インディーゲーム中毒者の幸福な孤独

  • 集英社 (2023年12月5日発売)
4.19
  • (10)
  • (5)
  • (6)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 112
感想 : 11
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

本 ・本 (144ページ) / ISBN・EAN: 9784087880960

作品紹介・あらすじ

人生のどこかの瞬間と響き合う、個人的なゲームたち――
異能のアニメーション作家による唯一無二のエッセイ集。

戦火のウクライナ発の奇怪な経営シミュレーション、セラピストと絵文字だけで会話するゲーム、認知症患者となりその混乱や不安を体験……

「数多くの個人的なゲームたちと確かに交流したのだという幸福な錯覚は、自分と世界との距離を見つめ直そうとする私に流れる孤独な時間を、今も静かに支え続けてくれている」(本文より)

【目次】
▼はじめに
▼まるでボトルレターのように
▼オーダーメイドゲーム作家
▼祖母を見舞う
▼アルツハイマー病患者の苦悩と孤独
▼トイレットシミュレーターの世界
▼自家製マリオワールド
▼常識はずれのゲーム達2021
▼語られたがった布団の中の物語
▼戦火の中でリリースされたゲーム
▼誤解の中で呼吸するヒロイン
▼老後も遊べるゲーム
▼本から広がる言葉の宇宙
▼誰とでも共作できる美術館
▼暗い橋の上から
▼人間臭いゲームたち
▼正解の無い会話
▼めくるめく無慈悲な肯定
▼終わらせなければ、終わらない

【著者プロフィール】
アニメーション作家。映像制作チーム「ふりふり組織」のメンバーとして活動するほか、シールの日記の制作なども行う。共著に『ゲーマーが本気で薦めるインディーゲーム200選』。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 以前、2021年の夏、インディーゲームの実況をしていたソーシキ博士が、小説すばるでインディーゲームに関する連載を始めるということで自分も小説すばるを購読し始めたんだった。
    ずっと続くのかと思っていたのに一年ほどで終わってしまっただけでなく本人も活動を休止してしまって、実況データやTwitterなどを消去して、現世とのつながりを全て断ち切っておやすみに入ってしまったのでそこそこ心配していた。
    と思ったら突然この連載が本になる、しかも専用のTwitterアカウントまで開設して宣伝しだしたのでおやすみが終わったかと一瞬思ったが、そういうわけではなかった模様。まあ、それは別にいいけど。ゆっくり休んでもらいたい。
    描き下ろしである3編では、インディーゲームに関する話と同時に著者のおやすみの間の話が語られており、ちょうど活動を休止してからの説明が少しあったのでちょい安心。

    それはさておき本編についてだが、仕事の関係でインディーゲームにはそこそこ詳しいと思っていた自分でもほとんど知らないような、そして確かに(色んな意味で)おもしろいゲームを数限りなく発掘してくるソーシキ博士のどことなく切ない文体で、ゲームたちとソーシキ博士の関わりが語られる。

    橋の上から飛び降りる自殺者を止めようとするゲーム、オンライン美術館でプレイヤーが好きな絵を描きその絵を別のキャラクターが手を加えることができるゲーム、ウクライナで戦争が始まったために完成前に配信が開始したゲーム、色んな人が作った「俺のマリオ」ゲーム、未来のタクシー運転手となり色々な客を運ぶゲーム、父に本をプレゼントしようとするゲーム、10分10ドルで注文を受けて作られるゲーム、コロナで会えなくなった友人たちが協力して作った、手紙を部屋の中に隠すゲーム、なぜか数限りなくあるトイレシミュレーションゲーム…
    世界中で作られる千差万別すぎるゲームに真摯に向き合い、それぞれが持つメッセージを大事に受け取ったり、メッセージ性が特にないかも知れないゲームを普通に楽しんだり…

    正直、意表を突くゲームすぎたり、結構内容が重いゲームが多いため遊んでみたいと思うゲームはそこそこ少ないが、そんなゲームがあることを紹介してくれてありがとうという気持ちになる。これはまあ、実況の頃と同じ感想になってしまうのだけれど。
    遊ぶ遊ばないは別にして、気になるゲームがたくさん紹介される。

    まず宇宙にファックユーするだけのスペースファックはとにかく良い。もはやゲームじゃなくてインタラクティブアート感というかブラクラでは?という感じがするけど。挿絵もスペースにファックしてて良い。
    hospiceもつらいけど、とても良くゲームに落とし込んだ感じがして非常に良い。自分で遊ぶ勇気はないが。
    Forgottenも、振り向くとオブジェクトが増えているというホラー的なシステムを、「アルツハイマーだからそれまで忘れていただけ」という、とてもリアルな表現方法に使っていて素晴らしいゲーム。調べてみたら今もまだ作っているらしい。完成するのか…?
    Neocabは絵が濃いけど一度遊んでみたいゲームではある。

    しかしソーシキ博士のすごいのは、ゲーム発掘の嗅覚だけではなく、気になったときは作者に直接連絡して実際に会話したり、ゲームの詳細を聞いたりゲームを作ってもらったりするその行動力だと思う。
    こういうゲームのデベロッパーのほとんどは海外在住なので、日本人から感想が来るどころか詳しい話を聞きたいという要求が来るというのはめちゃめちゃ珍しい経験だと思う。偏見かもしれないが、そういうデベロッパーはだいたい作りたいものを作ってネットに流しているだけなので、感想が来たらもちろん嬉しいけども、それを期待しているわけでもない。多くのゲームは販売してすらおらず、無料で配られているものだし。そんな中、突然日本から連絡きたらビビるだろうなぁ。でも嬉しいだろうなぁ。

    ちなみに小説すばる自体は去年の終わりまで毎月読んでいて、結構色々な両作品と出会えたので、そういう意味でもソーシキ博士には感謝している。

  • アトロクブックフェア2024で紹介されていたので購入。
    自分も時々インディーゲームはするものの、まったく耳にしたことのないタイトルばかりが取り上げられていて、本当に著者はインディーゲーム界隈を楽しんでいる(もしくはいた)のだなと感じた。
    あとがきで、働き始めたためにゲームに割く時間はかつてほどないといった記述があり、労働とゲームの両立の難しさに思いをはせた。

  • ひとつひとつの章が長すぎず、とても読みやすい。
    著者がゲーム制作者とコンタクトを取ってくれたおかげで、遊ぶだけでは知り得ない、ゲームを作るに至った経緯などの裏側を知れる点が良かったです。
    どのゲームもやってみたくなりました。

    イラストも素朴でとても可愛らしく、ゲームをイメージする上での良いヒント・アクセントになっていました。

  • どこか胸がきゅっとするような、切なさというか、哀愁というか、語彙力がなくて表現しきれないけれど、そういうゲームについてのエッセイが多かった。「めくるめく無慈悲な肯定」の127ページがすごく好き。
    インディーゲームって、ちょっとおバカでふざけた内容のものというイメージがあったけど、確かに、そういうゲームだけってこともないか。トイレシミュレーションみたいなものが、まさに私が今までイメージしていたインディーゲーム。アルツハイマー病患者を題材にしたものや、病気の祖母を見舞ったり、誰しもが人生のどこかで経験する陰鬱な時期をゲームに落としこんだりしたものなど、インディーゲームだからこそ作れる世界観や設定の幅広さに興味が沸いた。
    私もゲーム好きなので、「壮大なストーリー」に胸焼けするのも、「豊富なキャラメイク」にそこまで魅力を感じないのも、「圧倒的なボリューム」に尻込みするのもよくわかる。正直この3点って、ゲーマーはもう喜ばないと思うんだよなあ。これにワクワクする時期は過ぎた。こういうゲームが出始めた頃はそりゃあ楽しかったけど、今は飽和状態でそこまで珍しくもないし、ただただ時間と体力を蝕まれる、という気持ちの方が強くなる。私が歳を取っただけか?笑
    平日にゲームをしている時間と心の余裕はないので(ちゃんとごはんを食べてちゃんと眠りたい)、そうなると土日しか時間は取れないわけで、かといってゲームだけしている訳にもいかないので、実質触るのは週1~2時間になってしまうこともある。仕事が衝撃的な展開をすると、ゲームのストーリーや、先週、先々週の自分がゲームの中で何をしていたかなんて覚えていられないことが増えた。現実はゲームより奇なり。笑 だから、「ストーリーがない」「疲れに合わせて選べるボリューム」これすごく大事。社会人ゲーマーはみんな頷くと思う。笑
    最後のエッセイ、「終わらせなければ、終わらない」。希望とも絶望とも取れるこの言葉の持つ深みに、胸がきゅっとした。
    あと、やっぱりマリオってすごいんだね。

  • 海外インディーゲームの新作をチェックするのを日課にしてきた著者によるエッセイ集。日本では人気も知名度もほとんど無いようなマニアックな作品を扱っているが、そもそもゲームを紹介するのが本旨ではないのが面白い。目次にも作品名が載ってないという潔さ。ゲームの中身だけでなく作り手のバックグラウンドも深掘りし、そして著者個人のエピソードにも繋がっていく。本のレビューを題材とするゲームを扱った『本から広がる言葉の宇宙』が書籍との相性も含めて面白かった。

  • 単なるゲームの紹介本かと思いきや、インディゲームとは社会的で詩的で、ゲームの定義とは…と考えさせられた。
    文章もとてもいい。

  • 大量のインディーゲームの渦の中に「突然現れた話のわかる友人」を探し、年に400本以上プレイしていたという著者のエッセイ集。
    紹介されているゲームは(たぶん)かなりマイナーな短い物が多く、かつゲーム性はシンプルだ。しかしその中身は…延々トイレの水を流し続けるとか、危篤の祖母と会話するとか、マリオのパロディとか多岐にわたりすぎている。
    著者にとっては、ゲームプレイは制作者やゲームそのものとの出会いであり、対話なのだ。ある種「くだらない」ゲームでも、作者の悲痛な体験が元になったようなゲームでも変わらず淡々と向き合い続け、対人そのもののようにコミュニケートしているのが面白かった。

  • 私自身インディーゲームが好きだし、いくつか遊んできたので興味深く読ませてもらった。Steamのストア画面で見るだけででも出会えるであろうインディーゲームの中でも、異色の作品になりそうなものが著者なりの解釈を添えて紹介されている。
    学びを得たりハッとさせられることも十分あるだろうが、それは著者というより、題材とされたインディーゲームによる部分が大きい。読み物としてとても面白いのだけど、どうにも本全体で何を伝えたいのか纏ってこなさそうだなぁと読み進めていた。後から気づいたのだけど、これは連載の単行本化だったらしい。なので、それも無理ないことかなぁと思う。あるいは、僕がある程度インディーゲーム、特にこの本で紹介されるような、人の脳髄を、人生を絞り出したような作品をいくつか知ってるがためにそう思ったのかもしれない。経験したことがない人は、多くのものを得られるかもしれない。

  • 胸がいっぱい

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

アニメーション作家。映像制作チーム「ふりふり組織」のメンバーとして活動するほか、シールの日記の制作なども行う。2021年11月現在、『小説すばる』にて海外インディーゲームレビューを連載中。

「2021年 『ゲーマーが本気で薦めるインディーゲーム200選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ソーシキ博士の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×