長靴を履いた開高健 (Lapita Books)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093411226

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  • 「私の釣魚大全」「フィッシュ・オン」「オーパ」など、開高健が記した釣りにまつわる紀行と、その紀行に関わった人々への取材を通し、人間・開高健を生き生きと再構成して描き出した優れた評伝。

    たとえ釣りにはまったく興味が無くても、この評伝を読み進めるうちに、開高健に魅惑され、ああ、叶うことなら、世界中を旅するその場に居合わせて、笑い、落胆し、驚く経験をしてみたかった、と思わずにはいられない。

    京都の神学者、杉瀬祐は開高健を「作家が釣りをしている」と評したという。「この人は釣り師ではないと思った。釣り作家でもない。作家そのもの。作家が釣りをしているんだと思いましたね」(p.11)と。

    小説家の残した「オーパ」のまぼろしの取材メモ。『赤道6時に夜が明け、6時に日が沈む』とだけ記されている部分があったという。(p.155)

    そのメモが、実際の原稿ではこうなると、著者は引用する。

      『このあたりは赤道直下そのものではないけれどほとんど
       直下といってよい地帯で、六時に夜が明けて、六時に
       陽が沈む。夜明けの雲は沈痛な壮烈をみたして輝き、
       夕焼けの雲は燦燦たる壮烈さで炎上する。そそりたつ
       積乱雲が陽の激情に浸されると宮殿が燃え上がるのを
       見るようである。』

    それこそが『「オーパ!」(驚きの感嘆詞)とつぶやかざるを得ない』と著者はいう。同感だ。同時に、その赤道の雲を自分も見たかったと思う。自分がみたあの空が、作家の内面を通してどのように表現されるのか、その奇跡に立ち会いたかったと思えてくる。

    「オーパ!」。

    その第一回の最初の見開きのリード文にはこうあると、著者は作家の言葉を再掲する。

      『1万6000キロ、2ヶ月間、取材班はこの国をさまよった。
       さまよっては驚き、新しい驚きを求めてさらにさまよい、
       驚くことを忘れたこの時代に驚くことの切実さを知らさ
       れた。驚くことを忘れた心は、窓のない部屋に似ては
       しまいかーーー? この連載は、現代生活が失って
       しまった新鮮な"驚き"を求める人のためにある。』

    驚きを失ってしまった現代。『半ば子供の脳を持った大人衆』である開高健を通して、我々は、もう一度、驚きを求めて彷徨う旅に出ようと、作家と著者が魅惑する。

    "橋の下をたくさんの水が流れた"という表現を作家はしばしば使ったという。作家が下敷きにしたのは、ギョム・アポリネール 「ミラボー橋」。

       ミラボー橋の下を
       セーヌ川が流れ
       われらの恋が流れる
       わたしは思い出す
       悩みのあとには
       楽しみが来ると
       日も暮れよ、鐘も鳴れ
       月日は流れ、わたしは残る

    人はこうして片雲の風に誘われるのだろう。

  • 過去に読んだ開高本の中では、
    一番の一冊。
    著者も釣師だとのこと。
    うなずける。
    浮かび上がる釣師開高健の姿。
    そして人間、開高健の姿。

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著者プロフィール

滝田誠一郎
(Seiichirou Takita)
1955年東京生まれ。ノンフィクション作家・ジャーナリスト。青山学院大学卒。
『ネットビジネスの若き創造主たち』(実業之日本社)、『孫正義 インターネット財閥経営』(日経ビジネス人文庫)、『人事制度イノベーション』(講談社現代新書)、『開高健名言辞典〈漂えど沈まず〉』(小学館)など著書多数。
本書の先行世代の起業家を取材した『電脳のサムライたち』シリーズが小学館より電子書籍化されている。

「2014年 『IT起業家10人の10年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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