サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093801041

作品紹介・あらすじ

築地市場から密漁団まで、決死の潜入ルポ!

アワビもウナギもカニも、日本人の口にしている大多数が実は密漁品であり、その密漁ビジネスは、暴力団の巨大な資金源となっている。その実態を突き止めるため、築地市場への潜入労働をはじめ、北海道から九州、台湾、香港まで、著者は突撃取材を敢行する。豊洲市場がスタートするいま、日本の食品業界最大のタブーに迫る衝撃のルポである。

〈密漁を求めて全国を、時に海外を回り、結果、2013年から丸5年取材することになってしまった。公然の秘密とされながら、これまでその詳細が報道されたことはほとんどなく、取材はまるでアドベンチャー・ツアーだった。
ライター仕事の醍醐味は人外魔境に突っ込み、目の前に広がる光景を切り取ってくることにある。そんな場所が生活のごく身近に、ほぼ手つかずの状態で残っていたのだ。加えて我々は毎日、そこから送られてくる海の幸を食べて暮らしている。暴力団はマスコミがいうほど闇ではないが、暴力団と我々の懸隔を架橋するものが海産物だとは思わなかった。
ようこそ、21世紀の日本に残る最後の秘境へ――。〉(「はじめに」より)

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    ウナギ、シラス、カニ、ナマコ、アワビ……。日本の食は海産物によって作られており、日本の食文化の歴史はそのまま漁業の歴史でもある。
    しかしその食文化が、暴力団によって支えられたものだとしたらどうだろうか?消費者の欲望――新鮮な海産物を、いつでもどこでも安く食べたい――を叶えるカラクリは、禁漁区域にこっそり船を出し、漁獲制限以上のサカナを獲って、市場に安く流すことである。日本の漁業は、不法行為と密接に結びついた真っ黒な業界なのだ。

    本書『サカナとヤクザ』は、暴力団に関する潜入ルポで知られる鈴木智彦氏が、日本の漁業界のタブーに切りこんだ一冊である。筆者は北海道から九州、台湾、香港にいたるまで、全国各地の漁港と魚河岸を回り、海産物の裏に潜む「暴力団」の存在を解き明かしていく。

    本書で明らかにされるのは、漁業界が業界ぐるみで違法行為に手を染めているという事実だ。闇夜の中での密漁、欲に目がくらんだ漁業協同組合関係者、漁獲制限を守らない漁師、チームを組んで夜の海に潜る密漁者、元締めとなる暴力団……。「アジ」のような安価なサカナから「アワビ」のような高級食材まで、海から獲れるもののほとんどは、バックに暗いモノが潜んでいる。「いまの日本でこれほど犯罪がのさばっている業界も珍しい」と筆者は記しているが、読んでいてまさにその通りだと感じてしまった。

    なかでも私が驚愕したのは、「ナマコの密漁」に関する記述だ。
    乱獲と密漁団が跋扈したおかげで、浅い海のナマコは枯渇し、価格が暴騰している。平成12年から平成30年までの間で、1キロあたりの価格が657円から6000円と、なんと10倍にも跳ね上がっている。そして、ナマコを買っている人間は、もはや正規品は手に取らず、全員黒(=ヨコモノ)を買っているというのだ。

    密漁団からナマコを買う「買い屋」は、こう解説する。
    「加工場は表のモノもやるし、ヨコモノもある。100パーセント正規のものだけでやってる加工場がないとは言わないけど、見たことないですね。入札モノは高いのでそれだけでは商売が成り立たない。あの値段では100パーセント赤字です。でもヨコモノだけをいじって、正規の取引をした伝票がないと、100パーセント怪しい加工場ということになってしまうので、みんな仕方なく表のナマコを買うんです」

    つまり、密漁品が市場に流れ続けた結果、正規品のナマコが買えないほど高騰し、ヨコモノを買わないと商売にならなくなってしまった。正規品は「ガサ入れされた時の証拠」のために仕方なく取引している、というのだ。もはや市場のルールそのものが破綻していることが分かるだろう。

    だが、こうした密漁品の増加は業者だけが悪なのかというと、決してそうではない。闇ビジネスの裏にはそれを支える消費者の需要があるからだ。
    海産物は当然、漁獲に制限がかかっている。制限を超えて獲ってしまったもの、また禁漁期にもかかわらず獲ってしまったものは「密漁品」になる。しかし、我々消費者は普段、サカナを食べるにあたって漁獲量制限について気を配ることはない。当然、そのサカナが「正規ルートで卸されたものかどうか」など、気にかける余地もない。加えて、スーパーや外食でいつでもサカナを食べられる環境が求められるようになってしまった。旬以外でも安くサカナを求める消費者の需要が、密漁を後押ししている。
    加えて、密漁業者にも生活がある。漁獲制限を超えた漁はサカナの単価を下げるし、将来の獲り分が減り、自分の首を絞めることにもつながる。しかし、消費者は要求するし、要求を呑めない業者に金を支払わない。もっと安いものを、もっと新鮮なものをという欲望が、違法な乱獲を生み、そこにビジネスチャンスを見出したヤクザがこぞって進出してきているのだ。

    日本は食の国、かつ水産資源に恵まれた国だ。その豊かな食文化は、ヤクザと密漁という「闇」によって支えられてきたという事実を直視すべきだろう。

    ――「一般の普通の流通、たとえば中央卸売市場のような表のマーケットにも、本来あってはならないものが当たり前のように並んでいるけど、一方で裏の流通というものがある。地元で安くて評判の寿司屋に行って、どこから商品を集めてるのか聞けば『市場で買ったらこの値段で出せるわけない。うちはスペシャルなルートを持っているからよかったね』と言われ、ラッキーだと笑い合う」
    ――「密漁が悪いっていっても、そうしないと需要に追いつかない。やりたくてやってるわけじゃない。みんな生活かかってんだ。内地の市場や大型店舗は北海道入りしてくると、とうてい割り当ての漁獲高では間に合わないカニやアワビを要求してくる。資金援助を持ちかけるなど飴と鞭を使ってカニやアワビを買い漁る。いいことだとは言わないが、俺たちだけが悪いのか。業者の顔を札束で叩くような真似をする大企業も、消費者だって共犯だべ」

    ―――――――――――――――――――――――――――
    【まとめ】
    1 アワビの密漁
    住吉系暴力団組長は言う。
    「あれだけ簡単に儲かる仕事は他にない。海で金を拾っているようなもの」
    アワビは漁業者にも、そして密漁団からも『磯の王者』と呼ばれるらしい。定着性海産物の中では大型で、突出した高価で取引されるからだろう。
    かつては漁業そのものが原始的略奪産業と呼ばれていた時代がある。農業のように育てることをせず、資本を使わず、自然界が生産した漁獲物を収奪してくるからだ。
    密漁者はその略奪産業に寄生し、成果をさらに略奪する。アワビのような海産物はほとんど移動をしないため、密漁団にとって格好のターゲットになる。

    東日本大震災で密漁監視船や港内に設置されていた監視カメラが破壊され、密漁団の格好の狩場になった。
    海上保安庁職員「密漁団はそもそも人のいない場所に入ってくる。そういったエリアが震災で増えてしまった。これまでなら無人の港であっても、その隣の港とかその近くには人が住んでたわけです。ところが震災で一帯の街が全部破壊されてしまって、みんな仮設住宅に引っ越してしまった。また密漁団が狙いそうな場所には、組合が探照灯を点ける小屋を持っていた。密漁団が来てアワビを獲り始めたらバッと照射したり、人がいることを分からせるため、施設に灯りを点けておいたりした。それも津波でみんな破壊されてしまった。復興でもそうした施設は後回しになってて、まるっきり無人で真っ暗な港が増えている」

    密漁はなにも暴力団だけが悪人というわけではない。その手先となる漁師がいて、そうと分かって仕入れる水産業者との共生関係が構築されている。それらがリンクし合い、魑魅魍魎が跋扈し、毎日、闇夜の中で密漁は繰り返される。欲に目がくらんだ漁業協同組合関係者、漁獲制限を守らない漁師、チームを組んで夜の海に潜る密漁者、元締めとなる暴力団……いまの日本でこれほど犯罪がのさばっている業界も珍しいだろう。

    データによると、日本で取引される45%が密漁アワビである。「あまちゃん」の舞台である岩手県の三陸アワビはキロ9000円から1万5000円で取引され、まさに「海で金を拾う」状態だ。

    「密漁の通報は海上保安庁、118番に入ります。仙台の東北管区の本部に入電するんです。通報を受けて行った時は、すでに逃げられていることが多いけど、我々の船を出すことが抑止力になる。ちょっと時間がかかるけど確実にうちのパトロール船が行きますから。
    釜石の保安部なら30分くらいで出られる。24時間体制です。ただ場所が遠かったり、海難事故などがあって船が出ていればすぐには回れないですけどね。日中、三陸沖の場合は密漁の通報はほとんどないです。やはりやるとしたら夜ですね。アワビの密漁団は漁師から憎まれている。目撃されたらすぐ通報されます」(宮古保安署の職員)

    「岩手の密漁団はヤクザというより傘下です。どういう意味かというと、ここのチンピラたちが地元で暴力団(山口組系が多い)の名前を使って、肩で風切って、なんか悪いことする時に山口組の名前を語れるように、アワビで儲けたお金を彼らに上納してるわけ。こいつらは警察に問い合わせても構成員ではないんです。だけど地元ではヤクザと吹聴している。山口組に上納してるところは成績いいんですよ。宮城の場合は4次、5次団体ですね。山口組、稲川会、住吉会とそれぞれ看板背負ってます」(海保職員)

    漁業法の改正以降、非漁業者による密漁事案が激増してしまった。漁業法を適用するためには、その密漁が業(仕事)であり、反復して継続することを立証しなければならないからである。密漁団は現行犯逮捕という有無を言わさぬ状況でも、「密漁をやったのは初めて」と何食わぬ顔で偽証する。本件のことは自供しても、これまでの密漁のことは自白しない。そのため取り締まる側は仕方なく、目に見える違反で検挙するしかない。

    同時に、密漁品を買った側もなかなか検挙できない。こうしたアワビは闇ルートで近隣の料理屋や寿司屋にも卸されるが、それだけでは莫大な利益は見込めないため、表の業者の販路に乗せ、仙台や函館のような近場の消費地に流されているのに、である。他、アジア一の魚市場である築地市場にもやってくる。こうした密漁の共生者を検挙するのは、取り締まり現場の悲願だという。

    密漁品が大手を振って売られる逃げ道のひとつが養殖アワビの存在だ。各地の漁業調整規則で定められた禁漁期間が、地域によって異なることも追い風になる。三陸のアワビが獲れない時期でも、密漁されたそれは他の地域のアワビや養殖アワビとして流通する。
    「それに買う側は密漁品だと買い叩けるんです。1万円のアワビが5000円で買える。買っているのは普通の業者です。市場に卸せる人間です。その間に安全策としてもう一人入るかもしれないけど、魚市場に卸せる人間じゃないと金には換えられない。密漁アワビはそうした業者の手でロンダリングされ、養殖物と混ぜられ、綺麗なアワビになって市場に出回ります。黒幕は水産関係者で、アワビを流通させられるだけのことをしてるヤツらです」(海保職員)


    2 築地市場の闇
    「全国の漁港に水揚げされた水産物はなんであれ、ピンとキリが築地に入ってくる。高級品も売れるし、安物だって量を捌けるし、そんな場所はここだけだからね」(仲卸業者)
    世界中から観光客が訪れ、場内・場外で海の幸を味わい舌鼓を打っている築地の魚河岸。東京都が維持・管理するこのマーケットが、実質、泥棒市場としたら笑えない。いまも昔も密漁はヤクザのシノギだ。ならば東京都は暴力団にがっちりと寄生されていることになる。

    市場とヤクザは双子のような関係である。築地で働こうとしても過去は問われず、身分証の提示は求められない。バイト代も手渡しで銀行口座が要らない。定収入のない裏社会の面々に取っては、魚河岸は格好の二足のわらじになる。

    「場内のあちこちにヤクザがいたよ。ろくでなしもいたけど、いまと違って節度があったな。みんなサムライって呼んでた。くだらない喧嘩を吹っ掛けるのは粋がった素人だ。箱物屋(アジなどの大衆魚を扱う仲卸)の軽子さんには、ヤクザが多かった気がするね」(仲卸OB)

    筆者が築地で身分を隠してアルバイトをしていたところ、ある密漁アワビ業者と接触できた。
    「もちろん仕入れ値は買い叩く。キロ8000円が相場のものなら、密漁品の場合5000円から3000円。キロ1万8000円のアワビは1万2000円。仕入れ先は漁師が多い。不意の現金収入が必要になって、自分たちがいずれ獲るはずの(禁漁期間に密漁した)アワビを売りに来る」(密漁業者)
    その業者は、実際に「千葉県産」と偽装した静岡県産の偽装アワビを私に見せた。密漁と産地偽装をミックスさせることで、おおっぴらに密漁アワビを店頭販売するのだ。
    築地は密漁品の取り締まりを強化しているが、漁師と業者の共犯関係はなかなか断ち切れるものではないという。


    3 ナマコの密漁とチャイナマネー
    ナマコの密漁は極めて特殊な世界である。通常なら密漁品の一部は地産地消され、表の流通に乗って都心部にやってくるが、ナマコの場合、国内にほとんど需要がない。専門に獲っている漁師もほぼいない。
    売り先は中国である。日本では刻んで酢醤油で和え酒のあてにしたり、その腸であるこのわたを珍味として食べる程度のナマコだが、山東料理や広東料理ではおめでたい場に欠かせないハレの日の食材だからだ。

    漁協の資料などによれば、北海道のナマコ総漁獲量は2000トン~3000トンあまりと思われる。ナマコを狙う密漁チームは現在、道警の認定で70近くあり、1チームは1日で最大500キロ~1トンのナマコを密漁する。夏と冬のシーズンを中心にそれぞれ50日稼働したとして25トン~50トン。それが70チームだから、おそらく正規の漁獲量と同等程度はあるだろう。

    乱獲と密漁団が跋扈したおかげで、浅い海のナマコは枯渇した。当初、水深10メートル程度で行われていたナマコの密漁は、もはや一般的な素潜りの限界ラインでの仕事が常態化している。

    北海道のナマコ価格はどのぐらい上がったのか?
    平成12年、キロ657円だった北海道のナマコ価格は、平成14年には720円、平成16年には1479円、平成18年には2497円と右肩上がりとなった。平成25年には4000円を超え、平成30年の5月の最高価格は6000円を突破した。
    「この前、枝幸町での入札が6970円だった。これは10日間で5トン分の値段だね。買った業者はレクサスのいいヤツに乗ってたもんだ。これはやっぱり異常だわ」(ひやま漁協・市山元組合長)
    ここまで値が上がると正規で買っても赤字になるという。にもかかわらず、乱高下を繰り返しながらナマコの高値は止まらない。
    密漁モノは横流しから転じて、ヨコモノと呼ばれる。正規のナマコがここまで高値になるのは、ヨコモノの購入を前提に価格が決まるからという。
    「この手の商売って買う人が決まってる。だいたいまともな人はあまり買わない。まともじゃないっていうのは悪い人って意味じゃねぇよ。少しくらい危ない橋でも渡ってやるぞってくらいの気持ちじゃないと買えないってこと。だから仲買でナマコを買った業者は『誰々の(暴力団の)系列だ』とか、『あいつも密漁もん買ってるからな。何回も捕まっていま娘の名前でやってんだべ』とか言われる。実際、密漁もん買わない人はあんな値段出せない。

    簡単で、大量に獲れ、高額な黒ナマコ……以降密漁の世界は急激にシステム化され、分業が進んだ。これを牛耳っているのは暴力団だ。ヤクザは1キロ当たり100円のみかじめ料を徴収する。毎日、100万円の日銭が転がり込んでくるのだからボロい儲けである。
    当初、「密漁なんて泥棒だべや」と馬鹿にしていた暴力団たちも、いまは組織にとって欠かせないシノギとして認識しており、道東を除くすべての海岸を、地元暴力団が細かく縄張割りしている。そこでチームが密漁をする場合、必ず当該暴力団に所場代を払うのがルールで、これに従わなければ暴力的制裁を受ける。


    4 ウナギ
    日本人は世界のウナギを食い尽くしてきた。安価なウナギの供給源は中国の養鰻池で飼育されるヨーロッパウナギだった。大手の商社・水産業者はどんどん中国の養鰻場を拡張し、稚魚であるシラスウナギを輸入して、活鰻や蒲焼きを輸出していた。
    平成20年、激減したヨーロッパウナギはニホンウナギに先んじて絶滅危惧種IA類に指定された。最も深刻な評価だった。翌21年にはワシントン条約の附属書にも載り、許可なしでの取引が禁止された。EU(欧州連合)は域外との取引を全面的に禁止しているので、原則、全面禁輸といっていい。
    ヨーロッパウナギが入手できなくなったことで、日本向けにウナギを養殖している業者はアメリカウナギや東南アジアのビカーラ種で代用しようと試行錯誤を続けた。絶滅すれば次のウナギ……そこにヨーロッパウナギを食い尽くしてしまった過去に対する反省はなかった。しかし、アメリカウナギはニホンウナギと同じIB指定であり、ビカーラ種もまた準絶滅危惧種である。なにより異種ウナギには養殖のノウハウがなく、共食いなどで歩留まりが悪い上、そもそも味が落ちる。ベンチャー企業などが乗り出した異種ウナギ養鰻は下火となり、需要はニホンウナギに回帰した。

    水面下では激しいウナギ獲得合戦が繰り広げられた。絶滅危惧種騒動翌年の平成27年から、怪しげなシラス・ブローカーが暗躍するようになり、知り合いの稲川会系組長から「東南アジアからのシラスウナギがあるんだけど売り先を知らないか?」と電話がかかってきたこともあった。この頃、大手養鰻業者にも見ず知らずの素人から「シラスを買って欲しい」という電話が相次いだという。絶滅危惧種ビジネスは年々加速していくことになる。

    ウナギ業界では、稚魚であるシラスの漁獲量が減少して価格が高騰、白いダイヤと呼ばれるようになったため、密漁と密流通が日常化している。関係者の誰もが、「日本のシラス取引は完成度の高いダブル・スタンダードで成り立っている」と漏らす。闇屋が跋扈し、国際的なシラス・ブローカーが暗躍し、暴力団の影も見え隠れする。全国で暴力団排除条例が施行され、企業コンプライアンスの重要性が認知された現在、ここまで不正が常態化し、不透明な業界も珍しいだろう。
    シラスは巨額の利益を生む。シラスの価格は絶滅危惧種指定後にキロ300万円の大台を突破し、銀の価格と並んだ。平成29年にはついに470万円となり、金の価格と並んだ。
    漁業は県によって漁業調整規則が違う。違法の基準や取り締まりも異なる。北海道でメスの毛ガニは禁漁だが青森県では合法だ。そのため函館の朝市には子持ちの青森産毛ガニが堂々と並ぶ。県境のジレンマは密漁全般の抜本的課題だろう。シラスウナギも県境をまたぐと条例が変わる。闇屋にとっては好都合だ。確実にシラスを手にしたい大手の養鰻業者もこの落差を狙う。

    「(自分たちのような大規模養鰻業者は)まとまったいいヤツがあればいい。ある程度値段はちゃんと出します。送り(送金)なんかしたら証拠残るし、直接行きます。シラスに関してはダブル・スタンダード。やっぱり闇業者の流通は止まらない。で、闇と闇じゃない(境界)は難しいんですね。『どこのシラスですか?』って問い合わせがあれば『海です』で終わるんです。別に関係ないです。中国のだろうが台湾のだろうが香港から来てようがシラスに名前は書いてないんでね。それで通るわけです。問屋さんもいまの法律では一切罪にならない。獲って指定業者に持って行かなかった人だけが捕まる。今シーズン10人くらい捕まってますね。けど買う側は罪にならない。麻薬の場合は買っても売っても罪になりますよね。ある意味、必要悪っていったらあれですけど、シラスはないと困りますからね」(養鰻場を経営する会社の専務)

    宮崎県では以前、シラスの約7割が暴力団がらみの密漁だったという。

    シラスの密漁は国を超える。
    シラスのシーズンになると、大手養鰻業者の経営者が大挙して台湾にやってくる。それぞれの地区を仕切る実力者を接待し、自分たちの取り分を確保するのだ。
    「マフィアのボスもいますよ。台湾は顔の社会。頻繁に台湾に出向いて交流を深めるんです。密輸出するのはそう難しくない。台湾にも裏と表の業者がいるけど、暴力団ほど付き合いにくくありません」(シラス業者)
    業界誌記者からは、「台湾・香港ルートに深く斬り込むと東京湾に浮かびますよ」とマンガチックな忠告を受けた。

    台湾は2007年にシラスの国外持ち出しを禁止しているので完全なアンダー・テーブルである。中国にとっての香港は、返還されたが50年は自由貿易を保証された特別区なので、中国から輸出するとかかる20パーセントの関税をカットする回避地として利用される。そのため、シラスの獲れない香港から大量のシラスが輸出される異常な状態となっている。
    「店で売っていた品物を買っただけ。たとえば盗品だったとしても、知らなければ罪は問えない。シラスに名前は書いてない」

    香港シラスのボスは輸出ルートについて次のように語る。
    「まずは日本の業者が台湾で買う。金は香港の業者に払う。依頼を受けて運び専門のプロに渡る。最近、年に一度くらい捕まるし、取り締まりも厳しくなったので、船を使うことが多くなった。漁船に紛れ込ませたり、クルーズ船を使ったり、あらかじめ航海日誌を提出しておくので、荷物検査はほとんどない。少数なら飛行機のハンドキャリーでもいい。詳細は運び屋しか知らない。それぞれ得意なルートがあって、運び屋によってやり方が違う。場合によっては金門島まで台湾の国内便を使い、目と鼻の先にある厦門市に渡って中国大陸を陸路で運ぶこともある」
    「台湾から出荷されるウナギは、その時点で売り先が決まっている。違法、犯罪と非難するなら、我々は頼まれて仕事をしてるだけ。黒幕は日本の輸入業者と養鰻業者」


    5 消費者の責任
    密漁は大きく分けて3つの形態がある。漁師が漁獲制限を超え、または許可されていない海産物を捕獲するケースと、漁業権を持たない非漁業者が漁に出る場合、そして海水浴客などがそうと知らずに定着性の海産物を獲る事案である。漁業権を持った漁師が上限を超えてカニを捕獲した場合の密漁は、通常、見逃される犯罪である。
    函館の暴力団組長は言う。「犯罪をしたくてやってるわけじゃない。盆暮れなど需要があるときにちょうどよくカニが獲れるってわけじゃない。大口の客が来たり、インターネットで注文が殺到したり、どうしてもその日のうちにカニが必要ってときもあるから、知り合いの漁師に頼むんだよ。漁師だって、ちょっきりちょうどよくカニを獲るなんてことはできない。カゴを上げたら予定より多くごっそりカニが入っていたりさ。ほとんど正規のもんで、みな卸の市場で買うけど、それ守ってちゃ商売にならない。密漁というと人聞き悪いけど、困った時はお互い様で、大手も零細も、9割方はそうやって仕入れてる」

    函館密漁の黒幕といわれる水産業者社員はこう言う。「密漁が悪いっていっても、そうしないと需要に追いつかない。やりたくてやってるわけじゃない。みんな生活かかってんだ。内地の市場や大型店舗は北海道入りしてくると、とうてい割り当ての漁獲高では間に合わないカニやアワビを要求してくる。資金援助を持ちかけるなど飴と鞭を使ってカニやアワビを買い漁る。いいことだとは言わないが、俺たちだけが悪いのか。業者の顔を札束で叩くような真似をする大企業も、消費者だって共犯だべ」
    身勝手に思える理屈にも、一応の合理性はある。水揚げが少なくなれば市場原理が働きカニもアワビも値段が高騰するため、流通量が減っても、業者の売り上げはそう変わらないのだ。ところが客が要求する。それに応えられなければ非難される。密漁品を扱う業者の心境は複雑なのだ。

    とある密漁チームの親方「ヤクザが絡んでるおかげでここまでうるさくなってる。自分が始めた時には、まったくヤクザが密漁にタッチしてなかった。だから好きにやれてたんですけど、いまは海まで縄張りが決まっちゃって、キロ100円も取られる。ただ残念ながら、もはやバックがいないと仕事できないですね。昔の密漁者って、細く長くやっていこうと努力してたんです。目立つことはしないし、漁師の反感を買わないよう気を遣っていた。だから自分の首を絞めるようなことはしなかった。でもいまのやり方、特に札幌の密漁は全然違う。目立ってもいい、見つかってもいい。とにかくやれるうちにどんどん獲ろう。短期間にごそっと稼いじゃおうって考え方です。のちのち仕事が出来なくなるとかは一切考えてない」

  • 『サカナとヤクザ』海の裏側:漁業とヤクザの秘密の関係

    第1章:海の裏側
    テレビディレクターとしての経験を持つ鈴木智彦氏は、漁業とヤクザの間の深い関係を探るため、北海道から九州、さらには香港や台湾に至るまで、広範囲にわたる「突撃取材」を敢行しました。彼の豊富な人脈を活かし、50以上の参考文献を基に、目の当たりにした事実を集約しています。この本の魅力は、その圧倒的な情報量にあります。

    第2章:漁業の暗部
    昔から漁業は天候に左右される産業であり、荒天時には漁師たちは時間を持て余すことになりました。そんな彼らが時間を潰す場所が「賭場」でした。賭け事による負債が漁師たちを追い込み、彼らは自らの資産を現金化することで債務を解決していました。漁業と裏社会の接点は、このような歴史的背景から生まれました。

    第3章:法律と密漁のはざまで
    漁業は法律によって定められた資格、期間、海域で行われます。しかし、密漁者たちはこれらの法律を破り、利益を追求します。密漁が行われる理由は単純明快、それは「儲かるから」です。密漁を主に行うのは、表世界の漁業関係者ではありません。

    第4章:密漁のターゲット
    密漁の対象となるのは、初期投資が少なく、高額で販売可能な魚群です。マグロのように大型船舶が必要なものは除外され、うにやナマコ、ホタテのような小規模で採取可能な海産物が主なターゲットとなります。

    第5章:ナマコという名の黒い宝石
    ナマコはその高価さから「黒い宝石」とも称されますが、国内では消費量が少ないため、市場は成立していません。しかし、中国をはじめとする海外市場では需要が高く、利益を求める事業会社によって採取・輸出されています。著者は、このナマコの世界で、表だけでなく裏の事業会社も存在する可能性をつきとめます。

    結論:持続可能な未来への警鐘
    私たちは安価な魚を享受していますが、その裏には禁漁期間を無視した市場が存在するかもしれません。鈴木氏の本は、私たちに「普通ではないマーケット」が存在する可能性に気づき、持続可能な状態について考えるきっかけを与えてくれます。

  • 「ヤクザ(専門)ライター」として名高い、鈴木智彦さんの最新刊。潔いまでの書名のインパクトに、思わず手に取ってしもうた。

    日本全国の名だたる港町・魚河岸の水産物とヤクザさんのつながり・因縁のかずかずを丹念に追ったノンフィクション。水産業と密漁の縁は切っても切れないというか、むしろ持ちつ持たれつの面も多い(あるいは多かった)という。港町の持つ、過去・現在のダークサイドをこれでもかと暴き立てていくので、海の幸の華々しい広告を見た感想が、「お得でしかもおいしそう」から、「ああ、これもひょっとして」と、微妙なものに変化してしまうことは否めない。しかも、水産物についてのグレー(ただし限りなく黒い)な考察だけではなく、港町の荒っぽさも劇画のように描いていく。私の育った町はどちらかといえば漁業よりも海運が元・地場産業だけど、ある朝ドラのブレイクまでは「怖いところ」で通っていた、という親世代の話も思い出した。

    著者・鈴木智彦さんは実話雑誌の編集長を務めたかたでもあり、お書きになる文章がすっきりした文体で、しかもパンチが効いている。「黒いあまちゃんがいるかもですね(8ページ)」「現代の基準から見れば十分にゴッサム・シティ(142ページ)」とキャッチ―な表現も織り込まれつつも、情報過多に書きがちなところを手際よくまとめられていて、読んでいても全くストレスフルではなかった。私は文筆業ではないけれど、こういう文章が仕事で作れるようになりたい。

    パワフルでショッキングな内容に、印象に残りやすい場面が多い本だけど、個人的には、訳ありで転売できないというギンギンの大型バイクを「使っていい」と言われたという場面が、妙に好きで印象に残っている。

    なお、本書中の誤記訂正や追加情報については、鈴木さんのブログに詳しい。

  • ルポ調で臨場感があるので読み進めやすかった。
    日本・アジアの水産資源のトレーサビリティが全く発達していない現状を、ボトムアップから詳細に取材している。大事な資源が反社会勢力に収奪損害されていて、しかも大手の水産メーカーや仲卸も需要を言い訳にして見て見ぬふりをしている。カニに至っては密猟と正規が同規模だとか、高級魚介には、想像すらしなかったレベルの密猟が食い込んでいる。トレーサビリティの確保と規制の統一が喫緊の要請だと分かるが、オリンピック用の認定基準を日本用に緩めてしまったあたりとか、水産庁は業界へ配慮するばかりのもよう。
    業界の自浄は期待できなさそうだ。消費者は、値段が高くても出所がホワイトな魚を選べるだろうか。また外圧に助けられるしかないのだろうか。

  • 話題になった当時に読めばよかった。
    今となってはタイトル周辺のことを頭に入れて読んでしまうので、衝撃はマイルドだ。

    とはいえ、なかなか強烈な話。
    ヤクザと密漁について、潜入レポもある体当たりのノンフィクション。
    それにしても、どの港も怖い。
    ほぼ昔話に徹していた銚子が一番面白かった。
    北海道の根室と北方領土、ロシアスパイとの付き合いの話も凄かった。

    浜のものは気が荒い、というのはよく聞く話で、そういう人たちの一部がそもそもヤクザ的な要素を多分に持ち合わせていたわけで。
    今も昔も、海はスネに傷あるものが過去を捨ててヒトヤマ当てるところとして、狙われる場所だろうし。
    天気稼業、自然状況に依存、そこへ来て当たり外れの大きな売り上げのサカナがいくつも生まれてしまった。
    水産庁とか、役所とか、お上の性質がこの状況を生んだのは間違いない。
    警察や海保との冷や汗の関係も、本当の漁師、グレーの漁師、ヤクザ、それを知ってて知らぬ顔で扱う業者たち。
    どこからクロとも言えない世界に背筋が冷たくなる。

    毎日食べるサカナの下にこんな世界があること、それを生んだ最大の責任者は、メディアに踊らせれて食べている私たちであることを忘れてはならない。ってわけで。

  • ヤクザときどきピアノという、暴力団専門のルポライターが突然ピアノに目覚めるノンフィクションを読んで面白かったので、本業の方を読んでみようと思いました。
    書店で平積みされていたので書影は良く見ていました。ヤクザに興味が無かったので読む気は有りませんでしたが、思わぬルートから読みたい本となりました。
    海産物は特別大好きです。みんな好きだと思いますが高級肉より高級海鮮の方がテンションあがりますよね。
    食べる時密漁の事など思い浮かべる事はありませんが、ナマコ、あわび等は相当量が密漁らしいです。やくざのしのぎとして牛耳られているらしいので、僕らの食べている高級海鮮は相当量が不法なものという事です。
    黒いあまちゃんにはちょっと笑いました。

  • 【感想】
    日本の地下経済の一端を掘ったルポルタージュ。面白い!

    【メモランダム】
    ・レビュー
    https://honz.jp/articles/-/44945

    ・版元サイトに目次なし。

    【書誌情報】
    著者:鈴木 智彦(1966-)
    装幀:岡 孝治
    定価:1600円+税
    発売日:2018/10/11
    判型:4-6
    頁数:322
    ISBN:9784093801041

    ◆築地市場から密漁団まで、決死の潜入ルポ!
     アワビもウナギもカニも、日本人の口にしている大多数が実は密漁品であり、その密漁ビジネスは、暴力団の巨大な資金源となっている。その実態を突き止めるため、築地市場への潜入労働をはじめ、北海道から九州、台湾、香港まで、著者は突撃取材を敢行する。豊洲市場がスタートするいま、日本の食品業界最大のタブーに迫る衝撃のルポである。
    https://www.shogakukan.co.jp/books/09380104

    【簡易目次】
    はじめに [002-003]
    目次 [004-005]
    第一章 岩手・宮城 三陸アワビ密漁団VS海保の頂上作戦 007
    第二章 東京 築地市場の潜入労働4ヶ月 035
    第三章 北海道 “黒いダイヤ”ナマコ密漁バブル 073
    第四章 千葉 暴力の港銚子の支配者、高寅 123
    第五章 再び北海道 東西冷戦に翻弄されたカニの戦後史 169
    第六章 九州・台湾・香港 追跡!ウナギ国際密輸シンジケート 261
    おわりに [313-317]
    主要参考文献 [318-319]


    【目次】
    はじめに [002-003]
    目次 [004-005]

    第一章 岩手・宮城――三陸アワビ密漁団VS海保の頂上作戦 007
      黒いあまちゃん
      漁師出身のヤクザ
      漆黒の中の密漁団
      海保の捜査手法
      暴力団の直系密漁団
      市場ぐるみ

    第二章 東京――築地市場の潜入労働4ヶ月 035
      暴力団排除の動き
      面接で即決
      築地村の掟
      築地村の顔役
      市場のギャンブル性
      ちょっとした祭り
      マグロは築地の華
      原爆マグロの記念プレート
      密漁アワビ発見

    第三章 北海道――“黒いダイヤ”ナマコ密漁バブル 073
      男は密漁、女は売春
      一目で分かる
      野球のチームと同じ
      さっさと帰れ
      中国発のナマコバブル
      死亡事故が頻発
      獲れたての密漁毛ガニ
      消費者だって共犯
      元祖・黒いあまちゃん
      発電所の海を狙う
      売買の現場
      買い屋と加工屋
      押収品をまた買い取る
      密漁社会のマラドーナ

    第四章 千葉――暴力の港銚子の支配者、高寅 123
      東洋のアル・カポネ
      喧嘩はいつでも買ってやる
      暴力の港銚子
      マスコミこそ暴力団
      漁業権の占有
      漁師が集う賭場
      共産党VS 暴力団
      火箸で頭部を刺した
      高寅追放

    第五章 再び北海道――東西冷戦に翻弄されたカニの戦後史 169
      俺たちの海へ
      横たわる北方領土問題
      赤い御朱印船
      罪の意識は薄かった
      相次ぐ不審死
      北海の大統領
      オホーツクの帝王
      公安課長の自殺
      警察との癒着
      最後のレポ船主の証言
      日ソのダブルスパイ
      鮭は正月前のボーナス
      ウニ特攻船
      ヤクザと不良漁民
      少なくても月給100万円
      特攻船壊滅作戦
      ロシアからのカニ密輸
      中国からの逆輸入
      ロシア船団との遭遇
      税関を経由しない

    第六章 九州・台湾・香港――追跡! ウナギ国際密輸シンジケート 261
      怪しげなシラス・ブローカー
      食べていいのか
      減ってない説
      池上げに参加
      ユニクロ・ウナギ
      闇流通は必要悪
      組織名までは分からない
      不漁報道で裏価格が上がる
      暴力団の地獄網
      東京湾に浮かびますよ
      台湾の地下経済
      密輸してないのは私だけ
      香港シラスのボス
      黒幕は日本の業者

    おわりに [313-317]
    主要参考文献 [318-319]

  •  四方を海に囲まれた日本は、豊富な漁業資源に恵まれていることを何となく誇りに思っていたが、食卓に並ぶサカナが密漁、しかも暴力団がらみだということを本書で知り、かなりショックを受けた。
     三陸のアワビ、北海道のナマコとカニ、築地市場の裏側、銚子市、ウナギの国際密輸など、著者は体を張って、漁場や密漁のアブナイ取引場所に潜入し、いかに日本の漁業と卸システムが、密漁品とそれを裏で牛耳る暴力団に支配されてきたかを暴いていく。

     考えてみると、海の男の荒っぽさと暴力団は確かに似通っているし、漁不漁の運も博打のような世界で、相通じるものがある。何といっても、監視の目さえかいくぐればタダで漁を獲って大金が手に入るのだから、裏社会のあぶない連中が群がる条件は整っている。密漁による被害総額は相当なものに上がるらしいが、密漁品と正規品は流通の中で巧妙に混ぜられ、知らぬ間に消費者が買っていく構造になっているらしい。

     発電所の海は漁業権を放棄しているため法律の盲点をついた穴場になっていたり、密漁特攻船の改造の仕方、北方領土のサカナをめぐってロシアの政情や根室の人びとの思惑が大きく揺れ動いたりと、今まで知らなかった漁業の裏側を知ることができた。これから魚を買ったり食べたりする時に、ふと考えてしまうだろう。

  • サカナ、サカナ、サカナ、魚を食べると、ヤクザ、ヤクザ、ヤクザ、ヤクザが儲かる♪

    密猟、築地、北方領土からシラスウナギの密輸まで、福島原発に潜入取材をした鈴木氏の次のターゲットは密猟ビジネスだ。

    日本でどれだけのアワビが密猟されているか、ある推定では日本で取引される45%、市場規模は40億円にあがる。ウニ、カニ、ナマコ、シラスウナギなどを合わせれば100億を超える。利益の割には捕まっても微罪であり、検挙するには丘に上がったところで機材と獲物が揃った現場を押さえるしかない。北海道や東北の港には密猟をシノギとした組が各地に存在している。

    密猟品はどのように市場に流れるのか、ナマコは内臓を抜いてから塩蔵で中国に輸出される。ウニも加工が必要だ。アワビは仲介者にロンダリングされ市場に流される。流通過程では密猟品だと疑いはしても善意の第三者にとって正規品より安く買える密猟品は無視できない。密猟者にはヤクザの雇われ部隊もいれば不良漁師もいる。同様に加工屋にも仲買いにもそして築地の仲卸にも密猟品を扱うものはいる。鈴木氏は築地にバイトとして潜入し築地のアワビを一番売るカリスマから聞き出した。「ああ、(密猟アワビは)売られているよ」

    「密猟が悪いっていっても、そうしないと需要に追いつかない。やりたくてやってるわけじゃない。みんな生活かかってんだ。」「業者の顔を札束で叩くような真似をする大企業も、消費者だって共犯だべ」業者の言い訳はどんな場合も似たようなものだ。

    発電所のまわりは漁業権が設定されていないため密猟者の庭になっている。しかし最も広大な海域は北方領土だ。ソ連時代、スパイ容疑で拿捕されれば、ソ連で何が起こっても泣き寝入りだ、海岸から中間ラインまで一番近くでは2kmもない。根室の漁師は危険を覚悟で出漁し昭和56年末までに1200隻、8500人が拿捕され1/3の船が沈められた。同時期、情報提供の代わりに領海内での漁を黙認されたレポ船が登場する。ソ連が実効支配するが建前としては日本の海。ここでの漁をやめさせるにも適用できる法がない。昭和50年ごろにはここに暴力団が目をつけハイスピードで巡視船を振り切る特攻船を繰り出した。ソ連が実弾を撃つようになり特攻船は消え代わりにロシアの漁師が密猟したカニの密輸が始まった。

    戦後、港では毎日のように賭場が立ちヤクザと漁師の距離は今よりもかなり近かった。前浜で獲れる獲物は住人の物という漁業権は日本独自のもので、網元や庄屋が独占していた。そこにヤクザが目をつけ癒着が始まる。沖仲仕や人足の手配から誰でも雇う築地市場まで密猟がなくてもヤクザが入り込む機会は多いのだ。暴力の港と呼ばれた銚子では市民が共産党よりも高寅一家に近かった。

    日本の漁業問題を指摘し続ける東京海洋大の勝川教授が終わりにでこう述べている。「あまりにも地雷が多すぎて下手に突けない」漁業権から流通過程まで手を突っ込まないとヤクザの密猟はビジネスとして成立してしまうが、これを変えるには既得権を持つ関係者の多くが反対するのだろう。

  • 僕たちが食べてる美味しくて安い魚は、十中八九、反社会的勢力が命がけでとってきた魚!

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著者プロフィール

1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。雑誌・広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。週刊誌、実話誌などに広く暴力団関連記事を寄稿する。主な著書に『ヤクザと原発 福島第一潜入記』(文藝春秋)『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文藝春秋)『サカナとヤクザ』(小学館)などがある。

「2021年 『修羅の花』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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