- 集英社 (2015年5月1日発売)
本棚登録 : 326人
感想 : 53件
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・本 (192ページ) / ISBN・EAN: 9784087754254
作品紹介・あらすじ
暗くて地味、コミュニケーション能力皆無の実緒。奇妙な片思いの先にあるのは破滅か、孤独か、それとも青春か。今までにない感情を抱くことで、新たな作品を生み出す女性作家のグレーな成長小説。
AIがまとめたこの本の要点
この本を表す言葉
みんなの感想まとめ
独特な視点から描かれる成長物語は、主人公の実緒が抱える孤独やコミュニケーションの難しさをリアルに映し出しています。彼女の「透明人間」という自己認識は、心の自衛とも言える独特な発想であり、共感を呼びます...
感想・レビュー・書評
-
東京の電車は不思議だ。徹底された無関心で満ちている。乗客が多いときも少ないときも、雰囲気はさほど変わらないように思われる。(p.21)
限界に達したときになにを発すればいいのか、分からないのだ。正しく怒鳴ったり泣き叫んだりできるのは、才能の一種だ。感情と肉体の連動が密でなければならない。(p.24)
…朝日が昇り始めていた。ビルとビルのあいだに、熟れた桃色の空が見える。看板と窓が敷き詰められた雑多な街を、清らかな光が舐めていく。眩しさに目は痛み、耳の中ではまだ電子音が鳴っていた。(p.25)
好きな人と付き合いたいという願望は、実緒にはない。話をしたいとも思わない。自分なんかに関われば、相手の素晴らしい性質はきっとマイナス値に傾き、損なわれてしまうだろう。(p.28)
ふと、自分は誰の視界にも映っていないように感じた。手助けしようよない相手には、あえて注意を向けずに恥をかかせない。必要以上の関心を持たないことは、東京ではマナーだ。(p.31)
私はとっくに、ずっと、ずうっと前から透明人間だったんだ。
朦朧としたまま、服を脱いでユニットバスに入った。頭から湯を浴びても、骨の芯が折れたような感覚は消えなかった。水滴がずるずると皮膚を這い、バスタブの底へと下りていく。排水口の渦は、妙に蠱惑的に実緒の目には映った。飲み込まれてしまいたかった。(p.35)
恋愛やセックスの知識以上に、実緒が虚しく思っているのが性欲だった。日ごろはあまり感じないが、ときどに衝動的に込み上げてくる。そのたび実緒は、壊れた車にガソリンが注がれるようなものだと、神に類する存在を恨みたくなった。行き先を持てないのだから、燃料を注入しないで欲しい。しかし、性欲は本能の一つなのだった。(p.42)
…どうせ無理だからと諦めているわけではなくらそういうふうに世の中はできていないと、なかば悟りの境地だった。魚と人間はつがえない。摂理であり真実だ。(p.46)
まだ五時だというのに、ビルや看板の背後には、すでにうっすらと日没の気配があった。暑さを置き去りにして、少しずつ確実に日は短くなっていった。(p.79)
憧れとは、他人を介した向上心の形だ。そして世の中には、向上心を持つことを許されていない人間もいる。上に向かいたいと思うことが、今いる場所を離れたいと願うことが、身のほどというルールに抵触していしまう人たち。尊敬の念こそあれど、実緒には誰かに憧れるという感情はほとんどなかった(p.98)
実緒は電話が苦手だった。そこには会話しかない。表情というヒントのない状態で、相手の思考を読み取る高度な技術が求められる。(p.109)
彼女たちは皆、華やかな学校生活を過ごしたように思え、そんな人たちが扱う商品を、自分みたいな人間が触れること自体に違和感があった。(p.113)
海がこんなに強く光るものだと知らなかった。波がこんなに儚く砂浜に吸われていくものだと知らなかった。いつかは消えゆくとしても、飴玉を噛まずに舐めきるように、自分はきっとこの記憶をしゃぶりつくす。(p.148)
「別れたら、離れたら、過去になったら、いい思い出は薄れていくよ。嫌なことはいつまでも生々しく残るけど、幸せは呆気なく風化しちゃう。心の底から大事なことは、現在進行形で抱えていかないとだめなんだと思う。二人がどうすればいいのか、私には分からないけど、でも、いづみちゃんのことをずっと鮮明にしておきたいなら、別れちゃだめだよ」(p.159)
小説を書く人物は、表も裏も作者の掌中にあるが、現実の人間を百パーセント知ることは難しい。自分の外にいる、実は下心のあったいづみも、自分の中にいる、清らかでしなかったいづみも、どちらも本物であり、また、偽物なのかもしれない。人と関係するとは、単に相手と交流を持つことではなく、己の内部に自分だけのその人の姿をきづいていくことで、だとしたら、得意の妄想に少しだけ似ている。(p.165)
小、中学校と気味悪がられ避けられていた実緒。どうしても周囲から浮いてしまう自分を嫌い、自己肯定感を下げ、好きな人と一緒になりたいという願望さえ、どうせ無理と諦めてしまっているのに共感できるような。そうして塞ぎ込むと余計、孤独感が増していくのだが、実緒は妄想の中で物語を紡ぎ、透明人間になって自分の体験できないことをしに出掛ける。とてもアクティブな人間なのではないのかと思う。過去の成功に縋りつきたく、自分が幸せだった時の記憶からどうしても逃れられないときもあり、苦しくもがいていた。気になった人の家までストーカーしたり、飴の包み紙や髪の毛を取って置いたり、常軌を逸しているところがあるが、小説を書きたいと思った時、物語が綴れる、妄想の中では理想の人間で生きられる。2つの人生を生きているようで、実際にこんな人がいたら面白いと思った。ステレオタイプに閉じ込められている彼女が解放されたら、どんなに素敵な物語ができるのだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これは確かにグレーな成長物語だった。
実緒の言動行動はマジで褒められたものでは無い。でも、なんかそこに至っちゃうのも分かっちゃうんだよね。私もコミュ障だからですかね。
自分を透明人間だと思い込むっていう発想は独特で不思議。これも実緒なりの心の自衛だったんだろうか。
実緒が少しずつ成長して行けたのは確実にいづみと春臣のおかげで、どうかこのまま上手くいってくれないかなと思わざるを得なかった。でも、これである意味よかったのかもしれない。 -
最初、「え、ストーカーの話?」とページをめくる手が止まるけど、読み進めてゆくうちそうでなく、自分の居場所を見つける話かなと。夢を追う姿はすがすがしかったです。
-
孤独だ。そして独りよがり。
甘く自由な妄想の世界と、寂しい現実を行ったり来たり。
全裸生活が、特に自由で孤独で気持ち悪くて、素晴らしいと思った。
きっと彼女は、孤独でなければ小説を書けないのではないだろうか。
だけど孤独で痛くて可哀想であり続ける彼女の小説ならば、わたしは誰よりもそれを読みたい。 -
主人公の状況からすれば、自分にあちこち重ねて苦しくて苦しくて読みたくなくなっても不思議じゃないのに。
苦しくなかった。
私の中の深海に沈めている私の一部に、そーっと細いストローで酸素を送ってくれるような小説だった。
主の物語だけなら苛々しそうなところも多いし、クライマックスに至る流れは少し弱くて不自然に思うのだけど、文章の丁寧さと作中作の美しさがそれを救っている。
初めて読んだけど、比喩が抜群にいい作家だなぁ!
そして作中作の魅力的なこと。
それぞれ独立した小説として読みたい!
今後の作品がとても楽しみだ。 -
あまりにも生きるのが下手な主人公の姿に、
どうかこれ以上辛いことが起きませんようにと
祈るような思いで読み進めていました。
・・・最初のうちは。
でもそうじゃなかった。
彼女にとって一番つらいのは、本が書けないことで
そのためだったら、どんな奇行だって誤解だって
望むところなのだ。
だって、彼女は作家だから。
そんな彼女が書いた本は、どんな物語だったんだろう。
読みたい。。。めちゃめちゃ読みたいぞ。 -
新聞の書評で紹介されていたのでメモに残しておいた作品。
ふと読みたい本の隙間が空いたのをきっかけに図書館で借りて読むに至る。
ものごとの背景を知られないことの残酷さと哀れさを痛感させられるラストだった。 -
実緒は高校3年生の時、新人賞を受賞。
今はスランプで小説は一作も書けていない。
ある時、書店で自分の本を手に取る男を見掛けあとをつける。
会いたくなったら透明人間になり彼の部屋へ行く。
あるきっかけから、彼の恋人と仲良くなる。
いつもひとりだった実緒。
楽しい夏の思い出も作ることが出来た。
実緒の友情は続き、新しい小説を書けるのか。
実緒の世界観に引き込まれしまうと
それがどれ程危ういのか分からなくなってしまう。
その世界観が心地よく、実緒に親近感を覚える。 -
著者のデビュー作「左目に映る星」を読んですごくいいな、好きだなと感じ、
今作を期待度大で読み始めたのですが、出だしから素晴らしかった。
――目に見えない本がある。
なんのこっちゃって感じ。タイトルからSFものかな、とか想像したりしていたんだけど出初めからガシっと心つかまれてしまった。さらに続く。
――書棚にあるその本を、誰も手に取らない。視線も向けない。インターネット上の書店においても同様で、在庫数はいつ確認してもまったく減っておらず、読書家が集うSNSにも、もう一年以上、新しい感想は投稿されていない。実はこの本は自分にしか見えないのではないかと、実緒はときどき不安に駆られた。しかし、現実に本はある。書店で触れることも可能なら、新聞の書評欄で紹介されたこともある。本は確かに存在している。
だけど見えない、私以外の誰にも。
物語の主人公である実緒は高校生のときに佐原澪というペンネームで新人賞を受賞し小説家となる。茄子紺色のカバーの本を出版し、インタビューもたくさん受け、大学には進学せず上京をするも、それ以降物語を書けないまま5年が経ち23歳である。
上記の出だしは実緒の単なるエゴサーチである。自分という作家が確かに存在していたこと、あるいは存在していることの確認。世間が自分を見出してくれているか、忘れ去られていないか、あるいはとっくの昔に忘れ去られてしまっているのかの確認である。
あるとき実緒は自分の本が未だに置かれている書店を発見する。右隣は映画化常連のベストセラー作家、左隣には還暦を超した大御所作家。その間に居心地悪そうに収まっている自分の本を発見して以降、それがそこにあることを確認することも日課のひとつになった。
ある日いつも通りに書店に向かうと、青年が自分の本を引き出そうと指をかけている場面を実緒は目の当たりにする。青年はぺらぺらとめくっただけですぐに書棚に戻してしまい、結果として購入には至らず依然として本はそこにあり続けるのだが、実緒は青年を失いたくない衝動に駆られ尾行し、住まいをつきとめる。
そしてそれから一切書けなかった小説が、実緒の頭の中で物語として動き、形となる。出来上がった掌編を青年・千田春臣の家のポストへつぎつぎと落としていく。やがて実緒はFBに登録し春臣のタイムラインをみることも日課となり、春臣の彼女・いづみのタイムラインものぞき見をする。小説家志望であるいづみとひょんなことから繋がり、現実の世界でも春臣といづみと友人となるなかで、実緒は依然として掌編を春臣のポストに落とし続ける。。。という物語。
ハッピーエンドか、バッドエンドか。はたまたなにも起こらないのか、実緒の不器用さが痛すぎて、読んでいて怖くなった。いつ崩壊してしまうのか、はらはらしたけど、想像したよりも哀しい崩壊ではなかったのがまたよかった。出てくる人物みんな優しい。ずるさとか卑しさとかはあるにしろ、優しい気がした。だから崩壊した直後のラストを読んだときは震えた。きっと、この先の実緒は小説家として輝かしい未来が待っているんだろうな、と。
表紙絵がすごくきれい。淡くて現実と非現実がまじりあった感じがすごく好き。とても繊細な物語で好感度高かったです。次回作も楽しみ。久しぶりに読んでて静かに興奮した。 -
2022.9.16
-
-
あまりにもいびつで、だけどそれは自分の感情と言動がつり合っていないから。
自分は小説を書きたい。だから小説を書く。
そう思えた彼女はきっとどこまでも強くて、それが幸せかどうかなんて私たちの物差でははかれない。
彼女はどんな小説を書くんだろうか。 -
内在する圧倒的な孤独感や淋しさに私の心が共鳴する。生い立ちやスクールカーストで、自分の存在を脅かされる経験を重ねたと思う。誰からも求められていない、繋がっていない。気にしてもらえない、自分には価値がないという哀しいまでの思い込みに抗えず、苦しむ様の描写が上手。
-
主人公の異様なところごと包み込んで透明なように感じられて、透き通って柑橘系の香りのする綺麗な水のようだった。いびつさを拒絶するよりも、はずれ者な主人公に何となく寄り添えてしまった。読み方として間違っているのかもしれないけれど、空気にも爽やかさを感じた。最後は地に足を着けた風。ふわふわなそれまでの方が引き込まれたけれど、全体として良かった。
-
友達のいない孤独な学生時代を過ごしていた実緒は、高校生の時にとある出版社の新人賞を取ったものの、その後新しい作品を書くことが出来ずにいた。
独特の感性を持った実緒に共感は出来なくとも、小説を書く人ならではのものなのではと、興味深く読みました。
人とコミユニケーションをとるのことが苦手で、その結果妄想する楽しみを見つけた実緒、春臣に対してストーカー紛いのことをしてしまったり、全裸で暮らしていたりと言うのは、少し病的なものを感じてしまいました。
結末はある程度は想像通り。
もしかしたら、春臣から誰かの手に渡ってというのも考えましたが、結果は渡瀬で良かったという所でしょうか。
同年代の子供の発する「身の程を知れ」と言う言葉の残酷さに胸が詰まりました。
-
誰にも手に取ってもらえない、茄子紺の背表紙の小説。
それは、6年前に発売された実緒のデビュー作だった。
絶滅危惧種を見守るような気持ち半分、自著が買われる瞬間を見たい願望半分で、実緒はたびたび書店を覗きに行ってる。
ある日、自著に手を伸ばした青年を目撃した実緒は、彼のあとをつけてしまい……
友達がいなくて息苦しい学校生活を送っていた、コミュニケーション能力皆無の主人公。
ちょっとじれったくなりつつも、登場人物が増えてきたあたりから楽しく読み進めた。
途中まで「こんなことある?」と思っていたが、終わりに向かうにつれ夢から覚めていく感じがあって、現実ってそんなものだよなぁと逆に元気になれた。
「グレーな成長小説」本当にその通り。 -
終わり方がすごいムズムズする。
スッキリしないし何も感じれなかった -
他者とコミュニケーションとれない人はいるとしてもこんなにも歯車ずれてしまう関係はだめです。
本当に本があって良かった。
そのための才能なんだとしたら無理に関係を築くより作家として世界を遮断したっていいと思います。 -
なんでか目が離せなくなる感覚で
するすると読めた。
主人公の孤独を感じる様子や
ちょっとした狂気のような行動に
少しばかり気持ち悪さも感じながら
純粋さも感じられるような気がした。
話の今後がどうなったのか気になります。
面白かったです。 -
+++
暗くて地味、コミュニケーション能力皆無の実緒。奇妙な片思いの先にあるのは破滅か、孤独か、それとも青春か。
今までにない感情を抱くことで、新たな作品を生み出す女性作家のグレーな成長小説。
+++
コミュニケーション能力に欠ける実緒は、小説で新人賞を取ったことがあるが、それ以来書けなくなり、雑誌のライターの仕事が時折まいこむだけで、アルバイトをして生活している。自分の小説のタイトルで検索をかけるのが日課で、毎日何も変わらない検索結果にも心を動かされなくなっているこのごろだが、ある日、書店の自著を手に取る青年を見つけ、こっそり後をつけて自宅を探り当てる。それからの実緒は、ほとばしるように綴った短い物語を彼のポストに入れるようになり、自身が透明人間になって、彼の日々を眺めるのが生きがいのようになっていく。その果てに繰り広げられる日々は、果たして現実だったのか、それとも実緒の妄想だったのか。人間の裏側を覗き見るようなおぞましさと、人との関わり方を知らない故の切なさがないまぜになって、何とも言えないやりきれなさに包まれる一冊である。 -
辛すぎる内容でドキドキした。自分が実緒にならなかったのはたまたまであって、全然なりうるって思いながら読んでました。
著者プロフィール
奥田亜希子の作品
