- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087813678
作品紹介・あらすじ
世界的な免疫学者・多田富雄は、二〇〇一年、脳梗塞に倒れ、言葉を失い右半身不随になった。しかし、重度の障害を背負いながら、現在も著作活動を続けている。障害者の先頭に立って介護制度の改悪に抗議し続ける著者は、自分の中に生れつつある新しい人を「巨人」と呼ぶようになった。杖で歩こうとするときの不器用な動作、しりもちをついたら、どんなにあがいても起き上がれないという無様な姿。言葉数の少ない「"寡黙"なる巨人」である。
感想・レビュー・書評
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NHKのドキュメンタリーで初めて知った多田富雄さん。
その様相(麻痺した身体)からは想像できな知性・感性が潜んでいる。そして、それ以上に、麻痺した身体というものの大変さ、障害者であることの大変さが客観的な文章から覗える。障害者というカテゴリーではなく、障害を持った一個人という認識が芽生える。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
昨年の小林秀雄賞受賞作ということで手に取りました。
著者は免疫学会の重鎮。
脳梗塞で倒れ闘病の日々の中で、過去の自分とは違う何かが体の中に芽生えてくるという(それを著者は巨人と呼んで)、体験者でなければ描けない認識が興味深い。
半身不随、嚥下障害、発語不全という幾多の苦難に打ちのめされながらも、著者に希望の光を与えたのはプレゼントされたワープロでうつ言葉。
もともと白州正子さんたちとも交流があり、自作の能も公の場で上演されているほどの人。
医者であることに勝って表現者であろうとする日々の闘い。
幾度か涙しました。
受賞理由を選考委員の橋本治氏が「論よりも文とは何かということに重点を置いて選んだ」と解説している通り、文学の原点にもどり「著す」ことの喜びを素直に語った文章に胸を打たれます。
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bluemoonさん
この方にしか書けなかったという点で、とても優れた本だと思います。
次にお持ちしましょう。bluemoonさん
この方にしか書けなかったという点で、とても優れた本だと思います。
次にお持ちしましょう。2009/05/29 -
2009/05/29
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MakiYさん
自分の弱い部分をきちんと描いておられるところが良かったです。
人間の不安や絶望、それを見た人だから言えることってあります...MakiYさん
自分の弱い部分をきちんと描いておられるところが良かったです。
人間の不安や絶望、それを見た人だから言えることってありますね。2009/05/29
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コトバのない、意識だけの自分。
新しい人の誕生。 -
寡黙なる巨人
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健康だと わからないことは多いなーと思いました
脳梗塞の怖さ、リハビリは人間としての尊厳の回復である事、PT、OT、STの重要性〈特にST 言語療法の重要性〉を知りました
この本には病院や医療行政への問題提起もいくつか ありました。たくさんの職種が集まり共通言語の存在しない病院で、過重負担にある医師に さらに病院組織を運営させる負担も負わせざるえない現状に 限界を感じます
「邂逅」と言う 往復書簡集も読んでみたい -
世界的な免疫学者で東京大学名誉教授の多田富雄が脳梗塞で倒れた。死線をさまよった後に、右半身不随、言葉もしゃべれない、物を飲み込むことも出来ない、重度の障害者となる。そんな中で、日本の医療、リハビリテーション医学に対して冷静な目を持ちながら、一歩一歩復活する。
声にならない声が出る、思いがけない一歩を歩みだす、一度死んだ身体から何かが生まれ出る、それを多田は「寡黙なる巨人」と呼ぶ。
まだ話すこともできず、食べることも普通に出来ない。しかし、知的な生活は旺盛であり、この素晴らしい本を世に出している。お前は何をしているのだと問われているような気がするのである。 -
言葉を失い、身体の自由を奪われた苦悩がありありと伝わり、脳障害を負った患者さんの気持ちを想像することができた。
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小林秀雄賞受賞作。この賞は2007年に内田樹氏『私家版 ユダヤ文化論』で2011年加藤陽子が『それでも、日本人は『戦争』を選んだ』で受賞してますね。著者は有名な免疫学者で、東大名誉教授。2010年4月に亡くなっています。この本を手に取るまで知りませんでした。2001年の5月旅先の金沢で突然病に病に倒れ、その後半身不随になり言語障害も残った。そこからこのエッセイははじまります。何とワープロを覚えて左手で書いたとだという。すさまじい執念。社会的地位も今までの功績も病人の前には何の関係もない。それにしてもすさまじいまでの生のエネルギーだ。70歳近い老人とはとても思えない。一度死んだと何でも著者か書いている。ご存知なかったが、この人ただの学者ではない。能など古典芸能に精通していて、白洲正子とも知り合いだったらしい。専門以外での著作も多数ある。なんかスケールが違う。でも普通の人に見えてくる部分もある。幼い頃の記憶から現在へと。あと日本におけるリハビリ制度の問題についての提起は非常に重い。厚生労働省がほんとにとんでもない役所のように思えてくる。
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現実に、脳梗塞に倒れられた作者が、パソコンを使って伝えてくれた闘病記が掲載されている。病院の関係者の人々は、絞り出すように記される声を聞いてくれるだろうか。もっと多くの人が、声をあげるべきなのでしょうが、著者のように、巨人を育てることができない。病院の建前はどんどん美しく飾り立てられています。厚労省との戦いも、今私たちにできることはあるのでしょうか。健康だったころよりも真剣に、充実して生きていると言い切る言葉こそ、美しい。
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2008.10.26読了