ジェリコの製本職人

  • 小学館 (2024年11月27日発売)
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本 ・本 (562ページ) / ISBN・EAN: 9784093567473

作品紹介・あらすじ

吉田恵里香氏推薦!豪州発あの傑作の姉妹篇

「社会や環境、時に家族や出生時の性別が、ペギーの壁となり牙をむく。
弱き者にこそ味方となるべきものが敵となる社会で、どうしようもなく知識や学問に惹かれてしまうのは、これらが決して自分を裏切らないから。
それが、この物語が今の時代に必要である理由だと思う。」
ーー脚本家・吉田恵里香氏(連続テレビ小説『虎に翼』、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』)


第一次世界大戦下の英国。オックスフォード大学出版局製本所で双子の妹とともに働く女工ペギーは、夜になると工場から密かに持ち帰った不良(ヤレ)本をむさぼるように読み、大学で学ぶことを夢見ていた。だが、労働階級の彼女にとって学問は決して手の届かない高嶺の花だ。
戦争は日に日に激化し、街にベルギー難民が押し寄せ、疫病が流行し、社会は変わっていく。ペギーは、障害のある妹への責任やベルギー負傷兵との恋に悩みながら、大学を目指す――。
世界が恋した豪州発の傑作歴史小説『小さなことばたちの辞書』の姉妹篇が登場。前作同様オックスフォード大学出版局を舞台に、若く貧しい女工の挑戦、戦争と銃後のリアル、そして当時の製本工場を活写した紙の本への愛あふれる珠玉の物語。


【編集担当からのおすすめ情報】
本作はオーストラリア発のベストセラー小説『小さなことばたちの辞書』の姉妹篇です。前作では大辞典からこぼれ落ちた名も無き女性たちのことばを集めることに生涯を捧げた女性エズメが描かれましたが、本作では同じ時代のオックスフォード大学出版局を舞台に、製本所で働く女工ペギーの青春が描かれます。
幼い頃から父の勤める辞書編纂室に出入りしていたエズメとは異なり、両親はなく、運河に係留されたボートハウスに暮らし、製本所でも作業をしながらつい本を読んでしまい「あんたの仕事は製本することで、読むことじゃない」と叱られる労働階級のペギーは、そもそも学問へのアプローチすら許されない境遇にあります。
前作のキャラクターや同じエピソードも登場しますが、視点人物が異なることでこうも見え方が変わるのかと気づかされることもあります。そういう意味では、本作は『小さなことばたちの辞書』のサイドBの形を取りながら、「持たざる者」側を描いた作品とも言えます。他方でフェミニズム、シスターフッド、戦争といったテーマは前作からも引き継がれ、同様の感動を味わえる傑作小説となっています。
そして本作のもうひとつの大きな魅力は、何と言っても100年以上前の、ほぼすべてが手作業で行われていた製本工場の描写です。紙を折る、重ねる、縫い合わせるーー当時の製本工程が、著者の入念な取材によってリアルに再現され、製本に関わる全ての人々へのリスペクトと、紙の本への愛があふれています。
様々な魅力を持つ小説です。前作と合わせてぜひお楽しみください。

感想・レビュー・書評

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  • 重厚な物語でした…
    この厚みが、時代背景を過不足なく物語ってくれました。
    登場人物たちの終戦を見届けられてよかった。
    きっとこんな「実話」が、世の中にはゴロゴロあったんだろう。
    ただただそれなりにハッピーエンドで救われた思いがしました。

  • WW1のオックスフォードが舞台
    女性の参政権や地位が大きく動いた時代

    障がいを持つ双子の妹の為に、学問への道を諦め、
    製本所で働く20代前半の姉が主人公
    それでも何処か諦めきれず
    失敗した製本の一部をこっそり持ち帰ったり
    仕事中に暗記したり

    妹への複雑な想い
    若くして亡くなった母への想い
    恋の行方
    身近になっていく、戦争の迫りくる足音
    それらが、フィクションながら
    現実の時代設定、
    実在した人物を幾人か織り交ぜながら
    物語にリアリティを持たせ、
    重厚な海外ドラマを見終えたような
    満足感に浸れる

    前作『小さなことばたちの辞書』の姉妹編に当たる
    前作に出てる登場人物も出てるらしく
    そちらはまだ未読なので、読んでみたくなりました

  • 第一次世界大戦下のイギリス、オックスフォードの製本所で働く女性ペギーが地位を超えて大学を目指すお話。障害を持つ妹、戦争の影響、女性の権利の低さ。ペギーが卑屈すぎると何度も感じたけれど、それは今までペギーが受けてきた視線や言葉や待遇の裏返し。普段は日本の小説を好んで読んでいるけれど海外の小説はやはり世界が広いなー。これからもぼちぼち読んでいこうと思う。

  • Book Review: The Bookbinder of Jericho by Pip Williams – a war-at-home story set among Oxford’s printing presses – Judith McKinnon
    https://judithmckinnon.com/2023/11/03/book-review-the-bookbinder-of-jericho-by-pip-williams-a-war-at-home-story-set-among-oxfords-printing-presses/

    Review – The Bookbinder of Jericho by Pip Williams | Woroni
    https://www.woroni.com.au/words/review-the-bookbinder-of-jericho-by-pip-williams/

    pipwilliams.com.au
    https://pipwilliams.com.au/

    ジェリコの製本職人 | 書籍 | 小学館
    https://www.shogakukan.co.jp/books/09356747

  • 前作『小さなことばたちの辞書』では、捨てられてしまう女性たちの言葉を拾い集める辞書編纂助手エズメの姿が描かれたが、今作は同じオックスフォード出版部ではありながら製本所の女工ペギーが主人公だ。

    二人の女性の大きな違いはその立場。
    エズメは辞典編纂者を父にもつ中流階級の人間であり、幼い頃から言葉や学問に触れて育った。一方ペギーは、父がおらず母も5年前に他界しており、12歳の頃から自閉症の双子の妹と共に製本所で働いてきた。オックスフォードの住人〈ガウン〉と違い、ペギーたちは町に住む人間〈タウン〉なのだ。いつも何かを羨む側であり、手を伸ばす前からその権利がないことに絶望してきた。生活の中の些細なことで、自分には特権がないと諦めてきた。持たざる者の側から見た世界は、残酷だ。

    職場の製本所でダメになってしまった折丁を持って帰ってひっそりと本を読むペギー。
    身分の壁を乗り越えて、学問の道を目指す女性の物語だと聞いていたけど、物語が折り返し地点にくるまでペギーはその願望を心の中ですら口にしない。言えなかった、諦めた、そういう描写から察せられるだけだ。彼女は願っても叶わないことをずっとしっかり理解している。戦争によって何もかも奪われた人たちがたくさん出てくる。でも生まれたときから持てない事実だけを刷り込まれてきた彼女の苦しみは、未来を願えないという意味で命と同じくらい重いもののはずだ。

    前作と比べても戦争の影は色濃い。
    世界は戦争を中心に渦をまいて変化していく。そして皮肉なことに、戦争による喪失や変化がペギーの運命を変えていく。本来なら交わるはずのなかった人々と出会い、変わっていく。でもこれはきっと必然だ。ペギーの生まれるずっと前から、戦ってきた女性たちが彼女を未来へと導く。



    登場人物を全員もれなく魅力的だが、物語に甘みを足してくれる存在は双子の妹モードだ。ペギーにとっては足枷としても描かれるが、モードがこぼす繋がりがなさそうで、ある、不思議な言葉のチョイスが、戦争に染まっていく物語を少しだけひょうきんにしてくれる。ずっとお世話される側だと思われたモードが実はどんどん成長していくところも最高。

    ペギーたちの住む《カリオペ号》にある蔵書と同じで、この物語はつぎはぎだらけだ。いろんな人が持ち合わせの古びた紙をペギーのために集めてきて、つないでつないで夢へと進んでいく。前作でエズメが掬い上げた捨てられるはずだった言葉たちが、ペギーの背中を押す。サマーヴィルの図書館に入るために勇気を振り絞るペギーを支える。

    女性が、家を持たない人が、名前の残らない多くの人々が、善意を利用される人々が、何かを諦めてきた人が、自分で自分を縛ってしまう人が、そして何より本を愛する全ての人が、一緒に未来を見ようと思える素晴らしい作品だと思う。前作は豪州のベストセラーになったそうだが、今作も含めてこういう本が日本でも多くの人に読まれて欲しい。

  • 前作ほど主人公に強い個性はないし、ストーリーにインパクトもないけど、まぁいい作品でした。ん?って思うことがなくもない。。。

  • 夢中で読んだ。
    本当に生きている。自分の人生を使い切るという希望。

  • 第一次世界大戦中にイギリスで製本職人として働く少女、父親はおらず母親も亡くなり、少し発達障害を有すると思われる双子の妹とともにボートでの生活をしながら勉強への渇望が徐々に実っていくお話。主人公や周囲の人々が一歩ずつ人生を歩んでいく様がとても丁寧に描かれており、自分も同じ歩調を感じながら読み進めた。女性の権利を訴え勝ち取ったに見えても、実現したときに訴えた階層の女性が除外されたなど、”踏まれる石”が存在する哀しみや悔しさも綴られている。そのような中で”選択肢がある特権を持つ人”がどのように社会に貢献していくかも重要な課題として提起されているように感じた。戦争で傷ついた兵士らの描写は抑えめながらも惨くそれが今も続いていることはやるせない気持ちになる。

  • 小さなことばたちの辞書が素晴らしかったので、姉妹本とされるこちらの本も手に取りました

    女性差別が酷かったこの時代
    今では当たり前にある権利は、こういった女性差別に苦しんできた人たちが勝ち取ってきたものなのだと思うと、大切にしなければならないと思います

    また、この本からは諦めない心も学べる

    本を読むということは、楽しみもあるけれど、学びの一面もある
    全ての本が好きな人たちに、読んでみてもらいたいと思います

  • 印象的だったのは 姉と妹の関係性。
    そしてまわりのひとびと。
    モーディには私がいなくては。
    わたしが彼女でもそう思ったと思います。
    彼女の面倒を見なければと思う反面、
    なぜわたしが、もしモーディがいなかったら私は、でもモーディが自分から離れていくのは嫌だ。
    そんな を救ってくれたのはロッタ。
    最初こそあなたは私の妹のなに?と反抗的な気持ちを抱くものの、ロッタは妹はこれくらい1人でできると教えてくれた。
    だからこそ彼女は受験に前向きになれのでは?
    も彼女の大切な友人。
    暮らしは違えど親身にしてくれて、お姉さんのような友人だなと思いました。
    そしてバスティアン。
    彼女を精神的に支え応援し続けてくれた。
    彼は自国へ帰ってしまったけど、それで終わりではない。きっとこの物語には続きがある。
    バスティアンと彼女はいつかまた出会って手を取り合うだろう、そう思えた終わり方でした。

    他のキャラクターもみな濃く、生き生きとした人物だと思いました。
    決して明るい話ばかりではないけれど、
    その時代を生き延びている逞しさを感じた

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