世界でいちばん美しい

著者 :
  • 小学館
3.46
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093863636

作品紹介・あらすじ

「船に乗れ!」作者、十年越しの代表作!

雪踏文彦。
ひとは、みな、彼のことを親しみを込めて「せった君」と呼ぶ。語り手である作家・島崎哲も、親友である彼をそう呼んだ。小学校ではじめて出会い、いつもどこかぼんやりしているようだったせった君は、幼少期から音楽の英才教育を受けていた島崎が嫉妬してしまうほどの才能を持っていた。
中学、高校と違う学校に通ったふたりは、あまり頻繁に会うこともなくなったが、大きな挫折をしたばかりの島崎を、ある日、偶然、目の前に現れたせった君のことばが救ってくれる。やがて、再び意気投合したふたりは、彼がピアノを弾いている一風変わったバーで行動をともにするようになった。
音楽のことしか、ほとんど考えていないせった君だったが、やがて恋をして、彼がつくる音楽にも変化が見られ始めた。そんなある日、彼らの前に、妙な男がちらつくようになった。彼は、せった君の彼女・小海が以前、付き合っていた男だった。そして、事件は起こった。

【編集担当からのおすすめ情報】
デビューから十年近く構想を練り続け、ついに辿り着いた著者の新たなる代表作です。

感想・レビュー・書評

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  • ヒトの自意識が過剰に膨らみ制御できなくなったときの恐ろしさを痛感した。
    ヒトってこんなにも許せない者になれるんだ、という驚きと、ヒトが自らの中から生み出す世界の美しさ、を同時に描き出す。
    藤谷さんの紡ぎだす物語を、ずっとずっと待ってました。
    この世界には、どうしようもなく醜く、どうしても許すことのできない人間がいると同時に、自らの中から限りなく美しいモノを生み出し、それによって周りのヒトを幸せにすることのできる人間がいるのだ、ということを改めて思う。
    せった君は神が遣わした天使なんじゃないのか。音楽を通して周りのヒトに「美しい」世界を見せてくれたんじゃないのか。
    素直に、まっすぐに美しい物語だった、とそう思いました。

  • 筆者がチェロ奏者を目指していただけあり、物語の中の音楽的な描写なども違和感なく読めた。

    純真無垢に音楽に生きるせった君は、周囲の人間の心の闇の拠り所であり、また、彼らの支えがあるからこそひたすら音楽に生きることができた。そんな中で徐々に周囲の闇に蝕まれていき、犠牲になったと感じた。何かの拍子に落ちてしまった心の闇のエネルギーの強さや蟻地獄のような深さ、それに否応無くのまれていく人間の心の弱さを突きつけられた気がする。それらが物語の全体を通して、せった君の音楽とは対象的に、不協和音のように流れていた。

    切なさが残った。

  • どこまでも無垢で音楽を愛している「せった君」と、そんな無垢で無欲な姿に苛立ちながらも夢中になってしまう親友・島崎の友情物語かと思いきや、自分のふがいなさを他人や社会のせいにしている津々見の人生が交錯して思いがけない展開に…。

    津々見が人間のどす黒い部分を足してさらに掛けたようなヤツで、真っ白なせった君に照らされると本当に哀れ。
    過剰な自意識や自分の非を認めない姿は、誰しも持っている黒い一面の集合体のようで、読んでいて辛かった。

    せった君の言葉や音楽は、タイトル通り本当に美しかったです。
    最後の二行で涙腺崩壊。
    複雑な構成や人間のクズな部分を散々見せつけられた末の最後のシンプルな言葉で、この二行がほんと美しかった。

  • う~ん。津々見のダメ男っぷりがすさまじいな。

  • あらすじ

    雪踏文彦。
    ひとは、みな、彼のことを親しみを込めて「せった君」と呼ぶ。語り手である作家・島崎哲も、親友である彼をそう呼んだ。小学校ではじめて出会い、いつもどこかぼんやりしているようだったせった君は、幼少期から音楽の英才教育を受けていた島崎が嫉妬してしまうほどの才能を持っていた。
    中学、高校と違う学校に通ったふたりは、あまり頻繁に会うこともなくなったが、大きな挫折をしたばかりの島崎を、ある日、偶然、目の前に現れたせった君のことばが救ってくれる。やがて、再び意気投合したふたりは、彼がピアノを弾いている一風変わったバーで行動をともにするようになった。
    音楽のことしか、ほとんど考えていないせった君だったが、やがて恋をして、彼がつくる音楽にも変化が見られ始めた。そんなある日、彼らの前に、妙な男がちらつくようになった。彼は、せった君の彼女・小海が以前、付き合っていた男だった。そして、事件は起こった。

    冗長だと思う人もいらっしゃる事でしょう。僕の大好きな、この著者の最新作「燃えよあんず」もそういわれる可能性のある本でした。何なら最高傑作「船に乗れ!」もそういわれちゃうかもしれませんね。
    でもこの書かなくてもいいような事をつらつら書き連ねる事によって、針金人間のような登場人物に次第に分厚い肉付きが出てきて、登場人物に厚みが出てくるんですよ。もちろん長く書けばいいという訳では無いです。哲学入ってしまってコリャ要らないだろうと思ってしまう部分も有ります。でもそこも含めて愛おしい本です。
    昔の映画って導入部がすごく長くて、今見ると冗長と思われる部分が多いじゃないですか。登場人物の日常生活をつらつらと描く事によって、物語に厚みが出てくるんだと思うんですよね。そりゃ僕だっていきなり爆発したり、いきなり出会ってすぐチョメチョメ(山城信吾風)だったりの方がまんべんなく楽しめるとは思います。でもこういうつらつらと描かれた心象風景というのもいいもんだと思います。
    藤谷治さんの本はどれもこれも主人公が上手く行かないパターンが多いです。なんだか読後苦いんです。でも結局光に向かって書いている安心感が有って僕は好きです。

  • 15:久しぶりに(?)音楽がテーマになった藤谷さんの本、というわけで楽しみにしていました。「舟に乗れ!」にリンクするようなリンクしないような哲くんの小学生の時の作文から、「せった君」と音楽と過ごした日々が描かれています。
    完全に、両作のサトルくんは同一人物のように感じてしまい、私はそのつもり(「舟に乗れ!」の前後の話)で読んだのですが、ニヤニヤするところあり、大人になったなあと親戚のおばさん目線でしみじみするところあり、興味深く読めました。
    語られるべきはせった君のことなのだろうけれど、私はどうしても哲目線で読んでしまって、甘酸っぱく、痛く苦く過ぎ去った高校生活に引き続き、哲はここでも身近にあった音楽を失ってしまったのかと寂しく思いました。
    物語のラストで描かれる希望が、やがて哲に再びチェロを弾かせることになるのかと、読者ゆえの勝手な妄想に浸りつつ……。

  • ジャズ、クラシック、タンゴ。それらを奏でるべく五線譜の上で自由に踊る記号。またそれを生み出す者はその中に自分の生を詰め込む。何とも物悲しい話だけど、それに触れられた事に満足できる。せった君の曲を聴きたい。

  • すごく期待して読んだ割には……。音楽雑学もほとんどなくて残念

  • 読み終わった後、こんなに重苦しい気持ちになるとは、読んでいる時には思わなかった。

    せったくんの音楽、聴いてみたかったな。
    タンゴのたどり着く先はどんな世界だったんだろう。
    せったくんの笑顔をいつまでも見ていたかった。
    そう心から思うほどの物語だったけど、、、
    あまりにもむごい。
    物語が、あの瞬間へ向かわなければいけなかったというのならそうだったのだろう。だけど
    もう2度と、読み返せない気がする。

  • 最初の方は凄くスピード感があって話にのめり込んでいけた。
    ただ、途中の津々美勘太郎が出てきたあたらから話がややおかしな方へ…
    最後に話の中でも勘太郎が言ってた様に人間の人生なんてある日突然出てきた訳のわからないやつにあっと言う間に壊されることもあるのだなと。
    なんだか予想外の終わりだった。

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著者プロフィール

1963年、東京都生まれ。2003年、『アンダンテ・モッツァレラ・チーズ』(小学館)でデビュー。2014年、『世界でいちばん美しい』(小学館)で織田作之助賞を受賞。主な作品に『おがたQ、という女』(小学館)、『下北沢』(リトルモア/ポプラ文庫)、『いつか棺桶はやってくる』(小学館)、『船に乗れ!』(ジャイブ/ポプラ文庫)、『我が異邦』(新潮社)、『燃えよ、あんず』(小学館)など多数。エッセイ集に『小説は君のためにある』(ちくまプリマ―新書)など。

「2021年 『睦家四姉妹図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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