- Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
- / ISBN・EAN: 9784091910141
作品紹介・あらすじ
トーマの心臓番外編他、感動の短編集。
オスカーの出生にまつわる秘密……。それが父母の愛を破局に導き、思いがけない悲劇を呼び寄せた。母を亡くしたオスカーと父グスタフのあてどもない旅が始まる。名作「トーマの心臓」番外篇表題作ほか、戦時下のパリで世界の汚れを背負った少年の聖なる怪物性を描いた「エッグ・スタンド」、翼ある天使への進化を夢想する「天使の擬態」など、問題作3篇を収録。
感想・レビュー・書評
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もうね、とんでもない傑作ですよ。志賀直哉の『暗夜行路』なんて、捨てちゃいなさい。かわりにこの『訪問者』を教科書に載せたらいい。その前にまず、閣僚はみんな読んで、原稿用紙10枚以上の感想文提出のこと(女性閣僚は『イグアナの娘』で)。(長山靖生「萩尾望都がいる」256p)
実際、『訪問者』を読むと、たいていの父親は泣きます。中学生以下の息子がいる父だと百発百中。(同257p)
萩尾望都は、やっと親離れが出来始めたと感じた80年代から親子問題を描き始めます。(『メッシュ』『半神』『イグアナの娘』『残酷な神が支配する』)「訪問者」はその最初の作品です(1980)。「トーマの心臓」(1974)でひとり大人びた雰囲気で、トーマとは違う方法でユリスモールを守り、でも自らはギムナジウム校長の実子であるという葛藤を抱えていたオスカー・ライザーの、学校に来るまでの数年前の物語です。
私に息子はいないので泣きませんでした。実際、百発百中なのか?聞いてみたい気がします。
ある時‥‥雪の上に足跡を残して神さまがきた。
そして森の動物をたくさん殺している狩人に会った。
「お前の家は?」と神さまは言った。
「あそこです」と狩人は答えた。
「ではそこへ行こう」裁きを行うために。
神さまか家に行くと、家の中にみどり子が眠っていた。
それで神さまは裁くのをやめて、きた道を帰っていった。
冬ごとに
ぼくは雪の上に神さまの足跡をさがした。
ーーたいせつなものが
この世にはあるのですーー
子どもは、特に男の子は家庭の親父のダメなところは何もかもがわかって、それでも親父を守ってきたけど、その気持ちは父親には伝わらない。
ー親父からは、ぼくが裁きをなす神さまに見えていたというのか?
ギムナジウムに来るまでの1年間、オスカーと父親はどんな旅をしたのだろう。とふと思ってこの作品を書いたと、30年ほど前に萩尾望都のインタビューを読んだことがある。それどころか、B5版のコミック発売ではなく、100pだけの上製単行本の漫画が初めて発売されるという冒険を行ったのがこの本だった。そしてそういう漫画を私が初めて買ったのがこの本だった。コミックスさえ、古本でしか買わない私にとっては大事件だった。それでも、「トーマの心臓」と同じで、結局私は力作だとは思ったけれども、泣きはしなかったし、オスカー目線でしか読めなかったこともあり、そんなに名作とも思わなかった。
あれから30年。改めて読むと、父親目線で読むと、よくもまぁ親子心中をしなかったな、とか、どうやって旅の金を工面したのだろうか?とか、第二次世界大戦の影があちこちにまだ残ってるんだな、とか、南米に行って、息子に手紙を書く約束をしたことで、おそらく彼グスタフは人生が救われているな、とか、いろいろ思った。今更ながら、これは裏『トーマの心臓』なのだとも思った。
まぁ閣僚に読ませてもムダだとは思うけどね。 -
パパにとって
雪の上を
歩いてくる
神さまは
それは
ぼくの顔をしていたの?
(訪問者/城/エッグ・スタンド/天使の擬態) -
「トーマの心臓」に登場するオスカーの幼少期を描いた作品を含んだ短編集。オスカー好きとしては嬉しい外伝だけど、読んでいて胸が痛くなるお話です。幼少期のオスカーは可愛らしいという印象で、そこからあのカッコイイオスカーになることを想像すると、取り残された環境であっても強く生き続けたんだなぁと、しみじみと感動します。「親子の愛」がテーマでもあるので、子供を持つ人におすすめしたい。「訪問者」という題名も、読み終わってみると考え深いものになります。他の三作も面白く、哲学、宗教、愛を含んだ読み応えある文学的な物語です。
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母親を殺した父親と旅をする子供の話です。
ひたひたと哀しいお話でした。
オスカーの切実な願いと、諦観と絶望が痛いほどに切ないです。
妻と息子への愛情と、疑惑と罪の意識の狭間でグスタフが追い詰められていく様が、淡々とリアルに描かれています。
またオスカーが聡い子で、薄々とそんな父のことを気付いていて、ずっと不安を抱えていて、それでも愛されたいと必死でしがみついていこうとするのが泣けてきます。
段々と憔悴していくグスタフの姿が、蹲るグスタフの背中を見てると遣り切れない気持ちで一杯になります。
父親のそんな姿を見なきゃいけないのも哀しいことながら、父を最も追い詰めていたのは自分の存在自体だったんだと気付いたときのオスカーの衝撃と哀しみが、痛すぎます。
自分の居場所を見つけられなかったオスカーが、父が話してくれた神様の話で、自分が家の中の子供かもしれないと希望を抱いていたのに、あんな形でそれを奪われてしまうなんて哀しすぎる。こんな話が描けるなんてすごい…!!と思いました。
本当に、萩尾さんの描く世界は怖ろしいほどのリアルさと、非現実的な綺麗さが同居してるんだなあと……これに出会えてよかった…!と思うほど、大好きな作品です。
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短編集。
親とうまくいかない子どもの話が多かったので、重い、暗い気分になりました。
「エッグ・スタンド」は誰が悪いというほど簡単には割り切れない、複雑な気持ちになりました。
戦争ってやり始めた上層部と現場の兵士とは全く違うものを見ているんではないか、と思った。
所詮自分が傷付けられない安全地帯でやり取りしてるだけの人達の、メンツや思想を押し通したいがためのもので、住んでいる人達には関係ないと思ってしまう。
怖しい行いです。 -
『でもさ 愛も殺人も同じものじゃないの みんな戦争に愛されてるみたいだ』
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短編四作品を収録しています。
「訪問者」は、『トーマの心臓』の番外編で、シュロッターベッツにやってくる前のオスカー・ライザーとその父親の物語です。写真家の父のグスタフ・ライザーは、オスカーが自分の息子ではないという事実に感づきながらも、そのことに向きあう勇気のない男としてえがかれています。彼は、妻とのあいだにその件をもち出すことを避けつづけ、最後には妻を殺害してしまいます。やがて刑事が彼に疑いの目を向けはじめます。しかし、グスタフ以上に心に大きな負担をあたえられることになったのはオスカーでした。オスカーは、父と母と自分の関係が家族というまとまりをうしなってしまっていることに気づきながらも、家族でありたいと願いつづけ、逃避行をつづける父と行動をともにします。
「城」は、両親が離婚し父に引きとられることになったラドクリフという少年の物語です。なかなか友人のできない彼ですが、同じクラスのアダムという親切な少年と、その友人で不良学生のオシアンと過ごす時間が多くなります。ところが、ラドクリフは偶然にも、キャルガリ先生の若妻メディーナとオシアンが不倫をしていることを知ってしまい、そのことがきっかけで、彼は人間の心の複雑さを知ることになります。
「エッグ・スタンド」は、第二次世界大戦でドイツの占領下にあるフランスが舞台の物語です。キャバレー「花うさぎ」で働くルイーズというユダヤ人の娘は、ラウルという身寄りのない少年を引きとります。ところが、彼女の店に現われた、レジスタンス運動の闘士であるマルシャンという青年が、ロゴスキーという協力者の死をきっかけに、ラウルに疑いの目を向けるようになります。やがてマルシャンは、戦争のなかでしか生きられない少年の心を知り、みずからの手でラウルの運命に結末をくだすことを決意します。
「天使の擬態」は、ヨコハマアドリア女子学園に通う有栖川次子(ありすがわ・つぎこ)と、生物学の新任教師・織田四郎(おだ・しろう)の物語です。次子が自殺未遂事件を起こしたことがきっかけで二人は知りあいます。ストーリーは次子が中心となって展開していき、やがて四郎が次子のかかえている心の傷を知るようになります。
著者プロフィール
萩尾望都の作品






やっぱり「来訪者」良いですよね!
「ぼくは家の中の子供になりたかった」
萩尾望都さんの絵も、私は...
やっぱり「来訪者」良いですよね!
「ぼくは家の中の子供になりたかった」
萩尾望都さんの絵も、私はこの頃が一番好きかもしれません。
私も読んだのかなり昔なので、父親目線で「百発百中泣く」は知りませんでした 笑
ちょうど今読んでいる海外小説が「父親と息子が旅をして、息子は寄宿舎に入る」という本です(こちらは犯罪とかではないのですが)。なんかタイムリーにレビューをお見かけしました。
「来訪者」良いですよね。
父親と息子の旅、というのはお喋りしない分、何か特別な空気が流れるのかな。
レビ...
「来訪者」良いですよね。
父親と息子の旅、というのはお喋りしない分、何か特別な空気が流れるのかな。
レビュー楽しみにしています。