著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 593
感想 : 77
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087815238

作品紹介・あらすじ

君に私の息子の最後の言葉を贈りたいのです。
親友を失った青年と、ある秘密を抱えた先生の間で交わされたメールを軸に織り成す、喪失と再生の物語。あの『悩む力』の著者が、苦難の時代を生きる若者たちに真剣に向き合った、注目の長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 内容を全く知らないまま発刊から気になっていた姜尚中先生の本を手に取り。直前に手に取った田口ランディ「ゾーンにて」と同じ、震災の小説だと知り偶然にまず驚き。何故か震災に呼ばれているような。

    でも内容は「ゾーンにて」とは全く違うし、まるで違う事象について
    語られたかのよう。テイストは姜先生味の夏目漱石「こころ」
    最後が気になり一気に読んでしまい、うるうるときていたのがとうとう最後に決壊し号泣。ここに書かれたような実際のやりとりがありそれを元に
    書かれた小説なのではないしょうか。事実はわかりませんが。

    肉親と別れるのは辛いことですがその中でも一番辛いのは子供に死なれることなのではないかと常々考えています。私には子供がいないので想像ですが。大切な人を喪ったたくさんの人にここに書かれた喪われないものを感じて欲しいと思いました。

    直広君が愛おしいですね。小説というよりも心理学演習のような
    感じが。小説と思って読まないほうがすんなり読めるのかもしれません。

  • 姜先生と大学生の男の子とのメールのやりとりでストーリーが進んでいく。
    始めは頼りなげな青年が、姜先生に励まされつつ、また様々な経験を通じて成長していく。

    死とは何か。改めて考えさせられる。
    死者、とくに事故や苦しんで亡くなった方ほど、直視できずに目をそむけてしまう。
    そして、できるだけ遠ざけてほしいと思ってしまう。
    しかし、残された者として、死者に対してそのような向き合い方でよいのか。
    そう問われているように思った。

    残された者としてできることは何か。
    それを考えることがすなわち弔いではないかと思った。

  • 読む前に、この本を貸してくださった方から、姜尚中さんは息子さんを亡くしているということ、震災に深く関係した内容だということ、夏目漱石の『こころ』に結びついているということ、この三点を聞いていました。先に知っていたからこそ、読みながら「これはすべて事実?それとも私小説?」と思い、話の流れは既に知っているのにも関わらず先が気になって仕方ありませんでした。久しぶりに一気に読み切った作品です。夕方から読み始めて、気付いたら夜になっていました。主人公と大学生のメールでのやりとりが主だったため、語りかけるような口調によってすっと物語の中に入っていけたのもその理由のひとつだと思います。

    小説という形をとってはいますが、哲学書なのでしょう。特に前半は生と死についての哲学的な話をやさしく噛み砕いた表現で主人公が大学生に語りかけています。

    私もごく最近、親しい人を数人亡くし、生きる意味がわからなくなっていました。若くして亡くなったあの人が生まれてきた意味とはなんだったのか。最初から生を与えられなければ、死の苦しみもなかったのではないか。それとも、私が代わりに死ねば良かったのではないか。いろんなことを、主人公や大学生と同じように考えていました。だから、この小説の内容が心に響いたのかもしれません。

    後半はまた違った展開で進んで行きますが、それもまた面白いです。ゲーテの『親和力』はまだ読んだことがないので、これを機に読んでみようと思いました。夏目漱石の『こころ』も久しぶりに読んでみようと思います。

    親しい人を亡くして、死とは何なのか思い悩んでいる人にお勧めします。考え方の参考になるかと。ただ、あまりにも死に近いところにいる人は引っ張られるかもしれません。適度に距離を保って読んでください。

  •  久しぶりに時間をじっくりとり、ゆっくり読みたい本に出会った。小説-ではないと思う。
     言葉ひとつひとつが今の自分の現状や思考に化学反応をおこし、自分自身に色々な事を問いかけ、自分の心と対話する。哲学書のような小説。親和力、過去・現在・未来、生と死、震災、愛すること、友情、人と人との出会い等...読む人それぞれが違う風景を心に描き、考えさせられると思う。そこに正しいとか、正しくないとかはないと思う。好きな作品です。

  • 姜先生が息子さんを亡くしていることが最後に綴られる。姜先生の青年に対する真摯な文章に人柄を感じる。「メメント モリ」=「死を忘れるな」。死の中に生が含まれている。ゲーテの「親和力」や「隣り同士の不可思議な子供たち」を読んでみたくなった。”「心」と記されたフォルダの中にファイルをそっとしまった。””砂時計の上半分にはこれからやってくる未来があり、下半分にはすでに終わった過去の砂がたまっている。未来の砂は上半分と下半分をつなぐ細いくびれの部分を通って下に落ち、過去となる…”

  • フィクションか?ノンフィクションか?
    いずれにしても、大学生くらいの年代の人に読んで欲しい

  •  読み始めたときは,本物の大学生(直広)からの手紙やメールに対して姜さんが書いた返事を編集したノンフィクションかと思った。しかし本書は,直広青年と姜さんとの架空のメールのやりとりを借りて,姜さん自身の「生と死」への思いを語った本だと分かった。
     しかも最後に明らかになるように(途中から伏線もあるが),このメールのやりとりは姜さんの息子との会話ともなっている。若くして自ら命を絶ってしまった息子に対し,自分にできることはなかったのか,そういう自問自答をも含んでいるのだと思う。というか,そういう自問自答のためにこそ,この小説を書かざるを得なかったとも言えるだろう。姜さんは,この小説を書くことを通して息子と話しあっている。そして息子を亡くしたいま,自分が生きる意味を考えているのだろう。
     震災による多くの人間の死を取り上げた部分は,2020年のコロナウイルス感染症による死者の数の発表を思い出して,ゾクッとする。

     わたしたちはテレビの画面で何度もいやというほど荒々しく牙をむく津波の映像を見せられながら,じつは一人ひとりの死の重さとは向きあっていませんでした。奇妙なことに,死者や行方不明者の数が増えるほどに,わたしたちの感性は逆に麻痺して,死のリアルから遠ざかっていったように思います。(p.164)


     ○か×か,右か左か,生か死か,善か悪か,自然か否か,ではなく,その両方を兼ね備えて発展していくものが人間の〈生=死〉ではないのか。このような姜尚中さんの弁証法的な考え方が,全編を通して表れてくる。だからこそ,わたしたちは無い頭を絞って考え続けていくのだし,生きられるだけ生き続けていくのだろう。

     愛が強ければ強いほど,また愛がピュアであって欲しいと思えば思うほど,かすかな濁りですらも許せなくなるでしょうが,しかし濁りがあればあるほど,愛が募り,ピュアなものへの憧れが強くなっていくように思えます。とすれば,愛と不信,純粋と汚辱とは,手に手をとって人の心に熱を与えつづけているともいえます。だからこそ,悩みも昂じ,生への欲動も強くなっていくのかもしれません。(p.274)

  • 最初は姜さんノンフィクションだと思って読み始めたから、姜さんのナルシストな感じが引っかかったけど、
    「先生」と「僕」のフィクション小説だと気づくと
    世界に入り込めた。夏目漱石「こころ」に似てるけど、もっともっと噛み砕いて離乳食みたいにしてくれた、甘く優しい哲学

  • 大震災を挟み、大学の「先生」と大学生の青年とのメールのやりとりを通して、「生きる」ことの意味を深く見つめた作品。
     青年に早世した息子の面影を見ていた「先生」の眼差しが切ない。青年との問答はきまじめでやや説教臭いが、これは現代の『こころ』だ。

  • 姜尚中を初めて知ったのは、日曜美術館のコメンテーターとして。
    その姜尚中が小説を書いていると知ったのは、何の目的もなくふらっと訪れた書店で。

    夏目漱石の「こころ」をフューチャーした筋書きになっている。
    大学教授と学生の「メール」でのやり取りを通してストーリーが描かれている。
    漱石の「こころ」が秀逸なのは、やはり手紙を通して「先生」の秘密を知る。というか、覗き見る。というカラクリがよく効果を発揮しているから。読み手は主人公とともに手紙を読むことで先生の心にフォーカスする。そして、読み終わるとばっさりストーリーが終わってしまい、解釈は主人公(あなた)に任せます、といった構成だ。
    そのカラクリを取り入れたとは言っても、この書き手は少し正直すぎるというか。ストレートな表現が多すぎるなあと感じた。素直なのだろう。それは良いことだけれども。
    「死」に直面し、それと対峙すること。がこの物語のテーマになっている。
    学生・直宏君は、震災のボランティアを通して死を身近なものとし、それによって親友の死、という体験を消化し、そして演劇を通して「新しい自分」を演じるなかで、未来を見つけていく。

    と、話をまとめて書いてみると、まとまりすぎている。と思う。
    しかし、読み手に「読ませる」文章、まじめで真摯な気持ちは伝わってきた。
    きっと私のようなひねくれ者には物足りないのだろうが、オーソドックスとして人に勧めることのできる作品である。

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著者プロフィール

1950年熊本県生まれ。東京大学名誉教授。専攻は政治学、政治思想史。主な著書に『マックス・ウェーバーと近代』『オリエンタリズムの彼方へ―近代文化批判』(以上岩波現代文庫)『ナショナリズム』(岩波書店)『東北アジア共同の家をめざして』(平凡社)『増補版 日朝関係の克服』『姜尚中の政治学入門』『漱石のことば』(以上集英社新書)『在日』(集英社文庫)『愛国の作法』(朝日新書)など。

「2017年 『Doing History』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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