- Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093864848
作品紹介・あらすじ
14歳スーパー中学生作家、待望のデビュー
田中花実は小学6年生。ビンボーな母子家庭だけれど、底抜けに明るいお母さんと、毎日大笑い、大食らいで過ごしている。そんな花実とお母さんを中心とした日常の大事件やささいな出来事を、時に可笑しく、時にはホロッと泣かせる筆致で描ききる。今までにないみずみずしい目線と鮮やかな感性で綴られた文章には、新鮮な驚きが。
友人とお父さんのほろ苦い交流を描く「いつかどこかで」、
お母さんの再婚劇に奔走する花実の姿が切ない「花も実もある」、
小学4年生時の初受賞作を大幅改稿した「Dランドは遠い」、
田中母娘らしい七五三の思い出を綴った「銀杏拾い」、
中学受験と、そこにまつわる現代の毒親を子供の目線でみずみずしく描ききった「さよなら、田中さん」。
全5編収録。
【編集担当からのおすすめ情報】
この秋、出版界の話題をさらう新人作家がデビューします。その名は、鈴木るりか。平成15年生まれの中学二年生。小学館が主催する「12歳の文学賞」史上初3年連続大賞受賞。その際、あさのあつこ氏、石田衣良氏、西原理恵子氏ら先生方から大絶賛を受けましたが、すごいのはその先です。受賞作をもとに、連作短編集に仕上げるため書き下ろし原稿を依頼したのですが、その進化がめざましく、3編の素晴らしい原稿が上がって来ました。
著者14歳の誕生日に、待望のデビュー作を刊行します。
是非、この新しい才能を感じてください。
感想・レビュー・書評
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”小説を書き出したのは、『12歳の文学賞』がきっかけだったのですか?”という質問に、
“書いたときは、9歳でした”
と答える鈴木るりかさん。
この世には若くして他者を圧倒するような力を発揮する人がいます。私はクラシック音楽が大好きです。その世界で言えばなんと言っても没後230年を経ても私たちを魅了し続ける数々の作品を遺したモーツァルトでしょう。3歳の頃にはチェンバロを弾き始め、5歳の時には260年後の今も演奏されるピアノ曲を作曲してもいます。これを天才と言わずしてなんと言えばいいのでしょうか。
この世には、モーツァルトのように若くして、生まれ持った才能を開花させる人がいます。それは、もちろんクラシック音楽の世界に限りません。スポーツの世界においても、学問の世界においても、ありとあらゆる分野において若き才能の発芽というものはありうるのだと思います。
さて、そんな若き、もしくは幼き才能の発芽を文学の世界に見せてくれる一人の小説家がいます。2022年に大学への進学も決定したその小説家。2003年に東京で生まれ、初めて書いた小説が”12歳の文学賞”を受賞したという華々しい経歴からスタートしたその小説家。そんな彼女は、14歳の誕生日に今まで書き溜めてきた小説を短編集として刊行しました。そう、その小説がこの作品。かつて受賞した2編の作品を大幅改稿し、3編を新たに書き下ろした5編の短編から構成されたこの作品は都内の中学二年生に在学中だった鈴木るりかさんがその才能を世に問うものでもありました。そう、それは、この作品を手にした読者が、この世に天才が確かにいることを目にする一人の小説家の衝撃のデビュー作です。
『お父さんがいなくて淋しいか、と聞かれることがある』が、『最初からいないの』で『そういうものだと思っているから答えに困る』というのは主人公の田中花実(たなか はなみ)。そんな花実の『お母さんは私の父親について詳しく教えてくれ』ず、『私が生まれる前に亡くなったとだけ聞かされてい』ます。『どうして仏壇がないの?お父さんの写真だって一枚もないし』と訊く花実に『焼けちゃったの、火事で』と答える母親を『こんな言い訳でごまかせるのは低学年のうちだけだ』と思う花実。そんな時、『人気俳優が微笑む炭酸飲料のさわやかなCM』が流れ『この人がお父さんかもしれないし』と言う母親に『アホらしい』と返す花実。そして、次に『空き巣を繰り返していた男が捕まった』というニュースが流れた時に『こっちのほうが近いんじゃないの?』と言うと『虚を突かれたような顔で固まって』しまった母親を見て『そういうことだったのか』、『父は犯罪者だったのか』と納得する花実。そして翌日学校に行くと、担任の木戸先生が『昨日、学校周辺に不審者が出ました… 正門のあたりをうろつき… 十分注意してください』と朝の会で説明するのを聞いて『もしかしたら、お父さんかも』、『もしかしたらお父さんが私に会いに来てくれたのでは?』と思う花実。さらに次の日、『昨日また学校近辺をうろつく不審者が出た』と再び注意喚起をする木戸先生に対して『どうしても一度会ってみたい気持ちになる』花実。そんな花実が下校時刻になり校門を出て歩き出すと『「すいません」と後ろで声がし』ました。『あなたは、北町小学校ですか?』と言うのは『面長で、くっきりした二重まぶた』の男性でした。『はい、六年生です』と答える花実に『実は、ある女の子を捜してて』と言う男に『私のお父さんなの?私を捜しに来てくれたの?』と思い『汗が吹き出る』花実。そして、男は写真を取り出し『早川優香って言うんだけど、この子のこと知っているかな?』と続けます。『隣のクラスの優香ちゃんだ… お父さんじゃなかった』と落胆する花実に、『優香ちゃんのお父さんなんだ… 小さい頃離婚して… 今度仕事で外国に行くことになったから、その前にどうしても会』いたいと理由を話すその男。しかし、『知らない人に、自分や友達の名前、学年などを聞かれても答えてはいけない』と先生に言われていたことを思い出した花実は戸惑います。一方で『これ、証拠の写真』とさらに違う写真を取り出した男の『目が赤く潤んでい』るのを見て『この人は噓をついていない』と感じ『早川優香ちゃん。クラブ活動が同じです』と答えた花実は『お父さんが会いたがっているってこと』を伝えて欲しいと言われ『わかりました。明日、優香ちゃんに、伝えておきます』と答えます。そして、翌日花実は『優香ちゃんのお父さんに会ったんだ』と本人に話をします。そして…というこの最初の短編〈いつかどこかで〉。読者を一気に作品世界に引き込む巧みな構成は、上手い!と思わず唸る結末へと読者を捉えて放しません。独特な作品世界をたった一つの短編で構築してみせる好編でした。
極めて強い個性を感じる母と娘が並ぶ表紙が、読む前から強いインパクトを与えるこの作品。五つの短編が連作短編の形式を取っています。そして、読者がさらに衝撃を受けるのが、この作品は作者の鈴木るりかさんが小学校四年から刊行時中学二年の間に書かれたということです。私は今までに女性作家さんの小説ばかり500数十冊を読んできましたが、当然ながらその全てが傑作であるはずがなく、ページを捲る手が止まらないという作品にそう簡単に出会うことはありません。それが、この作品では上記で冒頭をご紹介した〈いつかどこかで〉という最初の短編からして、えっ!と驚くほどにページを捲る手が止まらなくなっている自分に気付きました。読む前に情報として鈴木さんの年齢は知っており、レビューの幾つかにも目を通しましたが、その評価の高さに”眉唾物”という思いがあったのは事実です。それが、読み始めて早々に、まごうことなき素晴らしい作品だと気づき、一瞬足りとも”眉唾物”と思ってしまった自分を深く恥じました。
では、そんな五つの短編を簡単にご紹介しましょう。
・〈いつかどこかで〉: 『昨日、学校周辺に不審者が出ました』と注意喚起がなされる中、正門外で男に声をかけられた花実は、父親を名乗る男の希望に沿って友人の早川優香を引き合わせます。そんな男のまさかの正体が明らかになります。
・〈花も実もある〉: 『お母さんは工事現場で働いている』という花実の母親に『大家のおばさん』が『今五十六歳で五年前に奥さんを亡くして、子供はいない』という『スーパーカザマ』の社長との縁談を持ち込みます。そして、『こ、こんにちは』と母親と花実はお見合いに臨みます。
・〈Dランドは遠い〉: 友人二人が『ドリーミングランド』に行く話をしているのを聞いた花実は『行こうよ、三人で』と答えます。しかし、『取り返しのつかないことをしてしまった』、『遊園地に行くから、一万円欲しいだなんてとても言えない』と悩む花実はあることを思い付きます。
・〈銀杏拾い〉: 『毎年晩秋の候、私たち親子は銀杏拾いに勤しむ』と『我が家の食料事情の一端を』担う銀杏拾いをする花実と母親。そんな中、『同じクラスの真理恵ちゃん』と出会います。『七五三だよ』と着物を着た真理恵を『お姫様みたい』と羨む花実。そして母親は…。
・〈さよなら、田中さん〉: 『違うんだ、本当にそんなんじゃないんだ』と『着替え』を覗いたと疑われ、クラスの女子に取り囲まれて戸惑う三上信也視点の物語。そんな信也は田中花実に助けられ、その存在を意識し出します。そして中学受験を目指す信也の三月までの日々が描かれます。
五つの短編はいずれも主人公である小学生の花実、そして信也視点で描かれていますが、それを書く鈴木さんはまさしく小学生。そこには大人の作家が小学生の気持ちになって書く物語が偽物であると感じるほどに極めてリアルな小学生視点の、小学生の実在感を強く感じる物語が展開していきます。そんな中で面白いと思ったのが、まるで主人公の花実の生の声を聞くように感じられるこんな表現の登場です。
『お母さんがお昼、昨日の残り物を詰めた(白飯だけは多い)ドカベンを食べている時、私はレストランで美味しいものを食べ(デザートつきで)、お母さんが一生懸命働いている時に、遊園地で遊んでいたのだ(荒川遊々ランドだけど)』。
それが、この()を使った表現です。もちろん()の外側も花実視点で描かれた物語です。上記で抜き出した文章を()抜きで読んでも、まるで花実が語っているかのように感じる見事な文体です。しかし、そこに、この()書きが入ることによって、まるで花実が自分の語りに自分で突っ込みを入れているような雰囲気感が生まれ、物語はさらに活き活きとしたイメージを帯びてきます。それは、まるで読者に語りかけているようにも感じます。それが極まったのが次の銀杏の危険性を謳った表現です。
『銀杏は食べ過ぎると中毒になり、時には命に関わる危険性もあるそうだが、お母さんには耐性でもできているのか、かなり食べているが、今までにそんなことは起きていない(でもよい子のみんなは真似しないでね)』。
最後の()の表現。小学生の鈴木さんが『よい子のみんなは』と語るこの表現。読み手のこと、読み手の存在を紙面の向こうに強く意識したこの表現の登場で、私はすっかりこの作品の虜になりました。
また、巧みな比喩表現も多数登場します。この感覚が大人の小説には見られない瑞々しさを感じさせます。三つご紹介します。まず一つ目は
『その時稲妻みたいな直感が脳天を突き抜けた』。
これはシンプルですが感覚が先行するようなとても詩的な表現です。二つ目は、
『調子に乗ってプカプカと浮かび上がろうとしたら、いきなり神様にスッコーンと、厚底のスリッパでたたかれて、また海中深く沈められた感じ』。
これは大人には真似のできない小学生の鈴木さんならではの個性を感じさせます。そして、三つ目は『今日誰と遊んでたんだっけ?』と聞かれ『えーと、優香ちゃん、とか』とごまかす花実は『荒川、のほう、かな』と話をうまくずらしていきます。そこで登場するのが、
『ごめんね、お母さん、私その分お手伝いするし、一生懸命勉強するから、と、すり替え法案成立』。
とまとめる表現です。部分抜き出しだと分かりづらいかもしれませんが、花実のしめしめという顔が目の前に浮かんでくるような絶妙な表現だと思いました。
そんなこの作品の主人公の花実は『私が生まれた時、私のお父さんは既にいなかった』と母親の真千子と二人で暮らしています。『男の人に交じって工事現場で力仕事をしてい』て、『日に焼けていて、髪はパサパサで、よく食べるのに瘦せている』という母親との暮らし。そんな暮らしが決して豊かでないことは同じクラスメイトとの関係性や家庭での日常会話の中に極めて自然に匂わされ、かつ全編に渡って描かれていきます。しかし、そんな貧しくとも何ものにも負けない力強い花実と真千子の生き様がこの作品の何よりもの魅力です。一編目から四編目の花実視点の物語を読んでいくと、表紙に描かれた二人のイラストのイメージそのまんまの二人の姿が読者の頭の中に鮮やかに浮かび上がります。そんな読者があっと驚くことになるのが、五編目の〈さよなら、田中さん〉です。そもそも「さよなら、田中さん」という書名を知って読み始めた読者が確実に困惑するのが、『さよなら』と言っているのにそこにあるのは『さよなら』されるはずの花実視点の物語という違和感です。それが故にそんな書名の意味が決着する五編目、クラスメイトの三上信也視点の物語は衝撃です。『田中さんは物知りだ。よく本を読んでいるし、塾に行っている僕よりも成績がいい』、『僕より背も高いし、足も速い』、そして『僕は田中さんを怒らせてしまった。いや、悲しませてしまったのだ』と展開する物語は、それまで見えていた花実視点の物語の景色とは随分と異なる印象を受けます。しかし、読み進めれば進めるほどに、いや、これは確かに花実と真千子の姿だ、と確信する瞬間が訪れます。この信也視点の短編では四編目までにあった()書きは見られず、ある意味素朴な男子の視点からの物語が展開します。そして、なるほど、この書名はそういう意味だったのか、と納得のうちに迎えるその結末。なんとよく組み立てられ、細部まで考えられた物語なんだろう、と素晴らしい読み味を感じる中、満足感に包まれて本を閉じる自身の姿がありました。
『書いているときは、本当に没頭しています。セリフで悩んだり、展開をどうしようとか、手が止まることは、ほとんどありません』と語る鈴木るりかさん。そんな鈴木さんは、この作品の執筆について『花実ちゃんやお母さん、周りの人たちが、自然に喋っているのを書き留めているイメージです』と続けられます。まさしくそんな鈴木さんの説明そのまんまを感じるこの作品。小説を読むということはどこまで行っても趣味の領域です。読んでいて楽しい!そう感じられる作品に出会うために私はさまざまな作品に手を出してきました。そんな中で出会ったのが刊行時、中学二年生だったという鈴木さんのデビュー作であるこの作品でした。『花実ちゃんみたいな女の子に、私自身なれたらいいなぁと思ってます』とおっしゃる通り、同年代だからこそ表現できる世界がここにある、同年代だからこそ登場人物がリアルに動き回る世界がここにある。この作品はそんな読書の原初の喜びをふつふつと実感させてくれた、まさしく傑作!だと思いました。
鈴木るりかさん、この作品をとても楽しく読ませていただきました。この作品、間違いなく面白いです!
目標とされる本屋大賞獲得の日まで私も陰ながら応援させていただきます!!
素晴らしい読書の時間をありがとうございました!!!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鈴木さんが小学生から中学生の間に書かれた5篇の短編集。
よく大人が子供の視点で書く青春小説はあるけれど、子供が子供の視点で大人の話を書くのは初めてだ。
大人の表面だけをなぞって物語風にしてるのじゃなく、これだけ本を読んでる私が話に引き込まれるのだからすごい。
「さよなら田中さん」も良かったが「銀杏拾い」が染みた。お母さんの娘を思う気持ちがぱっとは分かりにくく現れる。お母さんの精一杯を花実も明るく受け止める。幸せって心の持ちようなんだなと思わせられる。
それにしても本のタイトルを「さよなら田中さん」にするセンスもすごいなと思った。 -
とても素晴らしい物語だった。
この本を読んだ誰もが思うことだろうけれど、中学生が書いたとは‥‥すごいな。
私はこういう『ガハハ』と笑って生きる人のお話が大好きです。嵐の相葉君の言葉ですが、『楽しいから笑うのではなく、笑っていると楽しくなってくる』んだそうです。これは簡単なようでなかなか難しいですよね。
主人公の花実は小学六年生。
『ガハハ』と生きているお母さんのもとで、素直に育っている。賢い子なので、お母さんの言う理論に、ハテナ?と思うところはあっても真っ直ぐに受け入れている。そして、六年生ともなれば、友だちとの家庭環境の差なども見えてきて、一瞬引っ張られそうになっても、キチンとぶれない自分に戻ってきて強い子だなと思いました。
最終章は花実目線ではなく、同級生の三上君が語り手になって花実親子の姿が描かれます。それまで面白おかしい親子のお話だったのが、この章があることで、グッと締まりのある小説になっていると思います。
続編では花実が中学生になっているとのことなので、思春期真っ只中で花実がどう変わってゆくのか、あるいは変わらないのか、ぜひぜひ読んでみたいと思います。
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こっとんさん、こんにちは
素敵なレビューありがとうございます。私も家族を描いたこの作品がよかったので思わずコメントしてしまいました(笑)
続...こっとんさん、こんにちは
素敵なレビューありがとうございます。私も家族を描いたこの作品がよかったので思わずコメントしてしまいました(笑)
続編はさらに引き付ける力がアップしていました。
またのレビュー楽しみにしています。2022/07/17 -
ちゃたさん、こんにちは。
コメントありがとうございます♪
この作品、本当に良かったですよね。
続編の『太陽はひとりぼっち』
ちゃたさんのレビ...ちゃたさん、こんにちは。
コメントありがとうございます♪
この作品、本当に良かったですよね。
続編の『太陽はひとりぼっち』
ちゃたさんのレビューを読んで、
俄然興味が湧いています。
近いうちに読もうと思っています。
また、面白い本があったら教えてください。
ちゃたさんの本棚に注目しています!2022/07/17
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これが噂のスーパー中学生、鈴木るりかさんのデビュー作か。まず、カバーの折られた所のプロフィールを見る。2003年生まれ。好きな作家は志賀直哉、吉村昭!うわっ、渋っ!ってか私、志賀直哉読んだことないんじゃないの。よし、この後、慌てて読むぞ。好きな音楽はボカロ。今どきだね。
主人公は小学生の田中花実。母子家庭で、お母さんはお父さんについては全く喋らず、お母さん自身孤児で施設で育ったらしく、親戚もなく、二人っきりで暮らしている。だけど、そこに悲惨さはなく、お母さんは工事現場で、男性に混じって毎日、真っ黒になって働き、ガリガリに痩せているが、食べる時は「犬のように食べ」、とにかく生命力があり、底抜けに明るい。
本当に味があるお母さん。名言の宝庫!例えば
(お父さんが交通事故で亡くなった友達の家では“陰膳”を供えていてるから「うちはしなくていいの?」と花実が聞くと)「うちはお母さんが、毎食ニ人前食べてるから大丈夫。」
(お父さんのことを教えてとしつこく言う花実に)「“秘すれば花”って言葉知らん?世阿弥の言葉だよ。置き網じゃないよ、世阿弥だよ。その人が言ったんだよ。何でもかんでも明らかにすればいいってもんじゃないって。人生には謎の部分を残しておいたほうが、いろいろ想像の余地があって趣深いってこと。」
(尊敬する人は誰?と聞かれて)
「水田歩道橋の下にいるホームレスのおっさん」とのこと。理由は「二十年以上、誰とも関わらず、道行く人の視線に耐えて、気温四十度近くの時も大雪の降った凍てつく朝もずっと同じ所に座り続けている。強靱な体と鋼の精神力を持った人だから」。
極付は、「もし、死にたいくらい悲しいことがあったら、とりあえずメシを食え。そして一食食ったら、その一食分だけ生きてみろ。それで、また腹が減ったら、一食食べて…そうやってなんとかでもしのいで命をつないでいくんだよ。」
ちなみに、主人公の“花実”という名前は「花も実もある人生」というのが表向きの意味で、実は、「死んで花実が咲くものか」から取ったらしい。大きな声では言えないが私はこの諺、知らんかった。意味は「とにかく生きろ」ということらしい。
そう、これらのお母さんの言葉からも分かるように、このお母さんは中学校までしか出ていないのに、なかなか教養がある(ということは書いている鈴木るりかさんに教養がある)。意外にも新聞を読むことが好きで、「学歴はもう付きませんが教養は付きますからね。」と言っている。そして、虐待死した子供のニュースが出ていると、その子の名前と年齢を手帳に書き留めて、そっと冥福を祈るという繊細な心の持ち主。いや、このお母さん、相当苦労してきたのだろうな。
鈴木るりかさんがすごいのは、想像力と文才も然ることながら、十代前半にしての教養の深さと哲学観なのだ。
「この歳にしてこの考え方!」と感心する反面、「10代だからこそ、捉えてしまう大人の真理」というものもこぼさず、掬い挙げている。最後の「さよなら田中さん」の語り手、三上君は中学受験に全部失敗して、母親に「お前は、私を絶望させるために生まれてきたの」と言われ、その後、山梨県の全寮制の中学校に入るように言われ、その理由が実は「遠い所の寮に入ってくれれば私の視界から消える」からと母親が伯母に話しているのを聞いてしまう。「自分なんかいないほうがいいんだ」と川に飛び込もうとしている時、田中さん親子(花実の親子)に声をかけられる。「何してるの?うちにきて一緒にご飯食べようよ。」と。そして、花実の母親の人格に触れて「田中さんのお母さんは、中学校までしか出てないみたいだけど、一生懸命働いて、ちゃんと田中さんを育てている。うちのお母さんは、高校どころか大学へ行ったって、いいところじゃなければ人生終わりだ、みたいなこと言うけど、違うみたいだ。」と悟る。この辺り、この小学生の視線を通して、ハッとする大人多いと思う。
連作の短編集になっているのだが、一番好きなのは、「銀杏拾い」かな。銀杏の季節の日曜に、お母さんと花実が起きると「今日はアレだな」と毎年恒例の「銀杏拾い」のことを思って、ニンマリ笑うシーン。そして、銀杏が大切な食料源になっている田中家では、スーパーの袋を持って、冬眠前のリスのようにあっちの公園、こっちの神社へと銀杏を集めに回るシーン。貧しいけれど、親子仲良くて、温かくていい。神社で銀杏集めをしている時に、七五三祝いをしにきた友達と出会い、花実は別に羨ましくなかったのに、その後、お母さんがスーツを調達してきて、花実のために知り合いのカメラマン見習いに記念写真を撮ってもらったこと。お母さんが花実をどれだけ大切に思っていたか…とジーンとくるシーンだった。
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これが中学二年生が書いた作品!?と驚きを隠せなかった5つの連作短編集です。
まず、自身の体験からなのでしょうが、自分なりの目で人間や社会をきちんと観察し捉えています。
私などニュースなんかで「世の中おっかねー」と内心ビビりながらの中学生でした。
格差社会の問題を取り上げつつも、適度なところで田中母娘の生活を明るくユーモアを交えながら描いています。
ただ、貧乏エピソードは結構な頻度で引いてしまうぼどリアルさがありました。
どの短編も山場がありグッと引き付けられ一気に読ませていきます。
中でも「さよなら田中さん」は迫力がありました。田中花実の同級生、信也の目から描かれる小学校「お受験」のシビアな現実です。年端も行かぬ子どもにこの現実と家族は相当キツイ。私はお受験なんてほとんど形もない地方在住ですが、これはリアルで残酷だ。それと真逆に対比される田中母娘の生き方が、「いろんな価値観が世の中にあっていいんだよ」と強く訴えかけてきます。
中学生からの目線がとてもセンセーショナルな作品でした。 -
鈴木るりかさんの中学二年生の時の作品。
2017年のデビュー作品。
中学生で?これを?
もう、驚きしかなかった!
凄いなあ!って読んだ人は皆
そう思うと思う…!
主人公の田中花実は、小6。
とても貧乏な母子家庭で、二人暮らし。
花実は、子供でも大人びたクールさがあり、明るい性格でとても賢い。
自分の身の上を、ものともせず普通に楽しく暮らしていて清々しい!
花実のお母さんも、底抜けに明るくて優しくて、たくましく働くお母さん。その上、面白い事ばかり言うキャラクターで、笑える描写が多く楽しかった。
子供ってお母さんを大好きなものだけれど、花実もそうだ。
例えば、親子の会話の描写。
ーもし生まれ変わったら何がいいか
以前お母さんに聞いたことがある。
お金持ちがいいとでも言うのかと思ったら、以外にも「虫がいいなあ」という答えだった。「食べて排泄して、ただ生きている。
生き甲斐とか、義務とか、過去とか将来とか、仕事とかお金とか、そんなものと関係なくただシンプルに生きて死んでいくのがいい」
私はちっともいいとは思わなかったが、虫でも動物でも、生まれ変わっても、私はお母さんと親子なら いいなと思う-
こんな風にホロッと泣かせる文章が、さらっと描写されている。
タイトルの意味も最終章で明かされるが
なるほど~と、構成の巧みさも感じた。
ラストも、胸にグッと来たなぁ…
才能溢れる若き、作家さん。
素晴らしいと思った。 -
鈴木るりか 著
著者14歳の誕生日に、待望のデビュー作を刊行
「さよなら、田中さん」
14歳スーパー中学生と絶賛された話題の本!
ブクログの方々の本棚レビューで取り上げられおり、以前から気になって読みたい本として、私も本棚に登録はしていた本。
内容は全く知らずに 西原理恵子さんのアニメ調な装画にグフフッと笑い漏れる声が聴こえてきそうなコメディタッチのほのぼの系なのかなぁ…なんて思いながら読みました。
表紙の絵からも想像出来るような、
ビンボーな母子家庭だけれど、明るく逞しく生きる親子愛を綴っているのだろう…と。
この本を読むきっかけとなったのは、ブクログの方々の本棚で興味を持ったからなのだけど、
私事だけど^^;実はちょうど、姪っ子にプレゼントする本を探していてーー
「今、興味ある夢中になってる本とか好きな本を教えて」と軽い気持ちで聞いたら、ナ、なんと‼︎
「プレゼントしてくれるなら、選書してくれた本がいい!」と言われ戸惑う(・_・;)
最近は児童文学書もあまり読んでいないし…小学6年生という年頃に選書したい本って何だろう?どんな本がいいかなぁ(・・?)って悩んでおり、全く思いつかず(*´-`)ブク友さんの本棚レビューに関係のない私のコメントで助けを求めた有様(その人の名は松子さん、まっちゃん、ごめんね。色々相談にのってくれてありがとう!助かりました。)
何せ、沢山の本を既に読んでいるらしい…
それに、小学校高学年向きの本って難しい(" ̄д ̄)選書するなら自分も読んでなくっちゃいけないかな?と思い、まっちゃんも言ってくれた私の好きな伊坂幸太郎さんの本にしようかと迷ってたところで、思い出した‼︎「そうそう、この本読みたかったんだ!年齢的にも合うんじゃない⁈」おお〜‼︎
本題に入るまでに長くなりましたが、そんな訳で自分が読むきっかけともなった本です!(姪っ子は読んでるかもしれない)
それでも、中学生が書いた作品と侮るなかれ〈いや、全然侮ってませんでしたけど…〉姪っ子がこの本を読んでいようがいまいが、そんなこと全然関係ねぇ♪(古っ!失礼(^_^;)
本当に良かったんです!小学生が、中学生が描いたという先入観なしに読める。
お薦めの選書!選書決まったぁ!本のタイトルの「さよなら、田中さん」とは?と意味を考えながら読み進めていたのだけれど…主人公の花実とお母さんを中心とした日常の大事件や小さな出来事を、素直なタッチで描いていて、この純粋で惚けながら真剣な可笑しさ、何だか笑いながらホロッとしてしまう。鮮やかでいて鋭い感性が時々、胸を締め付ける痛みを感じる。みずみずしい目線とまだ大人になりきれていない子どもの危うい気持ちや明るさと悲しみが共存している。
私は泣きました(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)ボロボロ泣いた。
表紙の可笑しさから想像出来ないほど、いい作品じゃない!こんな揺さぶられる内容だったとは…些か衝撃。おみそれいたしました。
ラストの方になるにつれて悲しいけれど、
心が爽やかになってゆく感情が自分の中にも溢れだしました。
『自分の好きな人たちが泣いた後も笑顔で幸せになってほしい。だから自分も頑張る。』
本当にそう思えました。
綴られた内容は他のブクログの方々がレビューで紹介して下さっているので省きますが…
「いつかどこかで」
「花も実もある」
小学4年生時の初受賞作を大幅改稿した
「Dランドは遠い」
「銀杏拾い」
「さよなら、田中さん」、
全5編収録されています。
心惹かれた胸に沁みた文章は色々あり
書き写したいところだけど…一人一人が
読んでその背景を思い返し心に刻んでほしい。
文中に引用されていた
「寒さに震えたものほど、
太陽を暖かく感じる。 ホイットマン」
その言葉の中にこの物語の象徴するものがあるような気がしました。
この作品の続編にあたる『太陽はひとりぼっち』も是非読みたいと思いました。
“姪っ子に本の選書してる場合じゃない(^^;;笑”
勿論、この本送りたい、送りつけますけどね(^^)
鈴木るりかさんの他の本も追ってゆきたい!
要するに私が読みたいのだ!(°▽°)
でも、読むきっかけとなった姪っ子にも感謝(*'▽'*)
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ひろみー‼︎
みつかったねぇ
姪っ子ちゃんへのプレゼント♡
良かったよぉ!嬉しいなぁ!(*´∇`*)
そして本の良さが、ひろみのレビューか...ひろみー‼︎
みつかったねぇ
姪っ子ちゃんへのプレゼント♡
良かったよぉ!嬉しいなぁ!(*´∇`*)
そして本の良さが、ひろみのレビューから伝わってくるよぉ!
笑いながらほろっとしてしまうって良いなぁ。
私も明日図書館で、この本予約してこよっ♪
本も素敵だけど、ひろみが姪っ子ちゃんの事を思って一生懸命に選んでくれた事が、姪っ子ちゃんはとっても嬉しいんだよね。
姪っ子ちゃんが喜んでところを想像すると、
私も今から嬉しいですっ( ´ ▽ ` )
ふふ、本のプレゼント♡
ドキドキワクワク大作戦だね♪2022/10/21 -
まっちゃん!ありがとう(。◠‿◠。)♡
まずは、この一冊は決まり⁎ˇ◡ˇ⁎✩
一緒に喜んでくれて嬉しいよ♪
まっちゃん、ホントこの本良かっ...まっちゃん!ありがとう(。◠‿◠。)♡
まずは、この一冊は決まり⁎ˇ◡ˇ⁎✩
一緒に喜んでくれて嬉しいよ♪
まっちゃん、ホントこの本良かったよ〜!
最初はまさか泣く( ; ; )とは思わなかった。
絶対、まっちゃんも気にいるはずだから
是非、読んで読んで〜♪ヽ(*^∇^*)ノ*:・'゚☆
読んだらまたレビュー楽しみにしてるよ(^.^)2022/10/21 -
ひろみっ!オススメありがとう(^^)
おげっ!りょうかいだせぃ(๑˃̵ᴗ˂̵)
あす図書館ですぐに借りられると良いなぁ♪ウキウキひろみっ!オススメありがとう(^^)
おげっ!りょうかいだせぃ(๑˃̵ᴗ˂̵)
あす図書館ですぐに借りられると良いなぁ♪ウキウキ2022/10/21
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主人公は小学6年の女の子、田中花実。
働き者のお母さんと二人暮らし。
貧乏で壮絶な節約っぷりは、普通に考えると切ない程だが、この母は底抜けに明るい。
この母の名言(?)が色々あって面白いので、ちょっと紹介を。
“人からもらった食べ物はすぐ食え。後で返せとわ言われないうちに”
“死にたいくらい悲しい事があったら、とりあえずメシを食え。そして一食食ったら、その一食分だけ生きてみろ。それでまた腹が減ったら、一食食べて、その一食分生きるんだ。そうやって命を繋いでいくんだよ。”
食べることに執着している母の名言は、食にまつわるものばかり。
面白おかしく話しているが、深いのです…
毎日大笑いし、大食らいし、生きていることに感謝している母を、娘の視点から尊敬と愛を込めて描いている。
貧乏であっても心は豊かで、余裕があるように感じる。
素敵です。
そしてこの作品を読んだ自分は改めて、当たり前に毎日ご飯を食べられること、生きていることに気付かされ、ハッとする。
この作品は5編からなる連作。
私は「花も実もある」と表題作の「さよなら、田中さん」が好き。
この本、さてさてさんのレビューで知りました。
そしてこの本が出版されたとき、著者は中学生というから驚き!
読み始めは“中学生”と言うことが頭にあったけど、すぐにそんな事は忘れる程、面白かった。
他にも作品があるようなので、是非読んでみたいと思います。-
aoi-soraさん、こんにちは!
鈴木るりかさんのこの作品とても良いですよね。元々は九歳の時に執筆された作品もあるということで、そういっ...aoi-soraさん、こんにちは!
鈴木るりかさんのこの作品とても良いですよね。元々は九歳の時に執筆された作品もあるということで、そういった点を最初意識したのですが、読み始めて、内容自体の面白さ、巧みさに圧倒されました。新鮮な驚きを与えてくれる作品だとも思いますし、出会えて良かった作品、出会えて良かった作家さんだと思いました。
続編も良いですし、「14歳、明日の時間割」もとても良いと思います!2022/07/06 -
さてさてさん、こんにちは!
9歳で執筆って!本当にスゴイですね。
子供が書いた作品という、興味本位で読み始めたとしても、そんな事すぐに関...さてさてさん、こんにちは!
9歳で執筆って!本当にスゴイですね。
子供が書いた作品という、興味本位で読み始めたとしても、そんな事すぐに関係なくなりますよね。
登場人物達の心の内面を細やかに描いていて、読者に余韻を残すというか…
続編もあるんですね!
探してみます(≧▽≦)2022/07/06 -
2022/07/17
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工事現場の仕事をしている母親と二人で暮らす12歳の花実には、生まれたときから父がなく、どんな人かも知らされず、写真さえ見たことがなかった。お父さんは犯罪者の可能性もあるかも、と冗談を言ったときの母の反応から、それが真実だと感じた彼女は、その後小学校の周りに現れた不審者が自分の父親ではないかと考え始める。ところがその男に話しかけられた彼女は、彼が、彼女のではなく、隣のクラスの女の子優香の前父だと知る。懇願されて再会のために協力する花実だったが、その三日後、彼が会社の資金横領で逮捕されたことを知るのだった。
この「いつかどこかで」の他、同じく花実目線の「花の実もある」「Dランドは遠い」「銀杏拾い」と、同じクラスの男子信也に起きた事件を中心に花実親子を描いた「さよなら、田中さん」の5編を収録。
思春期を迎え、貧しさや父親の不在に悩みながらも明るく力強く生きる母娘の姿を描く。
*******ここからはネタバレ*******
著者は14歳とは思えないほどうまいです。特に最初の4編は構成も見事で、とても面白い。
どんな人か知らされていない父親は、犯罪者の可能性もあるわけで、それを不安に思ったり、母親の再婚のために奮闘したけどだめで、残念に思っていたら、もしかしたらその再婚話は、保険金目当てだったのかも知れなかったり、遊園地に行くために蓄財に励みながらも「遊ぶ金欲しさ」に犯罪を犯す中学生のニュースを見て、自分も同じだと思って諦めるとか、銀杏を拾いに行った神社で同級生の七五三に遭遇して、母親が頑張って七五三をしてくれた、とか。
お金と情に絡む、ちょこっとブラックで、ちょこっとほっこりするエピソードです。
タイトルの「さよなら、田中さん」は、お母さんの再婚が決まって彼女が「田中さん」じゃなくなったからだと思っていましたが、最後の話だけが信也の話で、彼が田中さんと「さよなら」だったんですね。
この話だけはちょっと異質で、私には蛇足に感じでしまいました。なんか、たくましい田中さん母子をただ讃えているような印象です。
漫画チックな表紙絵も残念。この絵から何を汲み取ってもらいたかったの?
この若さで、これだけの作品を仕上げる力のある著者の今後にますます期待してしまいます。