五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後

著者 :
  • 集英社
4.19
  • (31)
  • (26)
  • (6)
  • (0)
  • (4)
本棚登録 : 241
レビュー : 38
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087815979

作品紹介・あらすじ

日中戦争の最中、旧満州(現・中国東北部)に存在した最高学府「満州建国大学」。「五族協和」の実践をめざし若者たちが夢見たものとは。彼らが生き抜いた戦後とは。第13回開高健ノンフィクション賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 夏は戦争番組の季節。今年もノモンハン、ヨーロッパで戦った日系人部隊、戦争に駆り出された民間船など10本近く見たかもしれない。そんな中、たまたまTLで見かけたこの本は、満州の手がかりくらいの軽い気持ちで手に取ったのだが、冒頭から大きなショックを受けた。それは「五族協和」を実践するための大学が満州に存在していたということ。「五族協和」このインチキくさい言葉は日本がアジア侵略のための単なるスローガン、口当たりのいい言葉で、その理念の実現に取り組むことなんてやってるわけないと思ってたからだ。その建国大学の学生は半数が日本以外の民族で、生活空間も互いに混ざり合うよう構成され言論の自由が保障されていたという。力で抑えるよりもこちらの方が現実的と日本が率先してそんな仕組みを作るなんて、ちょっと想像できなかった。
    国のリーダーたるべきだった建国大学生は戦後、多くが苦難にあう。第二次大戦後のアジアはどの国でも大きな政治的変革があって、そこでは自由な思想は危険分子となってしまう、特に日本が作った満州の建国大卒なんて最悪だろう。この本では5カ国10数人の建国大学卒業生が登場するが、韓国の首相を務めた姜英勲以外は国の要職には就いていない。インタビューを読んで写真を見れば、この人たちが優れた知性とまっすぐな心と相当な忍耐力を持ってる事がわかる。どんなに優れてても自分ではどうしようもない事が人生には存在する、そこで終わりだと絶望しなかった事がこの人たちが80、90になっても凛々しく見える理由だろう。
    私が特に心を打たれたのは中国に残され、共産党と戦わされた百々さんの言葉「歌や詩や哲学というものは、実際の社会ではあまり役に立たないかもしれないが、人が人生で絶望しそうになったとき、人を悲しみの淵から救い出し、目の前の道を示してくれる。」
    台湾の李さんと辻政信の話も興味深い。NHKのノモンハンの番組で初めて知った辻政信、ちょっと調べて見るとろくなこと書いてなくて私の中ではインパールの牟田口廉也に続く陸軍のワルというイメージが出来かかっていたのだが、李さんの話を聞くと、ネットの情報程度でまた簡単に決めつけてはいけないのかもと思う。
    最後、日本で学びたいという22歳のダナと、建国大学卒業生スミルノフの、日本を敬愛し、思慕する場面で泣いてしまった。今の日本は彼らの憧れと尊敬に値する国になっているだろうか、私たちはそんな国を作ってきたのだろうか。

  • 毎年、『開高健ノンフィクション賞』はチェックし、今年の1冊がこの本でした。
    歴史の時間に一度は耳にしたことがある「満州国」。恥ずかしながら、自分も傀儡国家くらいの知識しかなかったのですが、実はそこに東アジアの国々から優秀な学生が集められ、大学が設立されていたことは知りませんでした。
     この大学の驚くべきところは、学内での「言論の自由」が認められていた点にあり、それぞれの出身国では禁書となっている本も自由に読むことができ、当時では考えられない国家に対する批判も認められていたということ。そんな中で学生生活を送った建国大学生も、当時の時代の波に呑まれることとなり、戦後は、高い能力を持ちながらも、数奇で過酷な運命を辿っていくことに…。
     この満州建国大学は国策大学であったにせよ、現代から見ても国際化の進んだ大学であったと思います。その大学の研究をICUという日本で最も国際化が進んでいると個人的に思っている研究者が研究をしていたことに、運命めいたものを感じざるを得ませんでした。
    この本で取り上げられている卒業生の多くが平均寿命を超えていることを考えると、あと5年遅ければこの本はこの世に出なかったと思う貴重な1冊だと思います。

    ~以下メモ~
    (P70)人の生涯は信念と思想、行動を一貫して働くものである。
    (P101)企業で直接役立つようなことは、給料をもらってからやれ。大学で学費を払って勉強するのは、すぐには役立たないかもしれないが、いつか必ず我が身を支えてくれる教養だ。
    (P171)記録されなければ記憶されない、その一方で、一度記録にさえ残してしまえば、後に「事実」としていかようにも使うことができる。
    (P326)「衝突を恐れるな」とある建国大学出身者は言った。「知ることは傷つくことだ。傷つくことは知ることだ」

  • 「五族協和」を実践すべく、日本・中国・モンゴル・朝鮮・ロシアの各民族から選抜された人達が集った建国大学の学生達が生き抜いた戦後を綴った書籍(2015/12/20発行)。

    本書は、建国大学の学生達が太平洋戦争後に歩んだ壮絶なドキュメントです。 彼等が生き抜いてきた戦後は、苦難と云うだけでは余りに生易いと感じるほど壮絶なもので、文字通り”戦後を生き抜いた建大生の史記”であり、その話には圧倒されます。
    特に元中国人建大生の漢詩には、胸を締め付けられる程のすざましさを感じました。 戦後70年経った今も続く元中国人建大生の苦闘には、只々、驚くばかりです。

  • 安彦良和の「虹色のトロツキー」を読んで、建国大学の存在を知りました。
    かつて満州国の最高学府として設立された同校では、五族協和を目指すべく、日本、満州、朝鮮、モンゴル、ロシアの学生が机を並べていたそう。驚くのは、学内では言論の自由が保障されていたということ! 夜になれば、それぞれの立場から熱い議論を交わし、取っ組み合いをし、それでも朝が来ればまた共に学ぶ、そんな環境だったといいます。
    若きスーパーエリートとして満州国を導いていくはずだった彼等が、傀儡政権崩壊後にどのような運命を辿ったのか……
    新聞社の記者である筆者は、高齢の卒業生を訪ね歩き、彼等の人生を丹念に辿っていきます。
    最近、わたしはあまりにも日本近代史について知らないことが多すぎると反省しています。つい数世代前のことなのに……

  • 全く知らなかった満州建国大学,その存在理念とその後の学生たちの人生に深く感動した.三浦氏の丁寧で誠実な取材に,この本を世に出したことに感謝する.たくさんの人に読まれるべき本ではないかと思った.

  • 五色とは、日本、中国、朝鮮、モンゴル、ロシアのことで、本書はその5つの民族=五族の協和をめざし建てられた「建国大学」で学んだ人々へのインタビュー記録である。ぼくはこの本が出た頃から気になっていたが、なかなか買って読もうという気になれなかった。しかし、だんだん読みたい気持ちが募り、つい先日名古屋で会議の合間をぬって近くの本屋で求め、すぐさま読み始めた。著者の三浦さんの文章は人をぐいぐい引きつける。臨場感がある。読んでいて目頭が熱くなることが何度もあった。建国大学は、満州国の建てた大学であったことから、批判こそされ、宮沢恵理子さんの大著『建国大学と民族協和』がでるまで、これをまともに評価するものはほとんどいなかった。そして、今回三浦さんが取材していなければ、卒業生の生の声を聞くこともかなわなかったかも知れない。実際、三浦さんが話の裏を取っているうちに鬼籍に入られた人が何人もいたほどだ。事実を重んじる三浦さんからすれば、このままでは出せないとまで思わせた本だったのである。建国大学の五族協和は満州国と同じく、現実には理想とは違ったものであったが、実際にその理想をめざす人々は日本にも他の民族にも多くいた。そこでは言論の自由が認められ、中国や朝鮮の人々は日本の政策を堂々と批判することもできたのだそうだ。本書で三浦さんが取り上げている人々の発言を読んでいて、建国大学で学んだ人々がいかに自分たちの祖国を愛し、「潔い」生涯を送ったかがわかる。この中で戦後韓国の大統領にもなった金載珍が語ったことばは印象深い。それは弱小民族であった朝鮮民族にとって、ソ連や欧州などの影響を考えた場合、やはり日本とともに五族協和をめざすしかなかったということばである。日本が本当の意味で五族の協和を実行していれば、戦後アジアにおいてもっと尊敬されたのにと思う。

  • 満州を途切れ途切れに追っている。
    個人的な思い入れから始まった、『川端康成全集〈第20巻〉小説 (1981年)』中の「美しい旅」の派生読書である。少女小説「美しい旅」の続編「続美しい旅」(昭和16年~17年)には、時勢に配慮してか、満州の「五族」(日本人・漢人・朝鮮人・満洲人・蒙古人)の学校が登場する。日本が5つの国の取りまとめ役となり、5つの民族が協調して暮らしていこうという、「五族協和」「王道楽土」の思想のもとにできた学校である。「続美しい旅」の学校は、小さい子のものだが、大学があったのだと本書の新聞書評を見て知った。

    その名は、「満州建国大学」。五族の優秀な学生たちを集め、有用な人材を育てようと設立された大学だった。集まった秀才たちは切磋琢磨し、議論が熱すると取っ組み合いの喧嘩をすることもあった。だが一夜過ぎればまた元通り、互いを高めていこうと励む「同志」だった。
    日本の敗戦で満州国は消滅する。同時に、建国大学の卒業生たちも、さまざまな苦難を強いられる。建国大学出身者であるというだけで、裏切り者と冷遇され、さらには迫害される者。満州から故国に戻り、どん底からやり直す者。シベリアに抑留され、なかなか故郷に戻れなかった者。
    幾多の苦難を受けつつも、その元凶であったともいえる建国大学は、多くのものにとっては懐かしい青春の場所であり続けた。そのとき抱いた夢に、嘘はなかったから。

    本書は、5つの民族の卒業生たちの、「戦後」と「現在」を追うノンフィクションである。
    著者は建国大学出身者の1人を知ったことをきっかけに、日本各地の卒業生たち、そしてアジア各地の卒業生たちの足取りを追うことになる。
    思うように進まないことが多い取材を経て、まとめられたのが本書である。

    ことの性質上、この主題にはもどかしさがつきまとう。
    1つは、当事者たちが高齢となり、記憶にあやふやな点や齟齬が生じていること。
    1つは、国によっては、政治的理由から、「真実」を語れない、糊塗せねばならない人たちがいること。さらには、このことに関して語ると身に危険が及ぶ怖れのある人までいた。
    関係者の努力で事実のすり合わせがなされ、真実に近いと思われる事柄を書いた部分もある。一方で、著者がやむなくぼかして書いた部分もある。
    建国大学での彼らの学生生活はどこか靄の中にあるようで、そしてまた卒業生自身が語る戦後も「語れる部分・語りたい部分」がデフォルメされているようにも思う。
    全般にごつごつしてすっきりしない感触があるのは、インタビュイーにそれぞれの立場や主張があり、客観的な事実の文脈に乗せにくかったのも一因だろう。
    だがなお、いや、だからこそ、この物語には、理屈を超えて胸を打つものがある。

    満州国が掲げた五族協和は、今にしてみれば砂上の楼閣だったと言うほかはない。
    しかしその旗の下に、建国大学に集ったものたちには、それぞれの民族の現状を踏まえた「理想」があった。そして何より、「若かった」。
    空にかかる虹のように、夢と描いた理想は、終戦とともに虹のように消えた。
    けれど、彼らの目にはまだ、その日見た虹が見えるのではないのか。

    夢の美しさと現実の残酷さ。
    そのギャップを見つめなおすこともまた、戦争を考えることの1つなのかもしれない。



    *満州に関しては、ちょっと全体像がつかめていないので、概説の入門書(本書にも紹介されている山室信一「キメラー満州国の肖像」(中公新書)あたり?)をそのうち読もうかなぁとも思っています。

  • ☆とても重要なテーマだ。残念ながら、インタビュー者が物故して内容を確認できないでいる。
    こういうことだと、インタビューの内容をそのまま残したり、オーラルヒストリーとして記録を残すのも、後世への責務かもしれぬ。
    (著作)×水が消えた大河で、南三陸日記 県立 青森
    (参考)満州建国大学物語 青森 大学、白塔 満州建国大学物語 青森

  • 大学内では日本人学生、中国人学生、台湾人学生、ロシア人学生、モンゴル人学生、朝鮮人学生が自由に議論し、体制批判もできたと言うのが驚き。卒業生がみんな高齢になり、ギリギリ成し遂げた取材だったが、もう少し若いときにもっと多くの人にインタビューしてほしかった。それにしても自分の日記みたいに、取材の時系列に書くのはいかがなものか。最後に自分の家族に宛てたメッセージとか、本を私物化しすぎ。これだから集英社は。中央公論で出したらもっと良い本になっただろうな。

  • 満州国を建国した日本が、そこで建立した満州大学。
    大学内では当時では考えられない、言論の自由が保障されており、白系ロシア人、韓国人、中国人、モンゴル人、日本人達が集結し「五族協和」を掲げられていた。
    争い合う者同士であった別の民族が集まり自由に話し合い本音をぶつけ合う。もちろん馬が合わずそれっきりになったメンバーも多かったが、喧嘩するほど腹を割って話し合った大学のメンバーのうち一部は戦後60年経った今でも結束が強いことにも衝撃を受けた。
    歴史に関しては無知だったが、この本を読んでさらにいろんなことを知りたいと思った。

全38件中 1 - 10件を表示

三浦英之の作品

五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後を本棚に登録しているひと

ツイートする