- Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093864503
作品紹介・あらすじ
シンジツ一人ハ堪ヘガタシ。
二人デ居タレドマダ淋シ、
一人ニナツタラナホ淋シ、
シンジツ二人ハ遣瀬ナシ、
シンジツ一人ハ堪ヘガタシ。
(北原白秋「他ト我」より)
北海道釧路市の千代ノ浦海岸で男性の他殺死体が発見された。被害者は札幌市の元タクシー乗務員滝川信夫、八十歳。北海道警釧路方面本部刑事第一課の大門真由は、滝川の自宅で北原白秋の詩集『白金之独楽』を発見する。滝川は青森市出身。八戸市の歓楽街で働いた後、札幌に移住した。生涯独身で、身寄りもなかったという。真由は、最後の最後に「ひとり」が苦しく心細くなった滝川の縋ろうとした縁を、わずかな糸から紐解いてゆく。
北海道警釧路方面本部。新たな刑事の名は、大門真由。
【編集担当からのおすすめ情報】
ロングセラー文庫『凍原 北海道警釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂』以来となる、北海道警釧路方面本部の女性刑事を主人公とした長編ミステリ-!
感想・レビュー・書評
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この小説は、ミステリーや刑事小説ではなく、運命に翻弄された女性達の生き様を描いた作品だと最初から思って読んだ方がいい。ミステリーにしては伏線の描き方や事件の描写が抽象的だったり観念的だったりするので戸惑う。犯人の動機については、そこに至るまでの感情描写が丁寧なので、そう言う動機もあるのだろうと納得出来た。
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北海道警釧路方面本部の女性刑事を主人公とした長編ミステリー。
主人公大門真由刑事の上司の刑事巡査部長松崎比呂が『凍原』のヒロインだったような。
『凍原』の姉妹編、シリーズになるの?
大門真由は両親とも警察官だったが、わけありの生い立ち。そんな彼女が波けしブロックで発見された死体、老人被害者の捜査に取り組む。二人組の捜査の相手、片桐周平警部補のキャラクターに絡んでいくところは「お決まりのような」気もするし、また、ところどころ何処かで出会ったようなストーリー、例えば松本清張の『砂の器』の雰囲気を思い出してしまう。でも、ヒロインの内面を鋭く描くところは断然清張より勝ってると思う。それは外面から引き出す「孤独感」よりも内面から滲み出る「孤独感」を克明に描いているからではないか。やはり物語が進むうちにだんだんと引き込まれてくるのは桜木さんの骨頂。
物語の背景にもなっている扉の北原白秋の詩がいい。
「シンジツ一人ハ堪ヘガタシ。」
二人デ居タレドマダ淋シ、
一人ニナツタラナホ淋シ、
シンジツ二人ハ遣瀬ナシ、
シンジツ一人ハ堪ヘガタシ。
(北原白秋「他ト我」より) -
情景、心情の描写が丁寧で、やっぱり桜木紫乃さん好きだなぁと実感。人の心は奥深いなと、改めて感じます。
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主人公の女性刑事が抱えているわだかまりが 殺人事件を追ううちに、被疑者らしき人々には更に色濃いわだかまりを抱えていることに気付いて行く。彼女とコンビとなった父親くらいの先輩刑事がいい味わいです♪ 貧しさゆえに幼なくして望ましくない道を歩かされた姉妹のそれぞれの性格の違いもうまく描かれていて、人間模様の機微が骨格になっており一味違う刑事物に仕上がっています。面白く読める秀作だと思いました。
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釧路の海岸で、高齢男性の死体が発見される。父親も警察官だった大門真由は、片桐警部補と共に捜査に当たる。被害者は札幌市に住んでいたが、交友関係などがつかめず、釧路に来た理由さえ不明。
彼は誰に、何故殺されたのか。
ミステリー仕立てではあるが、被害者、そして関わった人たちがどのように生きてきたのかを語る人間模様物語といった感じ。言葉の使い方がうまいというか、美しいというか、素晴らしかった。家族とは何か、絆とは何かを考えさせられる作品。
真由、片桐、松崎とキャラがたっていてよかった。 -
11月に柴咲コウ主演でドラマ化されるとのことで、本屋でも力を入れている感じだったので、読んでみた。北海道の釧路署で働く大門真由は海岸で遺体で見つかった男性の捜査に乗り出すが…出だしは、警察もの、って思ったけど、内容はこの作家さんならではの人間と人間の絆に重点が置かれ、警察ものより人間ドラマとしての方がフィットする感じがする。引用が多々出てくる北原白秋の「他ト我」もとても作品に合っている。そして、すごく心に残る詩だった。二人デ居タレドマダ淋シ、一人ニナツタラナホ淋シ、シンジツ二人ハ遣瀬ナシ、シンジツ 一人ハ堪ヘガタシ。
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桜木紫乃の警察ミステリに新たなるヒロイン登場!
大門真由。まず名前がいいですね。「大門」カッコいいです。一定の年齢以上だと思い出すでしょう、あのど派手な警察ドラマ。あ、いや、関係ないですね、今回は。
でもこの女性刑事。深いです。自らの出自と家族、そして父親にこだわりを持ちつつ、その父親と同じ道を選ぶ、その芯の強さが桜木作品のどの女性にも共通するところでしょう。
自分が養女であること、両親と半分しか血がつながっていないこと、そしてそこにあったであろう両親の葛藤を消化できないまま、同じように「もらわれていった姉妹」と殺人事件を追う仕事とのあやうさを父の同僚であった片桐がうまくフォローしていく。このコンビ、いいですね。続きが読みたくなります。幼い娘を「手放す」ということ。そこにある理由や感情はもしかすると当人たちにとっては周りが思うほど重いモノではないのかもしれない。「過去」となってしまった実の親との関係よりも、守りたいもの。それは生きて来た年月のなかで少しずつ形作っていった砂の城のようなものなのかもしれない。壊れやすいからこそ守ろうとする思いが強くなる。切なさが幾重にも重なる。誰かを想う事、守る事、そして壊すこと、それが人の業なのかもしれない。 -
桜木さんの本はあんまり合わないなあ、と思っていたが、この本はなかなか良かった。そう厚い本でもないのに、主要人物の生い立ちや背景がしっかりと描かれていて、なおかつ、ミステリーも楽しめる。しかし、それぞれのストーリーが貧しさゆえに辛く、犯人を追いつめるのが苦しくなり、最後には、このままそっとしておいてあげて、と思ってしまうほどだった。読み終えた後、ずしりと胸にくる1冊。