- Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087806205
作品紹介・あらすじ
富、名声、すべてを手に入れてなお、男の心には満たされない孤独が広がる。男は旅に出た。孤独な魂が共鳴する心の旅、19の物語。
感想・レビュー・書評
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『波』が非常によかったので、読んでみた。
日本生活が長く奥様も日本人のせいか、非常によく日本をよくわかっていらっしゃる。本作は翻訳だが、日本語で著作を書くほどの日本語力というのも納得できる。
翻って、とても抒情的でいかにもフランス作品といった趣の本書。
あらゆる描写に、歌うような美しさがある。ともすれば過剰にも思える詩的な言い回しが、いやらしく見えないのはさすが。
不思議なもので、ひどく退屈で投げ出そうかと思いつつ読めば、突然思いもかけない方向へ展開し、たちまちサスペンスフルなストーリーに変貌する。
捉えどころがないとも言えるが、結局、なんだかんだで最後まで読み切ってしまった。
フィクションではあるものの、著者が投影されていると思われる部分も多く、そのあたり、夢と現実を行きつ戻りつさせられるような思議な世界観を作り出すのに一役買っていたかもしれない。
「叶わぬ夢」が印象的だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
とてもよかった。小説に描き出される風景が自分の心象風景とこんなに一致するとは。特に、「息子の帰還」が良い。
また、シャネルの社長だけあってか、ファッションの描写は粋でかっこいい。日本人にしては珍しい「12センチ」のヒール、膝の出たコーデュロイのパンツ、ベルルッティのスーリエ(短靴)、ルブタンの靴・・・。どれもシチュエーションに、ぴったり。シャネルを「スーツのハーレー」と言うのは身贔屓かな?とは思うけど。 -
著者はシャネル日本法人代取社長。
ここで書かれている「旅」とは、魂をさまようがままにし、精神を解き放つことである。頭の中での旅である。
旅することは、現実の日常から逃れ、未知の世界に入ることを受け入れ、感覚の領域を広げ、おのれの信念・信条を、他の思考方法、他の信条、他の恐怖、ひとことでいえば他の生き方と対峙させることである。
旅するとは、自分自身から、自分の偏狭な精神から抜け出すことである。
旅人は死なない。というのは、旅人は自分の日常と違う場所で、違う時に、違う人生を創りだすことがことができるから。
旅をつづけながら、旅人はほんの少しづつ自分自身をあとの残し、そしてすれ違ったものを少し持ち帰る。
旅人がよその地で経験した他者の人生は、軌道を進み続け、旅人の人生に新たな燃料を補給する。
そしてからだは、魂と精神のあとに従うのである。 -
この人は、思慮深い。
翻訳であることを差し引いても、心に芽生える感情が、想像力が細やかに、かつ、熱をもって表現されている。
心の機微を感じつつ、言葉への探求心に感銘した。
『どんな人間も、ある場所に自分が生きた痕跡をまったく、ひとかけらでも、残していないなどと不遜にも主張することはできない。たとえば、あなたが存在したことは私の心に深くのこる。忘れないでほしい。旅人は決して死なないことを…』 -
時々、作者の事かな?と思う小説があったりして、夢と現を行き交いする感じの短編集。どれも素敵だけど、なかでも良かった物について感想。
『長い散歩とメランコリーのバラード』
これ一編だけで、この本を買ってもいいな、と思いました。まず言葉がうつくしい。丁寧で綺麗で、知識に裏付けされていると感じます。それと話の内容自体も、なんとなく現実味の薄い所が星の王子さまみたいで良いです。
『叶わぬ夢』
話の落とし方が、夏目漱石の夢十夜や、志賀直哉の小僧の神様みたいな、ストレートではないけど、言いたいことをぽとんと落としてくる感じが読んでいてそっくりで、もっと読みたいと思いました。 -
一昔前の日本女性がお好みなんですね。
外人の語る日本昔話。めでたしめでたし。 -
すごく一瞬一瞬を大事にした、ゆったりした文章を書く人だなぁと感じた。土地への旅だけでなく、記憶の旅、それも憂鬱、寂しさを感じる。著者の旅で見たものからインスピレーションを得ているのなら、やはり旅人というのは、注意深い観察者なのだなぁと思う。文章から雑音を感じないのも、感じるべき大事なものだけにフォーカスしまくってるんだろうなあ。ものすごく旅にでたくなる衝動を起こさせる。旅人が死ぬ時というのは、すべての旅先での痕跡-一期一会の人々の記憶も-を消すということならば、ひどく途方もない作業だ。死なないのでなくてめんどくさ過ぎて死ねないの方が正しいのかもしれないと思うと、メランコリーな気分を少し抜けた。
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フランスかあ、シャネルかあ、やっぱりエスプリかなあ、とだらだら読んでいたが、途中から面白くなる。
そして、これ小説だよね?旅エッセイじゃないよね?と何度も確認したくなる。そうか、小説か、フィクションなのか。
おそらく、かなりご自分の人生での出来事を投影しているものと思われる。ほとんどエッセイかと思い込んでしまうほど。
「長い散歩とメランコリーのバラード」はお話としても、よく出来ている。
靴屋さんのシーンで登場する9歳の少年が、実にカッコいい。
「あのお子さんは、大人のためのモデルを見て、お求めになる靴を選びます。それからオーダーなさいます。ご存じのとおり、わたくしどもの店では子供サイズは作っておりませんから。現金でお支払いになり、いつもお買い物に満足してお帰りになられます。じつは、さきほろ、あのお子さんはあなたに嘘をついたのですよ。ベルルッティを三足ではなく、本当は十四足お持ちなんです。いつも少なめに言うんです。あのお子さんよりも少ししか持っていないお客様のことを傷つけないように。」
カッコいいというか、もうお洒落だ、粋だ、フランスだ。 -
序盤,著者の肩書きがなくても出版されてたか?と思い,途中,そうでもないかもと思うところもあったけど,結局,序盤と同じ感想で終了。住んでる世界が違うからかな。
他方,午前4時,東京でを読み返してみる気になった。 -
テレビ