- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087754254
作品紹介・あらすじ
暗くて地味、コミュニケーション能力皆無の実緒。奇妙な片思いの先にあるのは破滅か、孤独か、それとも青春か。今までにない感情を抱くことで、新たな作品を生み出す女性作家のグレーな成長小説。
感想・レビュー・書評
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これは確かにグレーな成長物語だった。
実緒の言動行動はマジで褒められたものでは無い。でも、なんかそこに至っちゃうのも分かっちゃうんだよね。私もコミュ障だからですかね。
自分を透明人間だと思い込むっていう発想は独特で不思議。これも実緒なりの心の自衛だったんだろうか。
実緒が少しずつ成長して行けたのは確実にいづみと春臣のおかげで、どうかこのまま上手くいってくれないかなと思わざるを得なかった。でも、これである意味よかったのかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
最初、「え、ストーカーの話?」とページをめくる手が止まるけど、読み進めてゆくうちそうでなく、自分の居場所を見つける話かなと。夢を追う姿はすがすがしかったです。
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主人公の状況からすれば、自分にあちこち重ねて苦しくて苦しくて読みたくなくなっても不思議じゃないのに。
苦しくなかった。
私の中の深海に沈めている私の一部に、そーっと細いストローで酸素を送ってくれるような小説だった。
主の物語だけなら苛々しそうなところも多いし、クライマックスに至る流れは少し弱くて不自然に思うのだけど、文章の丁寧さと作中作の美しさがそれを救っている。
初めて読んだけど、比喩が抜群にいい作家だなぁ!
そして作中作の魅力的なこと。
それぞれ独立した小説として読みたい!
今後の作品がとても楽しみだ。 -
あまりにも生きるのが下手な主人公の姿に、
どうかこれ以上辛いことが起きませんようにと
祈るような思いで読み進めていました。
・・・最初のうちは。
でもそうじゃなかった。
彼女にとって一番つらいのは、本が書けないことで
そのためだったら、どんな奇行だって誤解だって
望むところなのだ。
だって、彼女は作家だから。
そんな彼女が書いた本は、どんな物語だったんだろう。
読みたい。。。めちゃめちゃ読みたいぞ。 -
孤独だ。そして独りよがり。
甘く自由な妄想の世界と、寂しい現実を行ったり来たり。
全裸生活が、特に自由で孤独で気持ち悪くて、素晴らしいと思った。
きっと彼女は、孤独でなければ小説を書けないのではないだろうか。
だけど孤独で痛くて可哀想であり続ける彼女の小説ならば、わたしは誰よりもそれを読みたい。 -
新聞の書評で紹介されていたのでメモに残しておいた作品。
ふと読みたい本の隙間が空いたのをきっかけに図書館で借りて読むに至る。
ものごとの背景を知られないことの残酷さと哀れさを痛感させられるラストだった。 -
実緒は高校3年生の時、新人賞を受賞。
今はスランプで小説は一作も書けていない。
ある時、書店で自分の本を手に取る男を見掛けあとをつける。
会いたくなったら透明人間になり彼の部屋へ行く。
あるきっかけから、彼の恋人と仲良くなる。
いつもひとりだった実緒。
楽しい夏の思い出も作ることが出来た。
実緒の友情は続き、新しい小説を書けるのか。
実緒の世界観に引き込まれしまうと
それがどれ程危ういのか分からなくなってしまう。
その世界観が心地よく、実緒に親近感を覚える。 -
著者のデビュー作「左目に映る星」を読んですごくいいな、好きだなと感じ、
今作を期待度大で読み始めたのですが、出だしから素晴らしかった。
――目に見えない本がある。
なんのこっちゃって感じ。タイトルからSFものかな、とか想像したりしていたんだけど出初めからガシっと心つかまれてしまった。さらに続く。
――書棚にあるその本を、誰も手に取らない。視線も向けない。インターネット上の書店においても同様で、在庫数はいつ確認してもまったく減っておらず、読書家が集うSNSにも、もう一年以上、新しい感想は投稿されていない。実はこの本は自分にしか見えないのではないかと、実緒はときどき不安に駆られた。しかし、現実に本はある。書店で触れることも可能なら、新聞の書評欄で紹介されたこともある。本は確かに存在している。
だけど見えない、私以外の誰にも。
物語の主人公である実緒は高校生のときに佐原澪というペンネームで新人賞を受賞し小説家となる。茄子紺色のカバーの本を出版し、インタビューもたくさん受け、大学には進学せず上京をするも、それ以降物語を書けないまま5年が経ち23歳である。
上記の出だしは実緒の単なるエゴサーチである。自分という作家が確かに存在していたこと、あるいは存在していることの確認。世間が自分を見出してくれているか、忘れ去られていないか、あるいはとっくの昔に忘れ去られてしまっているのかの確認である。
あるとき実緒は自分の本が未だに置かれている書店を発見する。右隣は映画化常連のベストセラー作家、左隣には還暦を超した大御所作家。その間に居心地悪そうに収まっている自分の本を発見して以降、それがそこにあることを確認することも日課のひとつになった。
ある日いつも通りに書店に向かうと、青年が自分の本を引き出そうと指をかけている場面を実緒は目の当たりにする。青年はぺらぺらとめくっただけですぐに書棚に戻してしまい、結果として購入には至らず依然として本はそこにあり続けるのだが、実緒は青年を失いたくない衝動に駆られ尾行し、住まいをつきとめる。
そしてそれから一切書けなかった小説が、実緒の頭の中で物語として動き、形となる。出来上がった掌編を青年・千田春臣の家のポストへつぎつぎと落としていく。やがて実緒はFBに登録し春臣のタイムラインをみることも日課となり、春臣の彼女・いづみのタイムラインものぞき見をする。小説家志望であるいづみとひょんなことから繋がり、現実の世界でも春臣といづみと友人となるなかで、実緒は依然として掌編を春臣のポストに落とし続ける。。。という物語。
ハッピーエンドか、バッドエンドか。はたまたなにも起こらないのか、実緒の不器用さが痛すぎて、読んでいて怖くなった。いつ崩壊してしまうのか、はらはらしたけど、想像したよりも哀しい崩壊ではなかったのがまたよかった。出てくる人物みんな優しい。ずるさとか卑しさとかはあるにしろ、優しい気がした。だから崩壊した直後のラストを読んだときは震えた。きっと、この先の実緒は小説家として輝かしい未来が待っているんだろうな、と。
表紙絵がすごくきれい。淡くて現実と非現実がまじりあった感じがすごく好き。とても繊細な物語で好感度高かったです。次回作も楽しみ。久しぶりに読んでて静かに興奮した。 -
2022.9.16
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あまりにもいびつで、だけどそれは自分の感情と言動がつり合っていないから。
自分は小説を書きたい。だから小説を書く。
そう思えた彼女はきっとどこまでも強くて、それが幸せかどうかなんて私たちの物差でははかれない。
彼女はどんな小説を書くんだろうか。