私はあなたの記憶のなかに

著者 :
  • 小学館
3.35
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本棚登録 : 428
レビュー : 63
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093864916

作品紹介・あらすじ

あなたの過去が甦る。心震える八つの名短篇

《「さがさないで。私はあなたの記憶のなかに消えます。夜行列車の窓の向こうに、墓地の桜の木の彼方に、夏の海のきらめく波間に、レストランの格子窓の向こうに。おはよう、そしてさようなら。」――姿を消した妻をさがして僕は記憶をさかのぼる旅に出た。》(表題作)のほか、《初子さんは扉のような人だった。小学生だった私に、扉の向こうの世界を教えてくれた。》(「父とガムと彼女」)、《K和田くんは消しゴムのような男の子だった。他人の弱さに共振して自分をすり減らす。》(「猫男」)、《イワナさんは母の恋人だった。私は、母にふられた彼と遊んであげることにした。》(「水曜日の恋人」)、《大学生・人妻・夫・元恋人。さまざまな男女の過去と現在が織りなす携帯メールの物語。》(「地上発、宇宙経由」)など八つの名短篇を初集成。
少女、大学生、青年、夫婦の目を通して、愛と記憶、過去と現在が交錯する多彩で技巧をこらした物語が始まる。角田光代の魅力があふれる魅惑の短篇小説集。

感想・レビュー・書評

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  • かつてあの人と一緒に過ごした時間や光景は記憶の中に隠れ潜んでいる。
    普段は忘れてしまっていても、ふと匂うガムやシャンプーの甘ったるい香りが記憶を甦らせてくれることもある。

    「記憶」に纏わる、泣きたくなるようなとても切ない短編集。
    特に『父とガムと彼女』『水曜日の恋人』『地上発、宇宙経由』が好き。

    中でも印象深いのは、人と人との縁についての下り。
    縁や運命を「得体の知れない洞窟のようなもの」とし、縁や運命のない関係を「平穏」と捉える考え方に共感した。
    時に縁や運命は、人を見えない糸で縛り付ける威力があるように思う。

    そして表題作。
    「さがさないで、私はあなたの記憶のなかに消えます」
    書き置きを突然妻から受け取り、記憶をヒントに妻との思い出の地を一人さ迷い訪ね歩く夫。
    無事妻に辿り着けたのか、とても気になる。

  • 「父とガムと彼女」、「猫男」、「神さまのタクシー」、「水曜日の恋人」、「空のクロール」、「かえりなさい」、「地上発、宇宙経由」、「私はあなたの記憶のなかに」の今までに書かれた8つの短編。登場人物等それぞれに繋がりはありません。過去の出来事を回想しているものが多いかな。どれもしっかり、ほど濃く書けてて、読み入ってしまった。角田さんは神奈川出身だったのか。「水曜日の恋人」は数十年前の、自分の馴染みがある街が描かれており、そこで懐かしさを感じたのだけれど、それもあってか中高の頃の感情を思い出し、すっかりこの世界を味わえた。高校生の感情を書いていたり、男性が主人公のものもあり、回想、孤独、もう2度と会わない人へのメッセージ、角田さんの幅広さを感じた、思った以上に良かった。

  • 8話からなる短編集。
    どの話も鋭い感性が光っていて、どちらかと言うと前半は現実的、後半にいくにつれて感覚的な作品だなという印象を受けた。

    「父とガムと彼女」
    父親の恋人だったのでは?という女性と再会した主人公の女性。
    再会したのは父親の葬式で、主人公は子供の頃自分の世話をみる名目で家に出入りしていた彼女の事を回想する。

    「猫男」
    恋人と訪れた海外の地で、同級生の男性の事を回想する女性。

    「神さまのタクシー」
    鼻につくほど真面目な上級生との寮生活にうんざりしている少女。

    「水曜日の恋人」
    母親の恋人との当時のやりとりを回想する女性。

    「空のクロール」
    強豪の水泳部を有する学校に入った泳げない少女。
    彼女はそこでいじめられる事になる。

    「おかえりなさい」
    お金に困っていた大学生時代に友人から紹介された宗教のチラシを配る仕事。
    彼は仕事で老婆の住む家を訪問し、やがてそこが我が家のように出入りするようになる。
    そんな事を回想する男性の現在はー。

    「地上発、宇宙経由」
    誤って届いたメールにより生まれる男女間のあれこれ。

    「私はあなたの記憶のなかに」
    「さがさないで」と置手紙を置いていなくなった妻。
    主人公は妻との思い出をたどり、手掛かりとなる地を訪れる。

    こんな感じで、今現在の話を描いているものもあるけど、ある時期を主人公が追憶する、という話が多かった。
    そのそれぞれが感性豊かな視点で描かれていて、言葉も洗練されていると感じた。
    個人的には「おかえりなさい」と「地上発、宇宙経由」が良かった。
    こういうのってめったにない事だけど、状況的にありそうだし、登場人物もその状況に不思議な感覚でなじんでいるというのが良かった。

  • 短編8話の作品、いずれもさらりと読める。みんな重苦しくはないけどなんだか苦味が残ります。読後わたしの記憶のなかには軽くしか残らなかった 笑。

  • 彼に助けられ、救われ、立ち直り、傷を癒し、現実に戻り、再び前を歩けるように元気も与えてくれたのに、その彼に嫌悪さえ抱きながら背を向ける。なかったことにしようとする無意識にスポットをあえて充てる。何の悪意ももたず平然とやり過ごしてきた過去を、誰にでもある心のひっかりをゆっくりと、だけど確実に思い起こさせてくれる短編集。拾遺集的な感じも漂わせるが、どれも力があり、はっとさせられる。今とはまた違った味わいがあった。

  • もう会えなくなったり亡くなったりしていても
    記憶の中にしっかりと生き続けている人たちがいる。
    愛おしかったり、感謝していたり
    のどに刺さった小骨ように、いつまでも胸にひっかかっていたり。。。
    どんなに後悔しても、今更感謝してみても
    記憶の中の人たちには届かない。
    だからこそ主人公たちは遠い昔の記憶を
    大切なものでも扱うかのように時々取り出しては
    愛おしみ
    そしてまた前を向いて、今を生きていくのだ。
    『地上発、宇宙経由』・・・携帯電話のメールが通信手段として定着したての頃のお話。
    携帯が無かった頃の心のすれ違いと
    携帯がある時代のクスリと笑いたくなるようなすれ違いと、、、
    どんな時代でも相手に向けて発せられる言葉と祈りの重さは同じなんだなと思うのでした。

  • なにげない部分を切り取ってお話にしてしまう、角田さんってすごいな。
    そして全編にただよう、もの悲しい雰囲気。
    こういう短編集を作ってしまう編集者さんの視点も独特だなぁと思ってしまった。
    うわ~とわしづかみにされるわけでは決してないけど、心がちょっとずつ震える短編集でした。

  • ある日妻が「あなたの記憶の中に消えます」と書置きをのこしていなくなってしまい、思い出の土地に妻を探しに出かける表題作のほか、記憶、や人間関係の切なさのようなものを切り取った短編が複数収められている。
    ドラマチックとは無縁な短編が多いのだけれど、読んでいると、ふっと自分の思い出や大切だった人のことなどを思い出す、そんな一冊だった。

  • 表題作を除いてどれもどこかのアンソロジーに収録されてるので読んだことあるはずなんだけど、、わりと前すぎてどれも新鮮に感じた
    特に好きだったのは父とガムと彼女、神様のタクシー、地上発宇宙経由の三本。角田さんの短編の良さが味わえる一冊。

  • 久々に角田さんらしいな!という作品ばかりだった。およそ、10年前くらいに掲載されていたものを集めた短編小説たち。
    ハッピーな話題ではないかもしれないけど、人間らしさというか現実あってもおかしくないようなシチュエーションで、本を読んでいるだけで人生経験を積めたと錯覚するような気持ちで読み終えた。
    人生は、時々難しくて意地悪なときもあるけど、それでとなんとかやって生きていかなければならないんかな。

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著者プロフィール

角田光代(かくた みつよ)
1967年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
1990年、「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。受賞歴として、1996年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞を皮切りに、2005年『対岸の彼女』で第132回直木三十五賞、2007年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、2011年『ツリーハウス』で第22回伊藤整文学賞、2012年『紙の月』で第25回柴田錬三郎賞、同年『かなたの子』で第40回泉鏡花文学賞、2014年『私のなかの彼女』で第2回河合隼雄物語賞をそれぞれ受賞している。
現在、小説現代長編新人賞、すばる文学賞、山本周五郎賞、川端康成文学賞、松本清張賞の選考委員を務める。
代表作に『キッドナップ・ツアー』、『対岸の彼女』、『八日目の蝉』、『紙の月』がある。メディア化作も数多い。西原理恵子の自宅で生まれた猫、「トト」との日記ブログ、「トトほほ日記」が人気。

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