始祖鳥記

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093860451

作品紹介・あらすじ

ひたむきにおのれを生きた世界最初の"鳥人"備前屋幸吉!空前の凶作、貧困で、人心が絶望に打ちひしがれた暗黒の天明期、大空を飛ぶことにおのれのすべてを賭けた男がいた。その"鳥人"幸吉の生きざまに人々は奮い立ち、腐りきった公儀幕府の悪政に敢然と立ち向かった。

感想・レビュー・書評

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  • 面白い!
    先日、古書店で手に取ってパラパラと見た所、江戸後期に巨大な羽のような物を作って空を飛んだ「幸吉」という人物を主人公にした小説。遠い昔、学研の「科学」か「学習」のどちらかで見たような記憶が…。
    読んでみると、実に良質な歴史小説だった。主人公は幸吉だが、彼の運命が流されて行くように、何人もの人物のエピソードが、リレーのバトンのように連なっていく。最終的にそのバトンは幸吉へと戻っていくのだが、次から次へと現れる人物は、誰もが江戸後期という時代の風に翻弄され、吹き流される木の葉のようだ。幕藩体制は時代遅れの軋みが露わになっているし、沸騰する貨幣経済は全ての人を巨大な資本主義の渦に投げ込む。そんな中で「飛ぶ」という一点のみを最後まで突き詰めた幸吉の生き様が私達の胸を打つ。
    人間の尊厳とは何処にあるのか。そんな事を考えさせてくれる、良質の歴史小説に久しぶりに会いました。手に取ってみて良かった。『あたり』を引きました!

  • 天候不順による飢饉が続いた天明期、備前岡山に生まれた幸吉は、手先が器用で絵心もあるが、安定した生活に満足できず常に何かにチャレンジしていたい気性の持ち主。表具師として高い評価を得たものの、夜な夜なグライダー状の大きな凧を作って空を飛ぼうと試み、政道批判の怪鳥騒ぎを引き起こしてしまった幸吉は、ところ払いの処分を受けて失意の中、幼なじみ福部屋源太郎の誘いで船乗りに転身する。

    物語は、ここから、下総行徳の地廻り塩問屋、巴屋伊兵衛を中心とした、塩商いを巡るご用商人との戦いへと移る。幕府は、価格を安定させるため塩商いを四軒問屋に独占させていたため、行徳の地廻り塩問屋は衰退し、一方四軒問屋は暴利を貪っていた。廻船業者や塩生産者をも抱き込んで仕入れから流通までを独占している四軒問屋に対抗するため、伊兵衛は源太郎の橐駝丸と組んで、宇和島藩の御用旗と御用鑑札を用い、使い正規の流通ルートを通さずに江戸への下り塩の直送を敢行する。橐駝丸は運悪く遠州灘で台風に見舞われるが、当代随一の舵取り杢平の機転で危機を脱出し、無事下り塩を伊兵衛に届ける。その後伊兵衛は病で亡くなってしまうが、これをきっかけとして幕府の経済統制は崩れていく。

    その後、視力の衰えた杢平とともに船を降りた幸吉は、駿府城下で木綿の商いを始めて成功し、身代を子供に譲った後は入れ歯師として評判を得るが、大空を飛びたい、という往年の情熱が甦ってきて…。

    本書は、「天明三年に引き起こされた諸国大飢饉は、公儀幕府の唱えるような天災ばかりに起因するものとはとても言い難いものだった。特に直接廻船業に携わり、物品の輸送に明け暮れる者たちの中には、あくまで武士中心の流通機構そのものが百数十万ともいわれる大量の死者を招いたと解するだけの感受性を備えた者が確かにいた。」、「何もかも糞侍(ぶさ)中心の、この腐りきった流れ」などと、随所で幕府による政の腐敗が庶民を苦しめていることを批判的に描いている。飛行実験を中心としたエピソードから、実在の人物幸吉のユニークな人となりを浮き上がらせつつも、結局著者が本書で描きたかったのは、幕府に抗って商売自由を勝ち取ろうとした市井の人々の姿なんだろうなあ。

    「松右衛門帆」が出てきたし、北前船や樽廻船、干鰯など、廻船業の生業に関する描写を読むと、「菜の花の沖」の高田屋嘉兵衛を思い出すなあ。

  • 今まで読んできた飯嶋和一の本の中で、一番スムーズに読み進めることができました。
    それでも3日かかりましたが。

    江戸時代、凧を使って空を飛んだ男がいたことは知っていました。
    だから全編彼の話かと思ったら、やっぱり飯嶋和一、いつもながらストレートな話運びにはなりません。
    “鳥人”幸吉が空を飛んで、そしてその後の顛末…までが第一部。
    舞台は備前〈岡山県〉の児島。

    第二部は行徳(千葉県)の塩問屋・巴屋伊兵衛、備前の船持船頭・福部屋源太郎などが、幕府に取り入って儲けを独占する御用商人に一矢報いるために、それぞれに己の心を奮い立たせながら仲間を増やしていく話。
    “鳥人”幸吉はその場にいますが、前に出て来ることはありません。

    そもそもなぜ幸吉は空を飛んだのか。
    それは飛んでみたかったから。
    ただ、それだけ。

    しかし周囲はそう思わない。
    空を飛び、「イツマデ、イツマデ」と鳴く鵺になぞらえる。
    悪政に耐えるだけ、豪商たちだけが得をする世の中はイツマデ続くのか。
    イツマデ堪え忍ばなければならないのか。
    イツマデもこのままでいいのか。

    幸吉はただ飛んでみたかっただけなのに、幸吉の行動に背中を押された人々が、少しずつ少しずつ、世の中を変えようと動き出す。
    この第二部が一番長い。

    第三部は再び幸吉が空を飛ぶ。
    しかし読みながら蛇足では?と思っていた。
    けれども、幸吉のつぶやく最後の一言を読んで、この一言のために幸吉は飛ばねばならなかったし、第三部が書かれねばならなかったのだと腑に落ちた。

  • 私の知能が著しく低いため、読了するのがひたすらに苦痛であった
    未開の専門的知識をどうにかうまく飲み込むためにはどうすればいいんだろうナ

  • いい意味で、思っていた話とは違った。Amazonの紹介文を読んで、「天地明察」のような、夢を追いかける男を描いたわかりやすいエンターテイメントだろうと勘違いしていたのだ。主人公の幸吉が空を飛ぶのは、けして何かの意思表示ではなく、ただ純粋に飛びたいという気持ちからだ。でもそれは暗黒の天明期に必死に生きている市井の人たちを象徴するかのような行為だ。印象的で素朴な人生が幸吉の周りにいくつも姿を現しては消えていく、そういう人生の集合体みたいな本だった。飯嶋さんという作家を知って本当によかった。

  • 凧の作り方、塩の精製の仕方、航海の仕方などがかなり細かく書き込まれている。
    登場人物の背景も、心情も細かく書き込まれていて、この分量の本ながら、興味深くすらすらっと読める。

    どうやって生きていくかを真剣に考え、あるべき姿のままに生きる人がある一方、あるべき姿に帰ろうとする度にまったく違う自分にさせられてしまう運命の人もいる。
    それも、どうでもいいのかもしれない、というのが要するに結末なのだけど、なんにしろ、とにかくなりたいようにしかならない運命を受け入れていく、というのが主題なのだろう。
    物事は人間の命の長さではかるべきではなく、今現在の評判を気に病む必要は全くない、というのも辛くも明るい主題かもしれない。

  • 読み返しています。20年近い年月を経ても廃れることなどまるでない言葉たちの力。

  • 作者の時代考証はすばらしいのだが、時代の描写と、ほかの人物が多すぎ、それは幸吉の人生がそこに埋もれてしまう分量だった。重苦しい、絶望と貧困の中に生きた幸吉なので、それこそ作者の狙いなのかも知れない。この時代に空を飛ぶ夢はあまりに残酷すぎた。それでも、やはり幸吉をもっと描いて欲しかった。

  • おもしろい。史実を基にした小説なのかな?魅力的な登場人物が多い。

  • 名作です
    読んでいて本当に楽しくなる
    4.7点

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著者プロフィール

小説家。1952年山形県生まれ。1983年「プロミスト・ランド」で小説現代新人賞を受賞しデビュー。88年「汝ふたたび故郷へ帰れず」で文藝賞受賞。(上記の二作は小学館文庫版『汝ふたたび故郷へ帰れず』に収録)2008年に刊行した単行本『出星前夜』は、同年のキノベス1位と、第35回大佛次郎賞を受賞している。この他、94年『雷電本紀』、97年『神無き月十番目の夜』、2000年『始祖鳥記』、04年『黄金旅風』(いずれも小学館文庫)がある。寡作で知られるが、傑作揃いの作家として評価はきわめて高い。

「2013年 『STORY BOX 44』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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