置いてあった本です。
    舌にピアスをしてスプリットタンにしたり、入墨を掘ったりと、自分の身体を傷つける様な女性主人公が、二人の男に抱かれながら進む本。

    淡々と書かれた文章で、あまり気持ちの良い内容ではないです。

  • 中三春、読了。
     友達に勧められて読んでみると、意外と面白かったです。ページ数が少ないので、すぐ読めました!
     映画ではどこまで映してるんだろう...

  • え~~、、、舌を蛇やトカゲのように二股にする、、、わたしはピアス穴あけも嫌なのに、、、悲鳴をこらえながらの読み始めはつらかったが、スピードのある才能がキラキラしている巧な文章で、なかなかおもしろい、あっという間に読了、終わってみればSMの世界にとっぷり漬かっていたらしい。引きずり込まれてしまったというか、サディスティックにしろマゾヒズムしろ、文学的世界に身近な人生が関わってくるのかもしれない。金原ひとみさんの次作を読んでみたくなった。

  • 再読。こんなかんじだったっけ。

  • 読んでいる間は楽しみながら読んでいたが、読み終わると悲しく、胸がちくちく痛んだ。わたしももうすぐ成人という歳のため、自分とは全く違う境遇とはいえ、登場人物に少なからず自分と同じようなところを見つけ重ね合わせた。

  • 一時めっちゃ有名だったし、作者もテレビに出てたから気になってはいたけど、まさかこんな話だと思わなかった。笑笑

    なんだろう。一言でいうと。
    若者の惰性と性生活。であろうか。
    笑笑!ピアス、酒、刺青、ギャル、パンク、歯。

    芥川龍之介がいたら称賛するような本なんだろうな。いや、わからんが。芥川龍之介ってどんな本書いてたっけ?と思うくらいに、なんとも惰性の先の惰性のその上の惰性のようななんとも言えない脱力感。

    それでも、一応犯人は?みたいなのも根底にあるから、そんな感じなのかなぁ。わからん。わたしにはわからんけど、なんか胃もたれのような読後感です。

    泣けも笑いもスッキリもホッコリもしないで、ただひたすらなんとなく胃の奥がムカムカするようななんとも言えない感じ。読んで。読んだらわかるはず。

    読書初心者でも読めるくらいに読みやすいし!でも、なんとも言えない読後なんだけどね。

全813件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『デクリネゾン』等。

「2023年 『腹を空かせた勇者ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

金原ひとみの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×