兄~かぞくのくに

  • 小学館
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093863377

作品紹介・あらすじ

私には三人の兄がいる。兄は北朝鮮にいる。「帰国事業」で北朝鮮に渡っていった兄と私と「かぞく」の真実の物語。感涙のドキュメンタリー・ストーリー。

感想・レビュー・書評

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  • 単行本の帯には「ドキュメンタリーストーリー」と書いてあって、小説ではなく著者の実体験をつづったものです。私のカテゴリに「ドキュメンタリー」がないので「ルポ」に分類しました。
    著者は在日2世。父親が大阪の朝鮮総連の幹部で、4人兄妹の末っ子。年の離れた兄3人が、「帰国事業」で北朝鮮に帰った。
    もう、この設定(いや、設定ではなく事実)だけで、なんと!!!!と、興味がわき、これは読まねば、と思って手にとりました。
    なんて苦しいのだろう。日本では家族が北朝鮮に渡り、会えなくなった在日の人が「悲しい」ということすら不自由。その複雑な事情を赤裸々に語っているのだが、語れるようになるまでに相当な時間を要している。そして語った結果、著者は北朝鮮入国禁止になり、兄とは会えなくなってしまった。(それ以前は、朝鮮籍で朝鮮学校に通う総連幹部の娘、帰国者の家族ということで、万景峰号で何度か北朝鮮を訪問している。そのような行き来があるということもよく知らなかったので驚いた)。
    私が社会科の教員になったのには、少なからず、大学のときに韓国の大学を訪問して朝鮮半島の歴史に興味を持ったことも影響している。その当時は(もう30年近く前だが)、南北はいつか統一されるだろうし、半島の多くの人がそれを望んでいるのだと疑わなかったが、年々それが困難になりつつある。そしてもう今や、南の若い人たちは統一なんて望まないのではないかとすら思えてくる。
    この困難な状況を打開するのに、この方のように「本当のことを語る」人は絶対に必要なのだろう。
    他の作品も絶対読もうと思います。映画も観よう。

  • 2012年初版。映画は、かなり前に観ました。悲しく辛い内容ですが、涙は出ませんでした。著者の両親・3人の兄・そして本人のあまりにもリアルな内容に圧倒されてしまいます。近くて遠い国、北朝鮮。理解できない、どうしての連続。3人の兄のそれぞれの境遇、理不尽としか言いようがない。映画を再度観てみたくなりました。

  • とても読みやすい文章。重い内容もさくさく読み進めてしまう。
    朝鮮半島出身の人が、日本で、韓国で、北朝鮮で様々な立場に置かれていることをテレビや映画で得た知識でイメージしていた。
    しかし、それはすこし違ったイメージだった。この本によってものすごく生活感あふれる、どこにあってもおかしくない家族の歴史として、胸に迫ってきた。
    思想教育の恐ろしさ。日本の生活を知ったうえで帰国して同化していかなければやっていけない切なさ。お金や物を送ってあげることしかできない親の無念。
    日本人に生まれた幸運を噛みしめずにはいられなかった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「日本人に生まれた幸運」
      見えない近くの国でのコトが信じられない。悲しいコトです。
      早くDVD借りて観なきゃ、、、
      「日本人に生まれた幸運」
      見えない近くの国でのコトが信じられない。悲しいコトです。
      早くDVD借りて観なきゃ、、、
      2013/09/06
  • 実態がよく分からなくて、不気味で怖いと思っていた近くて遠い国。そこにも同じ人間が暮らし日々の営みがあり、笑いもある。愛しい家族もいる。
    知らないことがほんとうにたくさんあって
    またまだ知りたいことがあると知る。
    ヤンヨンヒ監督の劇映画「かぞくのくに」と併せて読んでほしい一冊です。

  • 映画『かぞくのくに』とあわせて読むことをおすすめします。帰国事業の背景については、さほど詳しく述べられていないので、辛淑玉『鬼哭啾啾』もあわせておすすめ。
    それにしても、北朝鮮の実情が薄々伝わりかけていた時期になって、息子を3人とも「帰国」させるとは・・・これでは敗戦間近に学徒を動員して特攻させた軍国日本の時代と、まるで同じではないか。植民地支配をされた側が、支配者と同じような暴力体制をつくりあげてしまうとは、なんと皮肉なことだろう。国や政治の暴力がそのまま家族に刻まれてしまう残酷さ、それはかつても今も確かにあることを思い知らされる。

  • 身近なようでいてよく知らなかった在日朝鮮人や北朝鮮への帰国者の生活が描かれていて、映画もぜひ見たくなった。今、兄やその家族たちがどんな暮らしをしているのか、心配だ。北朝鮮への経済制裁が苦しめているのはこうした普通の人々の暮らしなのだろうと思うと、自分に何ができるのだろうと思った。

  •  映画「かぞくのくに」を見てから、読みたかった原作がやっと読めました。
     映画の題材となったのは3人の兄のうち、ひとりのエピソード。この本のほうが主人公の置かれた状況と、日本で暮らしているゆえの悩みがちゃんと描かれていて、より納得して読めました。
     映画ももちろん感動的な作品でしたがどうしても主人公である妹が日本でぬくぬくと育っている苦労知らずに見えてしまって、特に大切なあるシーンでは、北から来た兄との温度差が絶望的に思えたのです。

     この本(手記というべきでしょうか)を読んでそのシーンの本来の意味がわかったように思います。

  • 北の共和国を嫌悪するのは容易いが、徹底的な社会、国家差別の中に、あの産経新聞まで北の楽園と煽り、朝鮮大の教師かパチンコ屋しか選択肢がない中で、後付で何が言えるのか。その中でも生きていく。

  • 異国である日本で子供を産んで、苦労して育て上げ、揚げ句に国の政策とかで、男子三人とも北に送ることになった家族。
    パラダイスとか楽園とか、北のうまい誘い文句とは裏腹の過酷な生活を強いられるそれぞれの三兄弟と、行き来のままならない日本で気をもむばかりの両親と妹。
    北のやり方や考え方は当然ながら理解に苦しむが、活動家の幹部であった両親の考え方にも疑問を抱く。
    大きな疑問は、済州島出身の身でありながらどうして、北へ大事な息子を帰国と称してやるのか・・・
    そういう両親に育てられたったひとりになった妹は、やがてありのままの家族や北の実情をドキュメントとして映像化する仕事につき、現在も活躍している ヤン・ヨンヒさんである。
    彼女の勇気とエネルギーに大きなエールを送りたい。

  • 著者ヤン・ヨンヒさんの監督作品「かぞくのくに」の原作本。朝鮮人の両親の理想によって、兄は帰国事業で北朝鮮へ。時間が経ち、兄が手術で日本へ来るところから映画は始まる。そして、家族は、日本では考えられないような北朝鮮の理不尽な命令を目の当たりにする。映画の内容がとても胸に突き刺さり、原作本を読む事に。

    映画では1人の兄の話だったが、実際には兄が3人いて、帰国事業で3人共、北朝鮮へ行き、それぞれの道を辿っているのが、また衝撃だった。私達と変わらない、日本で育った人達が北朝鮮の環境で生活するということとは・・・。その悔しさや悲しさが伝わってくる。そして、それぞれに自分の場所で必死に生きていく兄達。映画と同様に涙無しには読めなかった。

    そして、3人の兄や兄の家族の分の自由を背負って、妹である著者は北朝鮮と戦っているのだなと、最後は著者をすごく応援したい気持ちにもなった。

    それにしても、国とは?国籍とは?何なのか???

    自分自身はこれまで直面したことのない問題だが、先日読んだ「台湾人生」に引き続き、考えされらることの多い本だった。

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著者プロフィール

著:ヤン ヨンヒ
大阪出身のコリアン2世。
米国ニューヨークのニュースクール大学大学院メディア・スタディーズ修士号取得。高校教師、劇団活動、ラジオパーソナリティー等を経て、1995年より国内およびアジア各国を取材し報道番組やTVドキュメンタリーを制作。
父親を主人公に自身の家族を描いたドキュメンタリー映画『ディア・ピョンヤン』(2005)は、ベルリン国際映画祭・最優秀アジア映画賞、サンダンス映画祭・審査員特別賞ほか、各国の映画祭で多数受賞し、日本と韓国で劇場公開。
自身の姪の成長を描いた『愛しきソナ』(2009)は、ベルリン国際映画祭、Hot Docsカナディアン国際ドキュメンタリー映画祭ほか多くの招待を受け、日本と韓国で劇場公開。
脚本・監督を担当した初の劇映画『かぞくのくに』(2012)はベルリン国際映画祭・国際アートシアター連盟賞ほか海外映画祭で多数受賞。さらに、ブルーリボン賞作品賞、キネマ旬報日本映画ベスト・テン1位、読売文学賞戯曲・シナリオ賞等、国内でも多くの賞に輝いた。
かたくなに祖国を信じ続けてきた母親が心の奥底にしまっていた記憶と新たな家族の存在を描いた『スープとイデオロギー』(2021)では毎日映画コンクールドキュメンタリー映画賞、DMZドキュメンタリー映画祭ホワイトグース賞、ソウル独立映画祭(2021)実行委員会特別賞、「2022年の女性映画人賞」監督賞、パリKINOTAYO現代日本映画祭(2022)グランプリなどを受賞した。
2022年3月にはこれまでの創作活動が高く評価され、第1回韓国芸術映画館協会アワード大賞を受賞。
著書にノンフィクション『兄 かぞくのくに』(小学館、2012)、小説『朝鮮大学校物語』(KADOKAWA、2018)ほか。
本書のハングル版『카메라를 끄고 씁니다』は2022年に韓国のマウムサンチェクより刊行された。

「2023年 『カメラを止めて書きます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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