- Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093798792
作品紹介・あらすじ
ヤマト「宅急便の父」が胸に秘めていた思い
2005年6月に亡くなったヤマト運輸元社長・小倉昌男。
「宅急便」の生みの親であり、ビジネス界不朽のロングセラー『小倉昌男 経営学』の著者として知られる名経営者は、現役引退後、私財46億円を投じて「ヤマト福祉財団」を創設、障害者福祉に晩年を捧げた。しかし、なぜ多額の私財を投じたのか、その理由は何も語られていなかった。取材を進めると、小倉は現役時代から「ある問題」で葛藤を抱え、それが福祉事業に乗り出した背景にあったことがわかってきた――。
著者は丹念な取材で、これまで全く描かれてこなかった伝説の経営者の人物像に迫った。驚きのラストまで、息をつかせない展開。第22回小学館ノンフィクション大賞で、賞の歴史上初めて選考委員全員が満点をつけた大賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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クロネコヤマトが有名なヤマト運輸の二代目経営者・小倉昌男。彼は「サービスが先、収益(利益)が後」などの経営哲学でビジネスの分野で著名だった人です。「宅急便」をスタートし、当時、無意味だったり非合理だったりした各規制に異を唱え、行政と激しく闘った人でもあります。また、ヤマトを退職した後には福祉財団を立ち上げ、福祉の世界に経営の手法を持ち込んでいきます。そして、当時一万円がやっとだった障がい者賃金を十万円にまであげていくという目標を掲げ、実際に財団の力でパン屋を立ち上げてその目標を実現させて、モデルケースを作った人でもあります。
ただ本書では、そういったビジネス面での小倉昌男を追う分量よりも、妻の玲子、娘の真理、晩年に親密だった遠野久子(仮名)といった女性たちとの関係の内実を浮かび上がらせていく分量のほうが多いです。彼女たちが、ある意味でのカギなのです。そのカギを用いて、巷間のイメージとしてある小倉昌男のA面部分だけではなく、月の裏側を照らしてみるかのように、彼のB面部分ともとれる隠れたその人間像を追っていくようなノンフィクションだと言うことができます。
どうしてヤマト運輸会長退任後に福祉財団を立ち上げることになったのか。妻の玲子や娘の真理との関係から、それがもしもはっきりと小倉昌男の内にあったとするならばですが、語られることのなかったその真相、どうやらそこにアプローチしていくことができる細い道を、著者とともに読者は見いだしていくようになっていきます。
本書中盤でのこと。娘の真理がその当時としては奔放な生き方をしていて、わがままだと評されている。暴言などがひどく、家族はとても困ったそうです(後半、彼女は境界性パーソナリティー障害だと明かされます)。小倉昌男夫妻には親戚などからの批判もあり心労となっていた。ただ、育て方や環境が真理の成長のネックになっていたでしょうから、僕には真理への無理解や誤解が痛かった。
「学者」と呼ばれることすらあったという小倉昌男は、経営者として整然とした論理でスマートに人や物事に対処したようです。そのうえ、不公正や無駄な規制に対しては熱く向き合った。東大卒、頭のいい人ですから、ぽんぽんぽんと割り切ってしまえたのでしょう。
それが、家庭のこと、それも娘を相手にすると、彼は、たとえば経営者・小倉昌男を見てきた人にとっては、信じられないくらい非論理的な態度を見せたそうです。割り切れない娘、それは取り戻せない過去の重みとともにあり、そのため、対応の姿勢が定まらなかったのかもしれない。
中盤まで小倉昌男と妻の玲子を中心に書かれている本書ですが、小倉のアキレス腱との扱いで娘の真理が登場するのです。僕にはそこに、先述のように無理解や誤解に気づかずに話を進めてしまっているなと感じられ、疲れてきてしばし本を閉じたりもしました。「大事に育てられすぎた娘さん自身が犠牲者なのかもしれないんですよね。」と語る関係者がいるのだけれども、やっとそこで触れるべきほんとうの部分の表面に触れたに過ぎません。それも、軽くそっとなでた程度だと思う。
しかしながら、本書の後半部まで行きつくと、真理本人へのインタビューなどから、ぐぐっと掘り下げた内容が展開されはじめ納得がいきだします。そこまできてようやく、本書が、小倉昌男にとっても玲子にとっても真理にとってもおそらく「救われる理解」にたどり着くのです。それは、読んでのお楽しみ。
家族の精神の病気を小倉昌男は背負っていた。そして、福祉財団の立ち上げ____。精神障害施設の視察・見学の際には、より熱心に小倉は話を聞いていたそうです。
……と、まあ人生いろいろあるものなんですよね。名経営者として名をはせた一廉の人物に、本書を読んで、なんだかとても親近感と敬意を持つことになりました。
著者の構成の仕方や文体がすっきりと読みやすいそのなかに、体温のしっかりある小倉昌男が穏やかに、そして苦悩を見せながら生きている、そのような本だと思いました。
読んでよかったです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ヤマト運輸「宅急便」生みの親、小倉昌男さん。伝説の名経営者にして、スワンベーカリーなど福祉に経営の視点を持ち込んだほか、数々の国の規制と闘ってこられた足跡は、自著「経営学」「経営はロマンだ」「福祉に経営を」に詳しく語られています。
本書は、そこでは語られなかったもうひとつの小倉昌男さんに迫るノンフィクション。
なぜ彼は経営の第一線から引かれた後、障がい者福祉の道に入ったのか。なぜ何度も妻とともに北海道を訪れたのか。どうして不治の病を得て娘家族の住むアメリカに渡ったのか。
筆者はこうした疑問に答えるべく、関係者一人ひとりに丁寧にインタビューを重ね、もう一人の小倉さんに迫っていきます。
そこで語られたのは、宅急便という全く新しいビジネスを作り上げ、国の規制と闘ってきた経営者とは全く違う、家族の問題を抱えた一人の男の物語でした。
巻末近くで触れられる、キリスト者の言葉(彼はカトリックに帰依されていました)に彼の人生が集約されています。
ニーバーの祈り
「神よ、変えることができるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。変えることのできないものについては、それを受け容れるだけの冷静さを与えたまえ。そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを識別する智恵を与えたまえ」
新しい仕事について一月あまり。いまだ模索の日々ですが、勇気と冷静さを胸に、一つひとつ仕事に向き合いたいと思います。 -
ヤマト運輸の元会長で、宅急便の父と言われた小倉昌男の評伝。
宅急便を普及させるために、様々な規制をめぐり行政と闘った剛腕経営者、というのは有名な話だが本作には、引退後に莫大な私財を投じて福祉財産を設立した事、敬虔なカトリック教徒だった事、自身の家庭問題で悩んでいた事など、意外な素顔が描かれている。
ヤマト運輸が宅急便を開始した1970年代という時代は、日本中が高度成長の真っ只中で、小倉氏に限らず家庭を顧みず仕事に勤しむ父親は多かったのだと思う。そして本来であれば休息の場である家庭が、心に病を抱えた妻と娘の修羅場であった事が、小倉氏をより一層仕事に没頭させたのかもしれない。
経営者としては類稀なる才覚を発揮した小倉氏が、後年福祉の世界に進んだ事や、周囲の心配を押し切って、アメリカに住む娘の家で最期の時を過ごしたのも、小倉氏の家族に対する贖罪の気持ちであり、神のお召しだったのだろう。 -
★小倉昌男さんが家庭では悩みを抱えていた。彼の人間性が、誠実な人柄が改めてよくわかった。自著ではとうてい語られない内容である。
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小倉昌男の宅急便創設から障がい者雇用促進のヤマト財団設立、逝去までのエピソードを下敷きに、今まで語られることのなかった家族関係、奥さんの玲子さんや娘の真里さんとの関係が様々な人へのインタビューに基づいて描かれる。マネジメントの本ではなく、仕事一辺倒の経営陣が引退後に家族に回帰した伝記である。
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オーディオブックにて
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違和感がある。
ノンフィクションというより、各種インタビューに基づくノンフィクション風小説、と記したい。
亡くなった方を描くということは、亡くなった方だから描けること、描けないことがあると思うのだ。 -
恥ずかしながら小倉さんのことはこの本で初めて知った。
小倉さんがエレベーターに乗ると乗っていた人が全員降りるくらい会社や業界で恐れられていた、覇王色のある経営者。一方家では存在感のないお父さん。名経営者と言えども人の親というのがよくわかるし、同じ親としてその苦悩は共感できる。 -
人間には色々な面があり、一様に人を判断してはいけないということがわかります。
本書の中で、様々な情報から「小倉昌男」が形作られていく過程はとても興味深く読むことができました。 -
1/20は宅急便
誕生から43年
宅急便が生まれたのは1976年1月20日で、初日の荷物はわずか11個!今後どうなっていくのでしょう。