霧 ウラル

著者 :
  • 小学館
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感想 : 72
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  • Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093864206

作品紹介・あらすじ

今日から海峡の鬼になる。記念碑的傑作誕生

舞台は、国境の町・根室
男の屍を越えて生きてゆく女たち。
北海道最東端・根室は、国境の町である。戦前からこの町を動かしてきた河之辺水産社長には、三人の娘がいた。長女智鶴は政界入りを目指す運輸会社の御曹司に嫁ぎ、次女珠生はヤクザの姐となり、三女早苗は金貸しの次男を養子にして実家を継ぐことになっている。昭和四十一年の国政選挙で、智鶴の夫・大旗善司は道東の票をまとめ当選を果たした。選挙戦を支えたのは、次女・珠生の夫で相羽組組長の相羽重之が国境の海でかき集めた汚れ金だった。珠生は、大旗当選の裏で流された血のために、海峡の鬼となることを誓う。



【編集担当からのおすすめ情報】
桜木版『ゴッドファーザー』であり、
桜木版『極道の妻たち』であり、
桜木版『宋家の三姉妹』!
2015年11月7日(土)映画公開の
『起終点駅(ターミナル)』(小学館文庫)と合わせて、
大々的に宣伝展開予定です!

感想・レビュー・書評

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  • 波乱万丈の物語とはこれだ。紆余曲折の生き方は珠生のことだ。妾に子供がいた事の衝撃はひしひしと感じた。
    相羽が殺された真相とあのあとの続きが知りたい。最後は本当に霧につつまれてしまった。ぜひとも続編を書いてほしいです。STORYBOX連載時に読みました。

  • 「今日から海峡の鬼になる」帯にも書かれていたせりふですが本文で、物語の中でその言葉に出会ったとき、ぞわりと震えが来ました。いやもう、主人公にこのせりふを言わせたいがために書かれてきたような話だよ、と思いましたね。

    こう言っては何ですが、もう相羽さんは出てきたときから「この人死ぬな」という空気が出まくってます。もう夫婦になった辺りから何か起きるよという空気がずーっと通奏低音のように流れています。
    舞台設定や人物の背景設定がもう「何か起きないわけがない」ですもの。

    近代日本の文学の中で「土地」に纏わる物語は、日本の中ではあらかた書きつくされたと言われ、後は書けるとしたら「北海道と沖縄だ」それと「失われた土地である」と言われてきました。
    文体や物語自体は目新しくは感じられなかったとしても、桜木さんは本作で自身大きなチャレンジをされたのだと感じます。その意味では北方領土の話自体はちょっと惜しかったというかもったいなかったように感じました。そちらの方の話ももう少し描いて欲しかった。
    まぁ、でもそれだと本筋から外れてしまうのかもしれませんね。そしてこの物語を書くには昭和中期でなければならなかった。
    これまでの作品とは一味二味違う読み応えを感じました。

    最後にちょっと下世話な感想。たくさん出て来る着物の描写が素敵。
    そしてやっぱりこういうタイプの男が書いていて楽しいのね、と思ってしまいました。や、悪だけどいい男は読んでいても楽しいです。実際だったら大変だけど。
    男と女はいつの時代もほれたモン負けですね。

  • 最近、桜木さんの本、よく読んでるなぁ…

    王様のブランチで紹介されていたので、メモしていたところ、日本人会図書館で発見!
    早速、借りてきました。

    帯に書かれていたのは
    桜木版『ゴッドファーザー』であり
    桜木版『極道の妻たち』であり
    桜木版『宋家の三姉妹』!
    これだけで興味津々!

    昭和30年代の北海道根室が舞台。
    地元の名士、河之辺家の三姉妹。
    その次女珠生は家を嫌い、花街で生きる。
    珠生が恋に落ちた相手は羽場組組長。
    姉の知鶴、妹の早苗、三人三様に家や夫に翻弄され…

    桜木さんの作品で描かれる女性はどこか哀しい。
    でも、とても強い。
    その哀しさに胸が締め付けられることもあり
    その強さに惹きつけられるのだが…
    この本に登場する女性たちには感情移入できなかった。
    読み進むにつれ、どんどん気持ちが離れていった感すらあったかな…

  • こんな姉妹いるのだろか?仲が悪かった訳でもなさそうだし。最初の方は、なかなか読み進まなかった。途中から面白くなったが、これで終わりって感じ。そこまでは予想がついたが、そこからタマキがどう復讐するのかなと思いながら読んだから、少し残念だ。

  • *国境の街・北海道根室。有力者の娘・珠生が恋に落ちたのは、北の海の汚れ仕事を牛耳る相羽組の組長だったー*
    題名通り、終始霧の中にいるような物語。しかも、相当に濃い。昭和30~40年代が舞台なので、よくも悪くも古めかしく、どの登場人物にも共感出来ず。私には合わなかったようだ。珠生の反撃まで描ききってもらえたら、もう少し違う読後感だったかと。ただし、圧倒されるほどの筆力は健在。

  •  この作家に出会って良かった、と思えるのはこういう作品を読める幸せをつくづく感じるからだ。読書の歓び、ということを思うときに、いつも、凡人には書けない熟達の文章による、個性的な世界構築がなされた独自な物語、といったところにぼくの希いは着地する。それらをしっかりと満たしてくれる作家は、実は海外には多いけれど、日本国内にはさほどいない。たまにいたとしても優れた作品の歓びを毎作提供してくれる作家はさほど多くはないように思う。

     日本の文芸は優れたものであったのに、それが大衆小説になった途端読みやすいが、その品格は失われていったのだと思う。無論その壁を突破し異彩を放ってくれる娯楽作家はいないわけではない。しかしその数は圧倒的に少なく、物語は漫画化し、劇画化し、お手軽な通勤通学小説といったものに堕している傾向があり、目の前の売り上げを求める出版社の矜持ももはや絶滅危惧種ほどに見つけることができない。

     そんな文学世相だからこそ、このような作家の出現に救いを見出すことができるのである。文章力という一点のみ取り上げると、花村萬月、高村薫以来の逸材ではなかろうか。さほどに文章の力、表現技巧といったもので読み進む作品をものする力に現代には廃れた傾向のあるプロフェッショナリズムをしっかりと感じさせてくれる。希少な作家の作品はこれからも遅まきながら読み続けてゆきたい。

     本書は、戦後から昭和30年代の終わりにかけての、北方の街・根室を舞台にしたノワールである。主人公は地元名士の家に生まれた三姉妹の次女でありながら、自ら家風に背き花街に働いた挙句、あろうことか裏社会を率いる男の妻となり、北方領土を目の前にした根室の緊迫した政治経済に深く関わってゆくことになる骨太の物語である。

     『極道の妻たち』など一連の宮尾登美子作品を想起させるかもしれないが、土佐の女を主として描いた宮尾作品に対し、国境の街根室に材を取った本書は、いつもながらの桜木道東ワールドの延長として全く別のものとして捉えた方が良いと思う。やくざ映画に加工できないこともないとは思うが、本書は文章こそが命であり、表現力(ストーリーテリング)こそが読みどころである。

     桜木紫乃という作家は、小説の眼のつけどころが常々変わっているなあと思うのだが、本書は根室という半島地形、北方領土、漁業権、戦後復興の時代性など、常々真向ストレート勝負でその暗黒部分や、その舞台裏の女たちの生きざまを肝を据えて記した正統派ドラマである。国後島生活者たちの戦前戦後を語る部分は『凍原』の樺太引揚者の描写と共鳴する。作家が眼を向ける北方の戦後史が生み出す暗黒劇の鬼気迫る迫力を是非味わって頂きたい。

  • 本当に物悲しさの中に女のしたたかさをこめるのがうまい桜木さん。
    男に翻弄されているようでラスト意志を持って生きてく姿が描かれているので絶対女性の底力で何事にも負けないと感じます。

  • 昭和30年代の北海道根室を舞台に、海運業を取り仕切る組長の妻である女性を描いた作品。連作短編集の得意な作者だが、長編となるとさらに圧倒的な筆力を発揮し、底力に唸らされる。

    惚れ込んだ男のために自分の感情を押し殺し、与えられた役割に徹する主人公。男の行く末も、身勝手な振る舞いも、冒頭のシーンからすでに想像はつく。でも、どれほど苦しい思いをしようとも、厄介な男についていくことを止めようとはしない彼女の真っ直ぐな生きざまは、息苦しいほど哀しい。
    泣き叫んでもいいのに、一度でいいから感情を爆発させてほしかった、とも思う。

    任侠ものとメロドラマ、一歩間違えれば安っぽい世界に転がりそうな設定にもかかわらず、紙一重で奥行きのある、胸に響く作品に仕上がっている。
    大人のための小説だと感じた。
    ひとつだけ、表紙の絵は演歌っぽくて、ちょっと残念。

  • 哀しいお話でした
    桜木さんらしく、暗く流れるような文章が
    懐かしいような、息苦しいような気持ちになり
    それでも、力強く本の世界に引き込んでいく
    音楽を聴いているような読書時間
    物語の後の珠生が、力強く生きていってほしいと
    心から願ってしまいました
    いい本でした

  • 寒さも和らいできたような…w

    ってな事で桜木紫乃の『霧 ウラル』

    いや~良作♪

    女の心情、姉妹の軋轢、姐さんとして男に仕える反面女の意地と弱さ…。 ⁡
    ⁡⁡
    ⁡等々、男と女、家と会社、政治と地域、表と裏は正に霧の中の様に見えたり見えなかったり、さ迷ったり……。 ⁡
    ⁡⁡
    ⁡女版、仁義なき戦いと言うか、読み終えるが寂しくなる感じじゃったw

    もっと読みたい、映画になっても良いんじゃろなぁ♪

    2016年7冊目

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著者プロフィール

一九六五年釧路市生まれ。
裁判所職員を経て、二〇〇二年『雪虫』で第82回オール読物新人賞受賞。
著書に『風葬』(文藝春秋)、『氷平原』(文藝春秋)、『凍原』(小学館)、『恋肌』(角川書店)がある。

「2010年 『北の作家 書下ろしアンソロジーvol.2 utage・宴』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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