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本 ・本 (384ページ) / ISBN・EAN: 9784087815955
作品紹介・あらすじ
全国に1万人以上いると推計される「成年無戸籍者」たち。過去13年にわたり1000人以上の無戸籍者を支援してきた著者だから描けるリアルな実態と、彼らが生まれ続ける背景を深く掘り下げた問題作。
感想・レビュー・書評
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政治家の人生は常に人を気にして…という内容が心に残る。他人をスコアか何か、自らの票田として生きる。その偽善的な感じや露骨さが嫌だが、少しでも日本を良いものに変えたいという動機があるなら、良いのかなとも思った。著者の場合は、無戸籍の日本人が発生する法的な問題を変えたいという動機だ。自らも子を産み、離婚のタイミングにより、戸籍問題に悩まされた事がキッカケ。
民法第772 条①妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する ②婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日か300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。婚姻を解消したのに、前の夫の子と見做される。それでも、複雑な事情を抱えた出産に対して、昔は、産婆が生まれた日を調整していたらしい。申告をずらしたりとか、そういう事だ。
この明治31年から続く、嫡出推定制度が2024年4月1日に改正される。再婚後に妊娠した子供の父親を明確にし、子供の利益や権利を守ることが可能。また、女性の離婚後100日間の再婚禁止期間の撤廃も盛り込まれ、女性に対する不合理な制度もなくなる見込み。著者の働きかけも影響したのだろう、後半部分は民法733条の話だ。こうした動きから、思い浮かぶキーワードは「托卵」や「DNA鑑定」だ。鑑定すれば良いじゃん、と思うが、鑑定自体が相手への信頼と表裏で、人間相手には簡単にはいかない。法律は、人間らしさに満ち溢れている。
しかし、本著は少しチグハグであり、無戸籍である数名の人生が紹介されるが、この法律に振り回された人たちというよりも、そもそも父親が不明で届出されていなかったなど、無茶苦茶な家庭に生まれた子供が多い。そのために学校にさえ通えていない。
そうした人生を紹介していて、興味はあるのだが、根本的な問題は摘出推定制度とは異なる所にありそうな気がした。こちら側で思い浮かぶキーワードは「貧困」「境界知能」「背乗り」「生活保護」「戸籍売買」だ。人間らしく、を法律で拾おうにも、じゃない方集団が容認しないだろう。我々は、我々の境界内で安全な城を築いて生きているのだから、易々とその外の人間は認めない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
DV、シェルター、幼児虐待、ネグレクトなど様々に痛みを伴う家族関係ついての作品を読む事が多いが、本作は自身が法の下での無戸籍児の母親となった著者が、自身の問題として始めた活動をきっかけに政治にも繋がっていくノンフィクション
民法722条いわゆる300日ルールの枠の中、早産という形で出産した著者が調停や個人訴訟を経て我が子を家族の戸籍に記す為の奮闘、活動
自らの経験を社会に届ける事により、光の当たらない、存在さえ認められていなかった無戸籍児の声が聞こえてくる
戸籍がなく住民登録もできず
それゆえに就学通知も届かない為、義務教育も受けられず、仕事にもつけず、成人無戸籍者となる
日々の糧を得る為には身分証明がなくても働ける限られた場所、負の連鎖
生まれて来た子供には何一つ落ち度がないのに、罪人のように怯えて生きる
もし自分がこうした立場におかれたら?
考えてみるが、想像すら難しい
なりすましなど、戸籍を逆手に取る犯罪を防ぐためにも必要な法の規定
受付る行政側の対応とシステム、正当性
情だけでは進めることの出来ない決まりと、同志の弁護士や議員活動、NPO法人に活動による社会の変化
いくつかのケースに登場した成人無戸籍者の人々のこれからの安らげる生活を祈りたい
そして子供達が安心して育つ事のできる家族環境、社会であって欲しいと願わずにいられない
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日本の戸籍、婚姻、社会制度が明らかに制度疲労を起こしていると思う。
グローバル化で国際結婚も珍しくない。
どのような制度が、最も個人の幸福追求に資するか考える時期に来たのではないだろうか。
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#utamaru ムービーウォッチメン『市子』評をきっかけに読みましたが、(勿論読んでいる自分を含めて)この国に蔓延る無知と想像力の欠如っぷりに心底ゲンナリしてしまう。特に、「無責任な親には懲罰を」的思考は負の連鎖しか生み出さないのだから、頼むぜマジで。
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【概要】
※令和6年4月1日から当該条文は改正されるため、それ以降に生まれた子どもには本書内容とは異なる扱いになる。
民法772条(嫡出の推定)という条文がもたらした問題に、「無戸籍」というものがある。自らも離婚→再婚という過程で生まれた新たな生命が本条文の規定から空白期間(無戸籍状態)を体験した著者が、自らのライフワークとした無戸籍問題について、まさしく「事実は小説より奇なり」以上の「存在を認められない辛さ」を綴る。
2016年01月30日 読了
2023年12月31日 読了
【書評】
なんの気なしに東京で鑑賞した「河辺市子のために」というお芝居と出会って。そこでは妹である河辺月子の戸籍を活用(?)して月子として高校まで過ごした無戸籍者の河辺市子という女性を主人公となっててね。その無戸籍をなんとかしようとした行いの連鎖が悲しみの方角にベクトルを向けていく様子が、なんとも痛ましくて。
今回、その「河辺市子のために」が映像化され「市子」というタイトルの作品となって上映された。鑑賞を済ませ、ちょうど2023年の読書納めということもあり、「もう一度読んでみようか」と思い、手に取ってみた。
法律が身近にない生活って、ある意味、平穏で幸せだと思う。政治家の麻生さんが言葉にして批判を浴びたけど、国民が血眼になって六法全書を開いたり判例をチェックしたりする世界って、異常だと思ってる。でも、平穏な反面、法律が登場せざるを得ない世界(=当事者としては本当に大変な世界)に対して、なんとも現実感を感じなくなってしまう。いわゆる「平和ボケ」状態・・・だけじゃなくて、完全に他人事になっちゃう。そしてそれは、法律改正へのブレーキになるのだよね。だって(当事者じゃないから)必要性を感じないから。
法律ってシステムで。そのシステムの裏側には各国のコンセプトのようなものが存在してる。良い悪いは別ね。たとえばカトリックの国・フィリピンでは、そもそも「離婚」という概念が、ない。家族法に該当する条文がないのよ。手元にあるフィリピン家族法の書籍は2008年頃に入手したものだから、今は改正されてるかもしれないけどね。まぁそういった観念というものがあって出来上がる。そうはいってもシステムであることには変わりないから、システム上、運用上、問題がある場合は調整していく必要がある。「改正」だよね。
この民法772条は、法理念の是非ではなく、システム上・運用上の部分で瑕疵(欠陥)があると思っている。(離婚した女性に対し)「(新しい恋人ができたとしても)半年間は再婚できないからね」「こんな言い方、変だけど、300日過ぎるまでは出産するという行為はしない方がいいよ。めっちゃ面倒だからね」とか話しちゃってる自分がいる訳だからね。あっ、そういう話題が出やすい環境なのです、実は。おかしいでしょう?
本書では、そんな(言葉悪くてごめんなさい)めっちゃ面倒だからねなどという言葉では収まらない人生を「送らざるを得ない」人達の、僕らが息を吸う・吐くように当たり前と思っている「戸籍」がない、「戸籍」を勝ち取る(または国に拒絶される)までの背景と過程が描かれている。「えっ、ドラマ?」なレベルの文脈が存在した結果、「無戸籍」という状態に陥ってしまうという悲劇。
民法772条がシステムとしての、運用上の瑕疵(欠陥)レベルなものだという点は、役所の対応にも表れるのよね。本書内での役所の担当者、その発言は、確かに「もっと言い方、あるよね」というセンス皆無なものがある。けれど、悪法もまた法なりでいないといけないのが公務員なのだよね。それは、恣意的であってはならない訳で。「上級国民」が存在してはいけないのと同様に、かわいそうだからということで(与えられている裁量権を超える)法の適用はできない訳で。だから瑕疵を改正して整えていく必要があるのだけどね。そして、来年4月1日からその改正がされるのだけども。
ぶっちゃけ、フェミニズムとかよくわからないし、多様性の観点から言えば(自身のココロのありようは除くよここでは。そんなことは自身にしかわからないことだから。ここではあくまで客観性が高いもののみで語るよ)人ってそれぞれもう能力が違うことは認めないといけないし、それは生物として備わってる臓器の違いであったりなどもある訳じゃない?だから、「違う」と思う。でも、この問題はそういう「違う」じゃないのよね。だってシステムの瑕疵が改善されれば発生しなかった可能性が非常に高い問題だもの。そこは保守とかリベラルとか、関係なくない?まぁ・・・改正されるのだけどもね。
来年の4月1日改正されるといっても、まだまだきっと戸籍を持たずに苦しんでいる方達は成年・未成年ともに沢山いるはず。奇しくも今日は大晦日、来年の大晦日には、そんなシステム上の瑕疵が原因で苦しむ方達が一人でも多く解放され、大晦日を楽しむことができるようになることを祈ってる。 -
●成年無戸籍者と言う存在。出生時に親が届を出さず、そのまま20歳を過ぎた人。義務教育すら満足に受けてない場合が少なくない。身分証明がないため働く場所も限られ、給与も低く、常に貧困や暴力と隣り合わせで生きざるを得ない。
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知らなかった世界。自分が誰から生まれたのかはみんな知りたいよねぇ
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ノンフィクション
著者プロフィール
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