風土 (P+D BOOKS)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 13
レビュー : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (518ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093522748

作品紹介・あらすじ

芸術家の苦悩を描いた著者の処女長編小説

関東大震災と第二次世界大戦という二つの歴史的大事件に挟まれた16年間――画家・桂が片時も忘れえなかった昔の恋人・三枝夫人との再会と、すれ違った愛の行方を追い求め描いた作品。

世界が激しく揺れ動いた時代、日本という風土に生まれ育った芸術家の思索、苦悩、そして愛の悲劇を通して人生の深淵に迫った力作である。完成までに十年の歳月を費やした福永武彦の文学的出発点ともいえる。

解説は芥川賞作家であり、福永武彦の長男でもある池澤夏樹氏。


【編集担当からのおすすめ情報】
芥川賞作家であり、福永武彦の長男でもある池澤夏樹氏の解説も秀逸です。

感想・レビュー・書評

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  • 福永武彦の処女長編。
    戦前、徐々に情勢がきな臭くなる時代を舞台にしているが、作中の雰囲気はモダンで優雅さもある。但し、先行きの不安さはうっすらと漂っている。
    先日、同じくP+D Booksから出た『海市』と同様、芸術家と女性の関係を描いているが、テーマと同様、読後感にも共通点があった。

  • 海辺の別荘地(鎌倉・湘南あたり?)に夏休みのあいだ療養に来ている少年・久邇(くに)は、同い年(15歳)の少女・道子と親しくなり恋するようになる。外交官から画家になった道子の父・太郎はパリで事故死しており、今は未亡人の母・芳枝と二人きり。そこへ太郎の友人でありかつて芳枝に失恋した桂昌三という画家が16年ぶりに現れて・・・。

    少年少女と、その親世代の二組の男女を中心に描かれる一種の群像劇。中盤で芳枝や桂らの若かりし日の回想が差し込まれており、重層的な構造。ピアノが得意で作曲家を目指している久邇と、画家である桂の対話など、芸術家の苦悩や生きることの意味など哲学的な会話や薀蓄が多いけれど、なかなか面白かった。

    しかし少年少女の瑞々しい感性に比べて、大人たちの内面のくだらなさ・・・。自分はむしろこちらと同世代だけになんだか余計にガッカリしてしまう。桂昌三の生い立ちや子供時代のエピソードは興味深かったけど、画家を目指して家を飛び出し学校を辞め、芸術家きどりで上から目線、薀蓄ばっかりたれてるのには辟易。基本的に理論・理想論ばかりで何一つ実行できていないあたり滑稽ですらある。結局彼はパリにも行かなかったし、作品を見せることもできない。

    芳枝は回想の中の10代の頃はとても魅力的な女性だったのに、現在に戻った途端に欲求不満で夢見がちな未亡人になりさがってしまってこれまたガッカリ。昔自分に恋していた男が現れたことで白馬の王子様が迎えに来たかのように舞い上がってしまい、娘のために10年犠牲にした、娘を捨てて男とパリに行こうと算段。ドン引き。

    桂昌三のその後は作中では描かれていないけれど、おそらく芳枝の希望的観測より道子の悲観的観測のほうが当たっているだろう。希望に満ち溢れ感性の鋭い少年少女と、疲れ果てた中年カップルの虚無っぷりの対比が鮮やかで、小説としてはとても面白かった。

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