荒野は群青に染まりて ―暁闇編―

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  • 集英社 (2022年2月4日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (304ページ) / ISBN・EAN: 9784087900712

作品紹介・あらすじ

敗戦の焦土から立ち上がれ。混沌の時代を生き抜いた男たちの、反骨と絆の物語。

太平洋戦争に敗れ、大陸からの引揚船で、中学生の阪上群青は母とはぐれ、直後に何かが海に落下する音を聞いた。
その場に居合わせたのは、赤城壮一郎という男。さらに謎の男が現れ、「赤城が君の母親を突き落とした」と告げられる。
母の失踪に赤城が関係しているのか。疑惑がぬぐえないまま、行く当てのない群青は、赤城と共に焼野原を生きることに。
戦後の混乱期、上野の闇市で商売をするうちに、人々が衣食の次に必要なのは「清潔」だと気づき、二人は仲間たちと石鹸会社を立ち上げた。
ともに困難に立ち向かう日々の中、群青にとって赤城がかけがえのない存在となっていく。
だがそんな時、引揚船の男が再び現れ、衝撃の事実を群青に伝えた。
果たして二人の行きつく未来は……。

感想・レビュー・書評

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  • 戦後日本を舞台にした企業小説であり、主人公少年の成長譚でもある、少年を取り巻く人々・社会を描いたドラマチックな物語。

    作中で何度か繰り返される「強く生きていく」が本作のテーマ。


    大陸からの引揚船で出逢った二人の男が、何ら後ろ楯の無い状態から徐々に仲間を増やし、絆を結び、
    「夢」(p275)を育むというある種典型的な胸熱くする筋なのだが、本作には’義兄と慕う男が母親の仇かも知れない’という疑惑が付き纏う一筋縄ではいかない設定があり、事ある毎に不穏の気配が漂う。
    更には軍部機関の影までチラつき出す始末。

    普通ここまでごった煮だと色々中途半端になるのでは?と勘繰りたくなるが300ページにきっちりストンと収まっているのは凄すぎるな(リョウの事とか桜桃石鹸との対決とかは続きに持ち越しだけど、それでも凄いと思う)。


    企業小説パートにおける石鹸製作の理念とか製法への拘りの説得力がめちゃくちゃ熱い。
    テシさんみたいな職人キャラ好きだ。


    過酷な時代設定だが悲惨・凄惨な描写は抑えられており、読後感は心地良い。

    生温く感じる向きもあるかもしれないが、私の好みにはピッタリ。
    続きが待ち遠しいです。



    1刷
    2022.3.12

  • 終戦後、大陸からの引揚者たちの苦労というのはなんとなくは知っている。内地で終戦を迎えて人と、大陸から帰ってきた人との、心的乖離みたいなこともなんとなくぼんやりとは知っている。
    同じように苦しい中での生活であったとしても、そこには目に見えない心の、気持ちの、壁のようなものがあったのだろう。
    引揚の船の中で母親とはぐれた14歳の少年が、母を殺したかもしれない男と一緒に暮らし始める。真実を知るため、そして、復讐をするため。
    たとえ母親の仇を討つことが人生の目的だったとしても、それでも生きていかねばならない。生きるためには食べなければならない、けれど14歳の、知り合いとてない少年が一人で生きていけるはずもなく。心を殺して疑いのある男と共に暮らす、その不安さ。
    男の家で知り合った不法在住の兄妹、そして戦争孤児たち。彼らと生きていくために共にはじめた商売。4年の月日が変えていくもの。

    そんなにうまくいくのか、と思いながら読んでいるとわかってくる彼らの過去。そしてその過去で明らかになってくる謎。うーん、うまいね。このあたりのさじ加減というか。ちゃんと根拠のある「うまくいく商売」だったのか、と。
    なんでもあり、だった戦後の混乱期。そこできっと「あったであろう」物語。続きが気になる。
    一人の男として旅立つ群青の明日が早く読みたい。

  • 「見知らぬ祖国へ」
    ドボンと暗い海に消えた。
    行き先もなければ帰る場所もないという状況は、どれだけ気丈に振る舞っていたとしても心を折るには十分な材料だろう。

    「アメンボとしゃぼん玉」
    孤児たちの過酷な環境に。
    変わるために協力してあげることは出来るだろうが、今まで築き上げた繋がりは仲間意識からだったことも考えるべきだな。

    「ありあけの船出」
    使ったらかぶれる粗悪品。
    被害にはあったかもしれないが、命に関わるような体験をすることもなく戦地の本当の姿を知らないからこそ言えるのだろ。

    「荒野から来た男」
    変わってしまった母国に。
    洗脳されたような思想を持っていると感じるのは、敗戦国の人間として変化せざる得なかった状況と違ったからではないか。

    「赤と青」
    二人から語られた真相は。
    どちらの話を信じるか迷った瞬間もあっただろうが、騙されていたとしても共に過ごした日々の偉大さは越えれないだろう。

  • 久しぶりに読んだ戦争の絡んだ立志伝。読み応えがあった。今また、軍備拡大の声が大きくなってることに、大きな危機感を感じる。この物語には続編があるのだろうか?ぜひ読みたいものだと思う。

  • 亡き祖父を思い出した。
    群青や赤城同じ、引揚者だから。
    フィクションとはいえ、戦後を生き抜く人々の、逞しくも優しさ溢れる姿が祖父と重なる。ラストは、涙が出た。

    祖父のおかげで、今の私が在る。
    なのに、辛いこともたくさんあったはずの戦時中の話は、あまり聞いたことがなかった。
    どこにいたとか、戦後どのようにして日本に辿り着いたのか。朝鮮で何をしていたのか。ざっくりとした内容だけが記憶に残っている。
    今思うと、もっと自分から色々と話を聞いておくべきだったと後悔している。
    「竹林はるか遠く」はノンフィクションだったので、想像を絶する苦労が、引揚者にはあったことがわかった。
    祖父にも、同じような体験があったはずだ。
    私も年齢を重ね、周りの大人だった人たちは鬼籍に入り、
    もう話を聞くこともできない。
    だから、同じようなテーマの本には自然と手が伸びる。
    私が、知りたいことは本が教えてくれる。

  • 終戦直後の混乱期の東京の情景と、そこで引揚者としてゼロから築き上げていく主人公の成長が描かれてる。
    母を殺したかもしれないと疑いつつも主人公にとってかけがえのない存在となる赤城や、上野の孤児たちとの絆が印象に残る。過酷な環境を生き抜くなかで、過ごした年月以上のつながりが生まれるのだと感じた。

  • 敗戦後、大陸からの引揚げ船で母と生き別れた少年、群青。
    そんな彼は赤城という謎の男と出会う。
    行くあてのない群青は、赤城に導かれ生活を共にする。
    母を殺したのは赤城かもしれない。
    そんな疑念を懐きつつも赤城に惹かれていく群青…。
    魅力的な仲間と出会い闇市から石鹸会社を建設するまでに至る。

    とにかく赤城壮一郎が魅力的。
    続きが待ち遠しい作品。

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著者プロフィール

千葉県生まれ、東京都在住。中央大学文学部史学科卒業。「風駆ける日」で1989年下期コバルト・ノベル大賞読者大賞を受賞後、90年『炎の蜃気楼』でデビュー。同シリーズは累計680万部を超える大ヒットとなる。他の著書に、今作を含む「西原無量」シリーズ、『カサンドラ』、「赤の神紋」シリーズ、「シュバルツ・ヘルツ」シリーズなど多数。

「2023年 『遺跡発掘師は笑わない 災払鬼の爪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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