希望荘

著者 :
  • 小学館
3.80
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本棚登録 : 1968
レビュー : 315
  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093864435

作品紹介・あらすじ

探偵・杉村三郎シリーズ、待望の第4弾!

その部屋には、絶望が住んでいた――。
宮部ファン待望の14か月ぶりの現代ミステリー。特に人気の「杉村三郎シリーズ」の第4弾です。
本作品は、前作『ペテロの葬列』で、妻の不倫が原因で離婚をし、義父が経営する今多コンツェルンの仕事をも失った杉村三郎の「その後」を描きます。
失意の杉村は私立探偵としていく決意をし、探偵事務所を開業。ある日、亡き父・武藤寛二が生前に残した「昔、人を殺した」という告白の真偽を調査してほしいという依頼が舞い込む。依頼人の相沢幸司によれば、父は母の不倫による離婚後、息子と再会するまで30年の空白があった。果たして、武藤は人殺しだったのか。35年前の殺人事件の関係者を調べていくと、昨年に起きた女性殺人事件を解決するカギが……!?(表題作「希望荘」)
表題作の他に、「聖域」「砂男」「二重身(ドッペルゲンガー)」の4編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 杉村三郎シリーズ第4弾!

    家族と仕事を失った杉村三郎は、東京で私立探偵事務所を開業する。
    ある日、亡き父・武藤寛二が生前に残した「昔、人を殺した」という告白の真偽を
    調査してほしいという依頼が舞い込む。
    依頼人の相沢浩司にによれば、父は母の不倫による離婚後、息子と再会するまで
    30年の空白があった。果たして、武藤は人殺しだったのか。
    35年前の殺人事件の関係を調べていくと、昨年発生した女性殺人事件を
    解決するカギが隠されていたー。「希望荘」より

    杉村が4つの事件の謎を解く連作短編集。
    ・聖域
    ・希望荘
    ・砂男
    ・二重身
    460頁という結構ボリュームのある本書に4つの短編。
    一話一話がとても丁寧に描かれていて読み応えがあった。
    本作は、前作「ペテロの葬列」で、妻の不倫が原因で離婚。
    義父が経営する今多コンツェルンの仕事を失った杉村の「その後」を描いている。
    杉村ファンの私は、あの結末にショックを受けその後どうなるんだろう…って心配してた。
    だからその後を知る事が出来たのは凄く嬉しかった♪
    冒頭は、東京の北区の築四十年の完全〝しもたや〟で杉村探偵事務所を開いていた。
    途中の事件では、離婚直後は山梨の実家に戻って半年位働いてたんだってわかる。
    そこで事件…謎…に巻き込まれてそれがきっかけで東京で探偵事務所を開く
    決意をしている事も明かされている。

    杉村の相変わらず穏やかで優しく、気弱にも感じられる雰囲気。
    鋭い洞察力に心の芯に温かさや大きな優しさを抱いてる姿やっぱり素敵です
    そして、下町の温かい人情溢れる人々に囲まれている。
    大家の竹中夫人。睡蓮のマスターの水田さんまで…(笑)
    そして、力強い味方「オフィス蛎殻」の社長さん。
    竹中夫人の三男のトニー
    これから助手として活躍するのかなぁ…次作は長編が良いなぁ。

    全てのお話が、う~んあまり幸せは言い難い人々が事件を起こしてしまう。
    何とも救いのないお話ばかりで、切ないのに読む手が止まらなかった。
    宮部さんの筆力によってかなぁ…決して読後感は悪くなかった。
    とっても不思議です。
    人生は全く平等ではないという事を改めて突き付けられた気がしました。
    人は自分の人生を生きるしかないのですよね。

  • 中編4編の作品です。逆玉に乗ったものの離婚の憂き目を味わい、バツイチ 無職 唯一7歳になった娘とのたまの面会が楽しみな38歳の杉村三郎の話。当たり外れがあったけど、タイトルになっている'希望荘'が良かったかな。戸籍売買の話'砂男'は先日読んだばかりの'ある男'(平野啓一郎)を連想させられたけど、作者は意図しなくとも題材がバッティングすることがあるのだ と再確認しました♪

  • ペテロに続いて読んだ杉村三郎シリーズ第4弾。いろいろあって探偵稼業を始めた杉村三郎の事件中短編集。出てくる周りの人間がおもしろい。前からのつながりの睡蓮のマスター。杉村三郎の大家一家の面々。私立探偵になるきっかけとなった蠣殻所長。
    特に印象に残ったのが「砂男」の中の失踪した夫。生れながら(か実際分からないけれど)の悪人よりも悪人に取り憑かれてしまった男。罪を犯したのには変わらないけれど、悪人は罪を犯そうが人を傷つけようが何も変わらないのに対して、取り憑かれてしまった方は自身の罪に耐えかねてしまう…その人と人でなしの境界線というものを興味深く感じた。

  • 杉村三郎シリーズ、4冊目。
    短編連作というか、中編連作というか。
    離婚の衝撃の、その後、を描いています。

    社誌の編集をしていた杉村は、時おり巻き込まれて調査のような仕事もしていました。
    財閥令嬢の妻と離婚して職も失い、今は私立探偵になっています。

    「聖域」
    亡くなったはずの女性が目撃された事件。幽霊なのか?
    杉村が調べていくと、じつは‥
    娘を訪ねてアパートに行くと、そこにいたのは?
    頼りなげな杉村だが、既にご近所さんに親しげにされ、かっての勤め先で常連だった喫茶店のマスターまで近くに店を出しているという。
    あたたかな環境にほっこり。

    「希望荘」
    息子からの依頼で、老人ホームで亡くなった父親が生前、殺人をしたかのような告白をしていたという。
    本当なのか‥?
    起きていたことを淡々と順々に調べていく杉村。
    希望という名は皮肉なのか、何なのか‥

    「砂男」
    離婚後、一度故郷の山梨に帰っていた杉村。
    もともと結婚には反対されていて、口の悪い母親には当たられるのが強烈‥でも、こういう人はいる気もします。
    周りは仕事口を探してくれて。
    行方不明になった人物の謎を解いたことから、蛎殻という名士に見込まれ、調査員になるよう勧められることに。

    「二重身(ドッペルゲンガー)」
    古い建物にあった杉村の事務所は震災で倒れ、広い屋敷に間借りしています。
    家の様子をうかがっていた黒ずくめの少女は?
    東日本大震災が起きてから、行方がわからないという男性がいた‥

    基本は現実味のある設定ですが、普通は起こらない、思いもよらない展開になるのが、さすが宮部さん。
    日常の中に潜む悪意というか、最初は悪人というほどではなかったとしても、状況に応じてやることがだんだん‥
    何考えてるんだかという人物がいろいろ登場します。
    人間は勝手な思惑でぶつかり合うものなんだねー、と。

    大人しく真面目でのほほんとしているようで~実は結構変わり者かもしれない杉村。
    杉村の味方がだんだん増えていく のが、救いとなっていますね。

  • ずっと積ん読状態だったのをやっと読了。
    どうしても、杉村さんを小泉孝太郎にあてて読んでしまう。

    宮部さんは、毎日淡々と生きる市井の人が、身の丈に合った幸せを感じる瞬間を描くのが本当に上手い。
    そしてそんなささやかな幸せを感じることすら許されない人を描くことも。
    どんな境遇で育とうが、どんな病気や経験をしようが、他人を傷つける理由にならないことは自明。
    でも、その後ろに透けて見える、その人をそこまで追い詰めたものについて、自己責任だと片付けてもいいのか。
    この本の主題からはそれているかもしれないけれど、そんなことを感じながら読んだ。

  • 杉村さんのシリーズ4作目
    ところどころに前作のことや別れた娘のことが出てきたりするので
    シリーズの最初から読んだ方がいいのかも
    探偵になって慎ましく生活しながら色々な人々の相談ごとを解決して行く姿
    それと人間の怖さ
    弱さなどよく描写していると思う

  • 杉村シリーズ第4弾。これまでの長編に対して中短編集になっており、杉村さんの立場が変わったことで、事件への関わり方や内容も変化している。一貫しているのは、事件の背景にある悪意がちょっとした心情のもたらすものであったりするところだと思う。その辺りが事件の内容がわかった後に、そっと出てきたりして、またそれをスッキリさせるまでにはいかないという感じがシリーズ共通の味わいと思う。
    事件が市井の人においたことで、貧困やいじめ、精神世界などが背景に見え隠れし、最後のドッペルゲンガーでは、東日本大震災も端々に影響してきている。
    解決してもスッキリしない感じが特徴と思っているのだが、今回はそうでもなく、個人的には、前のなんかいたたまれない感じもよかったとコロがある。

  • 今年最初の作品。ゆっくり読ませていただきました。杉村さんは、私立探偵事務所を開き様々な事件と関わるようになっていきます。探偵なので、関わり方に限界はあるものの、彼の人となりがにじみ出ていてホッコリしたり、切なくなったり... どの事件もそれぞれに良かったです

  • 杉村三郎シリーズの最新刊。
    離婚して独り身となった三郎は、紆余曲折を経て探偵事務所を始める。
    新たな人生を歩み始めた三郎の短編連作集。
    死んだはずのお婆さんが目撃される。幽霊なのか? はたまた何か事情があるのか? 三郎が丹念に事実を辿って行く中見つかることとはーー「聖域」。
    「昔、人を殺したことがある」そう告白して死んでいった父。苦労を重ねて来た父。そんなことがあったとは信じ難い息子からの依頼ーー「希望荘」。
    離婚後、山梨の実家に帰っていた三郎。探偵事務所を開設するきっかけになったエピソードーー「砂男」。
    東日本大震災から二ヶ月。三郎が借りていた築四十三年の事務所兼自宅は使い物にならなくなってしまう。新しく間借りした狭い事務所に、全身黒ずくめの少女がやって来る。「希望荘」の依頼人の息子の友達の友達だという。母の交際相手が震災の直前から東北に旅に出てしまい、行方不明なのだとーー「二重身」。

    ところどころに描かれる三郎と、小学四年生になった娘・桃子との交流が切ない。
    「娘とつないだ手を離すとき、私はいつも、自分のなかで何かが剥がれるのを感じる。それはたぶん、傷がふさがってできたかさぶただろう。そしてまた少し血が流れる」

    現代を深く切り取る、宮部みゆきの真骨頂。

  • 杉村三郎シリーズ4作目。

    「聖域」
    「希望荘」
    「砂男」
    「二重身」

    ペテロの最後、私はちょっとほっとしたんです。三郎のお母さんみたいな強烈な感情はもちろんないし、菜穂子の事は嫌いじゃない。ペテロで起こったことも、どうしても世間一般的な不倫と同じように思えない…。そして桃子もかわいい。でも、どうしてもこの夫婦を見てるのが辛かった。傷だらけになったけど、これでようやく2人の手元に自分の人生が戻ってくるのだと思ったから。


    そして、待望の続編。
    2009年1月のあの結末から2011年の震災後まで、4つの事件を追いながら、彼がどのように過ごしてきたのか少しずつわかってきます。
    菜穂子は再婚はしていないみたい。桃子とは離れながらも温かい交流が続いてる様子。

    園田編集長が好きだったので、彼女がいないのは残念だけど、親族との親交がまた始まり(なかなか毒舌揃い…)、睡蓮改め侘助のマスターとなった彼(思い浮かぶのは、完全に本田博太郎さん)が何故か側にいて、竹中夫人という心強い人に目をかけられ…、坊ちゃんに探偵としての腕を見込まれる。

    これから、どんな人と出会うのか…。


    事件や犯人そのものよりも、他の登場人物の毒気にあてられるところに、ああ、杉村三郎シリーズだなぁ、戻ってきたーと感じ入りました。

  • 長いこと図書館で予約をしていてようやく届き読了。

    ペテロの葬列は正直序盤が長く話が盛り上がるまで遅く感じ読み終わるまでに時間がかかったけれど、これは連作短編ということもありテンポよく読めた。一つ一つの作品の長さがちょうどいい。

    前作のラストは衝撃的過ぎ、感情移入して読む私としては菜穂子に対してとても強い嫌悪感を抱いたのだけれど、この作品では三郎の家族に強い怒りと嫌悪感を抱いた。
    社会を知らないあまちゃんと言われようが、あの家族の態度には理解できないし共感できない。何かもっと接し方あるんじゃないの?と思ってしまう。
    それが人間らしいといえばらしいのかもしれないけれど、私はどうにも好きになれない。
    兄嫁はとくに。でもいるよなこういう人、とも思う。
    そこがやたらにリアルで多分私の琴線に触れるのだろう。

    事件としては帯にあったような「絶望」とまでのものは感じなかった。
    短編だからかそこまで難航することなく事件が解決して行くのでミステリとしては弱い印象。
    ただ三郎のお人好しキャラというか、人情み溢れるキャラクターはとても好きなのでやっぱり読んで良かったなぁと思う。

    事件を引き寄せてしまう、とそこそこ悲観しているように見えるが探偵ならむしろ喜んで追いかけて行くほどの強さを持ってもらいたい。
    人の生死や、心の歪みなどに素直に反応する三郎だからこその弱さなのだろうが。

  • 杉村三郎シリーズ。離婚し、義父の会社を辞め、探偵事務所を開業。場所は大地主竹中家の賃貸物件。ついでに前の会社の1階にあった喫茶店「睡蓮」のマスターも近くに引っ越し開店するという。好きな登場人物だったのでうれしい。連作短編で、1話1話は短いものの、やっぱり宮部作品は重いことや怖いことも書き込まれているなと思った。でも主人公杉村三郎は離婚でうじうじしていないし、毎回思うけど、重い事件に遭遇しても結構淡々としているところが読みやすい。

  • 杉村三郎シリーズ。
    衝撃の離婚からのその後のおはなしが4つ。

    いきなり私立探偵事務所なんて始めてるので、あれ?こんな流れあった?となるけど、そのあたりのいきさつは3話目で明らかになります。
    調査会社の下請けをしつつ、警察には相手にされないような気がかりや人探しの相談事を請け負ううちに潜んでいた闇を明らかにしてしまう、というようなおはなしでした。

    ちょっとぞくりするような、そして露わになる感情は分かりたくないけど分かってしまうような人間の嫌な部分をついてくる。
    登場人物が結局みんないい人みたいな話よりは読みごたえがあるけど、ほんとやりきれなくて切なくなっちゃうよね。
    今日は折しも東日本大震災から5年半とニュースでもやっていたけど、あの直後の津波の恐怖やら原発事故の混乱やら作中にも登場して、なんか自分のなかでの風化具合に凄いいたたまれないし情けない。

    まあそれでも、杉村さんがそれなりに前向きに頑張ってるのが良かったな。娘さんとも仲良くやってるみたいで安心した。

  • 杉村三郎シリーズ第4弾。タイトル作のほか、「聖域」「砂男」「二重身」の4編。
    杉村がいよいよ私立探偵になる過程と、探偵としてかかわっていく事件。
    相手の発言の単語の使い方で事情を察するような鋭さも感じられるようになり、それぞれの事件の謎解きというか事情が分かるプロセスはなるほどと納得できた。
    19-91

  • 宮部みゆきの『希望荘』は『ペテロの葬列』の後日談というか、続きの物語であの杉村三郎シリーズだ。『ペテロの葬列』以降多少唐突感はありながらもようやく探偵業に踏み出した杉村三郎の処々対応集。

    丁寧な物語展開と、真面目で控えめ、裏ではいろいろ考えている杉村三郎の物腰で逆に盛り上がりにかける展開。そう、そう考えると犯人はここのなるのだ、杉村はあのときに気づいていたが、といった展開は結末を思い描いている作者のみが知る展開。

    ペテロの葬列では最後の展開以外は複雑で伏線の多い物語に感服したが、いざ杉村三郎として本業になるとなんというか、当然感が高まってしまうというか...

    確かに全体的に、あーああいう人が犯人という、あり得なさそうだけどやっぱりあるよね的な展開が続く作品でした。

  • 三島屋変調百物語シリーズの手を休め、
    何気なしに借りたこの本を先に読む。
    宮部みゆき氏の大ファンというわけではなく
    思いついたら読んでみる程度なので、
    読了してから、この『希望荘』が
    「杉村三郎シリーズ」の第4弾だと知る。
    宮部みゆき氏の作品群を読み砕いてないが、
    氏が描かれる作品の中に流れていて感じることは
    主人公や主人公を取り巻く人々の
    温かくて優しい心持ちだ。
    卑しい心の持ち主が出てきても、
    見つめ返す眼差しは常に穏やかなような。
    嫌な気持ちになる物語を読んでいても、救われる。

  • 杉村三郎が主人公なので、以前ドラマでその役を演じた俳優の表情や喋り方で脳内再生されていたが、悪くなかった。
    あのドラマで彼は適役だったと思う。

    本作では、(前作で私が思った通り)杉村三郎は探偵になっていた。
    優しく、鋭い、良い探偵になっていた。

    シリーズ3作目だと思っていたら、4作目らしい。
    自分の本棚に「誰か somebody」の記録が無いので、読んでいないのかもしれない。

  • やっと杉村さんに再会した。​「ソロモンの偽証6」​のスピンオフで状況は理解していたけど、杉村さんのホントの人生はこちらの本篇にある。犯罪を未然に防ぐために探偵になった杉村さん。杉村さんに幸せは来るのだろうか?短編集だから一編づつ感想を書いて行ったが、既読の人は「二重身」から読んで欲しい。

    「聖域」
    杉村さんの探偵事務所としての、開業して1年後の初めての依頼報酬は、手つき金5000円と町内会掃除当番一年間の「代行」だった。全くもってささやかな幸せである。けれどもそれが大切なのだ。ベルにとっても、杉村さんの心使いが現実社会を生きていく上でもとても大切なことになるだろう。

    「希望荘」
    犯罪は起きた。杉村さんはそのあとに関わったのだから、杉村さんに責任はないだろう。でも、数人の「心持」を穏やかにすることは出来た。

    「砂男」
    離婚から杉村探偵事務所に落ち着くまでの約1年間のお話。

    蛎殻さんの坊ちゃんは笑わなかった。
    「今回のことは、杉村さんのせいじゃありませんよ。でも、そう思ってしまう気持ちはわかります」
    そして、にっこりした。
    「だったら逃げないで、その呪いとやら(私註‥‥事件を招き寄せる体質のこと)に立ち向かってみたらどうですか」
    驚いて、私は彼を見た。
    「うちで働きませんか、とは言いません」
    にっこりしても、昴氏はやっぱり落ち着き払っている。
    「杉村さんはうちみたいなオフィスの調査員より、フリーで動く私立探偵の方がいいと思います。生活が成り立つように、毎月うちからある程度の仕事を回しますし、サポートもしますから、独立開業したらいい」(323p)

    こうして、心優しい私立探偵が誕生した。シリーズが始まって、なんと4作目にして、である。

    「二重身」
    私は一編一編の短編がそれぞれ独立したものだと思っていた。これを読んだ後に、巻末の初出一覧を見て驚いた。宮部みゆきは、3.11を自ら(おそらく)東京で体験した後、それを3年以上かけて自分の中で咀嚼消化して現代推理小説の杉村三郎シリーズに結実したのだ。初出は2014年12月だった。最初から着地点は決まっている。道理で、全編に日にちがきちんと描かれていると思った。また3.11は、彼女によってもうひとつ​「荒神」​として時代小説にもなった。

    「二重身」には前の3編の全ての要素が取り入れられている。生きているのか、死んでいるのか、わからない人の人探し(cf「聖域」)から始まり、「希望荘」の武藤老人が云っていた「悪いもんに取り憑かれた男がやったんだよ。そういうことはあるんだよ」(96p)という事も、この短編では繰り返される。そして「砂男」も登場する。「人が崩壊する瞬間というのは、さらに目撃したいものではない。瞬間、彼が砂でできた像になったように思えた。端からぽろぽろと崩れ、人としての輪郭を失ってゆく」(455p)サンドマンとは意味は違うが、こういう描写は前編とは無関係ではない。杉村さんにできたのは、せめて事件の周りの人々を少し癒してあげただけだ。そしてそれが何よりもむつかしいことではある。

    確かに、3.11に対する宮部みゆきの語る物語は、物事の大きさからするとあまりにも身近な出来事を描いているかもしれない。しかし、日本文学の1300年間の伝統は、身近な事から世界を描くというものだったはずである。

  • 原発事故への東京の人々の反応が無神経に思えたが、これは宮部さんが無神経という訳でなく、当時の東京人の反応をありのままに描写しただけだろう。東北の有様を直接描かなかったのが良心と思える。他者になりすまして生きるとか、『火車』の時の知識が生きている。

  • 前作で衝撃的な展開を迎えた杉村三郎氏のシリーズ最新作をようやく読みました。
    シリーズにあるていど共通していると思うのですが、「ほんとはそんなに悪い人ではないのだけれどやむを得ず」罪を犯す人々の姿がやはり痛々しく、杉村氏自身の事情もあいまって、哀愁、やりきれなさ、を本作でも強く感じたのでした。

    「希望荘」しかり「砂男」「二重身」ああ、どれもか…、描かれる登場人物(ほぼ)みんなが等身大で、だからちっぽけで感情に揺れ動きエゴに突き動かされ、どうしようもない結果を招くこともあり…、ひりひりしてかなしい、そう感じてやみませんでした。

    シリーズが続くことはうれしいのですが、杉村氏がどんどん「事件を招く体質」に追い込まれていきそうであり、これからが心配になってしまうのでした。

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著者プロフィール

宮部 みゆき(みやべ みゆき)
1960年、東京都生まれ。1987年に「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、1999年には『理由』で直木賞、2002年『模倣犯』で司馬遼太郎賞、2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞など、数々の文学賞を受賞。大沢オフィス所属。日本推理作家協会会員。日本SF作家クラブ会員。直木賞、日本SF大賞、小説すばる新人賞、河合隼雄物語賞など多くの文学賞で選考委員を務める。『模倣犯』や『ブレイブ・ストーリー』など、多くの作品がドラマ化や映画化などメディア・ミックスされており、日本を代表するエンターテインメント作家として人気を博している。2019年7月10日『さよならの儀式』を刊行。

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