- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784092271524
作品紹介・あらすじ
鉄ってなんだろうね?機械やビル、飛行機や車をつくるもの…?もちろんそれも鉄だけど、みんなの体の中にもあるって知っているかい?鉄はいろんな顔を持っている。地球をつくり、命をつくりだしているのさ。魔法のようにね。
感想・レビュー・書評
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光村教科書6年生紹介本
私はノンフィクションよりも小説を多く読むのですが、児童向けのノンフィクションを読んで非常に素晴らしい本に出会っている。
こちらは小学生向けではあるが、私のようなこの世が何で成り立っているかわかっとらん大人にも非常にわかりやすいし、著者の語り口もとても良い。
気仙沼で牡蠣の養殖をしている漁師である著者畠山重篤が、海の生物の成長には鉄が欠かせないということにたどり着き、研究したり森の土壌を良くする運動を行った。鉄がどんな役割をしているのか、鉄に関する研究、そして実際に行われている研究や活動のことが児童にも分かりやすく書かれている。
本書を書き上げて出版を待つ間に東日本大震災が起きて著者のご家族にも牡蠣養殖場にも被害が出たのですが、少しずつ回復している様子を見て、再会の希望も込めて出版となったということです。
現在では養殖も回復中、植樹運動も続いているようです。
https://kesennuma-kanko.jp/oshietesensei-kakiyoushoku/
なお畠山重篤は朝ドラ『おかえりモネ』の祖父のモデルといわれているそうです。(みてなかったのでよくわかりませんが…)
https://agrilab.kyodo.co.jp/2021/06/post-240.html
❐鉄 生命体と鉄の関わり
・呼吸のシステム。赤血球にはヘモグロビンが含まれていて、その中心に鉄がある。鉄は、肺から取り入れた酸素をくっつけて体中に届ける。地が赤いのは酸素が鉄にくっついているから。
なお、青酸カリを飲むと死ぬのは、鉄が青酸カリのシアン化合物とくっついてしまって酸素を運べなくなってしまうから。
・地球は「水の惑星」と言われるが、地球の質量のうち水は0.03%。そして鉄は30%を占める。そうだったの!?地球の内部の中心に鉄が集中している。
宇宙のしくみを男性、陽子、中性子でみると、鉄とニッケルが安定していて、鉄のほうが作りやすい。ビッグバンでできたのは水素、ヘリウム。宇宙でできる物質は年齢とともに重たいものになっていく。そこで最後にはすべて鉄になってしまうんだそうだ。…よくわかりません(-_-;)が、この宇宙は鉄を作るための宇宙なんだ、ということなんだって。
❐森 森は海の恋人
https://pride.kesennuma-kanko.jp/slow-city/activities-01/
森を伐採すると、土壌が代わり、海への要素が変わる。特に、森林から鉄分が供給される海の生物は豊かに育つ。そこで著者は海に流れ込む流域の森の土壌を調べたり、植樹して海を豊かにする「森は海の恋人」活動を行っている。
これも国単位でやって欲しいですよね。
・麦が荒れた土地でも栽培できるのも鉄が関係する。アルカリ性の土壌では植物は鉄を吸収することはできない。麦の根っこは、鉄を包み込むムギネ酸を発生することだできて、ムギネ酸に包まれて鉄が麦に吸収される。そこから、ムギネ酸の合成に関わる物質が解明されれば、荒れ地でも植物を育てられるかもしれない。
・温暖化と寒冷化のこと。二酸化炭素の増加が地球温暖化の原因なら、二酸化炭素が減れば寒冷化する。
海中に鉄が増えて、植物プランクトンが大量に増え、光合成により大気中の二酸化炭素が減ると、寒冷化につながる。
これ温暖化対策として進められないんだろうか。
❐海の中の鉄
・地球ができた46億年前には二酸化炭素で覆われていて、海の中には鉄がたくさん溶けていた。35億年前からに生物が光合成を行うようになり、葉緑素ができるには鉄が必要になった。こうして光合成により酸素ができて、海水中の鉄は参加されて大きく重くなり、海底にオチていった。そうして海の水には鉄は無くなった。
・海には鉄がなくなったが、陸地にはたくさんある。
海の中の鉄の一因に中国大陸からジェット気流で運ばれた黄砂がある。黄砂は天候によっては地球一周くらいしてしまうらしい!
黄砂って砂っぽくなるしアレルギー発症するし困ったもんだと思っていたら、地球の生物育成には欠かせなかったのか…。
・沈没した鋼鉄船が魚の棲家になったり階層が生えたりしている、というのはニュースでもみるが、これも鉄が溶けて生物の成長を助けているため。そのため計画的に鋼鉄製の廃棄物を海底に沈めることもある。
ここで「戦争のときに沈められた船に魚たちが増えて様子を見て、英霊に手向けられた花のようだった」と書かれている。沈んだ船を怖いととらえるのではなくて、新しい海の命に囲まれ、その海の命が陸も豊かにすると考えるのは良いなあ。
なお、飛行機はジェラルミンなので、鉄のようには生物が育たないんだそうです。
日本の農業、漁業の研究でも、鉄と炭を混ぜた団子をヘドロの溜まった海に設置したら、その海域が綺麗になり、生物が育つようになった結果が出ている。科学的には、ヘドロと鉄の成分が…ということのようです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本日4/22はアースデイ。
所蔵情報:
品川図書館 436.8/H41
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読書マラソン感想カードより:
「森は海の恋人」
このキャッチフレーズ、聞いたことはないだろうか。著者は山に植林活動をしているカキ養殖の漁師だ。
なぜ、彼は木を植えたのか。その答えがまさにこの一言に凝縮されている。
始まりは知り合いの研究者が言った「なにがその中に入っているかわからないが、森には魔法つかいがいる」
その謎が解ける過程が面白い。しかも謎はどんどん生まれ、解かれ、かつすべては消えない。
それでも見えてきた答えで、自分の所だけでなく、日本中の漁場を良くし、もしかしたら温暖化を改善する鍵になるかもしれないなんて、化学ってすごいな、と思った1冊。
ノブ(図書館職員) -
うん、面白いし、為になったね~気仙沼湾の牡蠣漁師が森に注目して植林をし、その有効性を知る。海洋深層水で窒素や燐は硝酸塩・リン酸塩として運ばれるが、海藻や植物プランクトンが取り込むためにはフルボ酸鉄が必要で、それは腐葉土の下の鉄が原料となる。ダムなどを造ってしまうと、鉄が供給されないのだ。三陸の豊かな海はアムール川から来るものが大きい~宇宙で多い物質は鉄とニッケルだけど、鉄はユニークなんだね
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自然がどのようにして世界の生きとし生けるものを育んでいるのか、その秘密はまだわたしたちの前に多くの謎として残されている。人は、その秘密の一端を知りたいと願い、少しずつ自然が解き明かしてくれるその秘密に触れることで、実は人間は自然に生かされているのだということを教えられる。
筆者の追求は、最初は自分たちが生きていくための必要から始まったのであるが、そのうちに鉄という物質が人とどう関わっているのかという探求心へと変わり、ついにはオーストラリアまで足を運ばせるほどの行動力を伴うことにもなる。
文中挿絵も多く(この挿絵がとてもいい!)小中学生にも読める体裁だが、これから将来を担う若い人たちにこそ読んでほしい一冊である。 -
先日読んだ著書「日本汽水紀行」が非常に面白く、続けて本作を読んでみました。
「豊かな海」には「豊かな川」が必要で、「豊かな川」には「豊かな森」が必要。そんな中、豊かな森が生み出す重要な栄養分の1つが「フルボ酸鉄」という鉄であって、本著はその「鉄」にフォーカスして色々教えてくれる一冊だったりする。
豊かな海に憧れるけど、自分はまだまだ知らないことだらけ、これからも少しづつ勉強していきたいと思います。 -
毎週日曜日に読売新聞の文化面に掲載される「本よみうり堂」の書評を楽しみにしている。書評を担当する読書委員の一人の肩書きが「カキ養殖業」になっているのを見て、いろんな人に書評を依頼するものだと感心していた。その読売新聞の2012年2月10日付け夕刊で、カキ養殖業を営む畠山重篤という人が国連のフォレスト・ヒーローズ(森の英雄)に選ばれたという記事を読み、おやおやまたカキ養殖業かと思ったら、何のことはない、同一人物だった。「森は海の恋人」を合い言葉に植林を続けてきたという記事を読んで、そういえば、同じような活動をしている人が書いた子供向けの本が「本よみうり堂」で紹介されていたぞと思って調べてみたら、これまた何のことはない、畠山重篤さんが書いたこの本だった(2011年7月24日付け読売新聞)。もう少し大きくなったら子供に読ませようと思ってアマゾンの「ほしい物リスト」に入れておいたのだが、これを機に購入することにした。森が海の生態系を支えているという話は前にも聞いたことがあるが、具体的には、森の腐葉土に含まれる鉄がフルボ酸鉄として海に流れ込むことが重要らしい。フルボ酸鉄に含まれるのは水溶性の2価の鉄で、それを利用して植物プランクトンが繁殖し、食物連鎖が始まるということだそうだ。シアノバクテリアが光合成を始め、その副産物として放出された酸素が海水中に含まれる2価の鉄を酸化して沈殿させてしまった結果、生物が利用可能な海水中の鉄が枯渇してしまったとか、ニック・レーンの「生と死の自然史」に出てきた話ともつながって、少々まとまりに欠ける気はしたが、読んでいて楽しかった。この本の原稿を書き上げた後、東日本大震災でお母さんを亡くし、カキの養殖場も失ったとのこと。復興を祈るばかりだ。
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仕事の関連で、畠山さんの講演を拝見ことがあります。とても情熱的で、飽きさせないその語り口調が印象に残っており、そのときに初めて森と海、鉄のもつ素晴らしさについて知りました。じつは深くつながっている森と海の関係は、畠山さんを始めたくさんの研究者や協力者のみなさんが各所で尽力したからこそ、解き明かされてきたものだということが本書でよくわかり、関係がない私でも感慨深いものを感じました。
また、じつは理にかなっている昔からの風習を、科学的に解き明かすことの大切さも感じました。なぜその慣習は残ってきたのか。それが科学的に納得されることは、古い風習をこれから先へ残していくための、有力な解決策ですね。内山節先生の共同体の思想とも関連しますが、めんどうくさいこと、効率の悪いことは、現代の社会では悪とさえ見なされ、効率化、短期的収益性にばかり目が向いてしまっていると思います。ですが、古くからの慣習が思想や個々人の尽力によってのみ支えられるものではくなれば、もっともっと各地に残る風習は見直されて行くのではないでしょうか。
鉄がつながりを作りだし、オーストラリアまで行ってしまう、というのは本当に驚きました。京都大学の先生にまでなってしまうなんて、人と人との出合い、人生の流れ、本当に何があるかわからないのだなと思うと同時に、それを実現してきたのは畠山さんの情熱やお人柄なんだなとも感じています。
東日本大震災を経てなお、もう一度立ち上がる畠山さんの姿(というか文章)に、心が震えました。人間が壊してきてしまったもの、それこそ森や海や山などの自然、もしかしたら人間の考え方や存在そのものすら壊れてきているかもしれません。それを修復しながらいかに次代につなげていけるのかを考える上でも、畠山さんの行っていらっしゃる活動は、とても勇気をいただきますし、自分も前に進んでいかねばという気持ちにさせていただきました。ぜひ、畠山さんが漁師をやっていらっしゃる毛根湾にお伺いしてみたいです。 -
工業材料としての多様性について書かれた本かと思ったら、植物プランクトンの生長に必要な微量元素としての鉄についての本だった。
カキ養殖の漁師をしている著者が始めた「森は海の恋人」プロジェクトを基に、その興味や活動の拡がりを書いている。
森を育てることで海が豊かになることは知っていたが、それに鉄が関わっているとは想像もしていなかったので、ページを繰るごとに「へぇ!」の連発だった。
植物プランクトンや藻類を増やすとCO2削減に絶大な威力を発揮するという話には驚いた。
大変面白く読んだ。
子供にも是非読ませたい。 -
豊かな海を作るために、森が保存されていることが大切だということを初めて知った。陸と海で別々だと思っていたから、どちらの環境について考えるときも、両方を調べたいと思う。生態系は、みんなつながっている。
オーストラリアにジュゴンが一万頭いる海がある。それは、ジュゴンのえさのアマモが、食べても食べてもなくならないところがあって、そこにも鉄がたくさんある。行ってみたい。
鉄などの細かい説明は難しくて、わからないところもあった。(小6)