かちがらす: 幕末を読みきった男

著者 :
  • 小学館
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レビュー : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093864930

作品紹介・あらすじ

維新の礎を作った佐賀藩主・鍋島直正の生涯

若くして佐賀藩主となった鍋島直正。財政難に苦しむ藩は城の火事に遭うが、それをきっかけに藩の改革に取り組む。長崎警備を任されていた佐賀藩は、外国船の進入が増え、中国がアヘン戦争でイギリスに敗れたことに危機感を覚えた。
軍事力で負けないように、直正は最新の大砲や銃、西洋流の船の建造を藩で行うための人材を登用した。耐火煉瓦を作っての反射炉の建設、鉄の鋳造、大砲の製造と、いくつもの難関を乗り越え成し遂げられた。三重津には、藩独自の海軍学校を設けた。
また、息子の淳一郎にいち早く種痘を受けさせ、普及をうながした。
藩主を16歳の直大に譲って隠居した直正は、〈日本を外国列強の属国にしない〉〈幕府側と討幕派との内乱を回避する〉という思いを、諸大名や公家に伝えていった。最新の軍事力を誇る佐賀藩は、幕府側・倒幕派ともに頼りにされる存在だった。
欧米諸国が日本に開国を迫り、攘夷を叫ぶ諸藩が戦火を交える中、体調を崩しながらも、直正は徳川慶喜との会見に臨む。
江川坦庵、田中久重、島津斉彬、井伊直弼、勝海舟、江藤新平……。幕末の名だたる人物と交流し、明治維新の礎を作った鍋島直正を描いた長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 2020.1 読了

  • 歴史は勝者の視点で語られる。
    尊王攘夷、幕府vs薩長、などという狭っ苦しい視点を超越した人物がいたことに、歴史観を変えられた。

  • テレビ番組『英雄たちの選択』で佐賀藩主鍋島直正を知り、手に取った初の植松作品。歴史初心者の私でも理解しやすい平易で丁寧な時代背景が施されている。『西郷どん』で描かれる幕末とは異なり、決して中心とはされない佐賀藩からの視点で、立場で史実が異なり見えることを再認識。財政危機や、体制維持への固執による拘泥に疑問を持ち、武士道、家族観までパラダイムシフトに挑んだ直正に拍手。進取の気性に充ちた彼が支えてくれる同士、家臣の相次ぐ喪失に苦しみながら、抵抗を乗り越え重用されていく様に、美しい指導者像を見た。

  • 佐賀藩主・鍋島直正は、日本を欧米列強の従属国にさせないために、反射炉の建設、大砲の製造、蒸気船の建造などの事業にいどんだ。その軍事力は、幕府側と倒幕派双方から求められ…。

    佐賀藩および鍋島直正が幕末にこんな大きな役割を演じていたとは知らなかった。作者の植松三十里は「雪つもりし朝」を読んだ時にも感じたけれど、歴史のひとコマを救い上げて上質な物語に仕立て上げるのが抜群に上手いと思う。
    (B)

  • 幕末は面白い。書く人によって長州寄りだったり薩摩寄りだったり新選組よりだったり。今回は佐賀藩目線で。鍋島直正公の武器は見せるものでなるべく戦わないっていう姿勢が最後までぶれず良かったなぁ。正義のための人殺しはやはりいいことなんて何もないんだなぁと改めて思いました。面白かったです。

  • 薩摩藩より早く反射炉を造成し大砲を作り上げ、長崎港の守備役を拝命していたということもあって海防については幕府よりも詳しく真剣に考え、諸外国の思惑に乗らずに内乱を防ごうと頑張っていた佐賀藩藩主・鍋島直正。
    これほどの技術力と様々な人材がありながら何故幕末の主役に躍り出ることができなかったのか、何故維新後はすっかり影に隠れてしまったのかという疑問を解消できた作品だった。
    直正はとにかく辛抱強く、現場のことは口を出さずに現場に任せ、たとえ失敗があっても決して藩士たちや技術者たちを責めずに彼らを信じて待ち、成功すれば共に喜ぶという理想の上司的男。
    派手なことは嫌うが、これは国のために絶対に必要と思えば懸命に幕府にも朝廷にも訴える。
    幕府側にも倒幕側にもつかず、『佐賀の日和見』と後ろ指をさされようと動かない。高い性能を持った武器や艦船を持っていても、それは使うためではなく諸外国に付け入られないためのものと言い切る。
    その思いはついに将軍・慶喜を動かし、やがて大政奉還へと繋がっていく。
    薩摩藩主だった島津斉彬と従兄弟でありながら実に対照的な人間だった。だが直正は彼なりに藩ではなく国を見つめて動いていたのだなと感じられる描き方だった。
    最後の最後、死に際して家族や長年付き添ってくれた近習との短くも濃い時間が良かった。

  • 薩長土肥と言われながら維新以降歴史の舞台から遠ざかった肥前の怪物、鍋島直政。彼が如何にして肥前を技術大国・軍事大国にしたのかが、よく分かる。その保守的な思想が故に薩摩や長州のようなテロリスト集団には相容れなかったため、維新以降の覇権争いからは脱落していったのでしょう。良い意味でも悪い意味でも土佐の鯨公と思想的には近かったのかも。どっちつかずってことね。

  • 静岡市出身の作家。
    東京女子大史学科卒。
    出版社勤務、在米生活を経て
    2003年歴史文学賞受賞。
    2009年「群青 日本海軍の基礎を築いた男」で
    新田次郎文学賞受賞。
    「命の版木」(彫残二人)で、中山義秀文学賞受賞。
    「繭と絆 富岡製糸場ものがたり」
    「雪つもりし朝 二、二、六の人々」
    「志士の峠」など多数。


    幕末佐賀藩の藩主、鍋島直正の歴史的評価は
    決して高くはなかった。
    果たして、本当にそうなのか?

    幕末当時中国がアヘン戦争に負け、インドや東南アジアが
    次々と西洋の植民地となっていた。
    日本もその瀬戸際にいたのは事実だった。
    鎖国と言う長い眠りの中、科学技術の大きな格差が
    西洋との間に歴然とあった。

    当時、「ジョン・マン」の本の中でもわかるように
    アメリカなどの国々も、産業のエネルギーとしての鯨油を求め
    クジラの少なくなった大西洋から太平洋へ乗り出した。
    アジアの地域に水や食料などの資源の補給地を探していた。
    もちろんロシア、ヨーロッパも、天然資源を始め商品を探し
    アジアの最後の国日本を、虎視眈々と狙っていた。

    佐賀藩鍋島直正は、いとこの島津斉彬と共に
    日本国の沿岸の守りと海外への輸出入に関心があった。
    他の国を見ると、その軍備のあまりの差に、
    沿岸、港の軍備の近代化が急務と思えたのだ。

    幕閣はあまりに、意識が低かった。
    鍋島直正は、その近代化を推し進めるために
    絶妙なバランス感覚と、筋の通った理念を持ち
    けっして幕府から敵対視されないよう、
    準備を進め、国内の志を同じくする盟友とともに
    反射炉をつくり、大砲の国産化に成功する。
    軍艦も持った。

    幕末の混乱の時に、直政はその軍備により幕府からも帝からも
    頼りにされ、どの陣地からも、欲せられた。
    だが、彼は日本の中が内戦になることこそ
    領土化を目論む、列強の真意とし、
    内戦を避けることこそ、日本が国として残る
    ただ一つの方法と説く。

    そして、日本で初めて種痘を藩主自ら広く啓蒙し
    その仕組みを作り、やっとできた跡取りの長男にも
    家臣の大反対を押し切り、種痘を受けさせた。
    世継ぎに率先して受けさせたことにより、広範囲に
    ひろまり、病気でなくなる子を少なくさせた。
    先進の思索者でもあったのだ。

    そんな幕末の国を守った男の史実の物語である。

  • 久しぶりの歴史本のため、ゆっくり味わって読もう、と思ったが勢い余って2日で読んでしまった。
    幕末史の中で幾度も登場する肥前佐賀藩。
    だが、幕末の雄藩の中では、時勢に沿った主義主張があまりなく、幕末物語として主だってあまり語られなかっただけで、その存在感は、幕府や朝廷をも脅威とする「肥前の妖怪」率いる軍事力。日本の行く末を案じた幕末の偉人の一人であることは間違いない。

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著者プロフィール

歴史小説家

「2019年 『梅と水仙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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