五番町夕霧楼 (P+D BOOKS)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 84
感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093522854

作品紹介・あらすじ

映画化もされた不朽の名作がここに甦る!

昭和20年代半ば、京都で遊郭の娼妓となった片桐夕子、19歳。貧しい寒村生まれが故、家族のための決心であった。哀れに思った女主人・かつ枝の配慮により、西陣の大旦那に水揚げされそのまま囲われる道もあったが、夕子は自ら客を取り始める。最初の客で頻繁に通ってくる修行僧・櫟田正順、夕子との仲を疑われている彼が前代未聞の大事件を起こした――。

二人の関係が明白となる結末が切なく心に沁みる。実際に起きた事件と対峙した著者が、それぞれの人物像を丹念に描いた渾身の作である。

感想・レビュー・書評

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  • 「飢餓海峡」と同時期に出された作品で、上昇メロドラマ要素も強いと感じましたが、ヒロイン夕子を見守る、夕霧楼の女将のかつ枝さんが良かったです。夕子が櫟田から渡された粉薬を服用して寝込むあたりでは、櫟田が唯一とも言える自身の理解者である夕子の死期を悟りつつも失いたくないというように感じました。一方の夕子の櫟田に対する見方の中に「かわいそうな人」とありますが、優秀な頭脳を持ちながら吃音症のため、周囲に理解されない、受け入れられない彼を(精神的妹として)守りたいという意思を感じました。
    本作品の16年後、三島由紀夫の「金閣寺」へのアンサーとして「金閣炎上」を発表されましたがそこへたどり着くまでの習作的要素もあったのかもしれないと考えました。
    差別的な表現も出てきたり、吃音症の人物を取り上げるのはポリティカルコレクトの厳しくなった現代では共感を得にくいかもしれませんがこうした作品の存在を通して差別解消や他者の痛みに想いをはせる契機になるかもしれません。

  • 木樵の娘から京都で遊女になった夕子と、幼なじみでどもりの若い修行僧の悲恋を描く。なぜ僧は国宝の鳳閣に放火したのか、なぜ夕子は僧の後を追って自殺したのか、謎は明かされないが、それがかえって理不尽で哀しい。

  • コテコテの京言葉での会話しかありませんが、何故だかかなり読みやすい。

    まだ三島由紀夫の「金閣寺」は読んでいないので、犯人側にフォーカスが当たった作品との比較はできませんが、かつ枝視点で話が進んでいくことで、放火事件後は読者たる自分も自然と内情を知らぬ「ガヤ」の1人になって話が進んでいくようで面白かった。

  • 4.0昭和遊郭の様子を否定も肯定もなく描く。体の愛、精神の愛の両面を夕子を通して問われている感じがする。愛は金で買うものではない。それだけはわかる。

  • 水上勉は演劇部だった中学生の頃に戯曲「ブンナよ、木から降りてこい」を読んだ記憶はあるのだけど、ちゃんと小説を読んだことがなかったので初挑戦。「五番町夕霧楼」は子供の頃、松坂慶子主演で映画化されたときにテレビで予告編CM等を見た記憶があるのだけど、子供は見てはいけない系のエッチな映画だと勝手に思い込んでました(笑)実際、この映画では家族のために遊女となった夕子と、幼馴染の修行僧・櫟田正順の「激しい恋愛もの」として描かれていたようで、今ならR指定ものの内容だったらしい。

    が、いざ原作を読んでみると、ないんですよね、そんな描写(笑)もちろん妓楼で働くことになった夕子がエロ爺客に「水揚げ」された際の描写などはありますが、櫟田との恋愛に関しては、同じ布団に入ってもヒソヒソ昔話をしたり歌を歌ったりしてるだけで、どうやら肝心のコトは行われていなかったということになっている。えらい違いや。

    私がすでにおばちゃんなせいかもしれないけれど、読者はどちらかというと、純情なのか強かなのか得体がしれない夕子や、可哀想というよりは結構なクズとしか思えない櫟田よりも、夕霧楼のおかみである、かつ枝の視点で物語を見聞きすることになるし、自然に感情移入しやすいのも、意外にも二人に同情的で情にもろいお人よしのこの「お母はん」のほうだったりする。

    この小説の中では鳳閣寺になっているけれど、題材になっているのは昭和25年の金閣寺放火事件。三島の「金閣寺」も同じ題材を扱っているけれどあちらは火をつけた本人の心理にクローズアップしているのに対し、こちらはその放火犯を想っていた一人の少女のほうに焦点を絞っている。

    正直、櫟田という青年の境遇にはあまり同情できず、吃音だから苛められていたことが原因だったとしても彼はただ黙って耐えているようなタイプではなく、金銭的な面では恵まれており、修行をさぼってバイトをしたりかなり身勝手。それを幼馴染だというだけでなぜそこまで夕子が庇いだてするのかも客観的には理解しがたく、簡単に言うと夕子という女はつまり典型的な「ダメンズ好き」なだけだろうな。夕子のような女性がそばにいてくれたらグレずに立ち直ってもよさそうなものだけど、むしろ夕子の献身が櫟田を甘やかしダメにしてしまったのかも。

  • Wikipediaで作者の来歴を調べた過程で偶然この作品が「あの事件」を題材にしたものだと知ってしまったので、知らずに読みたかったなあ…というのが本音。
    「あの事件」といえば文学史上に燦然と輝くあの傑作があるわけですが、あちらがあくまでも作家の領域内に事件を引き寄せて論理で構築した小説だったのに対し、こちらはかなり叙情的な雰囲気。
    水上勉の小説は同じくP+D BOOKSでの秋夜(内容忘れた…)以来だったのですが、こういった現実の事件を題材にしたものというのは自分には割合好みらしく、印象深い読書になりました。

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著者プロフィール

少年時代に禅寺の侍者を体験する。立命館大学文学部中退。戦後、宇野浩二に師事する。1959(昭和34)年『霧と影』を発表し本格的な作家活動に入る。1960年『海の牙』で探偵作家クラブ賞、1961年『雁の寺』で直木賞、1971年『宇野浩二伝』で菊池寛賞、1975年『一休』で谷崎賞、1977年『寺泊』で川端賞、1983年『良寛』で毎日芸術賞を受賞する。『金閣炎上』『ブンナよ、木からおりてこい』『土を喰う日々』など著書多数。2004(平成16)年9月永眠。

「2022年 『精進百撰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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