さくら

著者 :
  • 小学館
3.65
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本棚登録 : 3983
感想 : 711
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093861472

作品紹介・あらすじ

スーパースターのような存在だった兄は、ある事故に巻き込まれ、自殺した。誰もが振り向く超美形の妹は、兄の死後、内に籠もった。母も過食と飲酒に溺れた。僕も実家を離れ東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた年老いた犬が一匹だけ――。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、何かに衝き動かされるように、年末年始を一緒に過ごしたいとせがむ恋人を置き去りにして、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏の余白に微弱な筆圧で書かれた家出した父からの手紙が握られていた――。

感想・レビュー・書評

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  • ラストが近づくにつれ涙があふれでたお話です。
    「さくら」とは、主人公の「僕」こと長谷川薫の家の飼い犬の名前。
    ある年越しに、久々に実家に帰っている間の出来事が「僕」の語り口で思い出とともに語られています。
    作者の西加奈子さんは、イラン生まれで大阪在住。泉北ニュータウン育ちの29歳の方。
    優しく穏やかな父。美人の母。万能選手の兄。
    母譲りの美貌と、アンバランスな性格の妹。
    そして、まるで目立たない「僕」。
    その家族をいつも見守るように寄り添っている「さくら」。

    妹の誕生から子供時代の遊び、学校に入ってからの出来事や彼女のこと。
    これらの思い出がどれも甘美で切ないのは、かつてのヒーローだった兄が、今はもうこの世に存在しないから。
    幸福に見えたはずの家族が、兄の死から少しずつズレていきます。
    やがて取り返しのつかないほど崩壊してゆき、誰もが逃げて行く。
    しかし「僕」が帰省した年におきたある出来後が。。

    小さなエピソードがたくさんあり、散漫な印象があるかもしれません。
    修飾語が多いのも気になるひとがいるでしょうね。
    性についてもあからさまに語られています。
    音楽で言えば、色々な楽器が様々な音をたて、リズムも不安定な感じがします。
    ちょうど、ジャズのようなもの。
    しかし終盤に近づくにつれ、美しい調べとなって感動に包まれます。
    Amazonでは何故か、評価は星三つ。
    「たったこれだけのことを言うのに、こんなにページはいらない」という酷評もあります。
    たったこれだけ?とんでもない。実に大いなるテーマです。
    悲壮な話なのにスピード感があり、読後も爽やか。
    芥川賞には縁がなく、直木賞をとるには早すぎて、しかも書評家にはウケが悪い。
    そんなことをいつまでも言っているから、若い人の読書離れが進むのだよ。
    若い人にこそ薦めたい本なのに。
    これは読むというよりは、感じる小説なのです。

     それでも、僕たちはずっと生きていく――。
     5人と1匹の、まっすぐで、まっすぐで、まっすぐな、ものがたり。
                               (帯より)

    • だいさん
      >感じる小説なのです。

      そうかもしれない。
      >感じる小説なのです。

      そうかもしれない。
      2013/10/26
    • nejidonさん
      だいさん、こんな古いレビューまで読んでくださって感謝です!
      西加奈子さんは、好きな作家さんのひとりです。
      「感じる小説」という表現が妥当...
      だいさん、こんな古いレビューまで読んでくださって感謝です!
      西加奈子さんは、好きな作家さんのひとりです。
      「感じる小説」という表現が妥当かどうか分かりませんが、
      この方の作品はそういうものが多いですね。

      だいさん、また面白い本にめぐり合えましたらご紹介ください。
      今後ともどうぞよろしくお願いします。
      2013/10/28
  • 幸福だった家族が、兄の死によって、崩壊していく。
    美人の妹はひきこもり、綺麗だった母はぶくぶくと太り、父はどこかへ消え、語り手の次男、薫は上京し、家族はバラバラになったが、父が帰ると手紙を寄こしたことがきっかけで集まります。
    でももう兄はいない。あんなに強く繋がっていた家族がぎこちなく正月を迎えようとしているとき、もう一匹の家族、サクラが家族を救う。

    西さんの特徴でもある、強烈さ、いびつさ、そして美しさ。すべてが散りばめられた素敵なお話でした。
    構成も登場人物も好きすぎて、全てがすきだと、どこをとったらいいのか、何を書いていいのかわからなくなってしまいますね。

    強烈でいびつな家族でありながらも最後の最後に、一番影の薄かったお父さんが、一番先に逃げたお父さんが、ふんばる。支える。一番非力な犬が、救う。
    そこで綺麗にまとまったような、まっとうな家族に見えた気がして、えらい感動しました。

  • 家族(父、母、兄、僕、妹、わんこ)の話。
    まぁー、長谷川家について詳しくなれる。
    そして、読んでて苦しくもなり、
    最後は幸せであってほしいと願いたくなる話だった。

    兄は男女共に好かれる、スーパースタータイプ。
    妹は美人さんだけど、なに考えてるか分からないタイプ。
    そして、僕は平凡っぽくみせるタイプ。
    そんなきょうだいたちの幼少期から現在に至るまでの
    兄や妹のスゴさが散りばめられていた。

    途中で家族がおかしくなる。
    それを犬の「サクラ」が繋ぎ止めてくれている。
    そんな描写が、なんか分からないけど泣けたなー。
    家族の苦しい部分が書かれていて、
    そこがまた読んでるこっちまで苦しかったけど、
    ホントに最後の最後でサクラに救われた感じがする。
    んー、でも、読むのに疲れたので評価は☆3ですー。

    • shintak5555さん
      読むのに疲れたから(ちょっと怒って笑)★3つって素晴らしい感性!
      敵いません!
      読むのに疲れたから(ちょっと怒って笑)★3つって素晴らしい感性!
      敵いません!
      2023/08/09
    • ほくほくあーちゃんさん
      えへー笑
      一生懸命、書いてる作家さんには申し訳ないですが、私にとっての事実なんでね。
      これは、もぅ、しょうがないですー笑
      えへー笑
      一生懸命、書いてる作家さんには申し訳ないですが、私にとっての事実なんでね。
      これは、もぅ、しょうがないですー笑
      2023/08/10
  • スーパースターのような存在だった兄は、ある事故に巻き込まれ、自殺した。誰もが振り向く超美形の妹は、兄の死後、内に籠もった。母も過食と飲酒に溺れた。僕も実家を離れ東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた年老いた犬が一匹だけ――。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、何かに衝き動かされるように、年末年始を一緒に過ごしたいとせがむ恋人を置き去りにして、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏の余白に微弱な筆圧で書かれた家出した父からの手紙が握られていた――。

    サクラという犬が居たからこそ兄の自死をキッカケにバラバラになりそうだった家族がバラバラにならずに済んだ。それ以上でも以下でもない物語だった。

  • ★3.5  ★の数迷った~(。>﹏<。)

    大阪の実家を離れ、東京の大学に通う僕・長谷川薫。
    薫の元に二年ぶりに父から手紙が届いた。
    スーパーのチラシの裏に薄い鉛筆文字で書かれた手紙。
    「年末、家に帰ります。」


    彼女と年末年始を一緒に過ごすと約束した事を反故にして、
    薫が帰省したのは、年末。
    ギクシャクとした家族の姿に、どうしたんだろう…?
    物語は長谷川家の次男・薫が語り手となって進んでいきます。
    薫が幼い頃、妹のミキの誕生を喜んだ頃から回想が始まる…。
    穏やかで働き者の父、いつも明るく太陽の様な美人の母親。
    その二人は、とても愛し合っている。
    お兄ちゃんの一は、恰好良くって小学生の頃から女子の注目を
    独り占めするような爽やかでヒーローの様な少年。
    薫は兄の陰に隠れてる様な、大人しく控えめな男の子。
    妹のミキは、とても美人だが乱暴者で変わっている。
    薫とミキにとって一は自慢で憧れの兄だった。
    そして、いつもみんなの真ん中にいる犬のさくら。
    幸せに満ち溢れている家族と一匹の犬の周りに起きた出来事を、
    年を重ねて語っている。
    仲が良過ぎるほどの家族の姿は、まさに理想的に感じられた。
    途中までの、幼い遊びやほのぼのしている感じは、
    優しい文体と合ってて良かった。

    その家族が、兄の突然の事故で一気に変化する。
    顏の半分が崩れ、下半身麻痺。
    輝いていた一の余りにも、悲しい姿に胸が痛かった。
    そして、ミキがしてしまっていたこと…。
    ミキも後悔したからこその告白だったんだろうけど、
    幼いからって許される事じゃない!凄く、腹立った(-`ェ´-怒)
    そんな事をしてしまった、自分を許せるのだろうか…?
    告白を聞いた薫はミキを殴り続けるけど、美しく描き過ぎ( ̄^ ̄)

    「この体で、また年を越すのが辛いです。ギブアップ」
    一は、二十歳と四か月の年末自殺した。
    疲れて疲れ切ってやせ細り家を出て行った父。
    お酒と甘いものの過食でブクブク醜く太った母。
    内に籠り日常生活さえままならなくなった妹。
    そして、家を離れ東京に逃げた僕・薫。
    人間の脆くて弱い部分を突きつけられた…。

    一のお葬式のシーンや最後の車内でのシーンでは、
    涙がこぼれました。
    やっぱり、さくらがいたからこそ、家族が再生したんだね。


    嘘をつくときは、愛のある嘘を付きたいって思った(*´︶`*)

  • 語り手次男から見た、両親、兄、妹、愛犬との、家族の物語。

    夫婦が出会い、愛し合い、子どもが生まれ、家族になる。
    ちょっとすっ飛んだ、変わった妹がいるものの、平凡な幸せな家族。
    子どもたちの成長の話が淡々と続いているうちに、その微笑ましい姿に、前提となっていた不幸をすっかり忘れてしまっていました。
    その不幸な事故とその後を予感させる段になって、改めてはじめの章を読み直した次第。

    神様の悪送球に苦しんだ兄、
    神様は、どんな球をも受けるキャッチャーと思えるようになった家族、
    大きな出来事を乗り越え、また新たな家族の時間を積み重ねていくのだろうと思わされる終わり方に、最後はホッとしました。

    サクラが愛らしくて、犬を飼っている我が家でもあるな~と。
    サクラには、この後も長生きしてほしいなと思いました。

  • 大好きな小説。今回で3周目。

    登場人物はみんな、個性的で人間くさくて、弱いけど強くなろうとしてて、そんな素敵な人ばっかりだけど、その中でもサキコ(サキフミ)さんが大好き。

    「嘘をつくときは、あんたらも、愛のある嘘をつきなさい。騙してやろうとか、そんな嘘やなしに、自分も苦しい、愛のある、嘘をつきなさいね。」

    相手を思って嘘をついて、その嘘をずっと突き通したサキコさんは、でも、その嘘でずっと苦しかった。

    現実世界でもそれは同じで、相手のためを思ってつく嘘は、きっと自分自身を犠牲にするんだと思う。

    けれどそれは「愛のある嘘」だから、気づいて、理解して、支えてくれる人があらわれてほしいなと思う。サキコさんの苦しみを支えたミキのように。

    「愛のある嘘」を突き通したサキコさんや、ずっと苦しんできたサキコさんをわかってあげられたミキみたいに、愛のある人になりたいなと思わせてくれる大好きな小説。

  • 2005年の初期の作品。
    悲惨な事件により壊れてゆく家族をぎりぎりのところで救うことになるのは、家族の一員のさくらという犬。
    登場人物の造形や起きる事件が強烈なのに陳腐にならないのは大切なことが語られているから。西加奈子さんの本は読むのにエネルギーがいる。

  • 僕らは、何があっても、前を向いて生きていかなきゃいけないんだ。それは、悲しむ人がいるから。神様は絶対にいる。そして、乗り越えられることしか与えない。現実はそうならなくても、そうであるという事実だけを心に留めておけば、きっと未来は明るい。そう、思える作品だった。

  • おわりの章、完全にヤラれました。キャラ立ちの良さや突飛な感じは西作品ぽくて、とても魅力あふれる作品でした。

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著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

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