出星前夜

著者 :
  • 小学館
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感想 : 87
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093862073

作品紹介・あらすじ

すべての民にとって不満のない世などありえない。しかし、民を死に追いやる政事のどこに正義があるというのか。寛永十四年陰暦七月、二十年にも及ぶ藩政の理不尽に耐え続けた島原の民衆は、最後の矜持を守るため破滅への道をたどり始めた。

感想・レビュー・書評

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  • 1637年に起きた天草•島原一揆(島原の乱)を描いた大作。一般的な認知度からすれば、"天草四郎に率いられたキリシタンの宗教戦争"といった所か。
    しかし、飯嶋和一の小説は、常に『不条理な支配に抗う名も無き人々の姿』が主軸となる。この物語でも中心になるのは島原有家(ありえ)の青年寿安と、庄屋の鬼塚甚右衛門。(監物)
    寿安はうち続く凶作と疫病、島原藩松倉家の不当な収奪に反抗し、村の若衆を統合して代官所と敵対する。寿安と若衆たちを藩の非道な仕置きから守ろうとする庄屋の甚右衛門。彼はかつて有馬水軍にその人ありとうたわれた鬼塚監物その人だった。棄教していたキリシタンの一員に立ち返り、島原藩との戦いに身を投じる。対岸の肥後天草で起こっていた一揆軍と糾合し、天草四郎を総大将として原城に立てこもる。女性•子どもも含めてその数およそ3万。鬼塚監物らは戦略の限りを尽くして島原藩•唐津藩ら諸軍を撃退するも、幕府は総勢12万もの大軍を送り込み、およそ5カ月にわたる籠城戦は終焉を迎える。
    後年の幕府にとって、『島原の乱=キリシタンの反乱』という図式は都合の良い見方だったのだろう。しかしこの作品は、決してそれだけではない見方ができるという事を教えてくれる、実に良質の歴史小説である。

  • この作者への信頼がなければ、読まないテーマ。
    島原の乱は、歴史で習った通り、悲惨な結末しかありえないからだ。
    しかし、飯嶋和一さんの腕前はやはり期待を裏切らなかった。

    こういうのを本当の歴史小説って呼ぶのだろうか。時代小説って呼ぶのはなんか違う気がする。

    これまでもいつもそうだったように、武士階級ではない人々の姿を描いた大作。しかし、あっという間に読み終わる。まったくもって英雄モノではないのに、なぜか暗くはならない読後感。
    不思議だなあ。
    やたら改行ばかりで軽い文章の本が多い中、重厚なのに読ませてしまう。どんどん読みたいのだけど、読むのがもったいないと思わせるような、そういう筆力、ほんとうにすばらしい。

  • 飢饉の最中、苛烈な年貢取り立てに苦しむキリシタンが起こした島原の乱。無名であった多くの一人一人に民に作家は名前を与え、信じがたい腕力で絵描ききった作品。

  • 島原の乱。
    学校で習うそれは、「天草四郎を中心とした、キリスト教徒の反乱」

    二部構成の第一部は、松倉氏が治める島原の、苛烈を極める庶民の暮らしがこれでもかこれでもかと描かれる。

    元々はキリシタン大名有馬晴信の元、農地に適しているとは言えない土地で神を信じ、助け合いしながら生きてきた人々は、松倉氏に領主が変わったとたん宗教を捨てさせられ、領主や家臣たちの贅沢な暮らしを支えるために水増しされた年貢を納めるために、我慢に我慢を重ねて日々を送っていた。

    しかし、台風や暖冬や水不足で凶作が続いても年貢が軽減されることはなく、そればかりか流行り病で次々と幼子が命を失っているときに、治療に来た医者を追放するという仕打ちをされたとき、有江村の少年たちが立ち上がった。
    年貢軽減を訴えたために処刑された父を持つ矢矩寿安(やのりじゅあん)を中心に。

    が、しかし、彼らは宗教のために立ち上がったのではないのです。
    暴政を行う大人たちに、また、唯々諾々とそれに従うしかない大人たちに怒り、絶望し、死ぬために集ったのです。

    少年たちの気持ちを十分理解しながらも、村が存続するためには事を起こしてはならないと、手を尽くして藩の面子を保ちつつ、庶民の窮状を訴える庄屋の鬼塚監物。
    藩の犬だと、周囲の人たちに蛇蝎のごとく嫌われ蔑まされながらも。

    第二部は、とうとう戦いの火ぶたが切られてからの蜂起軍。幕府がよこした鎮圧軍。それぞれの駆け引きと実情。そして寿安。
    ここから天草四郎が参加しますが、島原の人たちと天草の人たちはキリスト教で繋がっているとはいえ一枚岩ではありませんでした。
    この本を読んだ限りでは、天草四郎がいなければ島原の乱は成功したのでは、と思えてしまうくらいの存在です。

    相変わらずドラマチックとは真逆の淡々とした筆致で、細かい数字なども記されていますので、潜入取材をしたかのような臨場感。
    量がヘヴィー級なら質もヘヴィー級。

    ただ、もう少し文章を整理して書いてくれたら読みやすいのになーと思うのです。
    過剰な装飾はいりませんが、接続詞とか、主語の位置とかで、意味が頭に入りやすいように。
    同じことを何回も書かずにすむように。(それ、さっきも書いてたって思った文章が何回かありました)

    そうそう、以前に感想を書いた『黄金旅風』の主役・末次平左衛門が後半に重要な役どころで出てきます。
    鎖国政策を進め、西国大名の収入減を取り上げて権力を幕府に集中させようという動きに対して、長崎の庶民を、自由を、財産を守り抜いた平左衛門が島原の人たちに何をしたか。

    歴史は一方向からでは語れないものです。
    教科書に書かれていない島原の乱。
    大変に読みごたえがあり、充分に満足できました。

  • キリスト禁教令が出てまもなくの天草・島原近隣での物語…ということ以外の予備知識なく読み始めた。
    冒頭は宣教師から医術の心得を学んだ医者が、幼い子の間に蔓延する伝染病に立ちむかう姿が描かれる。ああこれは医者の話か、と思いきや、あっという間にその医者は代官に追い払われていなくなってしまうのである。
    ここから話が一気に転がり始め、ほどなく「島原の乱」へと続く話なのだと気づく。
    圧政に苦しみぬいた揚句に立ちあがった民が愚かな侍たちを片づけていく痛快な場面もあるのだが、読者はその先になにが待ち受けているのかを知っている。
    島原の乱の首謀者とされる天草四郎についての描写は抑え、あくまで乱へと至る道のりを外堀を埋めるように細かに描いてある。ただ、戦の描写はやや冗長ぎみだったのが残念。歴史もの好きにはお勧めできる。

  • 飯嶋和一さんの歴史小説『出星前夜』を読了。出色の作品だと思う。歴史小説が嫌いな向きにはちょっとつらい作品だが、史実と作り上げたお話が見事に編み上げられていてとても重厚でページ数も多い作品だがテンションが落ちる事なく最後まで読み進む事ができた。少し前にも天草四郎らを主人公にした島原の乱を描いた作品を読んだが、今回は天草四郎らは完全に脇役で、圧政に苦しむ農民とくにその中で勇気を持って立ち上がった少年達とそれらを助け大名らに立ち向かうことを選んだ武士達の哀しい運命を描いた作品となっている。アホな政治に苦しむ人民というのは、いつの時代でもある話だが、底で失われていく幼い命が多い事はとても切なく、その事をほったらかしにして自分らの事しか考えていない政治家はすぐにでも消え去ってほしいと思わされた。人は歴史から学んではいないのかもしれない。残念。

  • 島原の乱を天草側ではなく、有家側から描く力作。島原の乱が、単なる宗教戦争ではなく、百姓一揆、さらには関が原の遺恨も絡んでいることが理解できる。首謀者のひとり、有家村庄屋の甚右衛門は旧軍役衆の戦上手。このため、幕府側にも多大な犠牲者が出た。乱が凄まじいエネルギーで拡大してゆく展開の描写はさすが飯嶋和一と思う。これで彼の主な著作はすべて読んだが、個人的にはこの作品が一番好きになった。乱に加わった37,000人全て死罪となって、乱は終結する。しかし、最後の数ページの描写で、物語の悲惨さがなくなり、後味の良い読後感になった。単行本で540ページ。娯楽性に富み、読み終わるのが惜しい気がした。

  • ボリューム感のある時代ものです。

    いわゆる島原の乱を別な角度から見ると…こうなるんですね…
    事実がいずれかは判りませんが、人の生き方はそれぞれの価値観が異なるだけで波が立つものだと痛感しました。

    キリスト教が禁教だった時代、他にも生きていくうえで色んな制約があったことは想像も容易いですね

    命という観点で見ると、現代は平和ですが、思想という観点ではどうでしょうね…
    色々と考えさせられる作品でした
    時間のある時に行間までしっかりと読み込みたい作品です

  • 「島原の乱」についてはさまざまの本を読んできているが出色。

    蜂起軍の側から描いているが、大将四郎を突き放し、当時の社会状況、人の生と死、命と星をめぐり物語が続く・・・

    年貢初納の日、刈り上げ祭り

    思い通りにならないことは世の中の常であり、最善を尽くしても惨憺たる結果を招くこともある。
    最善を尽くすことと結果は別次元のこと、

    死こそが実は永遠の本源であり、生は一瞬の流れ星のようなもの

  • この本を読み伝えてくれた方々へ感謝

    人生で一番小説をたくさん読んだと思われる2009年の大晦日に この作品を読み終えることになりました。

    人生で一番心を奮わされた作品。

    生きること、死にゆくこと、いろいろと考えました。

    ここ数年、信仰と血縁ということを常々考えていたのですが、

    この作品を読んでいる最中、

    幾度も人間にとって信仰とは何なのか、

    血の繋がりや先祖を敬う ということについても考えました。自分の先祖はこの時代どのポジションにいたのか・・・

    4年ぶりの大作と書いてありましたが、

    文字通り大作巨編でした。

    本屋大賞を始め、時代小説読まず嫌いだった私のところまでこの本を読み伝えてくれた方々、

    そして何よりも著者をはじめ出版・編集関係者の方々に感謝の気持ちでいっぱいです。

    いつになく有意義な年末となりました。

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著者プロフィール

小説家。1952年山形県生まれ。1983年「プロミスト・ランド」で小説現代新人賞を受賞しデビュー。88年「汝ふたたび故郷へ帰れず」で文藝賞受賞。(上記の二作は小学館文庫版『汝ふたたび故郷へ帰れず』に収録)2008年に刊行した単行本『出星前夜』は、同年のキノベス1位と、第35回大佛次郎賞を受賞している。この他、94年『雷電本紀』、97年『神無き月十番目の夜』、2000年『始祖鳥記』、04年『黄金旅風』(いずれも小学館文庫)がある。寡作で知られるが、傑作揃いの作家として評価はきわめて高い。

「2013年 『STORY BOX 44』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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