サラバ! (下)

著者 :
  • 小学館
4.12
  • (1034)
  • (972)
  • (481)
  • (90)
  • (20)
本棚登録 : 8415
感想 : 929
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093863933

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • R1.10.23 読了。

     サトラコヲモンサマの正体、姉の奇行と世界をめぐっている間に見つけた大切なもの、父と母の離婚の理由、自分の身体に生じた変化への戸惑いなどなど、激動する展開に目が離せなくなり、一気読みしていた。自分とは?家族とは?それぞれの想いとは?を考えさせられた作品でした。すぐには消化できないかもしれない読後感。良い意味でやられた。

    ・「信じられるものなら、何でも良かった。あらゆる人の、たくさんの苦しみ。決して解決出来ないものもあったし、どうしても納得できない残酷な出来事もあった。きっとそういう人たちのために、信仰はあるのだろう。自分たち人間では、手に負えないこと。自分たちのせいにしていては、生きてゆけないこと。それを一身に背負う存在として、信仰は、そして宗教はあるのだろう。」
    ・「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけない。」
    ・「自分だけが信じるものを見つけなさい。」
    ・「大切なのは、人が、ひとりひとり違うことを認めることだ。」
    ・「僕が生きていることを、生き続けてゆくことを、僕が信じているということだ。」

  • 上巻の軽い感じとは打って変わって、下巻は生きていく事の重みを感じる内容だった。主人公の苦しみがありとあらゆる表現で私の心に伝わってくる。姉の手紙の頁あらちから、どっと重みが増した気がする。「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」が頭の中をぐるぐると回り続けている。この本はもう一度、何年後かに読まねば!と思った。

  • 文庫本3冊を読み終えて
    現実は変わらなくても気持ちは変わる。歩は次第に幸福感を失って行くが、家族という集合体の中で、気持ち次第で世界を変えていくことができると西加奈子さんが訴えていると思うのである。
    男女の違いはあるが、西加奈子さんは歩を通じて、人の人生は気持ちの持ち方で随分変わることが伝わってきた。

    ネットでの拡散はウイルスに例えられるケースが多いが、ここでは「イナゴの集団」、昭和のレトロな感じが出ている。
    御神木は崩壊の呪文、全巻を通して、この呪文により場面が変わる。しかし、しかしだ、御神木は御神木であって、御神木ではなくなったことに、戸惑いを感じた。
    そして家族のひとりひとりの思いを歩が知ることになる。家族や友人との関係は必ずしも形式や言葉ではわからない。それぞれが心の中に想い描いている事が、見事に描写された作品だった。サラバ!

  • ある家族の再生の物語。そもそも再生なのか?
    みんな何かを探してもがいている。幸せなのは時間の流れの中でも大切な人達が誰も離れていかなかったこと。それこそ「サラバ」なのじゃないか。

  • 飄々としている外面の下で周囲の動向を感じやすい少年の、少しエキセントリックな家族、そして友人との日常を描く。

    情景描写は控えめで、ひたすら「僕」の思いを滔々と綴る。
    『i』もそうだったが徹底した一人称の視点。
    上巻は、他人が読んでも退屈しない日記といえるかもしれない。

    下巻…「僕」は青年から大人になる。

    いつも受け身で生きてきた「僕」。
    容姿の衰えをきっかけに、加速度的に、冴えない毎日と、こんなはずじゃなかったという思いを強くしていく。

    物語の終盤、「僕」は自分が連綿と続くこの世界の流れ(ナイル川が象徴)に生きるひとつの「化け物」なんだと気づく。そしてそれを誰かに知らしめたいと思うに至る。
    「僕」は受け身ではなく、積極的に僕を知ってもらいたいと思う。こうして書くことを決意する。

    「日記」は「物語」になった。
    生きることは物語を語ること。

    『サラバ!』は文学そのものを提示する作品だった。

  • 下巻では立場が逆転。お姉ちゃんがまともになり、歩がどうしようもない奴になってしまった。
    禿のせいか?
    また須玖に再会でき、鴻上にも出会い、いい雰囲気だったけど、やっぱり3人って難しいよね。
    それでも、須玖と鴻上は歩を好いてくれていたのが救い。
    両親の結婚にまつわる話も衝撃的。

    やっぱりヤコブに再会出来て本当に良かった。2人でナイル河を眺めるシーンにジーンときちゃいました。

    すごい家族の話だったな~確かに小説にした方がいいね(笑)

  • 初めて読んだ西加奈子さん。
    面白かった。
    主人公は男だけど書いてるのが女性作家だからかな、ものすごく理解できることが多かった。
    なぜ今まで読まなかったのか後悔。
    他の作品も読もう。

  • 歩はときどき私と同じで、人に依存し過ぎていたり、ひとつになりたいと思ってしまったり、受動的だったり、人の評価を気にしたりする。
    自分から、嫌な気持ちにさせる一言を言ってしまったり、気持ちは分かる。というシーンもあった。

    初めは面白く描かれている小説だと思って読み進めていたら、生き方、をこの本に見つけた気がした。

    他人の幸せは決められない。その人にはその人の幸せがある。

    大切なのは、人が、ひとりひとり違うことを認めることだ。
    「僕とヤコブは、大きく隔てられている。」

    自分のことは自分で決める。と言うよりも、
    「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」
    と言われる方が、自分の中に入ってくる。

    私の信じるもの。

  • 変わった家族の中で、
    ひたすら受け身の
    主人公・歩の成長物語と思って
    上巻を読み終わり、
    下巻もずいぶんと分厚いなぁと思って
    読み始めたら
    まさかの歩の転落と崩壊が待っていた。

    家族で一番無難に公私共に成功した人生だったのに、オセロをひっくり返すように
    美点と思っていた空気を読むことも、甘いマスクも自信を失くす源になり、容貌も性格も歪んでいく。

    末っ子の自分には
    前巻での歩の行動がよく理解できた。
    大人の好む言動をついとってしまう。
    姉(私の場合は兄)が親ともめると気配を消す。
    友人や恋人や夫も周囲の目にどう映るかという基準が心のどこかにあったように思う。
    (なんて嫌なヤツなんだ)

    歩の容貌がどんとん孤独になり壊れていく、、
    読んでいてとても辛かった。

    一方で姉は自分の居場所、自分の芯をようやくしっかりと見つけて
    しなやかに生きている様は清々しい想いになった。
    どんな人生もやり直すことができるのだ。

    父と母の離婚の理由も明かされる。想像以上に辛かった。父のKさんに対する懺悔で出家する気持ちもわかるけど、そもそも最初に一緒に地獄に落ちるつもりで母と結婚したのではなかったのか。その覚悟がないままだったのね。
    結局Kさんも母も幸せにできなかった。

    祖母や矢田のおばちゃん、夏枝おばさん、ヤコブ、須玖、
    脇役はクセ強いけど
    みんな素敵な人物だ。
    関西弁が辛いストーリーになんとも言えない味わいを与える。
    周りがこんなにも素敵な人たちなんだから、歩のこれからは大丈夫だと思える。

    姉との和解は小説ならではと思う。
    現実にはきょうだい間、
    特に異性のきょうだい間は
    他人よりも遠い場合が多い気がする。

    ところで著者の自伝的作品てことだけど。著者の姿を反映してるのは姉なのか、弟なのか、それとも両方なのか。

  • 上巻は冗長に感じたが、
    下巻の後半以降は物語に強く引き込まれた

著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

西加奈子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×