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Amazon.co.jp ・本 (472ページ) / ISBN・EAN: 9784087813296
作品紹介・あらすじ
国連難民高等弁務官として危機の現場に10年。紛争現場で人道援助の最前線に立ち続けた著者――防弾チョッキを着たグラニー(おばあちゃま)がクルド、バルカン、アフリカ、アフガンで危機に対処した感動の記録。
感想・レビュー・書評
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国連難民高等弁務官として働いた10年間の回想記録。クルド難民、バルカン難民、ルワンダ難民、アフガン難民のケースをとりあげて、それぞれの難民の特徴、難民が発生した紛争の経緯から、危機に対応したUNHCR、国連、国際社会の対応までが詳述されている。しかし、そこには他の文献で読むような分析だけにとどまらず、UNHCRのトップとして働いたからこそ書くことのできる様々な事実が明らかにされていて興味深い。
人道的支援としての難民問題の解決は政治的解決にかかっていること、軍との協調が難民の安全を確保するために必要となっていること、そのために安保理や各国の協力が欠かせないこと、その協力をとりつけるためにどれだけの交渉努力をしたか、難民の受入国、周辺諸国の理解と協力のとりつけをどのようにお行ったかなど、ニュースだけでは知ることの出来ない実態がわかる。冷戦後に発生した紛争の特徴(一般市民を対象にした紛争、ジェノサイドによる難民の大量流出など)、これまでUNHCRが経験したことのなかったような問題が発生し、それに対応するための体制づくりから戦略、アプローチの変更まで。読んでいて、どれだけ神経の減りする仕事だろうと思う。しかし、一貫して感じられるのは、著者が随所でも述べているように、難民に寄り添う、難民の側に立って仕事を行う姿勢である。利害がめぐる国際社会、政治的拘束から自由になれない国連、安保理の中にあってさえ、政治的中立、どこまでも難民のためにという、UNHCRの使命を果たすという高潔な理念の実行はとても容易くできるものではない。
緊急を要する中で、今何をすべきか、どう行動することが最大の成果を生むのか、賛否両論がある中で、何を決定するのか・・、考えただけでも、瞬間瞬間が重要な決定の連続でどれだけのストレスだろうと思ってしまう。よほどの強靭な精神力、決断力、それを支える信念がなければ無理な仕事である。八方塞がりの中で、決断を決める最終要因は、難民であったことは確かだろう。
しかし、今となっても、そのような決断をしたことが正しかったのか、その後の情勢を見ても、今でも確信がもてない決断もあるという。また、その反対に、非難があったにせよ、あの行動は正しかったと確信していることもあるという。複雑な利害がめぐる国際社会の中で誰もが賛同する決定などないだろう。また、選択肢が限られている中で、UNHCRができることも限られていて、100%思うことができるわけではない。理想の道とはほど遠いことを重々承知していながら、妥協の道を選ぶこともある。
「救うことのできる命がまだあるかもしれな」いと、難民一人の命でも救えるならと、行動する姿勢に深い感銘を覚えた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
イラク北部、バルカン、アフリカ大湖地域、アフガンで起こった、大規模な難民問題について、様々な考えと行動、政治的駆け引きと問題・失敗、各国の思惑と、その結果が、淡々と描かれている。
大国に翻弄される、難民、弱者たち。
この国際社会の構造に、疑問を抱かざるを得ない。
難民の方々に直接支援し、明日のことを考えても良いのだと思わせてくれる機関・人々がいることに感謝するとともに、現場を垣間見させてくれた本著を世に出してくれたことに感謝する。 -
情報の力、特にテレビの映像は危険なほどの磁力を持つものである。情報が鉄のカーテンのみならず、ベルリンの壁の崩壊まで招いたことは記憶に新しい
地域内の野心的な支配者民族部族宗教の間の積年の対立が政治を大きく左右し始めたのである。ナショナリズムとローカリズムに支えられた各地の判断に対処する効果的な仕組みはまだ出来上がっていなかった
難民問題は本質的には政治問題であり、したがって政治によって対処されなければならならないと言うことである -
カテゴリ:図書館企画展示
2019年度第5回図書館企画展示
「追悼展示:緒方貞子氏執筆本等」
展示中の図書は借りることができますので、どうぞお早めにご来館ください。
開催期間:2019年11月1日(金) ~ 2019年12月23日(月)
開催場所:図書館第1ゲート入口すぐ、雑誌閲覧室前の展示スペース -
緒方さんが自身の言葉で語っている貴重な本。難民高等弁務官事務所が何を行い、何に悩み、何ができて、何ができなかったかが分かる本。人の命を助けるには現場では限界があるのを感じた。結局、陣取り合戦と権力獲得競争に人々が犠牲になっているだけと思えた。政治。これしか解決の道はないのかもしれない。
注目点
・難民問題は本質的には政治問題。 -
内容の複雑さに加えて、英文から日本語に翻訳したせいか、読みにくい文章でした。
4つの紛争の複雑な問題と具体的な施策について書かれています。
この日本に住んでいると、一生人種問題に無頓着でいられそうで・・・
自分の日常とのギャップに戸惑いを感じました。
これは、同時代の話なのかと。
紛争の終結への道筋をつけることはできても、当事者の心の問題までは解決できないという。
紛争解決の限界を何度も味わった、著者の苦悩が強く伝わってきました。
そして、人道的に当事者に寄り添い、職員の安全を考え、そして政治的、グローバルな視点で決断をくだしていく、バランス感覚は素晴らしいです。
最後の講演原稿はわかりやすかったので、日本語で書かれた他の著書も読んでみようと思います。 -
いつもいつも悩まされる、人道支援における、人道主義、非政治主義と、政治の必要性。
その間での苦悩と、確固たる信念のもと10年以上の長きにわたり、人道支援・政治の関係がどのように変化してきたのかを、内部の視点から綴った本。
原体験に基づいているので、分かりやすく、興味深い。
また、危険な地域で活動を続ける国連職員には、頭が下がる。国連組織に対して、いろいろ批判的な言葉も飛ぶ一方で、彼らの現場での苦労や覚悟も同時に忘れてはならない、と再認識させられる本。
また、クルド難民、バルカン紛争における難民、アフリカ大湖地域における難民、については、その背景と解決までの軌跡についても詳しい。 -
難民問題とは何か?
島国の日本ではいまいち実感として感じにくい、紛争に伴う大規模な人口移動・人道問題の構造と、政治・軍事と切り離せない援助活動の難しさを描く、緒方貞子さん本人による回想録。
イラク、バルカン、アフリカ大湖地域、アフガンでの人道援助の記録はリアリティに富み読み応え大だが、459ページにわたる固い文章と複雑な紛争事情を読むのはけっこう大変。持ち歩きにも通勤時読書にも適さない大作であります。
とはいえ、最後に掲載されているいくつかのスピーチ録は、真摯で、職務を全うした人の誇りにあふれ印象的。人道援助部分を飛ばすとわかりにくいでしょうが、そこだけでも読む価値はあります。 -
緒方貞子:1927年生まれ。1991年2月から2000年12月まで10年間、国連難民高等弁務官の重責を担った。2003年より独立行政法人国際協力機構理事長。ニューヨークで英文の回顧録を執筆し、2005年ニューヨークとロンドンのノートン社より刊行。本書はその日本語版である。
イラク北部、バルカン地域、アフリカ大湖地域、アフガニスタンの4地域の問題に焦点を当てて書かれている。筆者は、この四地域の問題をたどることで、一九九〇年代に生じ、今なお続く難民危機に関して、さまざまな政治の力、軍の力、人道活動の複雑な絡み合いを明らかにすることを試みている。
第一章クルド難民危機人道援助の新時代
第二章バルカン紛争における難民の保護
第三章アフリカ大湖地域における危機
第四章アフガン難民
第五章結論―戦時と平和における人道活動
序章より
「人道問題に人道的解決なし」という私の発言がよく引用されるが、私が言わんとしたのは、難民問題は本質的には政治問題であり、したがって政治によって対処されなければならないということである。人道行動は政治行動をとるための余地をつくり出すことはできるかもしれないが、政治行動にとって代わることは決してできない。(中略)人道援助は一定の期間、戦争犠牲者の困窮状態改善し、命をつなぐ手助けをしてきたが、それだけでは問題解決にはならなかった。時として、人道援助活動は紛争を長期化していると非難されたが、だからといって平和も到来せず、政治解決も行われないうちに何万人もの人々に対する援助を打ち切るというのは現実的な考え方ではない。「人道問題に人道的解決なし」という発言は、私のいらだちの発露であり、何もせず手をこまねいていて傍観せよという意図ではなかったのである。 -
難民問題、人道的援助とは一筋縄でいないことを教えてくれた。
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行動力と武力と貧困を現実的な
交渉力は国連の中でも一品
著者プロフィール
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